2010年 9月号back

通勤電車が少し空いているのもあと少し、
子供向け&子供映画と出会えるこの季節、
子供の柔らかい感性に触れられるのもあと少し、
ということで、映画館に出かけましょう。


 

今月の映画

 7/26~8/25の31日間に出会えた映画は19本、久しぶりに本数を減らしました。
 相変わらず、洋高邦低が続いています。夏に特有の大作というより、小粒ながら味わい深い作品がそろいました、

<日本映画>

母情(古) 
手をつなぐ子ら(古) 
ちょんまげプリン
キャタピラー 
カラフル

 

<外国映画>

華麗なるアリバイ 
アイスバーグ 
ルンバ 
ソルト
ペルシャ猫を誰も知らない 
何も変えてはならない
フェアウェル さらば哀しみのスパイ 
セラフィーヌの庭
シルビアのいる街で 
瞳の奥の秘密 
魔法遣いの弟子
ようこそ アムステルダム国立美術館へ 
ベスト・キッド
ヤギと男と男と壁と

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

①-1 シルビアのいる街で
 街の空気を感じさせるスペイン人監督ホセ・ルイス・ゲリンの映画の舞台は東フランスのストラスブール。柔らかい日差しの中、歩き続ける主人公たち。揺れ動く街の風景を楽しみましょう。今月のトピックスも参照してください。

 

①-2 カラフル
 あの世に天使がいて、死亡した後、どこかで亡くなった人の体に斡旋してくれ、その人となって生きていくという森絵都の原作。「河童のクウと夏休み」の原恵一監督の新作アニメは、“ホームステイした気になって”というプレーズが効いてくる、中学生の世界とその周りの大人たちを描いた傑作です。


②瞳の奥の秘密
 退職した裁判所の刑事が小説を書き始める25年前の事件を思い出しながら。解決していなかった事件を紐解いていく時、自分の心の中も見つめ直し、今も続く思いへと話が進む。

 

③-1 ペルシャ猫を誰も知らない
 面白かった。ペルシャ猫がどんなふうに生きているか、知っていなかった。
ミュージシャンに加え、主人公ナデルという人物が面白い。今月のトピックスも参照ヨロ。

 

③-2 セラフィーヌの庭
 神の啓示を受けて絵を描くセラフィーヌ、木に抱きついて心を鎮め、
動物の血や教会の油などから絵具を作り、絵を描くことに命懸けなのに、
お金が入った時、急に買い物に走るのが妙に悲しい。

 

 

 次の作品も面白い、お見逃しなく!

 

アイスバーグ、ルンバ:ベルギーの道化師カップルというのが、こちらの想像を超えているが、言葉なく、動きで見せていくユーモアとぺーソスは見て得をする2本立て。今月のトピックスも参照よろしく。

 

ちょんまげプリン:侍を侍のままにしたのが成功のカギですね。怒鳴る男の真剣さが久しぶり。“プリンはどうするんだよ~”も上手く収まるラストも上手い。

 

フェアウェル さらば、哀しみのスパイ:事実に基づいてソ連のスパイの世界をじっくり描いた力作。渋いのに何とも軽さを感じさせるスパイを演じるのは俳優として出演したユーゴスラビアの監督エミール・クリストッツァ。

 

ようこそ、アムステルダム国立美術館へ:美術館を貫いて自転車道路が通っていたために、二転三転四転五転の顛末を描いたドキュメンタリー。どこの国も同じだなあと思う反面、街の風景を守る反対運動の粘り腰には感心。

 

ベスト・キッド:1984年に作られた原題“KARATE KID”のリメイク、同じ題名なのに今回は空手ではなくカンフー。なら、カンフー・キッドにすればよかったのにとも思うが、まあ、細かいことは忘れて楽しみましう。

 

ヤギ地男と男と壁と:アメリカ軍の中にあった超能力者部隊をユーモアを交えながら描いた快作。朝鮮戦争舞台のマッシュの雰囲気。キラキラ眼力がなかなかです。

 

 

 

Ⅱ 今月の子供映画

 

 「母情」「手をつなぐ子ら」は夏休みに合わせて編成された子供映画番組で見た古い日本映画。40、50年代の作品を見ていると、子供たちの健気な姿が印象に残る。親も生きるのが大変だった時代、子供はそのことを理解したうえで自分の言いたいこと、したいことを我慢して耐えている。親も子供たちのそうした姿を気にとめている。大人と子供が互いに立場を尊重しながら、生活をやりくりしながら生きている。

 

 平和で豊かな暮らしが続く現代では、大人と子供がそれぞれの立場を主張しあい、思いやる度合いが少ないようにも思える。そのことが生きることを一層困難にしているようだ。「カラフル」で中学生として生き返った主人公は、結構周りの大人を傷つけるがそのことで自分もまた苦しむ。



 


今月のトピックス:アラカルト

 

Ⅰ アベルとゴードンの洗練度

 

 ヨーロッパのお笑い映画としては、ジャック・タチのユーモアとカウリスマキのペーソスを感じさせるベルギーの二人組。「ルンバ」と「アイスバーグ」の2本は、ほとんどセリフはなく動きで見せる映画だ。二人は道化師と紹介されている。道化師のイメージとしてはサーカスのピエロか。ベルギーでどんな活躍をしているのだろうか?人生のある局面をとらえて、そこに面白みを見つけて、見せてくれる道化師。

 

