2011年 6月号back

5月らしい風が吹いてさわやかな季節がやってきました。
少し経てば鬱陶しい雨の時季が始まりますが、
今の気持ちのいい気候の下、外の活動を楽しみましょう。
もちろん映画館だけは忘れずに。

 

今月の映画

 4/26~5/25のGWを挟んだ30日間に出会った映画は30本、飛び抜けた作品がなかったのに反比例するように、見て面白い作品は多かったという印象です。外国映画が多くなりました。


<日本映画>

GANTZ Perfect Answer
婚前特急 
阪急電車 15分間の奇跡
これでいいのだ 映画★赤塚不二夫

ダンシング・チャップリン
星を追う子ども
(古)
こころ 
妻として女として 
慕情の人 
馬 
綴方教室

 

<外国映画>

戦火のナージャ
ブルー・バレンタイン 
孫文の義士団
ナチス偽りの楽園 ハリウッドに行かなかった天才 
キッズ・オールライト
ミスター・ノーバディ 
ナンネル・モーツァルト 哀しみの旅路
アンノウン
ブラック・スワン 
スコット・ピルグリムVS邪悪な元カレ軍団
ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男 
ジュリエットへの手紙
パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉 
抱きたいカンケイ 
木漏れ日の家で
(古)
艦隊を追って
情婦 
サンセット大通り

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

 今月は該当作なしということで、来月に期待です。

 

②-1 キッズ・オールライト
 家族とは何かなんて杓子定規に問わないで、同性愛者カップルに子供2人(ハイティーン)という家族が、遺伝子的父親を迎えてのてんやわんやを、リアルに楽しく見せてくれる。こういうパターンの家族が「抱きたいカンケイ」に出てきたのには笑わされた。

 

②-2 阪急電車 15分間の奇跡
 最近超人気の有川浩原作の映画化は、まるで阪急電車の広告そのもののように見えながら、始まりが寝取られ女のきっ

ぱり別れのエピソードで、これはひょっとして期待できるぞのそのままに、いくつかのエピソードが交差するオムニバ

ス的作りをものともせず快調だった。

 

②-3 木漏れ日の家で
 モノクロ画面が美しい。主人公、死を間近に感じている老女の視線のままに光の強弱、ガラスを通して揺らめく画面が艶っぽい。

 91歳の女優ダヌタ・シャフラフスカと役名フィラデルフィアという愛犬、この犬が大きな比重を占める。

 

③-1 ブラック・スワン
 白鳥の湖の中の黒鳥部分に焦点をあて、まるでホラー映画のように快調に追い詰めてくる作りは、あくどい程の迫力。トゥシューズでの回転や、背中から抜く時など肉感的描写が続く。自分の中の二面性、少女から女性への成長物語などというテーマ性など、関係なくなる緊迫感。

 

③-2 ナチス偽りの楽園 ハリウッドに行かなかった天才
 先月見た「嘆きの天使」に出ていたクルト・ゲロンというユダヤ人俳優、ベルリンで生まれ舞台のショービジネスの世界で花開き「三文オペラ」の主役として有名だったらしい。その彼が、ナチスにいかに翻弄されていくかを追ったドキュメンタリー。テレージエンシュタット収容所にユダヤ人を集めて、いかに文化・芸術的な運動をしていたかを世界に示すために、ナチスは映画を作っていたなんて初めて知りました。その監督として使われたゲロンも最終的にはアウシュビッツに送られ処刑されたのだった。

 

③-3 岳
 小栗旬のイメージがちょっと変わる位、すっきり、きっぱり感のある山岳救助隊映画。石塚真一の漫画が原作、朝日新聞に載っていたインタビュー記事によれば、亡くなってしまう人たちにも「良くやった」と声をかける精神がキーワード。主人公がヒーローすぎる部分はあるものの楽しく見た。

 


次の作品もお勧めです。

 

婚前特急:やっと見ることができました。平日の昼間でもほぼ満席、若い人が多かったです。先週からはユナイテッドシネマ豊洲でも上映が開始されました。随分経ってからのシネコン上映はそれほどの人気ということでしょうか?

