いつか必ず春が来る。
眠りから目覚めて大きく深呼吸。
新しい息吹が感じられる。
さあ、映画館に出かけよう!
1/26~2/25の間に出会った映画は19本、大人の恋愛模様も含め、落ち着いた大人の映画が多かったという印象。
ゴールデン・スランバー
おとうと
食堂かたつむり
交渉人 THE MOVIE
サヨナライツカ
人間失格
オーシャンズ
フローズン・リバー
インビクタス負けざる者たち
新しい人生のはじめかた
渇き
ラブリーボーン
ウイニングチケット(古)
僕の村は戦場だった(古)
だれのものでもないチェレ(古)
抱擁のかけら
50歳の恋愛白書
カラヴァッジョ 天才画家の光と影
恋するベーカリー
① 抱擁のかけら
ペドロ・アルモドバル監督の映画の人物たちは、誰もどこかに欠陥をもっている。弱みを見せまいと振舞ってきた人間とそれをあばこうとする人間、その人間らしさを見守る監督の目がやさしい。
② カラヴァッジョ 天才画家の光と影
良い映画はいろんなことを教えてくれ、考えさせてくれる。圧倒的な画力で人物や生物をリアルに描くカラヴァッジョは、思ったことを口にし、自分の行動を世間に合わせることができない。その無頼の画家を等身大に、光り豊かに描く。
③-1 インビクタス 負けざる者たち
今や最高の監督クリント・イーストウッドの新作はマンデラのお話。大統領に就任、いかに国を一つにするかと考えていたとき、ラグビーのワールドカップが南アで開催される。いかようにも盛り上げられるところ、淡々と静かに語られる映画だった。
③-2 フローズン・リバー
車が走れるほどに厚く凍る川がある。国境であったり、白人と原住民を分ける境界のようでもあり、善と悪の境界でもある。自ら渡ってしまったその結末は、自分で引き受ける潔さに感動。
次点 新しい人生のはじめかた
われらの年代には超リアルな恋愛映画。ダスティン・ホフマンも含め今月のトピックス参照。
次の作品もお勧めです。
★ゴールデン・スランバー:本当の犯人やその動機がはっきり書かれないのが不満ですが、青春という不思議な時間を惜しみながらも大人になっていく物語です。
★渇き:神父という職にありながら吸血鬼となる主人公、大胆なテーマに合った描写、ソン・ガンホも凄いが母親役のキム・ヘスクには圧倒される。
★ラブリー・ボーン:命を奪われた少女の死後の世界がフルカラーで華麗に描かれる。スーザン・サランドンやレイチェル・ワイズやマーク・ウォールバーグらの中で、犯人役のスタンリー・トゥッチにはアカデミー助演男優賞をぜひ!!
★50歳の恋愛白書:日本題名は話題ねらいですが、実は女性の人生をじっくり描いた映画です。今月のトピックス参照。
★恋するベーカリー:最近好調メリル・ストリープが60歳を明るいものにしています。こちらも今月のトピックスを参照ください。
★人間失格:不思議な映画、主人公の女性遍歴がつづられる太宰治原作の映画化、妙に艶やかな画面に魅せられて、ストーリーを追うのは捨てた方がいい。
○ジェームズ・ブローリン
「新しい人生のはじめかた」で主人公ハーヴェイに代わって花嫁の父親役となったブライアンを演じていたのはジェームズ・ブローリン。
70年代にはかなり活躍していた。「面影」でジル・クレイバーグが演じるキャロル・ロンバードの夫、クラーク・ゲ―ブルを演じたり、
「カプリコン1」では火星着陸したことにされた後、逃げまどう宇宙飛行士を演じていた。息子のジョシュ・ブローリンは「ブッシュ」であのブッシュを演じていた。
今年のアカデミー賞は82回目、ハリウッドのコダックシアターで3月7日
(日)に開催される。今年の話題は:
●最多9部門ノミネートの「アバター」と「ハートロッカー」は元夫婦対決!
「アバター」の監督ジェームズ・キャメロンと「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグローは元夫婦、今も結構仲がいいという。さらに、キャスリン・ビグローが作品賞、監督賞を獲得すれば、初めての女性監督となる。
●今年の作品賞ノミネートは5→10本に倍増!
