2019年 9月号back

暑い日が続く中、朝夕は少しずつ涼しくなっている。
いつの間にか自然は次の段階に進んでいく。
ゆっくり物語の展開を楽しめるのは、
そう、映画館!

 

 

 

今月の映画

 

7/26~8/25の山の日を含む31日間に出会った作品は47本、
邦洋画併せた数で新作が23本、旧作が24本と旧作が多くなりました。
見るべき特集番組が多く組まれていました。



<日本映画>

アルキメデスの大戦 
よこがお 
ダンス・ウィズ・ミー 
イソップの思うツボ 
劇場版おっさんずラブ~LOVE or DEAD~

 

<野村芳太郎特集>
砂の器(旧) 
疑惑(旧)
白昼堂々(旧)


<国立映画アーカイブの特集:逝ける映画人を偲んで>
処刑の部屋(旧) 
青春の蹉跌(旧) 
南の風と波(旧) 


<国立映画アーカイブの特集:シネマエッセンシャル>
西鶴一代女(旧)

 

 

<外国映画>

北の果ての小さな村で
  (Une Annee Polaire / A Polar Year) 
隣の影
  (Undir Trnu / Under The Tree) 
アポロ11号 完全版
  (Apollo 11) 
トールキン 旅のはじまり(試写会)
  (Tolkien) 
田園の守り人たち
  (Les Gardiennes / The Guardians) 
ワイルドスピード:スーパーコンボ
  (Fast & Furious Presents: Hobbs & Shaw) 
COLD WARあの歌,ふたつの心(再見)
  (Zimna Wojna / Cold War) 
トム・オブ・フィンランド
  (Ton of Finland) 
あなたの名前を呼べたなら
  (Sir) 
風をつかまえた少年
  (The Boy Who Harnessed Wind) 
ピータールー マンチェスターの悲劇
  (Peterloo) 
世界の涯ての鼓動
  (Submergence) 
ペット2
  (Secret Life of Pets 2) 
シークレット・スーパースター
  (Secret Superstar) 
命みじかし,恋せよ乙女
  (Kirschbluten & Damonen/
   Cerry Blossoms and Demons) 
ライオン・キング
  (The Lion King) 
ロケットマン
  (Rocketman) 
鉄道運転士の花束
  (Dnevnik Masinovodje / Train Driver’s Diary)

 

<名脚本家から名監督へ>
熱砂の秘密(旧)
  (Five Graves to Cairo) 
復讐鬼(旧)
  (No Way Out) 
地獄の英雄(旧)
  (Ace in the Hole) 
失われた週末(旧)
  (The Lost Weekend)  
他人の家(旧)
  (House of Strangers) 
記憶の代償(旧)
  (Somewhere in the Night) 
異国の出来事(旧)
  (A Foreign Affair) 
ろくでなし(旧)
  (Mauvaise Graine / Bad Seed) 
殺人幻想曲(旧)
  (Unfaithfully Yours) 
うわさの名医(旧)
  (People Will Talk)

 

<ゴーモン 珠玉のフランス映画史>
この手紙を読むときは(旧)
  (Quand Tu Liras Cette Lettre /
  When You Read This Lettre) 
パリ横断(旧)
  (La Traversee de Paris / Four Bags Full) 
ある女の愛(旧)
  (L’Amour d’une Femme) 
抵抗―死刑囚の手記より―(旧)
  (Un Condamne a Mort S’est Echappe /
  A Man Escaped) 

 

ファントマ
  (Fantomas)
  第3部ファントマの逆襲(旧)
  第4部ファントマ対ファントマ(旧)
  第5部ファントマの偽判事(旧) 

たそがれの女心(旧)
  (Madame de … / The Earrings of Madame de …) 
顔のない眼(旧)
  (Les Yeux sans Visage / Eyes without A Face)

 

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

  (新作だけを対象にしています)

 

①-1 よこがお
平和な、むしろ善意溢れる家庭に派遣看護師として働く女性への、思ってもみないところからの攻撃、そして復讐。どこにも潜む理不尽な出来事が人の生活に大きな変化をもたらす。その変化に耐えながら生き続ける人物たちを描く深田晃司監督の新作は必見。

 

