2016年 5月号back

いよいよGWは今週末から始まりだ。
2日休めば10日間にもなる長い休み。
海外に出かけるもよし、温泉につかるもよし、
読書三昧、音楽に浸るもよし、
勿論、正統的楽しみ方は、そう、映画館!
GWは映画界が作った言葉です。

 

 

 

今月の映画

 

 3/26~4/25、桜の季節を挟んだ31日間に出会えた作品は38本、いつにもまして本数が多くなったのは日本映画(古)の2つの特集にかなり通ったた50年代の映画を見ていると良質なホームドラマを思い出しました。

 さらにアカデミー賞受賞作品が数多く公開されました。楽しめる作品が多かったです。

 



<日本映画>

無伴奏 
つむぐもの 
リップヴァンウィンクルの花嫁 
あやしい彼女
モヒカン故郷に帰る 
アイ アム ア ヒーロー

 

(古)【女優 杉村春子】
手をつなぐ子等 
浅草の灯 
にごりえ 
勲章 
晩菊
娘・妻・母 
女の座

 

【映画作家・千葉泰樹】
悪の愉しさ 
下町(ダウンタウン) 
春らんまん 
みれん
大番 
二人の息子 
大番 風雲編 
女に強くなる工夫の数々 
東京の恋人

 

 

<外国映画>

バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生
  (Batman v Superman:Dawn ofJustice)
リリーのすべて
  (The Danish Girl) 
砂上の法廷
  (The Whole Truth) 
インサイダーズ/内部者たち
  (Inside Men)
光りの墓
  (Cemetary of Splendour) 
さざなみ
  (45 Years) 
ボーダーライン
  (Sicario)
ルーム
  (Room) 
スポットライト 世紀のスクープ
  (Spotlight) 
グランド・フィナーレ
  (La Giovinezza / Youth)
獣は月夜に夢を見る
  (Nar Dyrene Drommer / When Animals Dream) 
レヴェナント蘇えりし者
  (The Revenant)
アイヒマン・ショー/歴史を写した男たち
  (The Eichmann Show) 
フィフス・ウェイブ
  (The 5th Wave)
ミラクル・ニール!
  (Absolutely Anything)
(古)ストップ・メイキング・センス
  (Stop Making Sense) 

 

 

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 


①-1 スポットライト 世紀のスクープ
 メディアの姿勢がいかに大切かと思い知らされる作品だった。今の日本では大手メディアが知らせないことが多すぎる、しかも自主規制のような形で。
 記者クラブの弊害だって随分前から言われているのに、お上からの情報しか知らせてくれないとか。それに対してクレームするとネットが炎上などすると言われ、これではほんとにバカの壁。

 

①-2 レヴェナント 蘇えりし者
 カナダ・カルガリーの雪が解け、撮影開始直前にアルゼンチンのティエラ・デル・フエゴに変更して撮影されたという風景が美しい。厳しさと幻影的なものが共存している自然の姿。アレハンドロ・イニャリトゥ監督は例によって骨太に感情を描く。かつての“インディアン”映画より激しい描写だ。

 

② 光りの墓
 ふしぎに眠り続ける男たち。その夢の中に入っていく女。場面転換した時、しばらくは動きがなくゆっくりと次の場面に入っていく。まるで、物語を作っているのではなく、そこに存在する時を切り取ったもののように。このペースにはまってしまうと、何とも心地よい時が訪れる。今月のトピックス参照。

 

③ ボーダーライン
 アメリカ/メキシコ国境に展開する麻薬ビジネス、その闇を追ってFBIの女性捜査官が様々の力に翻弄されながら、真実に近づこうとするのだが。地下に掘られたトンネルを探っていくといつかメキシコに出てしまう。現実の先にまるで変幻無碍の世界があるかのようだ。

 

 

 

他にも面白い作品が!!GWにどうぞ!


●バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生:まさかこの二人のヒーローが対決するとは…今月のトピックス参照ください。

 

●リリーのすべて:世界で初めて男性が女性の肉体になるための手術を受けたという実話の映画化。最近はLGBT関連の映画が随分多いのですが。

 

●砂上の法廷:原題は総ての真実。次々に明らかにされる真実が作り出す話は面白い。被告になった被害者の息子もまた弁護士を目指す高校生、彼の目指す真実は?

