2014年 7月号back

降るのか降らないのか、
晴れるのか、曇り空か、
はっきりしない日が続く雨の季節。
どっちつかずのハラハラドキドキなども楽しめるのは、
そう、映画館。

 

今月の映画

 5/26~6/25、雨の季節の31日間に出会った映画は.31本、1年の半分6カ月が過ぎようとしている今、今年上半期の映画界を考えてみるのもいいかも。
 上半期ベスト1も出たことだし。

<日本映画>

ぼくたちの家族 
野のなななのか 
万能鑑定士Q モナリザの瞳
Monsterzモンスターズ
春を背負って 
私の男 
超高速!参勤交代
(古)恋の画集 
害虫 
東京上空いらっしゃいませ

 

 

<外国映画>

カニバル
  (Canibal) 
インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌
  (Inside Llewyn Davis)
ターニング・タイド 希望の海
  (En Solitaire/Turning Tide) 
ディス・コネクト
  (Disconnect)
ラスト・ベガス

  (Last Vegas)
K2 初登頂の真実
  (k2-La Montagna DegliItaliani)
罪のてざわり
  (A Touch of Sin) 
グランド・ブダペスト・ホテル
  (the GrandBudapest Hotel)
ポリス・ストーリー レジェンド
  (Police Story 2013)
X-MEN フューチャー&パスト
  (X-men Days of Future Past)
マンデラ 自由への長い道
  (Mandela Long Walk to Freedom) 
300 帝国の進撃
  (300Rise of An Empire)
ヴィオレッタ
  (My Little Princess) 
闇のあとの光
  (Post Tenebras Lux) 
ノア約束の舟
  (Noah)
ポンペイ
  (Pompeii)
ハミングバード
  (Hummingbirg/Redemption)  
ラスト・ミッション
  (3 Days to Kill)
ファイナル・カット
  (Final Cut) 
みつばちの大地
  (More Than Honey)
(古)ブランカニエベス
  (Blancaniebes)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー


① グランド・ブダペスト・ホテル
 ウェス・アンダーソン監督はほぼ一貫して変わった題材を独特の映画術で作品にしてきた。「ダージリン急行」「ムーンライズ・キングダム」とかね。今回の作品は彼のベストでしょう、美しさが際立っている。面白いお話、達者な俳優たち、ゆっくりテンポ、時に快速、魅了されます。
 個人的今年上半期のベスト1です。


②-1 野のなななのか
 美しい画面と言う意味では、この大林宣彦監督の新作も素晴らしい。これほどきれいな大林作品には出会ったことがない。死者と生者との交流を描いて、いかにも大林らしい優しさを感じさせる。


②-2 私の男
 北海道紋別で暮らす男と女の子は、狭いコミュニティの中で、周りの人たちに囲まれながら、父と子と言う関係でいたのだが…。桜庭一樹の直木賞小説を映画化、熊切和嘉監督の力強い描写に圧倒される。結末はああなるのが当然のようでもあり、大人と子供について考えさせられた。
 今月のトピックス参照。


③ インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌
 1961年のニューヨーク、グリニッチ・ヴィレッジを中心に描かれるフォーク歌手の生活。ボブ・ディランやビートルズの少し前のフォークソングの匂い。映画ははそのあたりを丁寧に描いている。知識人のリベラル層がどんな風であったかもわかる。



面白い作品は他にもこんなに。


●ターニング・タイド 希望の海:フランスからの世界一周単独ヨットレースを描く作品は、フランス語の原題がEn Solitaireと言う割には、様々なIT通信機器に囲まれてにぎやか。

●ディス・コネクト:一見ばらばらのように配置された3つのエピソードが伝えるのは、IT通信を通じて一方的に流されていく各人の思いが、正しい結末にたどり着けない苦み。

●K2 初登頂の真実:1954年になされたイタリア隊によるK2の初登頂には、
50年後に初めて公にされた裏の話があったということに驚きました。

●X-MEN フューチャー&パスト:X-MENシリーズは今や大スターとなった人たちを、多く要していたシリーズだったんだと改めて思い知りました。ストーリーもなかなか面白かった。