①-2 世界の涯ての鼓動
ヴィム・ベンダース監督は1970年に長編映画デビュー、今年で50年目になる。「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」の頃の若々しさを見せてくれる新作だ。ソマリアと深海という危険地帯にそれぞれの任務で向かう前、フランス、ノルマンディーのディエップのホテルで出会った二人の恋。生死の境を意識しているからこそ、静かなふたりだ。

 

② 鉄道運転士の花束
2016年のセルビア=クロアチア映画。旧ユーゴスラビアの国々のユーモア感覚は何とも苦い。良薬口に苦しの如く、深いところから笑わせてくれる。定年間近のイリヤは祖父から3代続きの運転士で、祖父、父、自分で合計66人を殺してきた。だから養子にしたシーマには運転士になるなといったのに…。ミロシュ・ラドヴィッチ監督の笑いは素朴で、苦く洗練されている。

 

③-1 ダンス・ウィズ・ミー
矢口史靖監督の新作はミュージカル。原案・脚本も担当している矢口監督、よく考えられている。成功の要因は色々ある。あくまでも明るいコメディとした。インチキ催眠術師をうまく使い東京→東北→札幌までを巡る。音楽に合わせて歌い踊る主人公で使う曲は総てありものヒット曲(がラジオ等から流れる)で見る方も親しみやすい。コメディに合わせ脇役に芸達者を揃えた。主役三吉彩花が頑張った。見て楽しい作品。

 

③-2 あなたの名前を呼べたなら
インドの女性監督ロヘナ・ゲラのデビュー作はインド映画の新しい可能性を感じさせる。カースト制度が厳然としてある国で、主人と家政婦の関係はあくまで主従だ。そこに恋愛を絡め、女性の自立も描いている。

 

 

 

面白い新作は他にも。映画館で絶賛上映中です。(終わったものもあり)。


北の果ての小さな村で:珍しくもグリーンランドを舞台にした映画、人口80人の村にデンマークから新しい先生がやってくる。希望してというより、逃げるようにやってきた青年が、村の人々と親しくなっていく様をドキュメンタリーのように描く。今月の不思議も参照。

 

隣の影:こちらも珍しくアイスランドの映画だ。1978年生まれのアイスランド人監督ハーフシュテイン・グンナル・シーグルズソンの3作目の作品。些細なことから隣同士の家族が反発、遂には…というストーリーはどこであっても、日本であってもありうる話だ。

 

トールキン 旅のはじまりトム・オブ・フィンランド:「指輪物語」のJ・R・Rトールキンはファンタジー文学に、トム・オブ・フィンランドはゲイカルチャーに大きな影響を与えた。二人の伝記映画を監督したのはフィンランドのドメ・カルコスキ、1976年生まれだ。

 

風をつかまえた少年:アフリアのマラウイ(タンザニアの南、モザンビーク、ザンビアに囲まれた内陸の国)での実話。干ばつの地、水をくみ上げるための電気を風力で発電する方法を考えた少年の話。それにしても思った以上にアフリカの貧困、未文明の現状に驚く。俳優キウェテル・イジョフォーの初監督作品で、父親役で出演も。

 

ピータールー マンチェスターの悲劇:1819年にマンチェスターで起こった事件を描く。今年でちょうど200周年。マイク・リー監督は例によって登場人物の一人一人の外観、人物造形にこだわり、200年前の時代の人々を描き出す。

 

シークレット・スーパースター:日本でもヒットしたインド映画「きっと、うまくいく」の主役アーミル・カーンが製作主演、「ダンガル きっと、つよくなる」にも出ていた少女ザイラー・ワシームを主役に作った少女の成功物語。成功に至るまでの様々な障壁を乗り越えていく様は見る価値あり。

 

ロケットマン:現役(?)のスーパースター、エルトン・ジョンの今までの人生を描くミュージカル作品。監督は「ボヘミアン・ラプソディー」のデクスター・フレッチャー。エルトンの歌で彩られる作品は思った以上にミュージカルを目指している。反対にビデオクリップのような曲扱いが強すぎたのは少し残念。タロン・エガートンは頑張っている。

 

 

 

 


Ⅱ 今月の旧作

 

