2014年 9月号back

もうじきこの暑さは終わると願いながら過ごす残暑の日々、
今日は少し温度が下がったようですが、
まだまだ暑い日々が続きます。
快適な環境で楽しみながら暑さに負けずに過ごしましょう、
それには、そう、映画館!

 

今月の映画

 7/26~8/25、真夏の暑い盛りの31日間に出会ったのは30本、邦画、洋画を問わず充実した作品が揃いました。
 この時期夏休みで大量のアニメ作品も公開されていますが、今のところほとんどパス、唯一「Stand by Meドラえもん」を初めてみました。

<日本映画>

2つ目の窓 
るろうに剣心 京都大火編 
Stand by Meドえエもん
(古)男対男 
暗黒街の弾痕
危険旅行
夜の片鱗

 

 

<外国映画>

ダニエル・シュミット 思慮する猫

  (Daniel Schmid-Le Chat qui Pense) 
Godzillaゴジラ
大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院

  (Die Grosse Stille / Into Great Silence)
消えた画 クメール・ルージュの真実

  (L’Image Manquante / The Missing Picture)
サンシャイン 歌声の響く街

  (Sunshine on Leith)
友よ,さらばと言おう

  (MEA CULPA)
イーダ

  (Ida)
バトルフロント

  (Homefront)
ぼくを探しに

  (Attila Marcel)
めぐり逢わせのお弁当

  (Dabba / The Lunchbox)
ローマ環状線, めぐりゆく人生たち

  (Sacro Gra)
クイーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落

  (The Queen of Versailles)
トランスフォーマー ロストエイジ

  (Transformers:Age of Extinction) 
ジプシーフラメンコ

  (Bajari)
ソウォン/願い

  (Hope)
プロミスト・ランド

  (Promised Land)
バルフィ!人生に唄えば

  (Barfi)
グレート・ビューティ/追憶のローマ

  (La Grande Bellezza / The Great Beauty)
(古)悪魔とミス・ジョーンズ

  (the Devil and Miss Jones)
無責任時代

  (Nothing Sacred)
セカンド・コーラス

  (Second Chorus)
嘆きの天使

  (Der Blaue Engel)
ザ・シャウト さまよえる幻響

  (The Shout)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー


 上にも書いたように、今月の作品は充実、甲乙つけがたい作品が揃っています。本当はすべて横並びにしてもよいくらいですが、トピックスに書いたようにインド映画の躍進も目立ち、1~3位はアジアに関係する映画だけにしました。

 

①-1 バルフィ!人生に唄えば(インド)
 インド映画らしく歌や踊りも出てくるが、それが中心になることはなく、
時に主人公たちを見守る楽団が画面に出てくるがごとくあくまで物語が主役。軽快な展開で見せてくれ、時間が前後することも多いが、話のつながりはきっちり描いていて見誤ることはない。今月のつぶやき、トピックスも参照よろしく。

 

①-2 めぐり逢せのお弁当(インド)
 昨年「スタンリーのお弁当」というインド映画があったが、インドのお弁当はすごい。ハーバード大学が調査に来たというその配達システムには驚いた。歌も踊りもない静かなラブストーリーにはもっと驚いた。夜、自宅のベランダから燐家の幸福そうな夕食風景をゆっくり眺める主人公の心が痛いほど。

 

② 消えた画 クメール・ルージュの真実(カンボジア)
 監督リティ・パニュの子供時代の経験から作られた、土人形劇アニメーションによるクメール・ルージュの真実を描く。時に挟まれる古いフィルムの画面が見る者に伝える真実の重みがいつまでも心に残る。

 

③ ソウォン/願い(韓国)
 韓国で実際にあった少女暴行事件を映画化。微妙な題材に勇気を持って挑んでいる。父親が男であったがゆえに受け入れられず、陰から見て、守る父親の姿に感動する。

 

 

