2016年 12月号back

12月が目の前、というだけでもあわてそうですが、
まあ、この季節の風物詩みたいなもので、
年1回のあわて月を楽しむしかないですね。
いや、もうすでに楽しんでいる人も多いような気もする。
そんな中、気兼ねなく楽しめるのは、そう映画館。

 

 

 

今月の映画

 

 10/26~11/25の急激に寒さを迎えた31日間に出会えた映画は36本、
今年一番の充実ぶりに震えがくるほどだ。
 元々11月は配給会社の持つあまり作品が放出されることが多く、多様な作品が揃う傾向があったが、私レベルでも今年はかなり上等だ。
無理してベスト3を選んでいるが、同等レベル作品は多い。

 



<日本映画>

ミュージアム 
湯を沸かすほどの熱い愛 
聖の青春 
秋の理由 
レミニセンティア 
息の跡(試写) 
この世界の片隅で 
ぼくのおじさん
(古)その場所に女ありて 

 

 

<外国映画>

アイ・ソー・ザ・ライト
  (I Saw The Light) 
みかんの丘
  ((Mandarinid / Tangerines) 
奇跡がくれた数式
  (The Man who Knew Infinity)
スタートレック Beyond
  (Star Trek Beyond)
インフェルノ
  (Inferno) 
手紙は憶えている
  (Remember) 
PK
  (PK) 
ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテキ
  (Bridget Jone’s Baby) 
エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界は僕らの手の中に
  (Everybody Wants Some) 
彷徨える河
  (El Abrazo de La Serpiente /

   Enbrace of The Serpent) 
ティファニー ニューヨーク五番街の秘密
  (Crazy About Tiffany’s) 
ザ・ギフト
  (The Gift)
小さな園の大きな奇跡
  (五個小孩的校長 / Little Big Master) 
ジュリエッタ
  (Silencio / Julieta)
フランコフォニア ルーヴルの記憶
  (Francofonia) 
湾生回家
  ( / Wansei Back Home)
92歳のパリジェンヌ
  (La Derniere Lecon / The Final Lesson)
ジャック・リーチャー Never Go Back
  (Jack Reacher:Never Go Back)
胸騒ぎのシチリア
  (A Bigger Splash) 
ガール・オン・ザ・トレイン
  (The Girl on The Train)
(古)アルジェの戦い
  (La Battaglia di Algeri / The Battle of Algiers) 
ウンベルトD
  (UmbertoD)
 続夕陽のガンマン
  (Il Buono,Il Brutto,Il Cattivo /

   The Good,The Bad and The Ugly)
ベリッシマ
  (Bellissima)
無防備都市
  (Roma Citta Aperta)
ドイツ零年
  (Germania, Anno Zero) 
白い酋長
  (Lo SceiccoBianco)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 



① この世界の片隅で
 この単純ともいえる絵からなるアニメーションは、ほとんどがそうした単純な絵で構成されているが時に離れて、突然異世界を表出させる。そうした構成が浮き上がることもなく、全体としての調和が保たれている。
 日本のアニメーションのレベルの高さを感じさせているが、技術面だけでなく、日常生活に突如侵入してくる戦争の持つ暴力性をあくまで生活者の目線で取り入れている。日本人の全年齢者に見てもらいたいメッセージをしっかり伝えてくる、戦争をしてはいけないと。

 

② 聖の青春
 2000年に大崎善生の原作小説が出た時、主人公の村山聖の生き方に感動したが、映画は原作を損なうことなく映像化することに成功している。いつ倒れてしまうか分からない危険を抱えながら、命の限り将棋の勝負に挑む。松山ケンイチ、東出昌大、リリー・フランキーなどの演技を引き出し、感動的な映画に作り上げたのは森義隆監督。

 

③-1 彷徨える河
 先日NHKの番組でアマゾン川流域に住む先住民、文明に交わろうとしない部族の存在を知った。この映画はドキュメンタリーではなくフィクションではあるが、一人の先住民が、長い年月を置いて二人の白人研究者と旅をするさまをリアルに描き切っている。別世界を力強く描いたのは35歳のコロンビアのシーロ・ゲーラ監督。

 

③-2 フランコフォニア ルーヴルの記憶
 アレクサンドル・ソクーロフの自由変幻ぶりは作品歴を見ても分かるが、この作品を見ると創作の場における自由度の広さに驚く。どんな方向からでも対象物に迫ることはできる。ものすごく不思議で楽しい作品だ。ルーヴルの中を飛行機が飛んでゆく。

 

 

 

 

 