<日本映画>
<神保町シアターでの野村芳太郎監督特集>生誕100年記念として企画された(1919-2005年)。松竹の監督としてコメディからミステリーなど迄幅広い作品を手掛けた。1958年の「張り込み」で注目され、その後も松本清張原作の社会派ミステリーを多く手がけた。20本が上映された特集、内6本が清張原作。清張と共に「霧プロダクション」を設立していた。
今回は3本しか見ていないが、「疑惑」が圧倒的に面白かった。流石に清張の原作で細かいところまで描かれている。見ているものを裏切る女二人の戦いを含む法廷劇。桃井かおりと岩下志麻の演技合戦も火花を散らす。
<国立映画アーカイブの2つの特集>4本の内では、「南の風と波」が面白かった。この作品は、昨年亡くなった脚本家橋本忍が、自ら監督した作品(監督2作目)で、中島丈博との共同脚本による1961年の作品だ。四国の漁村で暮らす人々の群像劇。大阪に向かっていた船の遭難によって引き起こされる様々な変化を細かく描写。一人一人の人間の生き方から、家族としての在り方、村全体の暮らしまでが有機的に描かれている。

 

 

<外国映画>
<渋谷シネマヴェーラの特集:名脚本家から名監督へ>脚本家から監督になるケースは結構多い。その中でそれぞれに“名”が付くのはなかなかに厳しいかもしれない。上に書いた日本の名脚本家橋本忍が監督にトライしているが、最終的には3作のみに終わった。「南の風と波」には名監督の資格があるとは思うが、やはりある程度の量も必要だ。
今回取り上げられている名脚本家→名監督は、プレストン・スタージェス、ビリー・ワイルダー、ジョセフ・L・マンキウィッツの3人だ。この特集は8/30まで行われ、これから見ようと思っている作品もあるので最終結果とは言えないが、今までに10本を見た。3人とも色々な特集で上映されてきていて、今回見たのは今まで見ていなかったものばかりで、今回の特集にも含まれている各監督の代表作は含まれていない。作品名後の( )は製作年19XX。

 


#プレストン・スタージェス(1898-1959):
殺人幻想曲(48):「レディ・イヴ」「パームビーチ・ストーリー」を見ていると、スタージェスは強い女性を描くのが得意と思っていたのだが、この作品ではレックス・ハリソン(「マイ・フェア・レディ」ですね)の男性主人公が強くて面白い。どちらの強さも、人を制して先に強く言葉を発してしまう事で成り立っている。

 

 


#ビリー・ワイルダー(1906-2002):
ろくでなし(34):ワイルダーがドイツから亡命、フランスで作った初監督作は若々しい感性が感じられる。この後アメリカに渡ってコメディ中心に傑作脚本を連発する。


熱砂の秘密(43):エジプトの砂漠地帯にあるEmpress of Britainというホテルを舞台に、1人の英将校とロンメル率いるドイツ軍、更にホテルのスタッフとのスリル満点ドラマ。


失われた週末(45):アル中男性の行動を実に細かく容赦なく描き、この問題の深刻さをこれでもかと突きつける。窓の外に紐でつるされた酒瓶にカメラが迫っていくファーストシーンから引き付けられる。


異国の出来事(48):戦後のベルリン、駐在する米軍の素行調査にやってきた米議員団と大尉、ナチの女性歌手が繰り広げるコメディ。歌手になるディートリッヒは3曲披露。


地獄の英雄(51):1951年当時でマスコミについてこれだけ描いていたのは凄い。更にカーク・ダグラス演じる新聞記者の人物像も強烈だ。

 

 


#ジョセフ・L・マンキウィッツ(1909-1993):
記憶の代償(46):戦争で顎を負傷して話せない男は、実は記憶もなくしていた。そのことを知られずに自分の過去を探るうちに、殺人事件に巻き込まれるミステリー。


他人の家(49):一代で財を成したイタリア系の銀行家は、その強烈な個性で息子4人を思い通りに使おうとするが…。エドワード・G・ロビンソンが強烈。


復讐鬼(50):犯罪者の兄妹が負傷して運ばれた病院で、兄が死んでしまう。その復讐に黒人医師(シドニー・ポワチエ)を痛めつける弟に扮するリチャード・ウィドマークが凄い。