 

●インサイダーズ 内部者たち:韓国映画の力強いストーリーラインがぐいぐい引っ張ります。逆転、逆転の連続が好きな国だなあと感心します。

 

●さざなみ:結婚45周年を迎える夫婦、アルプスの氷河の中に転落した夫の前の彼女の遺体が、半世紀近くぶりに見つかったことが妻の心に波紋を広げていく。

 

●ルーム:拉致され、離れの小屋に監禁されて7年、5歳の子供がいるという驚きの設定、脱出劇を挟んで前半と後半の肌合いは随分違う。世界を知るのは大事だというテーゼはしっかり受け止めた。

 

●リップヴァンウィンクルの花嫁:岩井俊二の描く女性は自分探しの旅をしていて、そのふわふわ感がどうも私には合わないのだが、こんな話でも情感豊かではある。

 

●あやしい彼女:韓国映画「怪しい彼女」のリメイク、堂々とした作りで笑いを誘う。やはり老人パワーは凄く、倍賞美津子は韓国人俳優にも負けない。多部未華子も頑張っています。

 

●獣は月夜に夢を見る:北欧からやってきたまるで吸血鬼物語のような話しながら、実は…というあたりが面白い。冷ややかな感触の肌触りです。

 

●アイ アム ア ヒーロー:漫画の実写映画化。ゾンビ物の一つ。映画はなかなかうまくできていて、飽きずにみられるが、女子高生ひろみと生存者リーダー伊浦の書き込み不足は漫画がまだ連載中のため?

 

●ミラクル・ニール!:サイモン・ペッグ主演ということで見に行ったのだが、話のバカさ加減が何かに似ていると思ったら、監督がモンティ・パイソンのテリー・ジョーンズだった。さらに、犬の声でロビン・ウィリアムスが出ていて彼の遺作、クレジットではアテレコする姿が。

 

 

 

 

 

Ⅱ 今月の旧作


 2つの特集上映に通いました。


【生誕110年 女優 杉村春子】(神保町シアター)

 

 文学座を支え続けた杉村春子は、戦前から映画にも多く出演、日本映画の黄金時代を多くの作品に脇役として出演して支え続けても来ました。彼女のつくる人物像は映画の中でくっきり立ち上がり、強い印象を残します。
 どちらかといえば嫌われる役も多く演じてきましたが、それでも見る人に人物の在り方を納得させる。私が特に好きなのはそのセリフ回し。声楽家になろうと鍛えた発声は、舞台・映画で存在感を発揮するのに役立っている。

 1937年の本格的映画デビュー作「浅草の灯」では浅草オペラのトップ女優役、自慢ののどを披露しているが、この作品で既に嫌われ役である。
 今回見た6本の作品の中では、芸者上がりの金貸し業を営む「晩菊」がぴか一の嫌われ度。多くの監督に愛された。どんな作品でもがっちり脇を固めてくれる。成瀬己喜男監督の「娘・妻・母」と「女の座」はあの頃のホームドラマ。
家族の会話の愉しさの中に、辛口の言葉が混じるのだが、そんな時こそ杉村春子の声が鋭く生きてくる。

 


【成瀬になれなかった男 映画作家・千葉泰樹】(渋谷シネマヴェーラ)

 

 日常のなんでもない話を描きながら人々に強い印象を残した成瀬己喜男監督。成瀬と同じように、普通の人々を描き続けた千葉泰樹監督は、しかし、成瀬程に意地悪くはなく人の良さが作品の弱さとして出てしまったのかもしれない。
 しかし、今回見た幅広い内容の作品群にはほとんど失敗作はない。どんな内容であれ見るに堪える作品にしてしまう。東宝のプロデューサー藤本真澄が1番バッターと例えたというのもうなずける。

 今回見た9本の作品は、時代の風景・状況を伝えてくれた。中でも好きなのは「下町(ダウンタウン)」、58分という中編だが、その短さゆえか、すっきりした語り口で最後の悲劇に進んでいく。感情過多になることもなく、悲しみを伝えるラストには感動した。
 山田五十鈴、三船敏郎のふたりがさすがの出来。月並みな言葉だけど、貧しさの中に生きる力が感じられる俳優たち。足が地に着いたというにふさわしい。



 

 

Ⅲ 今月のつぶやき

 

●小池真理子の自伝的小説を映画化した「無伴奏」はあの当時あった音楽喫茶を一つの拠点にしている。そこで知り合った男女があの当時らしい関係を築いていくのだが、そこにまでLGBT的関係が現れてくるのにはちょっと驚いた。原作通りなんだろうけど。

 

