2014年 11月号back

徐々に寒くなっていくこの季節、
体とともに心もシャッキリするように言われてもいるようだ。
心も体も入れ替えて新しい季節を楽しみましょう。
そんな時役に立つのが映画館!

 

今月の映画

 9/26~10/25の30日間に出会った映画は30本、芸術の秋にふさわしくと言いたいところですが、今一つ突き抜けた作品がなかったなあという印象です。

<日本映画>

海を感じる時
蜩の記
ふしぎな岬の物語
ぶどうのなみだ
まほろ駅前狂想曲
(古)悲しみは女だけに
破戒
ああ青春 
広場の孤独
誘惑
人生劇場・前編

 

 

<外国映画>

ジャージーボーイズ
  (Jersey Boys) 
不機嫌なママにメルシィ
  (Les Garsons etGuillaume a Table /

   Me, Myself and Mum)
さまよう刃
  (Broken)
サスペクト哀しき容疑者
  (The Suspect) 
バツイチは恋のはじまり
  (Un Plan Parfait)
ファーナス訣別の朝
  (Out of The Furnace) 
悪童日記
  (A Nagy Fuzet / TheNotebook)
グレート・デイズ!-夢に挑んだ父と子-
  (De Toutes Nos Forces / (TheFinishers) 
ミリオンダラーアーム
  (Million Dollar Arm)
アバウトタイム 愛おしい時間について
  (About Time) 
イフ・アイ・ステイ 愛が還る場所
  (If I Stay)
荒野はつらいよ~アリゾナから愛をこめて~
  (A Million Ways to Die in TheWest)
レッド・ファミリー
  (Red Family) 
アンナプルナ南壁 7400mの男たち
  (Pura Vida / The Ridge) 
インフォマニアックVol.1
  (Nymphomaniac Vol.1) 
誰よりも狙われた男
  (A Most Wanted Man) 
グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札

  (Grace of Monaco)
ジェラシー
  (La Jalousie)
(古)静かなる男
  (The Quiet Man) 

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー



①ジャージーボーイズ
 フォーシーズンズはデビュー当時から好きなグループだった。フランキー・ヴァリの歌が凄かった。ブロードウェーの舞台の映画化だが、舞台より彼らの歌い方に忠実に作っている。ほとんど芸人映画、持ち歌を歌う歌のグループの。イーストウッドは踊りを抑えて、彼らの歌での簡単な振り付けだけにしている。そして、ラストではじける。最近、これほどワクワクする場面を見ることはなかった。


②さまよう刃
 東野圭吾の同名小説を映画化したのは韓国。最近こうしたパターンが時々見られる。しかし、完璧に韓国を舞台にした映画になっていた。このあたり、韓国は上手い。娘を殺された父親の復讐劇と一言にしてしまうことも可能だが、その無念さ、情念が濃い。

 

③-1 レッド・ファミリー
 韓国映画はどんどん進化していますね。TVを知り尽くした日本のTV番組のよう。玄人的にすごくなってきている部分がうまい方向に行けば傑作になるが、この作品はお笑いに行くことでいいのと悪いのが半々か。ラストもなかなかいいです。

 

③-2 誰よりも狙われた男
 フィリップ・シーモア・ホフマンという役者がいかに貴重であったかを実感する。珍しくもギュンターという名のドイツ人で、ハンブルクのスパイチームを率いる。ジョン・ル・カレの原作で、組織の中で翻弄される個人の情念を描く。

 

 

 

 そのほかにも面白い作品があります。

 

●バツイチは恋のはじまり:幸福な結婚のためには、初めの夫とは別れることというジンクスが面白いし、いろいろ楽しめる楽しい映画。

 

●ファーナス 訣別の朝:ペンシルバニア州の鉄鋼の町の、寂れていく姿がやるせない。主人公の弟はイラク戦争での精神的ダメージからの回復を目指して

いたのだが…。

 

