2012年 5月号back

今年もやってくるゴールデン・ウィーク、
遅い春もやっと終わりを告げ、
五月晴れの季節になりました。
外もいいけど、中もいい。
中はもちろん映画館の中!

 

今月の映画

 3/26~4/25、ゴールデン・ウィーク前の31日間に出会えた映画は28本、
GW前哨戦で、かなり充実した映画群がそろい、満足な1カ月でした。GWの間も上映されている作品もあります。
 長いお休み、外に出かけるだけでなく、映画館にもお出かけください。
 それにしても、新作に関しては極端な洋高邦低となりました。


<日本映画>

わが母の記(試写会) 
ももへの手紙
(古)忍者狩り
飛脚天狗
新しき土(日独合作) 
人情紙風船 
上意討ち

 

<外国映画>

マリリン7日間の恋 
ヘルプ~心がつなぐストーリー~
ルート・アイリシュ
少年と自転車
スーパー・チューズデー 正義を売った日 
アーティスト
ドライヴ
別離
コーマン帝国 
バトルシップ 
アンネの追憶
オレンジと太陽 
キリング・フィールズ 失踪地帯 
タイタンの逆襲
ジョン・カーター 
裏切りのサーカス
(古)イゴールの約束 
ロゼッタ
さようならをもう一度
バンドワゴン
ザッツ・エンターテインメント

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

① わが母の記
 井上靖の原作をもとに描かれる作家と母、家族の物語。会話のテンポが良く、緩急をつけた画面が良く、役者たちも素晴らしく、原田真人監督の傑作。

 

②-1 ヘルプ ~心がつなぐストーリー~
 60年代はアメリカだけではないが、大きな変化のあった時代。南部で激しかった黒人差別を黒人のメイドたちの発言を集めた原作をもとに、差別される側、差別する側ともに圧倒的な存在感で描いている。発言を決意するまで、発言を引き出すまでのドラマをきっちり見せてくれる。

 

②-2 アーティスト
 フランス人監督がハリウッドに出かけ作った白黒サイレント映画は、まるで昔のサイレント映画そのままに、人間の感情をゆっくり見せてくれる。ダクラス・フェアバンクスに似ている主演のジャン・デュジャルダン、アステア=ロジャース風な踊り、さらにアギーが演じる犬まで、豊かな芸術としてのサイレント映画に愛と敬意を捧げた監督に乾杯。

 

②-3 別離
 子供のために外国に行こうという妻、認知症の父を残してはいけないという夫、世界のどこにでもありえる普遍的なテーマを取り上げたイラン映画。一度下り始めた流れはなかなか止まらない。いつか別離へと向かうサスペンスフルな映画。

 

③-1 少年と自転車
 親に見放された少年は、それでも父親のことが忘れられず、孤児院を抜けては元の家に戻ろうとしたりする。週末だけの里親として、その少年を受け入れる女性との結びつきの中で、徐々に成長していく少年の姿が健気。

 

③-2 オレンジと太陽
 イギリスの孤児院からオーストラリアへ子供だけで送られることが、かなり最近まで何年も続けられていた事実をもとに作られた映画。送られた子どもは教会から里子に出されていた。善意の名のもとにまるで処理されるように送り出されていた子供たち、成長して自分の出自を知りたいと親を探すという事実には驚く。

 

③-3 ドライブ
 無口な若者は若い母と男の子に出会い、時々一緒に過ごすようになる。自動車修理工場で働き、スタントで車を運転しながら、犯罪現場への送りを請け負ってもいる若者の特技は勿論ドライブ。クールでハードな描写に惹きつけられる映画です。

 

 


 次の作品も面白いです。ご覧ください。

 

マリリン7日間の恋:ローレンス・オリヴィエが「王子と踊子」を作っていた時、イギリスでの撮影にやってきたマリリン・モンローを巡る映画。結婚したばかりだったアーサー・ミラーとの関係や、彼女の演技術(?)や、演技者としては認めていないのにスターとしての彼女に嫉妬するオリヴィエの様子など恋以外の部分も面白い。

 

ルート・アイリッシュ:イラクに派兵していたイギリス、私営軍隊(?)で働けば月1万ポンドというのも驚きだが、まるでドキュメンタリーのように描かれるストーリーも驚き。

