2013年 6月号back

6月は祝休日が無い月、
雨の季節ゆえに無理に作ることをしなかったんでしょうか?
紫陽花も咲いて、雨に濡れた景色もきれいですが、
やはり鬱陶しくもありますね。
心に雲が出始めたら、
勿論、映画館で吹き飛ばしましょう。

 

今月の映画

 GWを挟んで4/26~5/25の31日間に出会えた映画は31本、今月もまた外国映画の圧勝、新作に関しては日本映画の3倍を見たことになります。
 イタリア2本、デンマーク2本、台湾2本(1、2部を2本として)と英語圏以外の映画も充実していました。


<日本映画>

藁の楯
図書館戦争 
ペタルダンス 
探偵はBARにいる ススキノ大交差点
旅立ちの島唄~十五の春~
中学生円山
(古)乙女ごころ三人姉妹 
千羽鶴 
山の音 
有りがたうさん 
古都 
浪華悲歌

 

<外国映画>

ブルーノのしあわせガイド
アイアンマン3
ハッシュパピー バスタブ島の少女
ラストスタンド 
セデック・バレ 第1部太陽旗
第2部虹の橋
ロイヤルアフェア 愛と欲望の王宮
恐怖と欲望
ウィ・アンド・アイ
ジャッキー・コーガン 
L.A.ギャングストーリー 
17歳のエンディングノート
孤独な天使たち 
ビトレイヤー 
フッテージ 
ビル・カニンガム&ニューヨーク
愛さえあれば 
モネ・ゲーム 
プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー


①-1 セデック・バレ 第1部太陽旗 第2部虹の橋
 日清戦争から50年間、日本が統治していた台湾。統治から35年目に起こった「霧社事件」を知りませんでした、恥ずかしながら。30年以上前添乗でで行った台湾で高砂族ショーを見ていましたが、そんな事件のことも知らずにきてしまいました。セデック族の生活、生き方、死生観を丁寧に見せ、日本との戦いもリアルにアクション豊かに描いた傑作です。必見です。


①-2 ビル・カニンガム&ニューヨーク
 驚きました、こういう人がいたんだと。

 今月のトピックスをご参照ください。


②-1 愛さえあれば
 デンマークの女流監督スザンネ・ビアは「ある愛の風景」とか「未来に生きる君たちへ」など、シビアなテーマを人間関係の複雑さと共に描いてきた人だ。予告編を見ていたら、なんだか幸せムードだったのでちょっと心配/期待していたら、やはりスザンネ、一筋縄ではいかない幸せへの道でしたが、面白かったです。


②-2 プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命
 ルークは息子がいると知った時、自分の父親のようにはならないと誓うが、
金のため悪の道にはまり込む。そして、15年後…。
 今、最も旬のライアン・ゴスリングを前半で死なせてでも描きたかったのは、親子というテーマ、しかも持つ者と持たざる者に分かれての。ハリス・ユーリンを久しぶりに見た。


③-1 ジャッキー・コーガン
 スタイリッシュという言葉が当てはまる出だしである。殺し屋の話で、原題はKilling Them Softlyだ。殺しに添える音楽がなかなか。ジェームズ・ガンドルフィーニがいやに幸せな表情を見せ、サム・シェパードも出てくる。


③-2 モネ・ゲーム

 なんだか巻き込まれ型コメディを久しぶりに見た感じ。コリン・ファース、キャメロン・ディアス、アラン・リックマン、トム・コートネイがなかなか。バカそうな日本人グループも出てきますが・・・十分に楽しめる作品です。

 


 次の作品も面白いです。ご覧ください。


藁の楯:10億円は宝くじでも手に入らない金額、警官が裏切ったとしても仕方がないか。このアイディアがお話の核。それでも職務に真摯な人がいた。

 

図書館戦争:思い切ったアイディアです。多くの作品が映画化されている有川浩さんの原作。ここまで過激にしないとという危機感の表れでしょうか?乙女チックなところが面白い。

 

ラストスタンド:シュワルツネッガーの映画界復帰主演第1作。期待しないで見たら、案外娯楽映画の本道で面白かった。妙に複雑化されていない善悪感覚が勝因。

 

ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮:18世紀のデンマーク王室を巡る物語も面白いが、権力を握る者は独裁に至る可能性が高いことも教えてくれる。

 

L.A.ギャングストーリー:2次大戦後のロサンゼルス、ギャングVS警察の対決があったが、ミッキー親分一家に対し警察は1枚ではなく、警視総監一人の意思で警察外に作られたチームが行う。ただ、実際はこの警視総監も非常に評判が悪いらしい。

 

旅立ちの島唄~十五の春~:南大東島の中学生とその一家の物語。
家族の厳しい現実があるが、南の人々は運命を受け入れて前進しようとする。

 


 

 

Ⅱ 今月の若者

 

 映画は若者を主役にしたものが多い。
 従来、若い観客の数が高齢者のそれを上回っていたからだろう。映画が産業、芸術として新しく生まれてきたものであったため、それに反応していたのは若い人が中心だったということだろう。しかし、誕生から100年を大きく超え、それなりの成熟も果たしてきた。最近は、高齢者が主人公の映画も徐々に増えつつあるようだ。


 今月10代の若者を主人公にしたものを5本見た。
 「旅立ちの島唄~十五の春~」「中学生円山」「ウィ・アンド・アイ」「17歳のエンディングノート」「孤独な天使たち」このなかで面白かったのが「ウィ・アンド・アイ」。ブロンクスの高校生たちの下校時間、多くの生徒が乗り込んだニューヨーク市バスの中での会話を徹底追求した作品だ。
 ミッシェル・ゴンドリー監督は高校生の会話収集に3年間を費やしたとか。
何しろリアルな感じのするマシンガントークだ。ほとんどがくだらない内容だが、そのスピード感と、まるでいじめのような会話にもめげない高校生たちの個性が面白い。ここまでうるさく、いたずらな生徒が乗ってきたら、日本では大問題では?昨年の日本映画「桐島、部活やめるってよ」がリアルな高校生像に迫ったように、この映画もアメリカの生徒たちに密着している。
 残念なのは、何らかの作品的な感動まで引張っていく因子が無いという点。「旅立ちの島唄~十五の春~」は舞台が南大東島というのが珍しい。島には高校が無く、中学卒業と共に島を離れざるを得ない若者たち。子供と共に島から出ていく母親もいる。ゆっくり幸せそうな環境の中で、厳しい家族関係も見られるようだ。

 

 

 

Ⅲ 今月の川端康成

 

 (古)の6本のうち前の5本は神保町シアターで上映中の“文豪と映画 川端康成「恋ごころ」の情景”で見たもの。「有りがたうさん」ののんびりムードを除けばさすがにドラマを見せてくれる。「千羽鶴」「山の音」はともに鎌倉に暮らす人々の話だ。家族、親族の話の登場人物の中に、時にドキッとするような濃い情念を見せる人がいる。
 「千羽鶴」では木暮実千代と杉村春子のぶつかりが凄い。木暮実千代は男に寄りかかる女の艶っぽさ、杉村春子は女の執念深さを見せつける。この二人に挟まれる森雅之も素晴らしい。

 「山の音」では山村聡と上原謙の父子。山村聡の父は嫁に妙に気を使う、映画のラストもこのふたりが写っている。息子の上原謙は妙に嫁に冷たい夫である。それにしても、息子の浮気相手に会いに行く父という図には驚いた。


 

Ⅳ 今月のつぶやき

 

●「アイアンマン3」は世界的に大ヒットとなった。
原因は、昨年の「アベンジャーズ」がヒットしたからと言われている。版権元マーベルコミックスは多くのシリーズを送り出しているが、しっかり戦略を立てている。
昔の連続活劇の大型版みたいなものですね。
アイアンマンのラストといいながら、映画の終わりにはしっかり次回の予告をしたりして。それにしても、一掃セールのようにアイアンマンスーツをすべて破壊、次回作では新しいイメージで登場するんでしょうかね。