●ちょい悪おやじはイタリア人イメージになってしまったが、1954年作の「悪の愉しさ」を見ていると、主人公男性のちょい悪ぶりと、まるで今の女性映画のように、主人公の心の声がいつも欲望満載で語られるのが凄いというので感嘆した。

 

●トーキング・ヘッズの音楽映画「ストップ・メイキング・センス」は封切り当時、そのセンスの良さで評判になっていたが見たことはなかった。監督ジョナサン・デミの「幸せをつかむ歌」の公開に合わせて特別公開されました。こういうこともあるんですね。

 

●「東京物語」が発表された1953年のキネマ旬報ベストテンの1位はこの作品ではなく、今井正監督の「にごりえ」だった。樋口一葉の3篇の小説をオムニバスとして映画化、そのモノクロ画面の美しさには驚いた。濃い墨のくっきりした端正な画面が見事。カメラマンは中尾駿一郎、今井監督とのコンビが多く、「また逢う日まで」も同じ。

 

●えげつなさも含め韓国映画の意気の良さ、描写の激しさが目立つ「インサイダーズ」は政界、財界、メディア3つ巴のの癒着・依存構造をついている。なかなか怖い。

 

●2年間監禁されていた女子中学生監禁事件をどうしても思い出してしまう「ルーム」だった。少しだけ出てくる誘拐犯は何の目的でこんな行動に出たかは明かされないし、女性の父親の不思議な退出にもちょっと驚き。父娘の関係に何かあったのか?

 

●SNSではなんでも無制限・無自覚に書いてしまう主人公には、まったく感情移入できない「リックヴァンウィンクルの花嫁」だった。どんどんバカの深みにはまるのをアホかと思ってしまう。スマホを持たないが故?

 

●他の人はほめるだろうなと思いつつ、自分は今一つ乗れないなあと思いながら見たのが、「モヒカン故郷に帰る」と「グランドフィナーレ」だった。「モヒカン」の沖田監督はいつものようにゆっくりペースがちょっと合わないんだなぁ~。
ちょっとイラつく部分があるんですよ。
「グランドフィナーレ」は美しい画面、マイケル・ケイン、ハーヴェイ・カイテルなどを使い、映画製作にかかわる話もあるが、何故か、いかにも思い込みのみで作った感じがある。主人公たちの在り方がちょっと気障っぽいというか、いやらしげ。

 

●イスラエルで行われたアイヒマンの裁判を全世界にTV放映しようする努力を描く「アイヒマン・ショー/歴史を映す男たち」は、映画としては今ひとつ面白くない。題材となったアイヒマン裁判自体だけを見たいという誘惑にかられる。

 

●ロビン・ウィリアムスはマイクの前で犬が舐める音を嬉しそうに出し、次には喘ぐ音から冗談を言いながら楽しそうだった。「ミラクル・ニール!」はプレゼントのように彼の姿を見せてくれた。

 

 

 

 

 



今月のトピックス : GW直前アラカル  


Ⅰ 2か月遅れのアカデミー賞

 

 先月号では、「踊るニューヨーク」に興奮し、すっかりアカデミー賞のことを忘れてしまいました。
 この1か月、アカデミー賞受賞作品の多くが封切りされました。作品賞、監督賞、主演男女優賞、助演女優賞の作品をこの1か月に見たことになります。2か月遅れとなりますが、アカデミー賞の主な受賞作は以下の通りでした。

 

 

作品賞:
    スポットライト 世紀のスクープ
    (予想○、公開中)

 

監督賞:
    アレハンドロ・イニャリトウ「レヴェナント 蘇えりし者」
    (予想×、公開中)

 

主演男優賞:
    レオナルド・ディカプリオ「レヴェナント 蘇えりし者」
    (予想○、公開中)

 

主演女優賞:
    ブリー・ラーソン「ルーム」
    (予想×、公開中)

 

助演男優賞:
    マーク・ライランス「ブリッジ・オブ・スパイ」
    (予想○、公開済)

 

助演女優賞:
    アリシア・ヴィキャンデル「リリーのすべて」
    (予想○、公開中)

 

 予想は4/6で67%の勝率でした。受賞作品自体は案外まともな選択かなという気もします。

 

 ところで、今年はアカデミー賞の授賞式を録画するのさえ忘れてしまいました。それを今頃思い出しました。どなたか録画された方、ダビングさせていただけないでしょうか?