1943年以来、67年ぶりに作品賞候補作品が10本になった。
最近は候補作品に小さな芸術作品が多く、必ずしも一般的にヒットする作品が選ばれていなかった。アカデミー賞のTV放映もアメリカの視聴率は減少傾向にあるといわれる。そこで、少しでも有名な作品をノミネートし普通の人々の関心を引こうという作戦らしい。
●今年の司会者は二人、恋敵コンビ!
司会者はアレック・ボールドウィンとスティーヴ・マーティンの二人になった。日本ではボールドウィンのほうが少し有名だろうか、二人ともそれほど知られていない。スティーブ・マーティンはコメディアンとして一流、映画の主演も結構多い。2003年にはアカデミー賞の司会もしているので今回が2度目となる。アレック・ボールドウィンは90年代までは主演映画も多かったが最近は脇役が多い。アメリカではTVのコメディ番組に主演しているようで、今回のマーティンとのコンビもその線でとらえられているようだ。
この二人、「恋するベーカリー」ではメリル・ストリープをめぐる二人の男として、恋敵として共演していました。
3月7日には結果が出ますが、今年の私の予想は次の通りです。
ノミネートされた作品、俳優一覧に◎を付けました。
<作品賞>
アバター(公開中)
しあわせの隠れ場所(日本公開:2/27)
第9地区(日本公開:4/10)
17歳の肖像(日本公開:4/17)
◎ハート・ロッカー(日本公開:3/6)
イングロリアス・バスターズ(公開済)
プレシャス(日本公開:ゴールデンウィーク予定)
カールじいさんの空飛ぶ家(公開中)
マイレージ、マイライフ(日本公開:3/20)
A SERIOUS MAN(日本公開未定)
<監督賞>
ジェームズ・キャメロン(アバター)
◎キャスリン・ビグロー(ハート・ロッカー)
クエンティン・タランティーノ(イングロリアス・バスターズ)
リー・ダニエルズ(プレシャス)
ジェイソン・ライトマン(マイレージ、マイライフ)
<主演女優賞>
サンドラ・ブロック(しあわせの隠れ場所)
ヘレン・ミレン(The Last Station)
キャリー・マリガン(17歳の肖像)
ガボリー・シディベ(プレシャス)
◎メリル・ストリープ(ジュリー&ジュリア)
<主演男優賞>
◎ジェヅ・ブリッジス(Crazy Heart)
ジョージ・クルーニー(マイレージ、マイライフ)
コリン・ファース(Single Man)
モーガン・フリーマン(インビクタス 負けざる者たち)
ジェレミー・レナー(ハート・ロッカー)
<助演女優賞>
ペネロペ・クルス(ナイン)
ヴェラ・ファミーガ(マイレージ、マイライフ)
マギー・ギレンホール(Crazy Heart)
アナ・ケンドリック(マイレージ、マイライフ)
◎モニーク(プレシャス)
<助演男優賞>
マット・デイモン(インビクタス 負けざる者たち)
ウディ・ハレルソン(The Messenger)
クリストファー・プラマー(The Last Station)
◎スタンリー・トゥッチ(ラブリーボーン)
フリストフ・ヴァルツ(イングロリアス・バスターズ)
作品賞作品の後ろに日本での公開予定日を入れました。2~4月にかけて多くの作品が公開されます。どうぞ劇場でお楽しみください。
今月見た中に大人の恋愛映画が3本もあった。「新しい人生のはじめかた」「50歳の恋愛白書」「恋するベーカリー」主演者の現在(撮影時ではなく)の年齢でいうと、「50歳の恋愛白書」がロビン・ライト・ペンが43歳、キアヌ・リーブスが45歳と一番若い。原題に50歳は出てこず、主人公は50代というところから「50歳の…」は日本で勝手につけたようだ。ちなみに原題は「ピッパ・リーの私生活」で主人公の生き方を描いた映画だ。ピッパ・リーの夫役はアラン・アーキンで75歳、役の上でも約30歳上になっている。
反対にキアヌ・リーブスは役では35歳ということで、年下の男との恋愛という、これまた最近のはやりの1本でもある。年上の男との結婚から年下の男との恋愛と、主人公の人生からすればスムースな動きかもしれない。
「新しい人生のはじめかた」はダスティン・ホフマンが72歳、エマ・トンプソンが50歳だ。ダスティン・ホフマンの役は10歳くらいは若い60歳前後だ。