面白い作品は他にも沢山、てんこ盛りです。

 

●みかんの丘:先月の「とうもろこしの島」と同じグルジア(ジョージア)の作品は、これまた戦争渦中の国にあって、無駄な死の空しさを教える。

 

●奇跡がくれた数式:インドの数学は少し違う方向からできているのだろうか?独自に研究した数式でケンブリッジ大学に招かれたインド人の公務員ラマヌジャンの実話に基づいた話は1914年に始まる。

 

●手紙は憶えている:老人ホームの友人からある依頼をされたゼヴは90歳、認知症だ。探し人を求めてアメリカ、カナダを巡る彼の不安定さは見ている我々には不安なミステリーだ。

 

●スタートレックBeyond:エンタープライズ号が調べに向かった惑星でほぼ破壊されたのは前半で、この後どうするのだろうかと心配してしまうほど。宇宙でオートバイという作戦も意表を突く。面白い作品になっている。

 

●PK:「ET」に通じる他の惑星からやってきた主人公PKを演じるのはアミール・カーン、「きっとうまくいく」と同じく純粋・無垢といったイメージが最後に向けて突っ走る。監督も「きっとうまくいく」のラージクマール・ヒラニ。長すぎるのはちょっと難。

 

●湯を沸かすほどの熱い愛:この映画で商業映画デビューをした中野量太監督は43歳、題名通りの強い母を描き感動させてくれる。

 

●ジュリエッタ:アルモドバル監督は上手い監督だけど、いつも毒があって歪んでいた。ジュリエッタは彼の熟成を感じさせ、珍しくもすっきりした作りで驚いた。

 

●ザ・ギフト:最近では「ジェーン」に出ている地味目の俳優ジョエル・エドガートンが製作・監督・脚本・出演と一人4役のサスペンス調の作品は上出来、なかなか賢い作り。

 

●92歳のパリジェンヌ:題名を大きく裏切って、これはなかなか真剣な終活映画だ。自分の決めた死ぬ日に向かっておばあちゃんが元気、元仏首相の母親が10年前に実行したことに基づいているという。

 

●レミニセンティア:ロシアは時に不思議なSFを送り出してきた。その後継者であるこの作品は日本人監督による日本映画ながらロシアを舞台にロシア人俳優が演じる。

 

●息の跡:東日本大震災から5年半以上たつのにそれほど復興していない陸前高田で、英語や中国語などで震災の状況を本にして売っている種苗店経営の佐藤氏にカメラを据えたドキュメンタリー映画。この面白い人を取り上げたのは小森はるか監督。来年2月公開です。

 

●湾生回家:日本が統治していた50年の間に台湾で生まれた日本人を湾生と呼ぶ。終戦と同時に日本に住むことになった彼らが台湾を訪れるのを追った台湾製ドキュメンタリー。出てくるだれもが台湾への愛情を露土、幼き日へのノスタルジー以上の思いが強い。

 

●ガール・オン・ザ・トレイン:時間の置き方に少し混乱があり分かりにくさが残るのが難だが、徐々に表れてくるミステリー風味はなかなかのもの。エミリー・ブラント結構好きです。


 

 

 


Ⅱ 今月のトークショー

 

 

*司葉子

 地下鉄都営新宿線お船堀へ初めて行ったのは、今年で8回目になる船堀映画祭のため。地元密着の映画祭でしたが、その目的の一つが司葉子さんのお話を聞くこと。鳥取の名家出身とは知っていましたが、読売鳥取のPR誌の表紙を飾り評判になり、松竹を始め映画会社からの誘いがあったとか。しかし、興味のない彼女は断っていた。その後、大阪で放送局に勤めていた時、鈴木英夫監督と池部良さんが来阪、懇願されて“1本だけ”の約束で出たのが東宝映画の「君死に給うことなかれ」だった。
 本名の庄司葉子から庄の字を取って司葉子と命名したのも池部良とのこと。
1本のはずがいつの間にか多くの映画に出演して、今日に至ったとか。気取らず自然体で楽しい話を明るく話してくれた。82歳とは思えぬ若々しさ、お元気でした。

 

 

*福間健二

 1949年3月生まれだから私と同学年の映画監督、福間健二は初めて知った。
K’sシネマで福間健二特集の上映プログラムが行われていた。監督とはいえ作品は5本で多くはない。監督の前に詩人という肩書が来るらしい。映画評論もしていたらしい。
 詩人の例にもれずというか、案外だらだらとこの日のトークショー相手森下くるみさんと話を続けるのだった。内容はあまり覚えていない。「秋の理由」の上映中はかなりトークショーをしていたらしい。その1回にぶち当たったのである。普通のおじさん風そのものだった。

