2025年7月号 平坦な映画館back

 

今年は梅雨がないのかと思いきや、
ここにきてやってきた雨の日々、
そしていつも通りの蒸し暑さ。
そんな中いつも通りに快適なのは、
そう、映画館!

 

 

 

 

今月の映画

 

5/26~6/25のはっきりしない天気が多かった31日間に出会った作品は
49本,邦/洋画は10/39と先月に続き洋画の圧勝となった。
その原因も先月と同様の旧作の多さで、0/15となっている。



<日本映画>

   10本(新10本+旧0本)

【新作】
父と僕の終わらない歌 
ゴッドマザー コシノアヤコの生涯 
うぉっしゅ 
かくしごと 
国宝 
フロントライン 
ドールハウス 
リライト 
ルノワール 
ぶぶ漬けどうどす

 

<外国映画>

   39本(新24本+旧15本)

【新作】
スカッチ・サンセット
  (Sasquatch Sunset) 
季節はそのまま
  (Hors du temps/Suspended Time) 
マリリン・モンロー 私の愛し方
  (Dream Girl: The Making of Marilyn Monroe) 
秋が来るとき
  (Quand vient l'automne  / When Fall Is Coming) 
カウントダウン
  (焚城 / Cesium Fallout) 
ジョン・バージャーと4つの季節
  (The Seasons In Quincy:
   Four Portraits of John Berger) 
犬の裁判
  (Le proces du chien / Dog on Trial)、
パフィンの小さな島
  (Puffin Rock and the New Friends) 
紅楼夢 運命に引き裂かれた愛
  (紅楼夢之金玉良縁 / A Dream of Red Mansions) 
年少日記
  (年少日記 / Times Still Turns the Pages) 
我来たり,我見たり,我勝利せり
  (Veni Vidi Vici) 
リロ&スティッチ
  (Lilo & Stitch) 
ダーティ・マネー
  (Dirty Money) 
MaXXXine マキシーン
  (MaXXXine) 
アメリカッチ コウノトリと幸せな食卓
  (Amerikatsi) 
ラ・コシーナ 厨房
  (La cocina) 
ラブ・イン・ザ・ビッグシティ
  (Love in the Big City) 
おばあちゃんと僕の約束
  (Lahn Mah)
テルマがゆく!93歳のやさしいリベンジ
  (THELMA) 
ヒットマン リサージェンス
  (Hitman 2) 
秘顔
  (Hidden Face) 
罪人たち
  (Sinners) 
メガロポリス
  (Megalopolis)

 

【試写】
九月と七月の姉妹
  (September Says)

 

【旧作】
<SURWESTERN 超西部劇>
平原の待伏せ
  (The Man from The Alamo) 
死の谷
  (Colorado Territory) 
荒野のガンマン
  (The Deadly Companions)
牛泥棒
  (The Ox-Bow Incident)
逮捕命令
  (Silver Lode)

<ジョン・グレミヨン&ジャック・ベッケル特集>
番兵,気をつけろ
  (Centinela, Alerta!) 
最後の切り札
  (Dernier Atout)
愛欲
  (Gueule d’Amour) 
エドワードとキャロリーヌ
  (Edouard et Caroline) 
七月のランデブー
  (Remdez-Vous de Juillet)
白い足
  (Pattes Blanches) 
エストラパード街
  (Rue deL’strapade) 
燈台守
  (Gardiens de Phare)
幸福の設計
  (Antoine et Antoinette) 
アラブの盗賊
  (Ali-Baba et Les 40 Voleurs)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

  (新作だけを対象にしています)

 

 国宝

吉田修一が3年間歌舞伎の世界を取材し書いた小説からの映画化。物語の枠組みがしっかりしていて、飽きることがない。歌舞伎という特殊な世界に、有名歌舞伎役者によって引き入れられた男の物語。芸と血というこの世界の2大要素を正面切って描いている。監督の李相日はチェン・カイコーの「さらば、わが愛/覇王別姫」に魅せられたとどこかで書いていたが、白塗りでの古典劇と関連した物語という意味ではよく似た作品といえる。脚本の奥寺佐渡子(「サマー・ウォーズ」など)、カメラのソフィアン・エル・ファニ(「アデル、ブルーは熱い色」など)、美術監督の種田陽平(「キル・ビル」など)の実力派スタッフの力に加え、吉沢亮をはじめ、俳優陣の演技も素晴らしかった。

 