 これら以外の作品も見どころ十分、ぜひご覧ください。


●大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院:戒律の厳しい山間の修道院を、祈りに身をささげる修道僧たちを追ったドキュメンタリー、会話できるのは日曜日の午後のみ。

 

●Godzillaゴジラ:ハリウッド製ゴジラは前回(1998年)が不評だっただけに心配したが、今回は満足。ムートーという怪獣的雰囲気を持った怪獣も登場し楽しめました。

 

●るろうに剣心 京都大火編:早いアクションは前作同様、剣心ののんびり口調も変わらず、そこにかなり大きな悪と、多彩な人物を放り込んで快調な第2作、3作目に続くではありますが。

 

●サンシャイン 歌声の響く街:エディンバラの北東部分にある町リースを舞台に、25年目の夫婦と長男と妹の4人家族を中心に、町の人をも巻き込んでのミュージカル。戦いの場から帰り、そこに戻る友人もいる物語。甘くはない物語、しかも心躍るミュージカル。


●友よ、さらばと言おう:原題の「MEA CULPA」は“誤りや罪を認めること”という。主人公は多くを語らず、家族を守る。男の生き方をしっかり見せるフレンチノワールの佳作。

 

●イーダ:モノクロの映画はまるで60年代の静かで鋭い画面を見せていたポーランド映画を思い出させる。修道院で育てられた18歳のイーダは叔母が生きていることを初めて知り、二人で両親の痕跡を訪ねる。

 

●バトル・フロント:脚本、製作はシルベスター・スタローンで、主演はジェイソン・ステイサム。これがうまくいって見ごたえのある映画になった。スタローンは流石に見せる映画のツボを知っている。

 

●ぼくを探しに:「ベルヴィル・ランデブー」と「イリュージョニスト」という2本のアニメ映画のシルヴァン・ショメ監督が初めて手掛けた実写作品はいかにもフランスらしいエスプリにあふれた作品。
マダムプルーストのハーブティが自分の記憶の底に眠る真実を揺り起す。


●クイーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗な転落:アメリカには時々とんでもない人が出現する。主人公はタイムシェアリングリゾートを売って巨万の富を築いた70歳代の夫と30歳差の若い妻、そして8人の子供と多くの犬。既に広大な邸宅を持っているのに、アメリカ最大の個人住宅を建て始めたのに、リーマンショックが発生…天国から地獄へ?それでもめげずに頑張るエネルギーに驚く。

 

●トランスフォーマー ロストエイジ:宇宙人であるトランスフォーマーと地球の悪い人の間で、地球の良い人が活躍するトランスフォーマー。人間が作った擬似トランスフォーマーは悪役で…。何せ重量級の戦いは、そこまでやるかいという超ビフテキ級。

 

●Stand by Meドラえもん:いつもとは違うドラえもん映画。楽しめました。今月のトピックス参照。

 

●プロミスト・ランド:アメリカはやはりすごい。シェールガスをめぐる会社と住民の攻防は、これが本当にありうることなのかなと感じさせる作り。


 

 

 

Ⅱ 今月のつぶやき

 

●ダニエル・シュミット監督についてのドキュメンタリー「思考する猫」を見ていたら、彼はスイス・フリムスにあるホテル、ヴァルド・ハウスの息子だったという。5つ星の高級ホテルに集う芸術家たちに何らかの影響を受けたことだろう。フリムスは残念ながら日本人旅行マーケットではほぼ知られていない山岳リゾート。


●加山雄三のデビュー作「男対男」での役は、典型的な社長の息子。
仕事には熱心ではないが、クラブで歌うことが好きという絵にかいたような道楽息子。この息子を立て直すのは主役の三船敏郎、兵隊あがりの現場監督。
“千五”の映画には当然ながら後ろに戦争を抱えている。

 
●「サンシャイン 歌声の響く街」はアフガニスタン戦線でのイギリス人兵士の場面から始まる。戦争という危機と日常の生活の間にある生きることの意味、感情の動き。ジャック・ドミーの「シェルブールの雨傘」「ロシュフォールの恋人たち」を思い出す。スコットランドで作られた舞台ミュージカルの映画化。ミュージカルとしも十分楽しめます。