●蜩の記:10年後の切腹というのが凄いというか。主君からの依頼に素直に従い、外部に恥(?)が漏れないように…。
かつて、団塊世代の我らが避けたいと思っていた日本的思考ではありますが。

 

●ミリオンダラーアーム:2010年に初めてメジャーリーグに採用された二人のインド人の実話に基づくお話を映画化したのはディズニー。主演の二人よ

り最後に出る実際の二人の方が美男子。

 

●アバウトタイム 愛おしい時間について:過去に還る映画でヒットするのは20~30年前といわれるが、この映画のタイムトリップはもっと短い。都合よ

いという気もしますが。

 

●アンナプルナ南壁 7400mの男たち:山に登るのは命と向き合うことでもあるんだなーと、7400mで危機に陥った登山家イナキを助けるために世界から

集まる仲間たちの映像に感心。

 

●まほろ駅前狂想曲:多田便利軒の第2作には、監督大森立嗣の家族、磨赤児・父と大森南朋・弟も出演。なかなか面白いシリーズだが、今回のお話はち

ょっとコンビの個人部分に偏りすぎかも。

 

●グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札:グレース・ケリーがモナコ公妃になるという興味深い題材。描かれるのは1962,3年で、そういうことがあった

のかと知る面白さはある。映画自体はちょっともたつき加減。


 

 

 

Ⅱ 今月の旧作

 

 渋谷のシネマヴェーラでは佐分利信特集を上映中だ。
若いころ日本映画を見ていなかった私は、佐分利信はTVでのおじさん役がもっぱらの印象だった。今回4本見たのだが、そのうち3本は監督(出演も)もしている。そのいずれも、知性を感じさせる作風だ。
 1951年の「ああ青春」では大学で学ぶ女性の生き方の厳しさを描き1953年の「広場の孤独」では右翼・左翼の駆け引き・衝突に焦点を当てるなど、いずれも社会派のまなざしを感じさせる。まさに名監督の印象だった。口の中でもごもごと低い声でしゃべる人という印象が大きく変わった。

 

 

Ⅲ 今月の懐かしい人


☆ステイシー・キーチ
 「イフ・アイ・ステイ 愛が還る場所」で主人公を見守る祖父として登場し、やさしい言葉をかけるのはステイシー・キーチ。70年代初め、「ドク・ホリディ」のドクや「ロイ・ビーン」であくの強い役を演じていた。73歳の今も時々出演しているのでどうしようか迷った。日本で今年公開された「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」にも出演、ブルース・ダーンをいびる悪い老人を演じていた。
 みつ口の俳優は多くはないので印象に残る。Wikipediaで調べていたら、実在のドク・ホリディもみつ口だったらしいと出ていた。若い俳優ではホアキン・フェニックスが有名で、ステイシー・キーチ同様、性格俳優的な役が多い。今回のステイシー・キーチは慈愛にあふれた祖父で印象に残る。

 

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき


●驚いたのはニュージャージーでは盗品を売り捌いているというイメージがあるということ。今までは単にニューヨークの隣町などと思っていたのだが。それを含めての「ジャージーボーイズ」という名称だったのでしょうねえ。

 

●本当かいなというのがギヨーム・ガリエンヌが監督・脚本・主演をした「不機嫌なママにメルシィ」だ。「イヴ・サンローラン」で落ち着いた演技を見せたコメディ・フランセーズの俳優の自伝的な話とか。男の子とママをともに彼が演じている。

 

●荒井晴彦脚本ということで見に行った「海を感じる時」だったが、あまりに古い。1978年、18歳の中沢けいがこの小説でデビューした時は随分話題になった。が、今や古い。荒井の脚本は30年前に書かれていて、ほとんど変更されていないとか。彼が今の時代でも通用するように書いているかと思ったが、書き直す気も起きないほどテーマが古かったのかと想像するのは邪道か?