 

  

*井上雅貴

 1977年生まれというから39歳の新人監督、ロシアで作った「レミニセンティア」上映後のトークショーはプロデューサーの奥さんイリーナさんと一緒だった。二人はアレクサンドル・ソクーロフ監督がイッセー尾形の演じる昭和天皇を描いた「太陽」の撮影現場で出会ったらしい。このときロシアに3か月滞在、巨匠の製作現場に参加したという。その時に学び取ったものがこのデビュー作に多く見られる。
 ロシア映画にはファンタスチカというジャンルがあり、それはSF(アメリカのSFとは全然違う)とファンタジーが混じったような映画であり、タルコフスキーやソクーロフ監督もこのジャンルの人ということができるらしい。日常とは少し違う別の世界という感じだろうか?納得できる話だった。実は「レミニセンティア」を見ていた時ものすごく睡魔に襲われた。この感じはタルコフスキー作品とすごく似ていたのだ。

 

 

 

 

Ⅲ 今月の懐かしい人



☆ブルーノ・ガンツ

 この欄で取り上げていいのか迷うところ、凄く久しぶりというのは大げさすぎるから。しかし、「手紙は憶えている」で最初のルディ・コランダーとして出てきたブルーノ・ガンツはこの映画のゆえか少し老人度が進み、75歳という実年齢より老けて見え、なんだか妙に懐かしかったのである。「ベルリン天使の詩」から早30年目、決してピカピカとは輝かない渋い魅力を常に見せてくれた。これからも少しでも姿を見せてほしい、元気でいてほしいと願う。

 

 

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき も てんこ盛り

 

●ウエスタンの巨人としてしか知らなかったハンク・ウィリアムスの伝記映画「アイ・ソー・ザ・ライト」はスター歌手の映画とは思えないほど盛り上がりにかける作品だった。アップテンポにならない、盛り上げが上手くされていないのだ。彼が29歳という若さで亡くなったことは初めて知った。かつて日本でもウエスタンは人気だったが、団塊世代より上の世代の時だった。

 

●ついに再見してしまった「アルジェの戦い」は、やはりというべきか初見の時のような衝撃は感じられなかった。しかし、始まりの拷問シーンから白黒画面が醸し出すリアルさは類がない。ドキュメンタリーを見ているような映像、ざらつきのある白黒画面、カスバの迷路を抜けていくカメラ、人々の嬌声、モリコーネの力強い音楽、かけがえのない映画であることは間違いない。

 

●なんだか馬鹿らしくも力がある題名だと感じたのは「湯を沸かすほどの熱い愛」だ、文字通りべたで。ちょっと笑ってしまいますよ。

 

●1962年の作品だというが、その当時の職場の感じがよく分かる「その場所に女ありて」は、広告業界を場所としている。ここでの女性たちの働きぶりが凄い。27歳の営業担当を司葉子が演じているが、この営業チームのエースで、制作ディレクターとの関係など世慣れたおじさんのよう。個人生活への言及も現代では考えられないほど鋭く、濃い。これだけでも見る価値あり。こんなに面白い作品がDVD等になっていないとは、何故?

 

●「6才の…」のリチャード・リンクレーター監督の最新作は期待が高まるが、「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界は僕らの手の中に」はそんな事お構いなく、1980年主人公が入学した南東テキサス州立大の野球部生活を明るく描いている。スポ根感ほぼゼロ、しかしアスリート感ちょいありの楽しめる作品でした。

 

●期待といえばその題名から期待したのが「ティファニー ニューヨーク五番街の秘密」だったが、今ひとつ面白くない。有名人ある程度出演とかも月並みだし、オードリー・ヘップバーンの「~朝食を」からの場面も当たり前すぎてね。しかし、「ティファニーで朝食を」というロックがあり、有名なので知っていますよねという使われ方をしていたのには驚いた。まったく知らなかったので。

 

●錦鯉が贈り物の一つとして届けられるのに驚いた「ザ・ギフト」、こんな高いものを送るなんてすごいという感じ。不気味な贈り物が面白い。

 

●母親がスイスに死ぬために向かうのを送る「母の身終い」を思い出す、同じく同じくフランス映画の「92歳のパリジェンヌ」は明るい作りだが、両作ともに終活映画には違いない。

 

●あまりの古い感覚に驚いたのは「ぼくのおじさん」、山下敦弘監督といえば若手(40歳)の中でも期待をかけられる一人だが、この作品の面白くなさは異常である。全然笑えなかったのは悲劇的、あまりに古いセンスですよね。それとも、私がずれまくっているのか?