●「イーダ」はユダヤ人がキイワードでもある。彼女にとってどんな意味を持ち、どんな風に感じたかを想像するのは我々には少し難しい。しかし、少女しか持ちえない新鮮さを見せてくれる。


●「セカンド・コーラス」はフレッド・アステア主演作品で日本未公開。期待したほど踊らないのが残念。この作品、むしろアーティ・ショウの映画のよう。バンドリーダーでクラリネット奏者の彼がバンドと共にフル出演。

 

●「ぼくを探しに」の主人公ポールの亡き父親はプロレスラーで人気があった。ちなみに映画の原題「Attila Marcel」は父親の名前だ。先月紹介の「ママはレスリング・クイーン」といい、フランスでプロレスは人気らしい。

 

●「バルフィ!人生に唄えば」は歌や踊りも入って、画面も明るくいつものインド映画のようにも見える。しかし、この作品を見ていると作者たちがいかに勉強しているかがよく分かる。いろんな映画のエキスがたっぷり入っていて、気持ちよく見ていると時にドキッとする。
 「雨に唄えば」のドナルド・オコナー(の振付そのままの踊り)が出てきたのには驚いた。
こう書いてきて分かったが、日本題名に「人生に唄えば」が加わったのはここから来ていたのだ。“~に唄えば”つながり。
 物語の舞台は山岳リゾート、ダージリンとコルカタ。ダージリンにはおもちゃのようなかわいい列車が走っている。そこで展開される耳と口の不自由なバルフィと二人の女性のロマンスが、前半はいかにもインド映画の美人女優風に、後半は自閉症の女性と、と、今までのインド映画とは違う展開を見せてくれる。Intermissionと表示されますが、日本では休憩なしでの上映で、151分の上映時間は少し長めですが、時間を忘れて見入ってしまうこと確実。

 




今月のトピックス:人生は映画だ 


Ⅰ 韓国かインドか

 

 最近の韓国映画の充実ぶりにはちょっと感心。何せ作品の幅が広い。アクションでも、恋愛でも、家族愛でも、老人ものでも取り上げ、一応見る価値ある形に作り上げる。さまざまな題材を取り上げるに覚悟を決めている。日本映画に時々感じる、安易な方向にという考え方は少ない。当初目立っていた、あくどいまでのドラマ作りも最近は上手さの方に変身しつつある。1999年に作られた「シュリ」から15年、国の政策とも相まって今や映画界の先頭集団で走っている。

 

 インドは長らく自国民のために多くの映画を作り続けてきた。多くの言語が混在し、貧乏人も多いインドでは、娯楽の王様(古い言葉ですね)は長らく映画とされてきた。言葉が分からなくても理解しやすい歌や踊りを入れストーリーも分かりやすさを優先するため、派手でノリノリのマハラジャ映画のような形になりやすかった。日本でも時々マハラジャ映画がブームとか言われたが長続きはしていない。同じテイストのものは、一時のブームにはよいが長続きはしない。

 

 それが、このところ変わりつつある。昨年日本で公開された「きっと、うまくいく」以来、歌や踊りがない、あるいは少ない作品が、多く日本にやってきた。今月の「めぐりあわせのお弁当」は歌、踊りは全くなく、「バルフィ!人生に唄えば」は少し違う、うまい使い方をしている。この作品はUTVというインドの制作会社の作品だが、この会社はディズニーの系列になっているらしい。会社経営で考えれば当然だがハリウッドの巧妙さが目につく。インドとハリウッドが手を組み、今まで国内の巨大マーケットのみを狙っていたインド映画界が世界に打って出る体制を作りつつある。最強の二人が手を組むようなもの。さらに、IT関係もインドは力を持っている。その画面処理を駆使しての映画作りも目立っている。これからのインド映画、目が離せない。

 

 

Ⅱ  浜辺の混雑

 