 

スーパー・チューズデー 正義を売った日:アメリカの大統領選挙に向けて繰り広げられる民主党の大統領候補指名争いを舞台に、正に正義を売った日が描かれる虚々実々が面白い。

 

アンネの追憶:「アンネの日記」の後日談で、アンネの友達で今もイスラエルに暮らす女性が書いた、ドキュメンタリーをもとに映画化された。イタリア映画というのがちょっと不思議。

 

キリング・フィールズ 失踪地帯:欠点が多いし、話のつながりがきちんとしていないように見えるのに、魅力的な映画であるのも確かだ。なぜか?画面が特に情感たっぷり、話の持つ暗さがもろに出てくるあたりや、生のままに描かれる人物たちのあり方が魅力的だからだろうか?


裏切りのサーカス:ジョン・ル・カレの「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」が原作、モグラを巡るストーリーが複雑に語られます。元々複雑な話ではありますが。

 

 

 

Ⅱ 今月の旧作

 

ダルデンヌ兄弟の映画

 「少年と自転車」の上映に合わせて、ベルギーの映画監督ダルデンヌ兄弟の旧作が上映された。最近こうした、新作に合わせて監督の旧作を事前か或いは同時に上映上映することが増えている。言わば、昔の名画座+ロードショーを封切り館でやっていることになる。
 旧作上映はそれほどの回数は行われないから、見るためには少し無理しないと見ることができない場合もある。今回のダルデンヌ兄弟の上映作品では、「イゴールの約束」と「ロゼッタ」を会社勤務の後、見に出かけた。共に力強い作品だった。

 特に「イゴールの約束」は少年の健気さがまぶしいくらいに、一直線に描かれる。解決できるはずもないラストまで、タルデンヌ兄弟の真剣さが貫かれている。「ロゼッタ」も主人公の少女の力強さと繊細さの入り混じった生き方が胸に残る。

 彼らの映画では主人公たちは言葉での言い訳はしない。それだけ、覚悟して生きているということだろうか?

 

午前10時の映画祭 3本
 「さようならをもう一度」は40歳の女性、つまりアイアラフォーの恋愛生活の話。随分見ごたえのある恋愛映画だった。50年前1961年製作で、イングリッド・バーグマン演じる主人公は、今の40歳女性よりはずっと大人のように見えるが、心の動きは今の女性に近いものがある。

 「バンドワゴン」をやっと見ることができた。TVで放映されたものを録画していたが大画面で見られるまではと未見だった。ほとんど感激のしっぱなし状態。周りに人がいなければ一緒に歌いたかった。

 その感激から「ザッツ・エンタテインメント」も見てしまった。封切りから既に37年、昔の作品を集めた画期的な作品だったが、この作品自体がすでにかなりの年月を経てしまった。

 案内役の11人のスターの中で存命中はミッキー・ルーニーとライザ・ミネリの二人だけ。こちらも素晴らしい場面の連続で感涙。

 

 

 

 

Ⅲ 今月のつぶやき

 

◎「ヘルプ ~心がつなぐストーリー~」は、南部の街で毎朝繰り広げられる黒人メイドたちの出勤風景にはちょっと驚いた。住み込みが普通かと思っていたので、制服のようなメイド服を着て勤める家に出かけていく姿は新鮮。


◎イギリスでも私営軍隊企業があるんだと知った「ルート・アイリッシュ」の世界。空港と市内を結ぶ道がなぜルート・アイリッシュと呼ばれるのか?勿論危険な道だけれど、危ないのはその軍隊の方ですよね。

 

◎「少年と自転車」に出てくる週末だけの里親を引き受ける女性、その度量の広さには感心した。何せ、扱いにくい少年のために恋人を振ってしまうのだから。

 

◎ロジャー・コーマンを知っていますか?1950年代後半からアメリカのB級映画を一手に引き受け、今もなお監督、製作者として活躍している86歳。セックス、暴力、SFなど何でもありの世界。彼の下から排出した映画人は数知れず、彼がいなければ「イージー・ライダー」も出てこなかった。そんな彼の映画生活を描いたのが「コーマン帝国」、エネルギーに感心しました。