 

 

 

 



今月のトピックス:今年最後のアラカルト  



Ⅰ 訃報 

 


 この時期になると喪中はがきが届く。正式には年賀欠礼状というらしいが。自分の高齢化に合わせて増えているようにも思える。勿論亡くなられた方も最近は高齢化、90歳代の方も多くなっている。

 

 11/11の新聞には二人の訃報が載っていた。

 
りりィ:もちろん「私は泣いています」の大ヒットを持つ歌手だが、最近は映画(たぶんTVでも)の出演が目立つ。しかも、ちょい悪母親の役が圧倒的に多い。どこかに影がある母親なのである。今月では「湯を沸かすほどの熱い愛」に宮沢りえの母親役でほんの一瞬姿を見せた。ハスキーボイスが特徴の人だった。映画でもたばこを吸っている姿が多く見られたが、肺がんで64才で亡くなるというのは早い。

 

レナード・コーエン:ハスキーというよりしゃがれ声のシンガーソングライターだ。この人の声にどんなに慰められたか。私はどうも朗々とした声(これも好きではあるのだが)よりハスキー声の方が好きらしい。つるんとした声よりは引っかかる声の方に味を感じてしまうらしい。一面ぶっきらぼうな声に何とも言えない温かみを聞き取るのだ。
「Hallelujah」「I’m your man」「So long Marianne」「Bird on the wire」など好きな曲も多い。確か日本でも翻訳されたが小説も書いていたし、元々詩人として先に有名になった人だ。映画と直接に関係することはなかった。11/07に82才で亡くなった。

 

 

11/13日の朝刊には次の方が。

 
ロバート・ボーン:TV「0011ナポレオン・ソロ」でナポレオン・ソロを演じた。日本では相棒イリヤ・クリヤキンを演じたデヴィッド・マッカラムの方が人気だった。このTVシリーズに出る前に映画「荒野の七人」に七人の一人として出演している。ナポレオン・ソロ終了後も多くの作品に出演、TVの方が多かったようだが映画にも時々出ていた。知的な悪役などをよく演じていた。11/11に急性白血病で亡くなった。享年83歳だった。

 

 

3名の方のご冥福をお祈りします。

 

 

 

 

 

Ⅱ ボブ・ディラン

 

 L・コーエンの「ハレルヤ」をはじめに名曲と見抜いたと言われるのがボブ・ディラン。今年のノーベル文学賞ではひと騒動があった。受賞が公表された時、私は彼が何と答えるかに興味があった。ひょっとして拒否するかもと思ったのである、“そんなもの要らないよ”と言って。しかし、どちらとも分からない状態が2週間以上続いただろうか、何の声明も発声しなかったのだ。自身のサイトに一時はノーベル賞受賞と載ったものが、暫くして取り消されもした。だから、これは拒否するに違いない、或いは永久に回答されないのではと思い始めた。その頃を見計らうように“お受けいたします”と発表したのだ。その後も授賞式には出席しないとか、スピーチはどうなるのかなど取りざたされている。


 ここまでいい加減で、優柔不断な人とは知らなかった。

 

 森達也さんが雑誌「創」のコラム“極私的メディア論”でかなり面白い分析をしている。“偽装と本質が入り混じり二転三転。本人にもその皮膜の境界はもうわからない。だからすごいのだ。”というのだ。


 

 

 

 

Ⅲ 洋画はオタクのもの?

 
 キネマ旬報に“大高宏雄のファイト・シネクラブ”というコラムがある。
大高さんは興行を中心に映画とかかわっている方だが、このコラムが面白い。
その中で2回続けて「洋画オタク論」が題材に挙がっている。彼が論を展開しているのではなく、今の日本では“洋画を見るのはオタク”と言う意識が大学生や若い女性の間に蔓延しているというのだ。ここでいう洋画は主にハリウッド大作を指しているという。

 

 色々な要素が考えられる。私なりに考えたのだが。
①ハリウッドの映画が変わった、どちらかといえば悪い方に。
②日本人の洋画理解力が落ちた。分からないものは避けた方が無難と。
③日本人は日本映画を見ればよい、楽、分かりやすいのだから。
④映画はジャニーズ系が出ているものしか映画館に行かない。
⑤洋画の字幕が読めない。
⑥TVドラマのように分かりやすいものしか見ない。分からないものを

 作る方が悪い。
⑦洋画は吹き替えで見るが、それでも日本人の感覚では分からないものが

 ある。
⑧映画は漫画原作のラブコメものに限る。

 