2 フロントライン

2020年2月、横浜に停泊していたダイヤモンド・プリンセス号を我々は心配しながら見つめていた。まだ名もなかったウィルスが広がりを見せ始めていた。あれから5年、あの時のコロナが人間世界に与えた様々な変化が今ならよく分かる。あの時いかにコロナに対処しようとしていたかを描くのがこの映画だ。DMAT(ディーマト)という医療従事者のボランティアグループが、厚労省の担当者といかに協力し、さらにテレビ等のメディアがいかに動いていたかを見せてくれる。変にあおることもなく、結構冷静に描いたのは関根光才監督、企画・脚本・プロデュースは増本淳。

 

3 罪人たち

先月39歳になったライアン・クーグラー監督は今までに「クリード チャンプを継ぐ男」やブラックパンサーシリーズを監督・脚本してきた。5作目の監督・脚本・製作となるこの作品でも、力強い映画作りを見せている。ヴァンパイア・ホラーの枠を超えて人間としての生き方にまで迫る作品。

 

 

 

 

他にも楽しめる映画が今月も沢山、映画館でどうぞ。(上映終了済作品もあります。)


マリリン・モンロー 私の愛し方:1962年に亡くなってから63年が経とうとしている今、マリリン・モンローを若い人たちは知っているだろうか?時代のアイコンという存在も半世紀以上の時が経つと、忘れられても当然だろう。当時を知っている人には懐かしい映画。

 

カウントダウン:重大危機てんこ盛りの香港映画。監督は「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件」等の香港映画の撮影を多く手掛けてきたアンソニー・プン、この新作では撮影とともに監督も担当している。このところ香港映画の大作が半年に1本くらいの割合で公開されているが、これもその1本。アンディ・ラウが主演している。

 

犬の裁判:フランスでは犬が人間に3回だったか、かみついたりすると処分されてしまうらしい。どうしても愛犬を救ってほしいと依頼された女性弁護士、裁判で犬を救うために戦うコメディ。この弁護士を演じているレティシア・ドッシュは共同で脚本を書き、初めての監督にも挑んでいる。犬の演技にも感心、犬のコスモスを演じた犬のコディはカンヌ国際映画祭で最優秀犬賞(パルムドック)を受賞している。

 

年少日記:教師をしている高校で自殺をほのめかす遺書が見つかり、その書き手を探すうち、自身の幼少期を思い出していく物語。天才ピアニストとして子供のころから活躍した弟と違い、自分は何の才能もなく…弁護士をしている厳格な父からいつも叱られていた。監督デビューとなるニック・チェクが繊細に描く。

 

アメリカッチ コウノトリと幸せな食卓:1915年オスマン帝国のアルメニア人虐殺から逃れるため、幼少期に家族とともにアメリカに渡った主人公は、1948年自分の祖国に戻ってくる。アルメニアは1922年にはソビエト連邦の構成国となっていた。第2次大戦後ソ連のスターリンはアルメニア復興のため祖国帰還運動を実施した。この映画の主人公チャーリーもこの運動によってアメリカからアルメニアに帰還したのである。しかし、彼は不当に逮捕され収監されてしまう。彼の唯一の楽しみは、小窓から見えるアパートの部屋での人々の生活を見ることだった。祖父が虐殺の生き残りだというアルメニア系アメリカ人のマイケル・グールジャンが監督・脚本・編集・主演の一人4役をこなしている。

 

ドールハウス;人形が捨てられたことを根に持って…というありがちなストーリーを生み出したのは原案・脚本・監督を担当した矢口史靖監督。「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」の監督らしく、ねちねちドキドキではなく、どちらかといえばカラッとしている。

 

おばあちゃんと僕の約束:映画宣伝的にはおばあちゃんと僕の心温まる物語をアピールしていたのだが、さらに微笑みの国タイからの映画ということだが、結構厳しい状況もきっちり描いている。がんのステージ4の祖母に近づく孫というのが、はっきりこれはまさに遺産狙い。ちょっと驚き。脚本・監督はパット・ブーンニティパットで、長編映画デビューとなる。

 

テルマがゆく!93歳のやさしいリベンジ:オレオレ詐欺はアメリカにもあったのか!映画では韓国映画ですでに描かれているが、アメリカでは初めて。主人公が93歳というのも、それを演じたジューン・スキップが撮影当時93歳だったというのも驚きだ。彼女の動きは93才には見えない。そのほかに懐かしい顔も。今月の懐かしい人もご参照下さい。

 

リライト:法条遥の同名原作小説の映画化。未来世界からやってきた男子生徒が周りの人に時を超える薬(?)を渡し、各自自分の10年後と向き合ったりする話。10年前後というのは一つの肝かも。もし50年なんかになったら、自分の昔を懐かしむだけで終わってしまう。青春映画にもならないかも。監督は松井大悟、脚本は上田誠。