 1941年のアメリカ映画、「悪魔とミス・ジョーンズ」は、まるで、資本家と労働者の対立を描いたようなところもある。もちろん悪魔が資本家である。
 その悪魔がデパートの店員に成りすまして…というのがこの映画のポイント。労働者に成りすまして、彼らの休日に付き合って浜辺に行く。映画の舞台はニューヨークのデパート、浜辺はコニー・アイランド。ニューヨーカーの利用する有名なビーチリゾートですね。映画にもよく出てきます。この映画の浜辺はものすごく混んでいる。まさに立錐の余地がない。ダブルデートを楽しんでいた主人公たちは完全に横になることができないほど。まあ、その画面から、これはスタジオのセットでの撮影と分かるが、それでもこんな風に描くのだから、実際にも混んでいたのだろう、その頃は。日本の浜辺でも、それはないよねというほどで、笑える。


 混んでいるといえば、もうひとつ面白い映画があった。「めぐり逢わせのお弁当」だ。ムンバイを走る電車は混んでいるのだが、主人公の後輩がその混んでいる車内で、夕食のための野菜を切るのだった。本当にこんなことする人がいるのだろうか、インドでは?



Ⅲ ドラえもん

 

 「Stand by Meドラえもん」はいつものドラえもん映画とは違って、ドラえもんはどうして地球にやってきたのかとか、のび太の部屋のどこに到着したかとか、たぶん子供たちには常識であろうことを描いている。これは、ドラえもん世代ではない私には便利だった。
 さらに3Dで作られている。これが大ヒットしていて、興行収入が2週間で32億円を突破したという。子供も見に来ていると思うが、むしろ、かつて子供だった人たちが懐かしく見に来ているのではないか?その意味では大成功という気がする。



Ⅳ 有楽町の映画館

 

 1987年に開館した丸の内ルーブルはシャンデリアが上下することで有名だった。シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」にのせて上がっていくシャンデリアを、首を上に向け眺めていたものだ。27年の営業を終えて8/03に最終日を迎えてしまった。途中、久光製薬がスポンサーになって“サロンパス丸の内ルーブル”にもなったが、ここにきて力尽きてしまった。有楽座といえば、私が東京に出てきた1971年には現在のシャンテビルのところにあった。多分1600席くらいあった大劇場でさすが東京の映画館と思ったものだ。その後、かつてのニュー東宝が改装されて現在の有楽座になった。有楽座は入っているビルが建て替えになるらしく間もなく閉館になるらしい。有楽町・日比谷・銀座地区でロードショー館が2つも閉館になる。

 寂しいことだ。

 


Ⅴ ロビン・ウィリアムス、 ローレン・バコール

 

 8月11日ロビン・ウィリアムスが亡くなった。63歳という若さだった。「ポパイ」でデビューしてきた変な顔、「グッドモーニング、ベトナム」でのDJぶりから、「いまを生きる」「レナードの朝」「グッドウィル・ハンティング/旅立ち」を経て、「インソムニア」や「ナイト・ミュージアム」シリーズまで、楽しませてもらった映画は数多い。あの達者な芸がもう見られないのは残念だ。


 8月12日にはローレン・バコールが89才で亡くなった。1944年デビュー作「脱出」の監督ハワード・ホークスの妻ナンシー・ホークに見いだされて、ハーパーズ・バザー誌のモデルから転身した。翌年45年には共演者ハンフリー・ボガートと結婚、25歳の年の差があった。ギャング映画の中で男と対等に会話し、まるで仲間のように行動するスレンダーな姿態。57年にボギーが亡くなった後も活動をつづけ、ブロードウェイのミュージカルに主演(アプローズ)するなど活躍の幅を広げていた。訓練して出るようになったというハスキーヴォイスが魅力的だった。

 

 お二人のご冥福をお祈りします。

 

今月はここまでです。
次回は芸術の秋の入り口、9月25日にお届けします。



                         - 神谷二三夫 -


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