 

●「バツイチは恋のはじまり」はアイディアがなかなかに面白いが、観光映画としても魅力的だった。マサイ族式結婚式とか、無重力体験飛行とか。

 

●「悪童日記」は有名なアゴタ・クリストフの小説の映画化。2次大戦下、田舎の祖母に預けられた双子の兄弟、その過酷な生活を描くのだが、平坦な、静かな描写で盛り上げることなく話は進む。そのクールさが新しいか?

 

●サユリストの方には申し訳ありません。「ふしぎな岬の物語」私は乗れませんでした。良い話ばかりで見ていると気恥ずかしくなってきます。そこに被る小百合さんの堅い台詞回し。阿部寛のかなり特異なキャラクターもそれなりだし、モントリオール映画祭で受賞もしていますし、あなたなら気に入る映画です、きっと。

 

●ラース・フォン・トリア監督といえば、傑作「奇跡の海」で私の前に現れた。ラストですべてが昇華されたような鮮烈な感動だった。しかしその後の彼の作品は私にとっては今一つ感が強い。一般的に評判になった「ダンサー・イン・ザ・ダーク」も例外ではない。新作は女性の色情狂を描く2部作「インフォマニアVol.1、2」(今はVol.1のみ)で大胆描写が評判だ。性器は出てくるし、本番もあったようだしするのだが、エロっぽさは薄い。女性版千夜一夜物語みたいなお話、う~む、楽しめなかった。

 




今月のトピックス:映画祭の季節 


Ⅰ 映画祭の季節

 

 渡辺謙が開会式の司会を務めた釜山国際映画祭は10/2~11の10日間にわたって開催され、日本人関係では杉野希妃(30)が新人監督賞を受賞した。10~11月にかけて2つの映画祭が東京で開催される。

 


①東京国際映画祭 10/23~31
 27回目を迎える東京国際映画祭はただいま丁度開催中。今年の開催は木曜日に始まり、金曜日に終わる9日間だ。この開催曜日には驚いた、はじまりも終わりも平日だったから。今までは、少なくともどちらかは週末に当たっていたのではなかったか?調べてみたら、昨年からこの平日―平日パターンが始まったらしい。

 

 これは、以前にも書いたことだがずっとサラリーマンで残業も多かった身にとっては、平日に映画祭に行くことはできず、週末は普通に劇場公開されてい

る新作を見ていたので、映画祭は馴染みにくいものだった。それが、さらに週末上映が減るとなれば、会社勤めの人にはなお行きにくい。

 

 開催1~2か月前から映画館でも宣伝フィルムが上映され、パンフレットが置かれるようになるのだが、今年はあまり目立たない。フィルムもパンフも量的に少なかったのだろうか?

 

 1985年から始まった映画祭は2003年までは渋谷を中心に行われていた。
東急系映画館が多く協力していた。2004~2008年は渋谷と六本木で開催、六本木は東宝系映画館が協力。2009年以降は渋谷がなくなり、六本木中心で一部日本橋や銀座となる。週末の稼ぎ時に会場を貸すのは映画館にとっても大変ではあるだろう。

 

 映画祭にどの程度国のお金が使われているのかは知らないし、収支はどうなっているのかも知らない。しかし、後発の釜山国際映画祭は今年19回目だが、
観客動員州が22万人というし、上映された映画も300本くらいだったはず。東京国際映画祭は動員目標12万人で、本数は150本くらいで、随分水をあけられている。

 

 根本的に見直しをした方がいいのかもしれない。グランプリを取った作品が普通の人の間ですごく話題になったということもきかない。10/24の朝日新聞夕刊トップに映画祭のことが書かれていた。クールジャパンでアニメーションを前面に出して独自色を狙ったらしい。しかし、いまさらアニメーションでいいのか?ハリウッドのアニメーションは世界の大人マーケットを意識して作られてきているが、日本のアニメはどうしてもオタク的部分が大きい。あまり映画祭に参加していないのに文句を並べてしまった。普通の映画で、普通の人にも楽しめる映画祭にしてほしいと思います。

 