 昔、私が信じている作家で映画についても多くを書いている小林信彦氏が“女子高生の感覚が素晴らしい”的な発言をされた時、“えっ?”と思ったものだが、若い人の声を持ち上げ過ぎではと心配した。それ以来20年くらい経つが、今や洋画はオタクという意見になったのかと驚いた。ガラケーなんて言葉があるが、日本人の感覚自体がガラパゴスではないか?これって、海外に出て行こうとしない若い人についても言えそうだし、日本人全体が内向きになっている現状にも言えそうだ。


 

 

   

  

Ⅳ キャシーの場合

 


 いつとはっきりとは覚えていないが、NHKで単発海外ドラマを放映したことがあって、その中の1本が「キャシーの場合」という題名だったと思う。高校生の頃ではないかと思うので、1960年中~後半頃だろう。なかなかに衝撃的な内容で、田舎からロンドンに出てきた女性が貧困に直面する。監督はケネス・ローチ、今はケン・ローチと呼ばれるイギリスの巨匠である。

 

 TVの作品だからもう見ることはできないだろうと思っていたが、川崎市市民ミュージアムで見られそうなのだ。「キャシー・カム・ホーム Cathy Come Home」というBBCのドラマというから、同じ作品に違いない。もし見られれば、50年ぶりくらいになる。強い思いがあればいつか見られることがあると、善人風に思いました。

 

 

 

 

Ⅴ 栴檀は双葉より芳し

 

 今月見た旧作の1本、「白い酋長」はフェデリコ・フェリーニの初単独監督作という。これが面白い。

 

 何がって、後年世界の巨匠になったフェリーニの要素の多くが既に見られるのだから。新婚旅行でローマにやってきた新妻は、その旅行のことより、好きな「白い酋長」の主演スターに出会えるかもという思いで気もそぞろだ。ホテルにチェックインしたばかりだというのに、バスルームにお湯(有料なんですよ)を頼んでおきながら、夫を置いてそっと出かけてしまう。その後のてんやわんやも面白いが、もっとも笑ったのが、彼女の憧れのスターの顔だ。ちんけなイタリア人的、ちんまり感ありなのだが、う~むいかにもフェリーニ的。ジュリエッタ・マシーナが夜のローマで火吹き男と出てくるのも夢幻的。
 いや~、初作には総てがありというのは本当だったんですねえ。

 

 

 

 

Ⅵ 最も危険なアメリカ映画

 

 この題名の本を書いたのは町山智弘氏、カリフォルニア在住の映画評論家だ。1995年に洋泉社から「映画秘宝」を創刊した。確かその後アメリカへ。現状報告的にアメリカの現状についてコラムを執筆、本も多く出している。

 

 今回の本も面白いというか、ちょっとびっくりの情報が2つある。

 

①「国民の創生」

 D・W・グリフィスといえば映画の父とも称されるアメリカ映画サイレント期の大監督だ。少しでも映画の歴史について読むなり、学んだ人であれば、この監督の「国民の創生」や「イントレランス」がいかに大事な作品とされているか、歴史的な映画作品と言われていることをご記憶かもしれない。私は残念ながら見たことはない。この「国民の創生」はKKKを蘇らせた“史上最悪の名画”と呼ばれているというのだ。世界映画史的には、それまでカメラ据え置きで動きのない映画に、クローズアップやいくつかの挿話を並行してつなげていく方法など、現在の娯楽映画の作り方の原型を作ったと言われている監督だ。しかし、その内容はその頃停滞していたKKKを復活させることにつながったらしい。そんなこと世界映画史で学ばかったぞ。

 

②「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「フォレスト・ガンプ」

 2作品ともロバート・ゼメキス監督の作品で大ヒットし、「フォレスト…」はアカデミー賞の作品、監督、主演男優など6部門を獲得している。これらの作品が故意に60年代の黒人解放運動を無視しているというのだ。無視ならまだいいが、そうした運動はなかったことにしていたという。当時アメリカからの新しい風として、日本でも好評に迎えられていた。その裏で黒人運動を無いことにしたのは、ゼメキスの右翼体質ということのようだ。
 60年代が開放的な若者文化時代だったことの反動として、70~80年にかけて右翼的な動きが高まり、それに乗ってゼメキス映画が迎えられた。言われれば、そうだったのかと納得。興味のある方、お勧めします。

 

 

 

 

 

今月はここまで。
次回は例年通りクリスマスの当日のお送りします。

 



                         - 神谷二三夫 -


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