うわさの名医(51):ヒューム・クローニンは堅物で暗く、人をうらやむ腹黒い役が似合う。うわさの名医になるのはケイリー・グラント、清潔で優しく良い人が似合う。

 

 

<ゴーモン 珠玉のフランス映画史>については、今月のア・ラ・カルト Ⅱゴーモン を参照してください。

 

 

 

Ⅲ 今月の不思議

 

#「北の果ての小さな村で」はグリーンランドを舞台にし、デンマーク語、グリーンランド語しか出てこないが、フランス資本で作られたフランス映画だ。原題もUne Annee Polaireとフランス語になっている。監督を含め殆どのスタッフはフランス人だ。監督はサミュエル・コラルデ、勿論フランス人。
彼がグリーンランドに魅入られ、2年の歳月グリーンランドを旅してまわり、今回の舞台となったチニツキラークにたどり着いたと映画の公式サイトに書かれている。彼は撮影監督もしていて、作品にはドキュメンタリーも多いらしい。この作品のもう一つの特異な点はほぼドキュメンタリーに近く、登場人物は実際の人々という事だ。主人公のデンマークからやってきた新任教師も本人だが、むしろ彼が来るという情報を掴んで彼を中心に映画を作ろうと監督が決めたというのだ。映画でも描かれているが先生の任期は1年だったのだが、映画の最後に“アンダース・ヴィーデゴーは今も村で先生をしている”と出てくる。

 

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき


●名作とされているし、その感じも分からなくはないし、多分橋本忍の脚本がラストでの感動に持ち込んだのだろうと思う「砂の器」だが、画面の荒れが気になると、これは望遠の多使用のためかと思ったり、素直に入り込めない状態が結構あった。清張+橋本+野村のゴールデントリオの作品だからと信じていたが、前半は結構プリミティブ。


青春の蹉跌」もその当時石川達三の小説も含め評価されていたように思うのだが、今見ると古さを感じさせる。

 

●50周年という事は、人間が月に降り立ったのは1969年だったのかと改めて感心した「アポロ11号 完全版」だった。その後1972年迄に5回も月面着陸をしたことも忘れていた。

 

●LGBT問題は今や最先端の話題で、そこには差別をしないという態度が求められているのだが、半世紀前までくらいは犯罪として捉えられていたことを思い出させてくれる「トム・オブ・フィンランド」だった。

 

●Maison Atlantiqueというホテルは実際にはないようだけど、「世界の涯ての鼓動」という映画にぴったり合ったホテルだった。ゆったりと、しかし無駄な飾りはなく、静かで快適な滞在ができそうだ。

 

●「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督が他の二人の監督と共同で作った新作が「イソップの思うツボ」だ。徐々に事の真相がわかってくる作り方は前作と同じだが、話の内容が暗く入り込めない。ゾンビ物→コメディという方向とは逆のようで、爽快感は全くない。

 

●樹木希林の遺作となったのが「命みじかし、恋せよ乙女」で、ドイツ映画だ。日本語題名は1915年に作られたゴンドラの唄(吉井勇作詞、中山晋平作曲)の歌詞からとられている。映画の中で樹木が歌っている。黒澤明の「生きる」で志村喬がブランコに乗りながら口ずさんだことでも有名だ。彼女は茅ケ崎館という旅館の女将を演じているが、この旅館は小津安二郎が脚本を書いたことで有名。更に彼の遺作となった「秋刀魚の味」の撮影がここで行われた時、杉村春子の付き人として来ていたのが樹木希林(同じ文学座の新人悠木千帆として)で、ここでの撮影があることも彼女が出演した理由の一つといわれている。
監督はドイツ人女性のドーリス・デリエ、84年に東京国際映画祭で作品「心の中で」を上映するために初来日以来30回以上日本を訪れているという日本通。そうでなければこんな映画はできないですね。

 

