2012年 10月号back

やっと少し涼しくなりました。
食欲の秋、芸術の秋本番を迎えます。
空澄渡り、気分も爽快、
映画館でもっと痛快になりましょう。

 

 

今月の映画

 8/26~9/25 残暑が続き暑かった31日間に出会った映画は23本、本数が少し減ったのは猛暑のためではなく、単に私生活と仕事が忙しかったから。今日も残業でした。
 久しぶりに日本映画と外国映画がほぼ同じ数になりました。それぞれに見ごたえのある作品と今一つの作品がかなりはっきり分かれました


<日本映画>

るろうに剣心
闇金ウシジマくん
I’M FLASH 
ひみつのアッコちゃん
私の人生(みち)我が命のタンゴ 
夢売るふたり 
鍵泥棒のメソッド
天地明察 
踊る大捜査線FINAL
(古)東京マダムと大阪夫人 
ゼロの焦点

 

<外国映画>

プロメテウス
WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々
最強のふたり
デンジャラス・ラン
ディクテーター 身元不明でニューヨーク
白雪姫と鏡の女王
カルロス 第一部
カルロス 第二部 
カルロス 第三部
ソハの地下水道 
そして友よ,静かに死ね
(古)踊らん哉

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

① 夢売るふたり
 西川美和監督の画面には、女性的な細かさと男性的な思い切りの良さが上手く混在していて、映画のリズムを作っていく。常に自分で脚本を書いて作っているためか、人物の細かい感情の動きが丁寧に拾われていて感心する


②-1 最強のふたり
 大金持ちなのに肢体不自由、心が自由で変なこだわりが無いのにスラム街出身。強い部分がある弱者たちが、幸福に強くなっていく状況を見せてくれる、気分が良くなる映画。


②-2 ソハの地下水道
 ポーランドといえばゲットーからアウシュビッツに至るユダヤ人迫害の舞台だが、ユダヤ人達を迷路のような地下水道にかくまった男とユダヤ人たちの、ソ連軍がドイツ軍を追いだすまでの14ヶ月間の状況を描く感動作。

 主人公が全くヒーローらしくなく、むしろ怪しい男だが・・・。女性監督アニエスカ・ホランドの久しぶりの作品は、彼女の出身地ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダの「地下水道」も想起される力作。


③-1 鍵泥棒のメソッド
 内田けんじ監督はデビュー作「運命じゃない人」の順列組み合わせ的脚本が見事だったが、アイデア倒れになる可能性もあった。しかし、3作目のこの「鍵泥棒のメソッド」を見ると、凄く上手くなっていて安心した。楽しめる映画の王道を行く内田監督に拍手。


③-2 天地明察
 日本の暦を正しいものに直そうという人を描く冲方丁の小説を映画化。会津藩の碁打ち侍が、好きな天文の道に進む過程が面白い。和算の天才、碁打ちの天才などが物語を彩る。武士と公家の戦いも見もの。

 


次の作品も面白いです。ご覧ください。

 

るろうに剣心:チャンバラ活劇の復活?とか騒がれた今作、がんばっているがスピードがちょっと速過ぎ?まあ、それはおいてかなり楽しめる作品です。剣心のチェンジ・オブ・ペースがおもしろい。

 

プロメテウス:人類の起源などという大テーマはあんまり考えない方がいいし、かつて見た「エイリアン」を忘れることができれば、随分面白いSFだ。映像感覚は流石にリドリー・スコット。

 

I’M FLASH:豊田監督の映像感覚は鋭い。新興宗教の3代目を巡る様々な力のせめぎ合いをきりっと描く衝撃作。

 

WIN WINダメ男とダメ少年の最高の日々:主人公は弁護士なのに、地方都市の彼のしょぼい事務所は、コピーの修理さえできない。このダメさ加減がぴったりくるお話で、主人公が清廉潔白で無いのもいい。

 

デンジャラス・ラン:デンゼル・ワシントンが悪魔のような男との宣伝だが、映画は先生と弟子を描いていた。これが面白い。プロはアマチュアがプロになれるか否かを見分け、そのうえで育てようとする。

 

白雪姫と鏡の女王:ジュリア・ロバーツが嫌みなく悪い女王を演じているのが楽しい。大人が楽しめるグリム童話、「スノーホワイト」と違う路線ながら健闘です。

 

 

 

 

Ⅱ 今月のつぶやき

 

●「エイリアン」と同じく女性が圧倒的に強い「プロメテウス」、自動手術機で帝王切開した後、ホッチキス縫合ですぐアクションは凄い。「ミレニアム」本家のリスベットを演じたノオミ・ラパスだけのことはある。

 

●「ひみつのアッコチャン」のつまらなさは、子供漫画のまま、ただ大人が演じているというポリシーの無さかなあ。

 

●和田秀樹といえば精神科医だけれど、「私の人生 我が命のタンゴ」を脚本・監督している。言いたいことは分かるけど、ちょっと頭でっかち?
調べてみたら、この前に「受験のシンデレラ」という映画を監督していて、モナコ国際映画祭で作品賞、主演男優賞、主演女優賞、脚本賞の4冠に輝いたとある。どういう映画祭、これは?