 

ヒットマン リサージェンス:痛快漫画を読んでいる感覚そのままに楽しめる快作。残念ながら前作「ヒットマン エージェント:ジュン」は見ていない。主人公が漫画家で、その作品ということで漫画のアニメも多用される。監督は前作に続きチェ・ウォンソプ。それにしてもこの映画の公式サイトを見ても、キャストや監督等についての情報はほとんどない。手抜きサイトには驚いた。

 

秘顔:韓国では成人向き(19歳未満禁止)らしいこの映画、確かにかなり激しいシーンもあるが、それ以上に人間関係の方が驚き。メインテーマは覗きとなるが、あんなに大きな隠し部屋があったら、それに気づく人がいないのはおかしいのでは?と、結構突っ込みどころが多い映画。現在の韓国映画の力で突っ走っている。

 

ぶぶ漬けどうどす:こちらは日本映画の力で突っ走る。京都は何はともあれ話題の町。それが嬉しいのか、嫌なのか、京都人の揺れ動く心の状態が描かれるコメディ。その京都にほれ込んでゆく主人公の女性がどうもあまりに素直すぎて、イケズの京都人に翻弄されても当然と思わせてしまう。もうちょっと工夫があればよかった。

 

 

 

 

 


Ⅱ 今月の旧作

 

<外国映画>
SURWESTERN 超西部劇>渋谷シネマヴェーラでの西部劇特集。先月に続き次の5本を見た。先月の12本と合わせて計17本を見たことになる。
「平原の待伏せ」「死の谷」「荒野のガンマン」「牛泥棒」「逮捕命令」
いずれも魅力的なテーマを持った作品だが、特に「牛泥棒」の冤罪事件は印象に残る。冤罪のまま処刑されてしまう3人、そのあとに感動が来る。

 

ジャン・グレミヨン&ジャック・ベッケル特集>1930~50年代中ごろにかけて活躍した二人のフランス人監督の特集。グレミヨン作品が11本、ベッケル作品が10本上映された。今回見たのは次の10本。
ジャン・グレミヨン作品:番兵,気をつけろ、愛欲、白い足、燈台守
中の1本:ジャン・ギャバンが何度も“色男”と呼ばれて、もて男を演じている「愛欲」、あまりに呼ばれるので笑ってしまうほど。33歳の男盛りで美男とは違うがいい男だ。相手のミレイユ・バランは美女。
ジャック・ベッケル作品:最後の切り札、エドワードとキャロリーヌ、七月のランデブー、エストラパード街、幸福の設計、アラブの盗賊
中の1本:目が出ないピアニストを義父が社交界の名士を集めて売り込んでやろうという日、ベストがないと夫婦喧嘩、シャツとブリーフ姿でちょろちょろするダニエル・ジュランがおかしいのが「エドワードとキャロリーヌ」。彼は「七月のランデブー」でも音楽家を演じていた。

 

 

 

 

 

Ⅲ 今月の懐かしい人


☆リチャード・ラウンドトゥリー、マルコム・マクダウェル
オレオレ詐欺でだまされた93歳のテルマが、取られたお金を取り返そうと活躍するこの作品には、懐かしの人が二人出演していた。
彼女が老人ホームで出会ったベンを演じていたのは、「黒いジャガー」(1971年)シリーズで主役の黒人私立探偵ジョン・シャフトを演じていたリチャード・ラウンドトゥリー。ベンの持っていた電動スクーターに二人乗りして捜索するので、ほぼ相棒と言える活躍だ。ラウンドトゥリーは2023年10月に81才で亡くなっている。
捜索中に出会う白髪の老人ハーヴェイを演じていたのは、「時計仕掛けのオレンジ」で主役のアレックスを演じていたマルコム・マクダウェル、その強烈な存在感が強い印象を残していた。1943年生まれの現在82歳。

 

 

 

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき(良いことも、悪いことも)

 

●なぜ今コシノアヤコの映画か?しかも扮するのが大地真央なのは何故?と疑問がわいた「ゴッドマザー コシノアヤコの生涯」。なんだか今の時代にあっているだろうか?という疑問も。関西におけるコシノファミリーの力だろうか?