 

ミスター・ノーバディ:最近見た中で、最も美しい画面の映画だった。人生の分かれ目でいかなる選択をしたかについての空想的物語が軽快な音楽と共に語られる。

 

アンノウン:スパイアクション物は基本設計がどんどん複雑化しているが、この作品もなかなかのもの。「96時間」以来アクション俳優になったかのリーアム・ニーソンが今回も溌剌、楽しめます。

 

星を追う子ども:独自の道をゆくアニメーション作家新海誠の新作、色の使い方、清涼感のある絵柄など見ていて心癒される優しさにあふれる。

 

スコット・ピルグリムVS邪悪な元カレ軍団:これぞゲーム感覚の映画、ほとんどマンガのタイミングで、馬鹿らし物語が進行していく。ほとんど何も残らないけど、見ていて楽しめる。

 

ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男:ハワード・ヒュースの存在の大きさを実在の書き手、クリフォード・アーヴィングの行動を通して実感。本当にアメリカはおかしな国だ。

 

 

 

 

Ⅱ 今月の懐かしい人

 

★ヴァネッサ・レッドグレーヴ & フランコ・ネロ
 「ジュリエットへの手紙」でクレアとロレンツォを演じていたのは、共演した「キャメロット」(1967)で結ばれたヴァネッサ・レッドグレーヴとフランコ・ネロ。
 二人とも幾多の主演作がある大スター、ヴァネッサは「裸足のイサドラ」や「ジュリア」に主演、反体制的発言でも知られた存在、出演作も結構ひねったものが多い。
 フランコ・ネロはマカロニ・ウエスタンでジャンゴを演じた大スター、「キャメロット」でハリウッド進出後も「ネレトバの戦い」や「哀しみのトリスターナ」など、ヨーロッパの作品も含め活躍した。「キャメロット」の後、二人の間には息子も生まれていた。今回、改めて調べてみると、二人は2006年に正式に結婚したらしい。
 これには驚いた。ずっと二人は結婚していたものと思っていたから。まるで「ジュリエットへの手紙」の二人のように長い時を経て夫婦になったのだ。ヴァネッサはまだ時々は見ていたが、フランコ・ネロは本当に久しぶり。男っぷりもぐっと渋くなっていて感心。

 

 

 

 

Ⅲ 今月のつぶやき

 

◎GANTZ Perfect Answer :完全な回答とあるから期待したのに、ほとんど何の説明もなく、これって原作の漫画を読んでいなければ分からないよね。GANTZ自体の意味も、中の人間も(主人公がそうなるのが答ですか?)、異星人との戦いも全て闇というのは、何なんでしょうか?

 

◎艦隊を追って:私の神様フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの作品、コンビ作としてはそれほどの出来ではないが、ランドルフ・スコット(西部劇のスター)とベティ・グレーブル(2次大戦時、兵隊の間で最高の人気)が出ていたのには驚いた。

 

◎孫文の義士団:いやー、面白いけど、面白過ぎというか、やり過ぎかなーという感じ。中国人には受けますよね。今だ公開されない「唐山大地震」もそうだけれど、今や経済発展した中国の人にとっては見てうれしくなる映画ですね。

 

◎これでいいのだ 映画★赤塚不二夫:武井担当を女の子にしたのは一つのアイディアではあるけれど、凄く成功という訳でもないか。堀北真希は頑張っていたけど、こういう作品にありがちの、作り手が面白がるほど面白くない作品になってしまったかなあ。

 

◎ダンシング・チャプリン:凄い人気で、2回ほど出かけたがいつもその時間は満員で入れない。3回目は前日に行って明日の切符を買って、やっと見た。作品よりもそのことに感心かな。


◎星を追う子ども:美しい画面には見とれてしまうが、お話はちょっと破綻しているのでは?というより、詰め込み過ぎでどこを狙っているのかがちょっと見えずらい。


◎ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男:アメリカは実話の方が面白かったりする国。この映画の主人公クリフォード・アーヴィングも、ふとした思いつきから何の情報も持っていないヒューズのインタビュー記事を書くと決め、その目的に向かって“でっち上げ”にあらゆる努力をしていく。