 

●編集長が言う“私結婚することにしました。相手はこれから探します”というオープニングのありがちな笑い取りセリフを、すべらせないできちんとストーリーに絡める辺りが内田監督の上手さですね。「鍵泥棒のメソッド」です。

 

●「カルロス」3部作は、TV作品ゆえのつまらなさもあるが、驚いたのは、主演者エドガー・ラミレスの肉体改造。つまり、年と共にというか、そのだらしなく太っていく様。



 

 

 

今月のトピックス:映画館 & ETC

Ⅰ 映画館の状況

 

 東京の映画館は新宿にシネコンが2つになったあたりから、どんどん経営がきつくなっているらしい。この2年の間にも、いくつかの映画館が消えていったが、今後も消えていく映画館があるという。

 銀座の2つの映画館、銀座シネパトスとテアトル銀座である。現在3つのスクリーンを持ち、一つは名画座として運営しているシネパトスは、決してベストな映画館ではないが、気取らないB級作品やロードショーのムーブオーバー作品の上映が貴重だった。ここで、落ち穂拾いさせてもらった作品も多い。

 かたや、テアトル銀座といえばシネラマ上映館として有名だったテアトル東京の跡地に建つ映画館、ホテル西洋銀座と同じ建物で、このビルが2013年5月に解体されることになった。経営母体の東京テアトルはこの土地を売ってしまったので、後に映画館が作られることはない模様。

 他にも、新宿のK’sシネマが休館となるらしい。ここでしか見られない作品を上映していた。日本の上映スクリーンの80%以上がシネコンで占められるようになっている。快適に見られるシネコンは歓迎だが、シネコンの問題は作品にバラエティが無いこと。どのシネコンに行っても、ほぼ同じ作品が上映されている。
 それ以外に映画はないのか?勿論いろんな映画があり、シネコンで上映されない映画も多い。今後、シネコンが変容を遂げ、そうした作品も上映するようになればよいが、少しは変わるとしても、資本の論理から言って難しいだろう。東京でさえこの状況であれば、地方はもっと厳しいに違いない。文化は色々なものが見られてこそ育つもの。さあ、映画館に出かけてください。

 

 

 

Ⅱ クリストファー・ノーラン

 

 今やダークナイト、つまりバットマンの監督として有名なクリストファー・ノーラン、バットマンをはじめ、意識の中にまで入り込んでいく作品、時を逆行する語り口など、印象として言えばSF的な作品を作ってきた人と言える。作品名では「メメント」「インソムニア」「インセプション」などとなる。重層的に入り組んだ語り口、意識の中で起こることと現実の出来事とのクロスオーバー、それらを語る滑らかな画面は圧倒的な存在感でもって描かれる。さらにスピードをもって描かれるのだ。

 そういう印象から言えば、CGを駆使してという言葉が出てきてしまう。さらに、複数のカメラを使っての同時撮影というハリウッド的製作を想像していた。「ユリイカ」のクリストファー・ノーラン特集を読んでいて驚いたのは、基本的には一つのカメラで撮りたい、しかもデジタルではなくフィルムを使ってと言っていることだ。当然ながら、極力CGをつかいたくないとも言っている。 画面の強さは、安易にCGを使わないからこそ出てきているもののようだ。しかも、手を加えやすそうなデジタルは使わず、言ってみれば、実在するものこそ強いという信念で対象に向かっている。そうだったのか、だからあれだけの画面ができたのかと、妙に納得したのだった。

 

 


Ⅲ NO MORE 映画泥棒

 

 この5年以内に映画館に行ったことがある人ならば、映画の始まる前、カメラが顔のカメラ男が踊る画面にNO MORE映画泥棒と叫ぶCMを見たことがあるはず。2007年8月に始まったこのCMは、2010年3月から新しいバージョンになり、少しだけ大人しくなった。
 1作目は画面のピカピカが強烈でした。このCMは全ての映画に付けられている。付けられた時期により、第1作、第2作になる。新版になってから既に2年以上になるが、今年に入っても古いバージョンが付けられた映画が新しく公開されることが時々ある。その都度、そうかこの作品は今公開されるが、日本には結構前に入ってきていたんだと判断していた。

 カメラ男の第1作に久しぶりに会ったのは「WIN WINダメ男とダメ少年の最高の日々」だった。この映画、2年近くも前に輸入されていたのか。確かに、どこに焦点当てていいのか迷うところありだよね。宣伝部の人には同情するけど、それにしても、この日本題名で見たくなる人はいるのか?良い映画だし、勇気をもらえる映画なので、もう少し何とかしてほしかった。2年も迷っていたから、すぱっとした題名が浮かばなかったんだろうか?

 

 


Ⅳ 映写機が壊れた

 

 神保町シアターは、「飛び出せ!きらめく女優たち」と称して、宝塚出身女優の特集を上映中だ。「東京マダムと大阪夫人」見に行ったのは9/01(土)13:15の回。タイトル画が静かに流れた。始まっても無言の画面が続いた。昔と言ったって無声映画ほど古くはない。これは音声スイッチがオンになっていないのでは?

 その時、劇場の方が現れた。
 “申し訳ございません。映写機の不良で音が出ていません。
 ただいま修理中ですのでしばらくお待ちください。“
それから暫く待ち、始まらないので本を読み始め、再び劇場の方が現れたのは上映開始時間から30分後。
 “誠に申し訳ありません。
 30分経ちましたが、まだ修理ができません。
 つきましては、この回は上映中止とさせていただきます。“

5年ぶりくらいの上映中止遭遇。各回上映作品が違うとはいえ、次の3回目の上映は上手くいったんだろうか?
「東京マダムと大阪夫人」を見たのは4日後の19:15の回、タイトルの出だしから音付きでした。

 


 今月はここまで。


 秋から冬にかけては、速い回転で多くの作品が公開される季節。来月までたっぷり楽しみましょう。



                         - 神谷二三夫 -


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