●「2001年宇宙の旅」「シャイニング」など多くの先鋭的な作品を残したキューブリック監督、彼の幻といわれるデビュー作「恐怖と欲望」が公開された。
作品製作後、自ら「アマチュアの仕事」と断定し、ほとんどのプリントを買い占め、その公開を封じてしまったため、一般の目に触れることが無くなってしまったというのだ。作品は、具体的に特定できる状況を避けた上で描かれる戦争のいうものに付いての映画だ。抽象的に物事を考えるのは、確かに頭でっかちの面がある、そこをアマチュアというのだろうか?
それにしても、明るく透明感みなぎるフィルムの上で、
どこか悲しみをたたえて陽気に物語が進行するさまは、流石に天才の初作といえようか。


●「LAギャングストーリー」を楽しんで見た。警官という身分を捨て、“悪には悪”と暴力で対決する6人。深みがないとか、実際は警視総監が悪いとかいろいろ言われた作品だが、最近にはなくすっきりした勧善懲悪が気持ち良かった。
Nノルティ、Gリビジ、Rパトリックなど充実の脇役陣等で面白かった。

 

 

 

 

今月のトピックス:ニューヨークの人々


Ⅰ ニューヨークの人々

 

 「ビル・カニンガム&ニューヨーク」は街を自転車で飛び回り、街で見つけた気になるものを片っ端からフィルムに収めるビル・カニンガムを追ったドキュメンタリーだ。
 1929年生まれというから今年84歳、撮影時の2009年で80歳のカメラマンだ。映画は、有名人無名人関係なくニューヨークを闊歩する個性的な人々の姿と、彼らを追うビルの姿を写している。カーネギーホールの上にあるカーネギーステュディオに50年住んでいるといっても、トイレもシャワーも共同の狭い部屋だ。台所もなく、部屋にあるのは50年来のフィルムを収納するキャビネットばかり。
 この映画の撮影中に市側から立ち退きを迫られ、代替として、セントラルパークを見下ろす広いマンションを提示される。マンションを決めるための下見をしているところが写されているが、こんなことをしてもらって申し訳ないという感じである。

 老カメラマンはストリートで新しいファッションを見つけるという好きなことをやり続ける。それ以外には何事にもこだわらない。街を回るのは自転車、着ているのはフランス道路清掃人のブルーの制服、食べるのはファストフードというか、映画に写っていたのはパリでファーストフードを食べる姿。食べることにこだわりはないという。本当に質素な暮らしぶりである。

 多くのパーティにも出かけるがあくまで気になるものを写すため。パーティでは一切食べることをしない。経済的な成功を考えることはない。金のために写真を撮る訳ではない、好きなことだから続けてきた。
 かつて自分の意図とは違う方向で写真が掲載されたことから、無料で写真を掲載する雑誌さえ作ってしまう。何時からか毎年最新ファッションを追ってパリに出かける。ファッションショーでも自分の気に入ったものしか撮らない。
そのポリシーのある姿勢によりフランスから勲章を受けてしまう。

80歳までこんな生き方を続けてしまうことに感動した。現在もニューヨークタイムズに「On the Street」を掲載中。

 以前、日本の女性監督佐々木さんが作ったドキュメンタリー「ハーブ&ドロシー」があった。郵便局員のハーブと図書館司書のドロシー夫妻が豊かではない中で好きな美術品を集め、最終的には集めたコレクションを美術館に寄贈する。生き方がビル・カニンガムに似ている。

 こんな風な人たちを生み出すニューヨーク…また、行きたくなってくる。
さて、明日は続編「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈り物」を見に行こう。

 

 

 

Ⅱ 今月の映画館の作法

 

 神保町シアターは好きな映画館の一つ、今月も川端康成でお世話になっている。映画が古いからという訳ではないが、観客も高齢者が多い。人間、年を取るほどわがままになる。

 今回は、隣に座ったおじさんがあくびをする。普通にあくびするだけならそれほど気にはならないが、この人頻度が尋常ではない。1時間45分の上映中に23回以上はあくびをしていた。気になり途中から数えていたのである。
しかも、音付き。途中から、後ろの方でいびきも聞こえ始めたが、最後まで止まぬあくび攻勢には敵ではなかった。

 あくびの連続、それほど眠ければ、どうぞ寝てくれ!

 

 

 

 今月はここまで。

6月1日は土曜日、どなたも映画1000円日です。

お出かけください、映画館へ。


 


                         - 神谷二三夫 -


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