 

 

 


今月のトピックス:ノーマ・ジーン

 

Ⅰ ノーマ・ジーン

 

 ダイアナ妃の告別式でエルトン・ジョンが歌った「Candle in the Light」歌詞の中に出てくるノーマ・ジーンはマリリン・モンローのこと。彼女の本名である。正確にはノーマ・ジーン・モーテンセン→ノーマ・ジーン・ベイカーと変わった彼女の本名の前の部分だ。

 ノーマ・ジーンのことを知ったのは中学生時代に読んでいたファン雑誌「映画の友」で、映画スターの本名についての記事を読んでだった。かなりのスターの本名が書かれていたが、憶えているのは、ノーマ・ジーンの他は、ケイリー・グラントがアーチ・リーチ(語呂がいい!)とか、ジョン・ウェインが女の子のようなマリオンとかで、ドリス・デイがコッペルホフという変わった名前ということだった。

 こんなことを思い出したのは、「キッズ・オールライト」の予告編を見ていたとき。ここに出てくる子供たちを演じる2人は、ミア・ワシコウスカとジョシュ・ハッチャーソンと出てきた。

 ちょっと変わった名前だなあ。最近はこういう変わった名前が流行りなんだろうか?ミア・ワシコウスカは「アリス・イン・ワンダーランド」のアリスを演じていたから無名という訳ではないが、その東欧的なワシコウスカという名前がスターらしくないなあ。

 本名なんだろうか?
 昔はコッペルホフがドリス・デイなんだから、もう少し明るい名前でもいいのに。まあ、彼女の風貌はワシコウスカに

合っているかもしれないけど。

 

 最近は便利になって、WIKIPEDIAで調べればスターの本名が分かる。
「キッズ・オールライト」の5人の本名は次の通り。
   アネット・ベニング:アネット・キャロル・ベニング
   ジュリアン・ムーア:ジュリー・アン・スミス
   マーク・ラファロ:マーク・アラン・ラファロ
   ミア・ワシコウスカ:ミア・ワシコウスカ(本名だったんですね)
   ジョシュ・ハッチャーソン:ジョシュア・ライアン・ハッチャーソン

 ミドルネームや名前の一部を削って芸名としているスターは数多い。

ポール・(レオナルド)ニューマンとか、コリン・(アンドリュー)ファースとか、ペネロペ・クルス(・サンチェス)とか、エリザベス・ (ロズモンド)テイラーとかね。

 そんな中、一番削ったのは、オードリー・(キャスリーン・ファン・ヘームストラ)ヘプバーン(=ラストン)ではないでしょうかね。

スターの芸名が本名と何らかの結びつきを感じさせるものが多い中、ノーマ・ジーンがマリリン・モンローと、まったく新しいイメージで名付けられたのは珍しい。彼女のイメージに合わせて、マリリン・モンローと名付けられ、或いは名前の持つイメージに合わせて、マリリン・モンローというスターを作ろうとしたのだろう。それだけ彼女がポテンシャルを持っていたからだろうか。

 WIKIPEDIAで調べてみると、ケイリー・グラント:アーチボルド・アレクサンダー・リーチジョン・ウェイン:マリオン・ロバート・モリソンと、この二人も本名とまったく関係ない名前だ。どうも昔の方が、スターのイメージに合わせた芸名を付けていたように感じる。それだけ、スターが持つイメージもすっきりしていたような気がする。

 

 

 

Ⅱ ナタリー・ポートマン

 

 本名ナタリー・ヘルシュラグのナタリー・ポートマン、今年は「ブラック・スワン」でアカデミー主演女優賞を受賞し、今一番乗っているスターと言っていいだろう。1981年6月9日イスラエル/エルサレム生まれの29歳、3歳でアメリカに移住したユダヤ系アメリカ人である。

 1994年リュック・ベッソンの「レオン」の少女マチルダ役でデビュー、「スター・ウォーズ」新三部作(1999~2005年)でヒロインを演じ、2004年マイク・ニコルズの「クローサー」でゴールデングローブ助演女優賞を受賞、その後は幅広い作品に出演して現在にいたっている。