 

 

 

 

Ⅱ アメコミのヒーローたち


 日本の怪獣映画でもゴジラとモスラが戦ったりしたのであるから、スーパーマンとバットマンが戦ったとしても何の不思議もない。それにしても、どちらもが最強のイメージで売ってきたスーパーヒーローが、死力を尽くして戦うとどうなるか…。

 この二人はDCコミックスの出身(?)者だから共演も不思議はない。しかも「バットマンVSスーパーマン」にはワンダーウーマンまで登場している。
 この登場の仕方は、DCコミックスのライバル、マーベルコミックスのアベンジャーズを思い出させる。アベンジャーズはマーベルのスター総出演のような映画だから。アベンジャーズ系の新作は4/29に封切られる「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」だ。
 予告編で見る限りアベンジャーズが二手に分かれ闘うらしい、しかも最後にはスパイダーマンが登場してくるのだ。本編ではどの程度活躍するのだろうか?いずれにしてもアメコミの主人公たちは、個人個人ではなく集団で登場し、仲良くなったり、離反したりを繰り返していくらしい。
 これには未来があるのか、ないのか、ちょっとはっきりしない。

 

 

 

 

Ⅲ 8度の電話音


 神保町シアターで杉村春子の芸者あがりの金貸し業(?「晩菊」)を見ていた時、低いブー、ブーという音が聞こえてきた。かなり長く、多分40回近くの呼び出し音が鳴っていた。電源切ってくださいよ、ほんとに!
 少しの間をおいて、再び鳴り出したものも40回くらいの長さだった。なんだこれは、と思っていると、その後5度にわたって同じ音が場内に響いた。
 マナーモードの音ではあったのだろうが、気になる音が7度も、しかもその1回1回はいずれも40回くらいなっていたのである。私の席からするとかなり前の方だった。隣の人は注意しないのか?
 わたしの周りにはきょろきょろ見回している人もいた。皆気になっているのだが、声を出して注意する人は私も含めいなかった。
 しばらく前の映画館だったら、誰かが「消せよー!」と叫んだことだろう。

30分くらいは静かだったが、さらに8度目が鳴り始めた。
 これでやっとあきらめたらしい。上映時間の半分くらいは音がしていた印象だった。幾らなんでもひどすぎる。

 マナーモードにしていたって、映画館の中で会話をすることは流石にできないだろう。それなら、電源を切った方がかけてきた人にも迷惑にならないと思うのだが。

 

 

 

Ⅳ 10分前


 TOHOシネマズは映写10分前でないと中に入れてくれません。たとえ、朝一番の回で掃除等は全て終わっていたとしても。これぞ、マニュアル化の鏡です。

 ユナイテッドシネマは朝の1回目であれば、10分より前でも入れてくれます。むしろお客さんの方が勝手に10分前まで待っているようなところもあります。

 

 

 

 

Ⅴ 眠れる映画


眠れる美女は美女が眠るのだが、眠れる映画は映画が眠るのではない。
映画を見ている私が眠れるのである。
つまらない映画だから眠れるのではない。
むしろ良くできた、心地良い映画なのだ。
見ているうちに夢の中をさまようように寝てしまうのである。
映画と一緒に夢の中にさまようようである。
何故そうなるのかはよく分からない。

かつて、ソ連の映画監督アンドレイ・タルコフスキーの映画は、私を快い眠りに誘うのだった。
特に「ストーカー」は2回観たのに、毎回寝てしまうのだった。
こんなに心地良い眠りはないというほどだった。

久しぶりに眠れる映画に出会った。
「光りの墓」、タイの映画監督アピチャッポン・ウィーラセタクンの作品。
今後何回眠るだろうか?

 

 

 

 

Ⅵ GWのおススメ


4/29~5/08のGWがもうすぐ。
今年はぜひ1本くらいは映画を見てみたいとお思いの方に、上記に書いた作品以外に、これから封切られる作品で薦められそうなものを羅列します。

 

●4/29封切り

 テラフォーマーズ:
  漫画原作の実写映画化作品。
  シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ:アベンジャーズが二手に
  分かれて戦います。

 追憶の森:
  「愛は思わぬところで、あなたを待っている。」の惹句がなかなか。



●4/30封切り
 マンガをはみ出した男 赤塚不二夫:
  漫画家赤塚不二夫についてのドキュメンタリー。



●5/07封切り
 64-ロクヨン-前編:
  試写会で見ましたので先月号で紹介済ですが、傑作です。

 カルテル・ランド:
  メキシコの麻薬戦争についてのドキュメンタリー。

 
どうぞお楽しみください。

 

 

 

 

 

今月はここまで。
次回はまだまださわやかな気候が続いているであろう5/25にお送りします。



                         - 神谷二三夫 -


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