●ディズニーの非人間を主人公のアニメーションはいろいろ作られてきた。おもちゃ、車、動物、魚などで。超実写版と銘打った「ライオン・キング」は、CGによって作られ、広い意味ではアニメーションだろうが、違和感が尋常ではない。本物の動物としか見えない世界で、動物たちが歌い踊り、人間らしく振舞うのはやはり違和感が大きすぎる。更に動物世界ではありえないことが人間の価値観で描かれる。かつてディズニーのドキュメンタリーで動物が人間の価値観で描かれると批判されたことがあったと思うけれど、今回の超実写版もそれと同じだ。
絵のアニメーションや、舞台の人間による動物描写であれば、人間が創作していると感じられ問題がない。超実写版を始めたのは「ジュラシック・パーク」とも言えるが、恐竜たちは人間ではなく恐竜自身として登場するので問題はない。超実写版では、非人間が人間らしく演じるのは止めてもらいたいのだ。

 

 

 



今月のトピックス:KINO


Ⅰ KINO


木下グループといえば、木下工務店を中心とするグループと単純に理解していたのだが、今回Wikipediaなどいろいろ参照して調べると、それほど簡単ではないことを初めて知った。木下工務店は1956年創業した後、2002年に木下工務店住宅販売に採算事業を譲渡し、社名をプリムラに変更したが2004年には事実上の倒産。同じ2004年には木下工務店住宅販売が、木下直哉(同姓ながら創業家とは関係なし)が創業していたエム・シー・コーポレーションに買収された。その後、木下工務店住宅販売の社名が木下工務店(2代目)に変更された。2012年には木下工務店(2代目)が木下ホールディングスとなり、さらに2016年に木下グループホールディングスなったという事らしい。

 

木下グループのサイトを見ると“木下グループはいつもあなたのそばにいる「総合生活企業」です。”とあり、住まい、医療・福祉・教育、その他の3つに関連会社を分類して掲載している。最近目立つのは卓球、フィギュアスケートなどのスポーツ支援や、介護事業、映画関係の企業経営及び支援である。

 

映画関係の会社としてはkino films、kino cinema、kino internationalがある。Kinoはドイツ語の略称で映画を意味する。もちろん木下のKinoとも兼ねているのだろう。今回、木下グループを取り上げようと思ったのは、今年2つの映画館kino cinemaがオープンしたからだ。
4月12日オープンのkino cinema横浜みなとみらいと、6月28日オープンのkino cinema立川高島屋S.C.館で、共に3スクリーンを持つミニシアターである。横浜は55席、111席、111席、立川は89席、89席、27席と比較的小さな映画館である。

 

映画の製作、配給では2006年から製作にかかわっている。第1作は「I am 日本人」で森田健作が自ら4億円の費用を調達して製作となっているが、製作者には木下直哉、高橋紀成の名が挙がっている。木下直哉氏は上に既に名前が出ているが、現在木下グループ全体の社長である。その後、2011年にキノフィルムズを設立、2018年の配給本数は27本になり、クロックワークス、東宝、KADOKAWAに次いで4番目に多くの映画を配給している。
昨年には東京フィルメックスを支援、存続が危ぶまれていた映画祭の継続に力を貸している。

 

木下直哉氏は1965年生まれの53歳。福岡県苅田市の小学生時代から映画を見ていたという映画好きで、映画分野に進出、今や映画館まで持つようになったのである。

 

 

 

 

Ⅱ ゴーモン


拷問ではありませんよ。ゴーモン、フランスの映画会社です。
“1895年の創業から現在まで、120年以上に渡る歴史を誇る世界最古の映画制作会社「Gaumont(ゴーモン)」。名だたる映画監督たちの作品を手掛け、映画史を塗り替えてきたゴーモンの歴史を辿るべく、時代を超える傑作26作品を一挙上映します。”
ゴーモン 珠玉のフランス映画史 としてゴーモンの映画26本の特集上映が7/27~8/23の間、恵比寿ガーデンシネマで行われた。
1895年といえば、フランスのリュミエール兄弟がスクリーンに投射する形の映画を発明した年。言ってみれば映画の誕生とともに始まった映画会社の歴史のような上映会だ。ゴーモン自身によって選ばれた26本はそれぞれに理由があって、できればすべて見たいものだが7本のみ見ることができた。(ファントマは1~5部を1本と数えて26本になるが、上映は1,2部、3部、4,5部と3回に分けて上映された。時間の関係で1,2部は見ることができなかったが1本としてカウントしました。)

 