 日本では4月から7月にかけて彼女の作品が5本も公開される。4/22に「抱きたいカンケイ」が封切りされたのを皮切りに、5/11は「ブラック・スワン」(珍しい水曜日封切りはレディースデーにあてたらしい)、6/25は自らプロデューサーも兼ねた「メタルヘッド」、7/2には2本も封切りされるのだ。1本は日本の浅野忠信も出演している「マイティ・ソー」、もう1本はこれまたプロデュースもしている「水曜日のエミリア」である。

「水曜日のエミリア」と「メタルヘッド」は「ブラック・スワン」より前に作られた作品、「抱きたいカンケイ」と「マイティ・ソー」は後の作品ではあるが、いずれにしろ一人のスターの作品が2ヶ月半の間に5本、しかもいずれも主演の作品が公開されるのは前代未聞の出来事ではないか。

 今が旬と言っていいスターの作品をお楽しみください。

 

 

 

 

Ⅲ 高峰秀子

 

 2010年12月28日86歳の生涯を終えた高峰秀子、本名は松山秀子だった大女優。新文芸座で行われた彼女の特集上映を今月も3本見た。彼女の養女となった斉藤明美さんのトークショーも聞くことができた。トークショーがあったためか「綴方教室」の時は満員以上の立ち見が出ていた。

 新文芸座はおじさんの映画館だ。その証拠に休憩時のトイレの長蛇の列は、他の映画館とは違い男便所の方なのだ。その列がなくなるまで上映開始時間を延長するほどの長さである。多くのおじさんが新文芸座の他に、神保町シアター、京橋のフィルムセンター、ラピュタ阿佐ヶ谷のチラシをもっている。古い映画一筋という感じがしなくもない。こういうおじさんに出会うと、おじさんは仕方ないとして“こういう”風にはならないよう、う~む、新しい映画も見ようと自戒するのである。

 申し訳ありません、高峰さんとはほとんど関係ありませんでした。

 

 

 

 

Ⅳ ビリー・ワイルダー

 

 本名はサミュエル・ワイルダーのビリー・ワイルダーは、オーストリア=ハンガリー帝国出身、ドイツで映画監督になり、ナチスの台頭からフランス経由アメリカに渡り幾多の名作を送りだしたユダヤ系映画監督。

 「午前十時の映画祭 赤・青」で最も多くの作品が上映された(る)監督だ。その1本、「情婦」を見たのはTOHOシネマズ六本木のスクリーン1でだった。ここでは、昨年「フォロー・ミー」で痛い目に合っている。席が全てサイトで予約されてしまいどんなに早く映画館に行っても席がなかったのだ。そのことを思い出し、もうこれは遅いかと思いつつ、前日の夜にサイトを見ると、一番前の列に3席が残っているのみだった。少なくとも見ることができると、その内の1席を予約して出かけた。

 しかし、これは悪夢の始まりだった。今までに映画館の最前列で見たことは何度もあるし、最前列が定位置という映画館もあったくらい。

TOHOシネマズ六本木スクリーン1の最前列は日本で最も過酷な最前列ではないか?いつもはうれしいはずの大きなスクリーンも、最前列からの距離がこれほど近いとなると苦痛となるし、第一視界に全部がおさまらない。隣に座っていた若い男の子の仲間(は後ろの席)がスクリーンをそこから見て“絶壁”と表現していた。

 翌週は同じくワイルダーの「サンセット大通り」が上映された。またまた、スクリーン1だ。これまた遅れて、前日の夜サイトを見ると2列目までに6席ほど空いていたが、いや~、2列目でも厳しいのではと、もう1日あとの日にしてやっと7列目にあった1席を確保したのだった。

 皆様度注意ください、TOHOシネマズ六本木スクリーン1の最前列に。

 これまた、申し訳ありません、ワイルダー監督とはほとんど関係のない話でした。

 

 

今月はここまで。


                         - 神谷二三夫 -


感想はこちらへ 

back                                                                         

copyright