2011年 7月号back

雨の季節のど真ん中、
まだしばらくは鬱陶しい季節が続きますね。
雨に唄えばではありませんが、
雨の時期には映画を見れば、
心晴れ晴れ映画館。

 

今月の映画

 5/26~6/25の31日間に出会った映画は27本、アニメからバルセロナ舞台の悲劇までバラエティに富んだ作品、邦画:洋画は1:2の割合でした。


<日本映画>

手塚治虫のブッダ~赤い砂漠は美しく~ 
プリンセス・トヨトミ
マイ・バック・ページ 
星守る犬 
軽蔑 
大鹿村騒動記(試写会)
奇跡 
小川の辺(試写会)
三本指の男(古)

 

<外国映画>

四月の涙 
クロエ
モーツァルトの恋 
マーラー 君に捧げるアダージョ
アジャストメント 
バビロンの陽光
X-MEN ファースト・ジェネレーション
赤ずきん 
テンペスト
光のほうへ
アリス・クリードの失踪
スカイライン 征服 
愛の勝利を ムッソリーニを愛した女
プッチーニの愛人 
127時間 
ゲンズブールと女たち 
ラスト・ターゲット(試写会)
ビューティフル

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

①マイ・バック・ページ
 あの頃を思い出しながら、再び経験していくような感じを持たせてくれる映画、主役二人をはじめ出演者たちも時代に溶け込んで、抵抗なく見せてくれる映画を作った山下監督に拍手。

 

②-1 軽蔑
 田舎のボンボンがボンボン的に育った男と、ポールダンサーをしながら一人生きている女の結び付きは、古い話のレールに乗っているが、二人のビビッドな感情の動きが緊張感を持って描かれる。勝手に死んでゆく男を見取りながら女は強く生きていくだろう。

 

②-2 ビューティフル
 「バベル」「21グラム」のイニャリトゥ監督は、世界の虐げられた人たちを描いてきた。バルセロナに生きるウスバルは、後に生きる人たちのために心を砕く。異世界が見えてしまう彼は天使のようだ。

 

③-1 光のほうへ
 子供時代の兄弟が、アル中の母に変わって赤ちゃんの弟を育てる中、死なせてしまう。そのトラウマから抜け出せず、それぞれ負の遺産を背負いながら大人になり離れ離れに暮らす。なかなか光が見えず、社会の片隅で孤立していくて行く・・・残された兄と甥の生活に希望を見たい。

 

③-2 バビロンの陽光
 生まれた時から父を知らずに育った12歳の孫と祖母の父(息子)を探しての旅、長く政情不安定なイラク社会の中で、家族を探す人たちは多い。手探りで進んでいく二人の旅はストリートチルドレンや元兵士を巻き込んでいく。哀しくきびしい旅を描く画面は監督のセンスを感じさせる。

 

③-3 アリス・クリードの失踪
 イギリスから現れた34歳の新鋭監督、J・ブレイクリーのデビュー作は、自分で書いた練られた脚本と緊張感ある画面で見る者を飽きさせない。出演者は3人のみ、大スターはいないが面白い作品は作れる。

 

③-4 127時間
 人は生きるために何でもできる。これが実話であるところが凄い。

 

 

次の作品も面白い、ご覧ください。

 

四月の涙:フィンランドで1918年にあった内戦を舞台に、敵同士の男女がある機会に愛するようになるも…、珍しくもフィンランド映画です。

 

クロエ:ちょっとありそうなパターンです。夫の浮気心を試すため娼婦を雇う妻、サスペンスフルに描きますが、実はのところも怖い映画。

 

マーラー 君に捧げるアダージョ:19歳年下妻の不倫疑惑に悩まされ、アムステルダムにいたフロイトに相談に行くなんて話もちょっと面白い、画面の作りもちょっと面白い作品。

 

大鹿村騒動記:長野県にある大鹿村では300年も続く村民歌舞伎を上演している。上演までの5日間に村民を巻き込む

まさに騒動記。なんだか、軽い作りの不思議に居心地の良い映画です。

 

●X‐MEN ファースト・ジェネレーション:X‐MEN誕生までの物語は、大胆にもキューバ危機を物語の骨格に取り入れ、そうか、そうっだのかと思わせるのが面白い。

 