 

●セックスシンボルといえばマリリン・モンロー、青春の反抗といえばジェームズ・ディーンとスターが時代を象徴することが半世紀前にはあったなあと思わせた「マリリン・モンロー 私の愛し方」だ。今やハリウッドスターといえばトム・クルーズしかいず、今の時代を象徴する、誰もが認めるアイコンは映画の世界にはいないしなあと寂しくなった。

 

●この人物は聞いたことがなく知らないが、ティルダ・スウィントンが出ているので見に行った「ジョン・バージャーと4つの季節」。調べるとジョン・バージャーはイギリスの作家、美術評論家だが、2017年に90才で亡くなっていた。彼を崇拝していたスウィントンが作ったドキュメンタリーだが、4つの短編をくっつけただけの印象。こうした作品がよく輸入され、ロードショーされたものだと驚く。

 

●よく輸入されたといえば、試写で見せてもらった「九月と七月の姉妹」。デイジー・ジョンソンという作家の同名(日本語題名)小説からの映画化。小説は読んでいないのではっきりとは言えないが、原作を知らないと何を訴えたいのかわからない。アリアン・ラシドという俳優が、初めて監督(脚本も)をしたデビュー作。彼女はギリシャの映画監督ヨルゴス・ランティモスと結婚していて、今はアテネを拠点としているらしい。

 

●コッポラの新作ということで話題の「メガロポリス」。滑ってしまいそうにピカピカに磨かれた映像のようで、きれいではあるが内容があったのか?ニューヨークをローマ時代に見立ててという筋立て自体も成功していただろうか?ころころ変わる展開と、きれいな絵だけが取り柄と言っていいだろうか?本当にコッポラのやりたいことだったのかという気さえする。全く楽しめない映画だった。

 

 

 

 

 

 



今月のトピックス:平坦な映画館

 

Ⅰ 平坦な映画館  

 

よく利用する映画館の一つ、TOHOシネマズシャンテのスクリーン3で上映されている「テルマがゆく!93歳のやさしいリベンジ」の予約をサイトからした時、座席表が前からA列、B列、C列…となっている内、A、C、E等が列ごと黒く塗られていて驚いた。黒い席は予約されたということだ。大きなグループがいて列ごと予約したのだろうか?それにしても何故一列ずつ予約済と空席が交互になるようにしたのだろうかと、不思議に思ったのだ。


見に行った当日、映画館の人に聞いてみると、“この映画館は平坦で階段式にはなっていません。そのためスクリーンが見にくいという点を改善するため、一列ごとに空席として見えやすいようにしています。2週間ほど前から始めました。”というのである。これには驚いた。ほぼ半分の座席を使わないということだ。このスクリーン3は190名が定員なので、この措置によって半分の100名以下の席しか売れないことになる。


TOHOシネマズシャンテには3つのスクリーンがあり、いずれもロードショー館だ。スクリーン1は完全に階段式、スクリーン2は平坦に近い(ごく緩い傾斜があったかも)が、スクリーンの位置や大きさからかスクリーン3のような措置は行われていない。


3つのスクリーンがあるということは、初めはスクリーン1で上映し少し経ったらスクリーン2や3に移すことが可能だ。こうして、より効率的に上映をするようにしているのだろうと想像する。


それにしても、半分の座席をつぶしても見やすさを優先させるというのは、さすが東宝ということだろうか?それともクレームが結構あったということか?
映画観の座席は足のスペースがどんどん改善されている。十分に足を伸ばせる映画館が多くなっている。それなのに、きちんと腰かけて座高高く座っている人が時々いる。広いスペースを利用して、後頭部が椅子の背につくくらいにゆるく座っていれば、スクリーン3の問題も起きなかったかもと思うのだ。

 

 

 

 

Ⅱ 火曜から木曜に


たぶん3月ころから、TOHOシネマズの映画館でセゾンカードのCM映像が流されている。6人の外国人が、映画を見るのは月曜日だ、火曜日だと英語で論じあっているものだ。最後の一人がセゾンカードであれば、木曜日は一般料金が1200円になるとアピールするのだ。シニア料金であれば1300円なので、それほど真剣に見たり、聞いたりしていなかった。しかし、画面には木曜日と表示されるのに、発音はTuesdayと聞こえるのである。何度聞いてもサーズデーとは聞こえない。だれか声を上げないかと思っていた。
1か月ほど前から、急にThursdayと発音されるように変わった。
全く映画そのものとは関係ないが、毎回チューズデーと聞くたびになんだか変な気分になっていたので、やっと普通の気持ちで映画が見られるようになった。声を上げた方(いたんだろうか?)に感謝。

 

 

 

 

 

次号は、夏真っ盛りで今より暑くなっているだろう7月25日にお送りします。



                         - 神谷二三夫 -


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