②東京フィルメックス 11/22~30
 2000年に始まった東京フィルメックスは今年が第15回になる。アジアの新しい才能の発掘に力を入れている。有楽町朝日ホールをメイン会場に有楽町の映画館も使われている。

 

 コンペティションにはアジアから9本の映画が参加。特別招待作品はデヴィッド・クローネンバーグの最新作をはじめ10本が上映される。さらに特別上映としてクローネンバーグの長編デビュー作、第2作が上映される。

 

 東京は世界でも多くの映画を見ることのできる都市だと思う。しかし、そのありがたみは一般の人には理解されていない。2つの映画祭も、世界から新しい作品を持ってきて見せてくれている。しかし、これも理解されていないようだ。このままでは、映画文化は衰退してしまかもしれない。若いころ映画を楽しんだ世代も引退しつつある。若い人たちにアピールするというところから、アニメが出てきたのだろうか?安易すぎる策のような気がする。

 

 

Ⅱ 海外で活躍する映画人:撮影監督編

 

①タカヤナギマサノブ
 「ファーナス 訣別の朝」を見ていると、ペンシルバニア州の鉄鋼の町を映す画面がなかなかにいい。暗い雰囲気ではあるが端正な構図の画面である。ラストのクレジットを見ていたら撮影は「タカヤナギマサノブ」と出ていた。インターネットで調べてみると、1996年ころに日本を離れ、カリフォルニア州立大学等で学び、2011年に「Warrior」でハリウッドデビューとある。まだ若い人に違いないが詳しい情報はない。

 「ファーナス」の前には「世界で一つのプレイブック」の撮影をしていた。
凄いではないですか。さらに調べてみると、「ファーナス」の後、次の作品を手掛けている。

 

True Story:完成済み 多分アメリカでは2014中に公開
Black Mass:撮影終了 編集作成中
Spotlight:現在撮影中

 

 いずれの作品も日本で公開されるか否かはまだ分からない。ただ、これだけの頻度で撮影の仕事をしているので、今後も大いに期待できると思う。

 

 

②永田鉄男

 1952年長野県中野市出身の撮影監督でフランス在住。フランス撮影監督協会(AFC)所属。長編映画は1999年の「うつくしい人生」からクレジットされている。フランスのアカデミー賞に当たるセザール賞の撮影賞を2度受賞している。


「将校たちの部屋」(2001年 日本未公開
「エイディット・ピアフ~愛の讃歌~」(2007年)


 特に2度目の受賞となった「エディット・ピアフ」は、主演したマリオン・コティヤールが米アカデミー賞の主演女優賞を受賞、日本でもヒットしたので有名な作品だ。2010年に公開された「レオニー」は松井久子監督が、彫刻家イサム・ノグチの母レオニー・ギルモアを描いた作品。60歳代前半ですから、これからも作品を届けてくれることでしょう。作曲家の久石譲とは中野市の幼馴染だそうです。



Ⅲ 「荒野はつらいよ~アリゾナから愛をこめて~」の不思議

 

 「Ted」で日本でも知られるようになったセス・マクファーレン監督の新作は西部劇だった。新作もユニバーサル映画で作られ、現在日本でユニバーサル映画を配給している東宝東和で扱われるはずだった。東宝東和の公開予定作品の中に入っていたし、初期の宣伝も行っていた。映画を見てみたら、東宝東和ではなくSYNCAおよびPARCOのマークが出たので驚いた。いつの間にか扱い先が変わっていたのだ。
 西部劇がヒットしない日本では、セス・マクファーレンの名前がなければ、
この作品も公開されなかったかもしれない。ヒットしないと思った東宝東和が他社に売ったのだろうか。それとも、あまりに下ネタ満載の下品さが老舗に傷をつけるとでも思ったのだろうか。「Ted2」は2015年8月に東宝東和扱いで公開予定となっているのに。

 


 

 

11/1は土曜日、毎月1日の映画の日で1100円でご覧いただけます。
次回は師走の忙しさ、せわしなさが始まっていそうな11/25にお届けします。



                         - 神谷二三夫 -


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