●マンデラ 自由への長い道:ちょっと凡庸に長い部分もありますが、彼の置かれた状況を知ると頭が下がる。2番目の妻がどんどん先鋭的闘志になっていったのには驚いた。


●ノア 約束の舟:ノアの箱舟を題材に、人間の欲望とか、家族・子孫の問題とかを描きながら、人類を生き長らえさせて良いのかというノアの苦悩まで、さらにカインまで出してくる作品。


●◎ハミングバード:今やアクションスターの現役第一人者であるジェイソン・ステイサム。最近は粗製乱造的な作品が多かったが、これは久しぶりに芯のある作品。アクションにはストイックが必要。


●春を背負って:木村大作監督の第2作目。立山の山小屋をベースに親子、友人、地元の人々などの関係をすっきり描いた作品は、流石に美しいカメラが記憶に残る。


●ファイナル・カット:2012年ハンガリーで作られた(パールフィ・ジョルジュ監督)78分の作品は、世界中の映画450本からシーンを集めて構成したもの。言わば、「ニュ・ーシネマ・パラダオイス」ラストでの映画のラブシーンばかりを集めた上映のようなもの。フィルムセンターでのEUフィルムデーズ2014で、東京初公開された。日本では、その前に2012年12月の大阪国際映画祭で上映されている。映画のラストクレジットでも書かれていたが、教育用に作られたということで今のところ一般公開はできない。映画ファンにはたまらない作品。
 今月のトピックスも参照よろしく。


●みつばちの大地:蜜蜂が少なくなって大変という新聞記事を読んだのは2~3年前だったろうか。本当に大変なんですね、もしいなくなると。蜜蜂の不思議な方向感覚や生態などを描き、目が離せない面白さ。どのようにして撮ったのかという映像も満載。必見です。

 

 

Ⅱ 今月の懐かしい人

 

☆ジェフ・ゴールドブラム
毎度おなじみ、ウェス・アンダーソン監督常連がわんさか出演の「グランド・ブダペスト・ホテル」で、マダムDの代理人を演じていたのは、ジュラシック・パークで一般的に有名になったハエ男(ザ・フライ)のジェフ・ゴールドブラム。長身痩躯の体に乗っている苦み走った顔は、いい男と言うよりは、本当に苦いような印象だ。
 時々は映画にも出ていたようですが、私には10年ぶりくらいの印象。ちょっと小難しいことを気楽に言われそうな雰囲気です。

 

 

Ⅲ 今月の旧作

 

その1 害虫
 先月お伝えした神保町シアター・美少女伝説の1本として見た宮崎あおいの初主演作。初主演と言うのに「害虫」と言う題名で、しかもその害虫になってしまうのだから、相当な覚悟だ。2002年塩田明彦監督の作品で、宮崎は16歳。小学6年生と先生との私的関係が前提にあり、中学生になった今も文通を続ける主人公。母一人、子一人の生活だが、この母親がはっきりしない。このあり方にはかなり驚く。
 こんな母親ありだろうか?
 そうなると、主人公にとって大人との付き合いは先生だけだったのかもしれない。そこからも飛び立ってしまう主人公はその後蝶になるのか、蛾になるのか?


その2 ブランカニエベス
 昨年12月の日本封切りだから、旧作にしてしまうのは申し訳ない。東京のフィルムセンターで行われているEUフィルムデーズ2014で見せてもらった。封切り当時も気になっていたのだが機会がなく見逃していた。
 白黒画面のサイレント映画(サウンドはあり)という作りには驚いた。フランス映画「アーティスト」の前例もあるにはあったが、今回の作品は白雪姫を大胆に1920年代のスペイン・アンダルシア地方に置き換えて、白黒サイレントと言う作りが、童話的な雰囲気を作り出している。

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき

 

●団塊世代のおやじは若い世代から疎んじられているらしい。いろいろなところで聞く。そんなおやじの典型が「ぼくたちの家族」に出てくる。長塚京三演じるこの父親、何せ決断ができない。かつて引きこもりだった長男に総て頼ってしまう。これでは疎んじられても仕方がないか。31歳の石井裕也監督にすれば、こんな父親像が団塊世代の印象か?