男、女どちらも、それぞれに人生でうまくいかない経験をしている。それが大人というもの、それを抱えながらも前に進む。ベストではなくともベターを受け入れていく。
「恋するベーカリー」はメリル・ストリープが60歳、スティーヴ・マーティンが64歳、アレック・ボールドウィンが51歳というトリオによるコメディだ。
60年代ドリス・デイがアラサー女性を主人公としたラブコメディの女王として君臨していたが、現在アラカンのラブコメディ女王はメリルではないだろうか?もちろんこの人はシリアス演技も凄いのだが。
「ジュリー&ジュリア」のジュリア・チャイルドは最高傑作、“ボンアペティ!”が忘れられない。今回のジェーンも軽さとシリアスさのミックスで見ごたえ十分。団塊の世代はアメリカでもベビーブーマーとして人口の多い世代。そこに向けて、作り手も自分たちの世代について作品を作り始めたということだろう。いずれにしても、甘いだけではない大人の恋愛映画は、これからもしばらく続くような気がする。
芸術作品というか、あらゆる創作物はその時代を何らかの形で表現してしまうとすれば、大人を主人公とする作品は今後も増えるのだろう。ときには甘~いお菓子も食べたいとは思うが。
「卒業」という作品は、大げさにいえば文学における「ライ麦畑で捕まえて」のように、1967年当時、青春を送っていた世代の心をわしづかみにした。
無目的に大学に行き、どこに向かうとも知れず卒業してしまう主人公。家庭の庇護のもと、自宅のプールに浮かんで見上げる青空の、なんだかはっきりしない虚しさ。そんな世代の持つ一種の虚無感を演じてデビューしたダスティン・ホフマン。
背が低く、美男子でもなく、全然カッコウ良いところのない主演者だったが、その親近感ゆえに見ている我々に他人事ではないという共感を呼んだ。1937年生まれの30歳だったが、まさに若く見える人だったのだ。「真夜中のカーボーイ」はびっこで病弱なチンピラ、ラッツォを演じた。社会に見捨てられ、ニューヨークの片隅でケチに生きている、さらにカッコウの悪い役である。この作品で演技者ダスティン・ホフマンの印象が出来上がった。受賞はしなかったとはいえ、まさにアカデミー賞ものの演技だった。
その後も、「わらの犬」「パピヨン」「大統領の陰謀」「マラソンマン」と話題作が続き、「クレイマー、クレイマー」ではついにアカデミー賞主演男優賞を受賞。さらに「トッツィー」「レインマン」(再度受賞)と続いた。「レインマン」が1988なので、「卒業」でデビュー以来20年余がたっていた。
一見ひ弱な主人公が愛する人を守るため暴力的な行動に出る「わらの犬」や、
妻に出ていかれて初めて子供との人間的なきずなを築く「クレイマー、クレイマー」、人間関係がうまくいかない自閉症の兄を演じた「レインマン」など、
多くの作品でどこかに弱さを抱えた主人公を演じてきた。
その後もコンスタントに映画には出演していたが、必ずしも話題にはならなくなっていた。「新しい人生のはじめかた」はそんな彼が主演した大人の恋愛ものだ。主人公は、結婚に失敗し、離婚してニューヨークで暮らす独り者。
夢としてあったプロのジャズピアニストにはなれず、広告に使われる音楽を作って生活している。娘がロンドンで結婚式を挙げるため、ロンドンに出かけるのだが…。長く続けてきた仕事がうまくいかず若手に追い上げられ、娘からは花嫁の父役は義父のブライアンにと言われと、うまくいかないことが続く。
主人公ハーヴェイは多くの人生の荒波にもまれてきた。
ダスティン・ホフマンが「卒業」のベンのその後の人生を生きてきたようでもある。教会での結婚式から略奪したエレーンとの結婚生活が10~年で敗れ(クレイマー、クレイマー)、若いころの夢だったピアニスト(ダスティン・ホフマン自身の夢)になれず、しかし、今や自分の経験を生かした自分なりの何かを作りたい。映画を見ながら、ダスティン・ホフマン本人と役が交差し、なんだか深く共感した。
40年後の「卒業」、40年後のダスティン・ホフマンだったのである。今回は作品に合わせて我ら団塊の世代中心になってしまいました。
では、また、来月。