この手紙を読むときは:ジャン=ピエール・メルヴィルが唯一自ら脚本を手掛けず雇われ監督として作った1953年の作品。元修道女を演じるのはジュリエット・グレコ、相手のチンピラを演じるフィリップ・ルメールとは1953-6年は夫婦だったようでこの作品で結ばれたのでしょうね。


パリ横断:1942年ドイツ占領下のパリ、人々が街を縦断して食料を運ぶコメディを描く1956年のクロード・オータン=ララ作品。ジャン・ギャバン、ブールヴィルの共演も渋い。


ある女の愛:ブルターニュの離島にやってきた若い女医の生活、更に結婚か仕事かを考えさせる1954年の作品。半世紀以上前にこうした問題提起したのはジャン・グレミヨン監督。


抵抗―死刑囚の手記より―:ドイツ占領下のリヨン、レジスタンスで収監されたフランス人の脱獄を描くロベール・ブレッソン監督の1956年の作品。成功するのが良い。


ファントマ第3部ファントマの逆襲,ファントマ第4部ファントマ対ファントマ,第5部ファントマの偽判事:1913年の作品が、4Kで修復され今撮ったばかりのように見える。監督はルイ・フイヤードで今見ても面白い作品に仕上げている。


たそがれの女心:マックス・オフュルス監督はナチス台頭に伴いドイツからフランスに亡命したユダヤ人。女性映画の巨匠と言われ、1953年のこの作品も艶のある画面で彩られる。


顔のない眼:ジョルジュ・フランジュ監督の1960年の作品。クレジットを見ていて、ボワロー=ナルスジャックが脚本を書いていたことを知った。

 

ゴーモンのマークは、創業者レオン・ゴーモンの母の名前マルグリット(マーガレット)から花びらのマークが使われている。
フランスにはもう一つ歴史のある映画会社パテがある。はじめの会社は1896年に作られたが、主にレコード関係、その後映写機の製造と映画館網等の会社になり、途中から映画製作も始めていて現在に至っている。こちらはにわとりマークが有名。
フランスの女優レア・セドゥは祖父がパテの会長、大叔父がゴーモンの会長というサラブレットらしい。

 

 

 

Ⅲ インド映画

 

最近のインド映画を見ていると、確実に変わっているなと感じる作品が増えている。今月見た2本もそうした作品だった。
特に「あなたの名前を呼べたなら」には感動した。原題「Sir」に現れているように、メイドのラトナは主人の建設会社の御曹司アシュヴィンを呼ぶのに“Sir”を使う。食事は台所の床に座りながら手でカレー料理を食べている。彼女は田舎で結婚したが、夫が4か月ほどで亡くなり未亡人になっていた。田舎での未亡人は自分の思うような行動ができず、彼女は職を求めてムンバイに出てきた。そこでも、階級の壁を超えることは難しい。彼女が気楽に話せるのは、同じマンションの別家族に仕えるメイド仲間だけだ。彼女には服の仕立て方を学び、将来的にはデザインもしてみたいと思っている。
ラトナとアシュヴィンの間には、互いに思いやる気持ちが育っていく。が、それは許されるはずもなく、彼女は去り、彼もかつて住んだことのあるニューヨークに行ってしまう。
女性監督ロヘナ・ゲラは裕福な家の出身、ニューヨークで学んでいる。インドの階級社会、女性の地位について感じたことも多く、この映画を作ることになったようだ。
シークレット・スーパースター」は少女の家庭における母を含めた女性の地位がいかに父・男性に握られているかを描く。

 

階級差や女性の地位といった直ぐには解消しないインド社会の問題にあえて挑んだ2本の映画には、インド映画の新しい姿勢が見える。

 

 

 

 

Ⅳ シニア料金


6月に行われた映画料金の値上げはシネコンチェーン間でも対応が割れ、シネコン以外の独立映画館はほぼ値上げ無しと、7月号にてお知らせした。
ここにきて、独立映画館で9月1日からシニア料金、割引料金が1100円→1200円なるところが多くなるようだ。一般料金は変更ないので1800円のままだ。

 

 

 

 

今月はここまで。
次号は秋のさわやかさが感じられるだろう9月25日にお送りします。

 


                         - 神谷二三夫 -


感想はこちらへ 

back                           

               

copyright