●インターネットや、SNSなどIT通信を通じてやり取りされるコミュニケーションの、何と危うく、危険なことかを教えてくれる「ディス・コネクト」。広島LINE殺人が10代の人たちよって起こされたように、日本でも同じような状況だ。IT通信なんてどこにも実像がない幻のようなものなのに、それだけに頼ってしまうことの危うさ。若い世代にどのように伝えていくのかが大きな問題だ。


●ジャ・ジャンクー監督の作品は現代中国の様々な姿を見せてくれるが、
「罪のてざわり」も例外ではない。しかし、それを見ている我々の問題として捉えるのは、かなり難しい。ここが今一つ彼の作品に入り込めないところだ。


●長い間楽しませてくれたジャッキー・チェンも今年で還暦。最近はどんどんリアルな世界に入り込んできた。「ポリスストーリー レジェンド」もそうした1本。狭い空間で前の事件からの結びつきを上手く活かした物語などよくできているが、以前のようなファンタジー味はない。ラストの恒例NG集でやっとほっとした。


●ワーナーブラザースの日本映画「モンスターズ」には突っ込みどころ満載。藤原竜也の足は何故90度に曲がっているのか、もっといい義足あるでしょう?とか、何故もっと早く警察は照明を使わなかったの?とか、松重豊は何故2度も影響を受けずにすんだのか?とかね。




今月のトピックス:アラカルト 


Ⅰ フューチャー&パスト

 

 今月の作品を見ていると、時代的な広がりが凄いことに驚いた。

 パストには、ノア 約束の舟:旧約聖書からノアの箱舟の話、かなり創作部分も含まれる。300 帝国の進撃:ペルシャ帝国とアテナイを中心としたギリシャ連合軍の戦い。ポンペイ:西暦79年、一瞬にして灰になった都市という副題通り。
 フューチャーには、X-MEN フューチャー&パスト:かなり先の未来の物語のように見えますが、実2023年の物語、今回はさらに50年さかのぼって1973年がメインになります。とありそれ以外の作品は20、21世紀を舞台とした作品群である。映画は時を超えて物語を描くことができる。勿論、文学や漫画の世界、TVの世界でも同じである。

 19世紀末、映画が発明された当初から現実の世界と共に、過去、未来についての映画は作られてきた。有名なジョルジュ・メリエス監督の「月世界旅行」は1902年に作られている。SFと称される作品群は現在のハリウッド映画大作群の多くを占めているし、「2001年宇宙の旅」「ゼロ・グラヴィティ」のようなエポックメイキングな作品も生まれている。


 「ベンハー」の最初の映画化は1907年に作られているし、聖書を題材にした物語や、ローマ帝国関連など歴史を描いた多くの映画が作られている。こうして多くの映画は時を超え、さらに場所をも超えて広い世界を見せてくれる。

「Monsterzモンスターズ」を見ていると、これは日本版X-MENだと気付く。
X-MENは元々ミュータント、(突然変異)として生まれた、様々な能力を持った人間の集まり。

 「モンスターズ」ではこの特殊能力を持った人たちをモンスターと呼んでいるが、X-MENと同じように普通の人々から差別され、嫌悪されていたりするのだ。また、「モンスターズ」での主人公二人の対決は、X-MENの中の派閥対決と同じ構造、つまり普通人に受け入れられる者、排除される者である。こんな風に、世界の映画はどこかで結びついている。


 「ファイナル・カット」は世界の映画に同じような画面が見られることを教えてくれる。男女の出会いからの様々な物語を、多くのスターを使い、世界の監督に撮ってもらったようなもの。日本からは「羅生門」が選ばれ、6~7回は出てきた印象。シーンの長さは長短があるとはいえ、基本的にごく短い。そのため感情移入して見ることはかなり難しいが、映画好きが映画に対する愛情を吐露した映画を見る歓びが感じられる。


 それにしても、450本の映画の場面を使うということは版権問題が大変だったはず。監督のインタビューを読むと、これを教育用にすることで版権問題をクリアにしたと言う。つまり、商業ベースには乗せないということ。そのために普通の映画館での上映はできない。とはいえ、今回のような特集上映会や映画祭などで見ることは可能だ。もしそんな機会に出会えたら、ご覧になってください。映画の過去から未来に出会ったような印象を持たれることでしょう。