 

 

 

トピックス:最近のハリウッド映画&ETC

 

Ⅰ 最近のハリウッド映画

 

 今月見たアメリカ映画は2つに分けられる。
第一群を「バトルシップ」「ジョン・カーター」「タイタンの逆襲」の大作群とすれば、第二群は「ヘルプ~心がつなぐストーリー~」「スーパー・チューズデー 正義を売った日」「ドライヴ」「キリング・フィールズ 失踪地帯」の充実佳作群である。

 最近の大作群は、いずれもCG頼りの大掛かりな画面を、速いテンポでつないでいく映画ばかりだ。ほとんどの映画で破壊することがメインテーマのようになる。その破壊ぶりはどんどんエスカレートしてきた。今月の3作品では、ギリシャの神様から、現代のハワイ沖で繰り広げられる宇宙からの侵略者との、さらに火星に出向いたカーターさんは地球外生命体との戦いが描かれる。

 神様も人間ではないことを考えると、人間ではない何か巨大なものを破壊する戦いばかり。どうしてこんなに戦わなければいけないのか?戦い続けることがアメリカの使命なのか?よく考えると、昔からアメリカ映画は戦う映画が多いので、“最近の”とことわる必要はないかもしれない。ただし、描写の激しさは度を増すばかりである。

 

 


Ⅱ 映画の原題

 

 最近の外国映画の予告編を見ていて、原題があまり出てこないことに気が付いた。勿論、原題が出てこなければならないなどということはない。何かに困るということもない。しかし、気がついてみると、昔に比べて原題を覚えることが少なくなった。なぜだろうか?最近吹き替え版が多くなっていることと関係するだろうか?一般的な意味での外国語敬遠症?外国映画を見るということは、日本と違う世界を見るという部分もあるはず。その中に、言葉の違いも入ってくる。
 分からない言葉にふれる2時間、意味は字幕で補いながらも、言葉の音の持つ高低、強弱、甘辛等々の違いを耳で覚え、体に染み込ませる。そうした音にあふれた世界で呼吸するのは一つの貴重な体験だ。

 日本語題名と原題の意味が全く違う場合も多い。その違いを知ることも作品を知ることの一つ。勿論、本編を見れば原題は分かるのだが、事前にその違いを知り、何故違うかを知るために映画を見に行くことだったあったはず。全てのことを平易にすることはそれだけ知る機会を少なくしている。

 最近は外国語名をそのままカタカナにした題名がが多いことも影響しているのかもしれない。しかし、あまりはっきりした理由はないということもあり得る。或いは、単に私が原題に気が付いていないだけかもしれない。う~む、良く分からない。時々、原題はなんだったっけと、映画の公式サイトを見ることがあるが、原題が書かれていないことがほとんど。ポスターやチラシにも書かれていない場合がある。

 単純に、求められていないのなら間違いを少なくするように書いていないだけなのかも。

 

 


Ⅲ 座席指定

 

 日本の映画館(スクリーン数)は8割以上がシネコンになった。シネコンでは座席指定が当たり前。シネコンはショッピングセンター内にあることも多く、座席を決めてから、映画が始まるまでゆっくり買い物も可能になった。さらに、自宅でCPU予約ができる映画館も増えてきた。「アーティスト」の初日10:00から始まる初回の上映に出かけた。アカデミー賞の主要5部門を受賞してから約40日、ひょっとして長蛇の列?と思い09:10頃に映画館へ。何故なら、シネスイッチは座席指定ではない自由席の映画館だったから。

 ところが、チケット売り場に列はなく肩透かし。窓口では希望する席を聞かれた。座席指定の映画館に変わっていたのである。聞いてみれば2週間ほど前に変えたという。
 6日前から発売しているという。ル・シネマや丸の内TOEIなども座席指定となった。便利になった反面、長蛇の列に並ぶという醍醐味はなくなった。皆で並ぶというワクワク感が減ってしまったのは否めない。これからは冷静に大ヒットという状況が増えてくるんだろうか?

 


 今月はここまでです。
楽しいゴールデンウィークをお過ごしください。

 


                         - 神谷二三夫 -


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