 ドミニク・アベルとフィオナ・ゴードンのカップルに、ブルーノ・ロミ、フィリップ・マルツの常連(2本しか見ていないが)で作られた2本。

 

 無駄をそぎ落として、物事の本質とおかしみに迫る。言葉に頼らず動きで見せていく。時にこうした映画に出会うとゆったり気分で楽しめる。

 

 

 

 

Ⅱ 日本の漫画の浸透度

 

 「華麗なるアリバイ」はアガサ・クリスティの「ホロー荘の殺人」の映画化。この映画もフランスで作られた。このところ毎年というか、クリスティ原作映画がフランスで作られ、日本で公開されている。一昨年は「アガサ・クリスティの奥さまは名探偵」(原作は「親指のうずき」)昨年は「ゼロ時間の謎」(原作は「ゼロ時間へ」)と続き、「華麗なるアリバイ」が3作目だ。生誕120年のクリスティ映画がなぜフランスで作られるのだろうか?以前作られた「オリエント急行殺人事件」「ナイル殺人事件」などは、ほぼイギリス映画だった。クリスティの作品自体はイギリスの方があっていると思うのだが…。
何故、フランスで3作も作られたのか、情報をお持ちのかたはお知らせください。ストーリーテラーとして素晴らしいクリスティの原作であれば、どの国に翻訳されようと面白いだろうが。

 

 この映画のクレジットタイトルを見ていたら、“NARUTO”が出てきたので驚いた。少年ジャンプで長期連載されTVアニメも映画でのアニメ作品も作られている。かつて一度だけ映画版「NARUTO」を見ているが、ちょっとついていけなかったなあ。クレジットに出てきたのは、多分、若い作家が着ていたTシャツにプリントされていたのでは?と思ったのだが、見直していないので分からない。この作家を演じているのはマチュー・ドゥミで、「シェルブールの雨傘」のジャック・ドゥミと「幸福」のアニェス・ヴァルダの息子だった。

 

 


Ⅲ 街あるき

 

 NHKの「世界ふれあい街歩き」という番組は、まるでその街を一緒に歩いているような気にさせ、すれ違う人々に声をかけたくなるような、臨場感に満ちている。

 

 有名な都市から、日本ではほとんど知られていないような街まで、どんな街を取り上げても番組の姿勢は変わらない。有名な観光都市を訪ねたとしても、必ずしも観光箇所に立ち寄るとは限らない。街を歩くこと、その街の人々と出会うことを主眼にしているからだ。TV番組である限り、番組として成立するまでに準備は入念にされているだろうが、それを感じさせず、初めて訪れ、経験する感じが変わらない。

 

 「シルビアのいる街で」はシルビアに違いない(と思いこんだ)女性の後をつける、言ってみればストーカーの映画ともいえる。この映画を見ながら、スラスブールの街に揺れる光の中に主人公たちが歩くのが、「世界ふれあい街歩き」そっくりだと気が付いた。カメラが戻ったりするのも、何でもない方向に向いたりするのもよく似ている。今そこにあることの大事さを感じさせて、まるでTVのようでありながら、作者の姿勢がきっちり通っている。

 

 なにはともあれ、街歩きの楽しさを感じましょう。

 

 

 

 

Ⅳ イランの音楽

 

 イランでロックを演奏するのは大変だ。音を出すこと自体が難しく、練習自体を人の目(耳)を盗んでやるしかない。イスラム教という宗教的束縛もある社会で、自分たちの表現したいものを外に向けて表すのは勇気のいることだ。

 

 監督が隠し撮りなどをしながら17日間という短い期間で作ったという「ペルシャ猫を誰も知らない」は現在のイラン社会を描いて面白い。何より驚いたのは演奏されるさまざまなロックが、すべて世界のどの地域で演奏されてもおかしくない新しさ、洗練度を感じさせることだ。ヘヴィメタ、フォーク、ブルース、ラップなど様々な形のロックミュージックが、それぞれ最新(?)のレベルで演奏される。楽器を持っていることさえ大変な国なのに、こうした音楽を演奏している姿を見ると、現在の世界の(音楽)情報の在り方、国境なく広がる情報の在り方が実感される。ロックがあふれるこの映画、音楽映画として楽しめます。

 

 


Ⅴ キャタピラーの料金

 

 寺島しのぶがベルリン映画祭で主演女優賞を受賞、1963年「にっぽん昆虫記」の左幸子以来の快挙となったことで有名になった「キャタピラー」。若松孝二監督が「実録・連合赤軍あさま山荘への道程」に続いて発表した新作。バランスを崩す位に思い入れを感じさせる、60年代のにおいを感じさせる作品だ。

 

 ヒューマントラストシネマ有楽町でシニア料金を払おうとしたところ1300円といわれた。で、よく見てみると、一般・シニア1300円、大学生1000円、高校生500円となっている。

 

 これは若松監督の意思に違いない。1800円のところ1300円であれば随分集客力が増すように思うが、このことは映画館に来るまで知らなかった。
どの程度宣伝されたのだろうか?公式サイトを見ても強調して書いてあるわけではなく、ポスターや予告編を見ても気が付いていない。値段で釣ると見えるのは嫌だったんだろうか?

 

 シニア以下の若い人たちに見てもらいたいと、シニアだけは値上げ(ここ引っ掛かります)、その他は値下げという形だ。

 

 いずれにしても、映画の価格まで自分の意思を通す若松監督は立派。

 

 今月はここまで。

来月号をお送りするころは涼しくなっていますよね。

 


                         - 神谷二三夫 -


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