 

 

Ⅱ 子供+大人

 

 子供と大人の関係を描く映画が目についた。

害虫:中学1年の少女と元教師
ヴィオレッタ:小学生の娘とカメラマンの母親
私の男:10歳で孤児になった少女と養父となる遠縁の男


 これらの作品の後ろには、エロスが見え隠れしている。害虫の少女は小学校の時の担任の先生と今でも文通を続ける。今は教職を離れ、東北の街で会社勤めをしている彼は、まるで妻への日常報告のような手紙を書いている。

ヴァイオレッタはカメラマンの母親の感性(?)、欲望(?)に巻き込まれ、ほとんど少女ポルノのような写真のモデルにさせられている。その少女だった女性が成長して、自らの母子関係を監督として映画化したのがこの作品だ。10歳の女の子を引き取り、指をからませたり、口にくわえさせたりすれば、これは完全に性的なものを彼女の中に喚起させる。そのまま成長していった「私の男」の少女。子供は自分の感じたままを素直に表に出していく。社会性や、世間体などと言ったものは持ち合わせていない。その分純粋ではあるが、何も知らない子供でもある。大人はそれらを知った上で、子供に対する。自分の欲望を実現するために子供を利用することもある。様々な問題の存在を教えてくれる。


Ⅲ アナと雪の女王

 

 今年の映画界上半期の話題は「アナと雪の女王」に集約される。毎週末の集客数をもとに月曜日に発表される興行成績ベスト10で、今週もベスト1を獲得、14回目のベスト1だ。
 ロードショー開始後、初の月曜日3/17日にベスト1を獲得して以来5週連続、4/21日発表では「名探偵コナン 異次元の狙撃者」に譲ったとはいえ、翌週4/28には再びベスト1となり、今週で9回連続となっている。
 興行収入では累計が237億円となり、304億円の「千と千尋の神隠し」、262億円の「タイタニック」に次ぐ3位に付けている。今後の成績次第では2位になるかもしれない。アメリカの興行成績も悪くはないが、全米映画ランキングで1位になったのは2回だけという成績を見ると、日本での成績が飛びぬけていることが分かる。

 どうしてこういうことになったのか?

 ディズニーのアニメミュージカルとして作品の出来は良かった。氷がまるで武器のように突き刺さったりするアニメの出来には、近くで見ていたアメリカ人の幼児は怖くて泣いていたほど。主題歌Let It Beは誰からも愛されるメロディラインのはっきりした名曲だ。憶えやすいのである。それを利用した、映画館での歌う上映会まで行われた。これはもともとアメリカで始められたらしいが。アナを見ることがイベントのようになった。アナの成績がニュースでも報じられるようになり、そんなに見るんだったら見ようかなと言う気にさせた。日本人に特徴的な、評判になったものは更に評判になるという1本になった。

 どうして日本人はアナに夢中になったか、どなたか理由を教えてください。



Ⅳ フィルムセンター

 

 「ブランカニエベス」「ファイナル・カット」と2本の映画をフィルムセンターで見た。1年ぶりくらいだろうか?引退して毎日が日曜日になったら、ご愛用の映画館になるかもしれない。何せ安いのである。大人は520円、65歳からのシニアは310円である。日本や世界の名作、問題作が見られるのだから素晴らしい。会社勤めをしている限りなかなかフィルムセンターに行くのは難しいと感じていた。土・日曜日は封切り作を見るのに忙しくて暇はなく、平日は勿論行くことができない。夜7時の回でも残業の身には無理だった。
 これは、東京国際映画祭を初めとする映画祭にも感じていたことだ。今や310円で見られる年齢になったというのに、なかなか積極的に利用・参加できていない。旧来の生活習慣みたいなもので簡単に意識が変わらないのである。

東京国立近代美術館フィルムセンターと言うのが正式名称だ。国立という名前から来るいかめしさはなく、係の人も親切、誰でもゆったり映画を楽しむことができる。東京・京橋にあるフィルムセンター、美術館に詰めかけている方たち、フィルムセンターにもお出かけください。



 今月はここまで。

 次回は雨の季節も終わっているであろう7/25にお送りします。



                         - 神谷二三夫 -


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