奇跡:子供たちの世界が気持ちよく描かれて、素直に子供たちに共感できる。大人たちも、一歩引いて子供たちの邪

魔はしない。

 

愛の勝利を ムッソリーニを愛した女:若いころ社会主義者であったムッソリーニを愛した女性の、そのために封印された悲劇の人生を描く。

 

ラスト・ターゲット:久しぶりのジョージ・クルーニー主演作は、イタリア舞台の殺し屋の話。一昔前のヨーロッパ映画のような肌あいを楽しめるちょっと面白い作品。

 

小川の辺:人気の藤沢周平原作の映画化作品、今年最初の作品はやはり拒否できない藩からの命令と、個人の事情との葛藤から生ずる悲劇。もちろん救いもある。

 

 

 

 

Ⅱ 今月の懐かしい人

 

★ジュリー・クリスティ
 “ちゃん”のつかない「赤ずきん」のあばあちゃんを演じていたのは、「ダーリング」「ドクトル・ジバゴ」のジュリー・クリスティ。アカデミー賞など多くの女優賞を得ている超有名女優、活躍の華々しかった~1980頃までの後、暫く静かな状態がありましたが、最近復活、「アウェイ・フロム・ハー君を想う」(2007)の認知症の女性を演じて、再び主演女優賞(アカデミー賞ではないが)を獲得。今回のおばあちゃん役でも眼力の力強さは流石。

 

 

 

 

Ⅲ 今月の北欧映画

 

 北欧映画が日本で公開されるのはそれほど多くはない。もちろん、アキ・カウリスマキのように独特の風合いを持つ人気監督もいる。かつては神と人間に厳しい眼を向けたイングマール・ベルイマンが代表的監督だったし、ラッセ・ハルストレムのように「マイライフ・アズ・ア・ドック」などの後、ハリウッドに行って活躍(「ショコラ」「HACHI」など)している監督もいる。

 昨年はベストセラーのミステリー「ミレニアム」の映画化作品3本が日本で公開された。(ハリウッドでのリメイク作がもうじき公開)が、それ以外に公開された北欧映画は3本、合わせて6本だった。ここで言う北欧はデンマーク、スウェーデン、ノルウェーのスカンジナビア諸国にフィンランドを加えた4カ国を指している。今月は2本の北欧映画を見たことになる。「四月の涙」「光のほうへ」の2本だ。

 北欧映画を見ていていつも思うのは、ある種の透明感、清涼感といったもの。それは、一つには住んでいる人間が少ないという物理的状態があると思うのだが、更には、人間関係にべたつき感がないというのも大きな要因の一つだろう。今年1月に公開された「ヤコブへの手紙」を見ても、登場人物の少なさは歴然、主要人物は3人、全員でも10人はいなかった。べたつき感がない代わり、人の苦悩はかなり深い。

 べたつき感がないのは、登場人物に周りの人に助けを求めたり、安易につながりを求めて行く人物が少ないというところにあるだろう。気温の低い環境の中で、他の国の映画であれば人との温かさのある関係が提示されるところ、北欧映画ではむしろ一人ひとりの殻の中で静かに耐えているという印象だ。

 今回の2本にも人物たちの一人で生きて行く強さがよく出ている。ぎりぎりのところまで耐えているストイックな生き方が、ラストの希望へとつながっていく。

 北欧にはもう一人注目の監督がいる。スザンネ・ピア。「ある愛の風景」や「アフター・ウェディング」など、常に人間関係の複雑さを描いている。「ある愛の風景」はハリウッドが再映画化「マイ・ブラザー」として公開されている。彼女の新作が8月に公開される。「未来を生きる君たちへ」、今年の83回アカデミー賞外国語映画賞受賞作だ。

 

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき

 

◎「ブッダ 赤い砂漠は美しく」はまるで要約版みたいに潤いのない物語運びこれって手塚?

 

◎「プリンセス・トヨトミ」はゲンズブールとミラクルの男女を交換しているが良かったのか?

 

◎アマンダ・セイフライドは今月「クロエ」「赤ずきん」、先月「ジュリエットからの手紙」と立て続けに3本の主演作。今注目の彼女ですが、「赤ずきん」ではサイフりッドとなっている。名前の読み方は正しい方(どっちでしょうか?)に揃えてほしいもの。

 

◎1942年作の「モーツァルトの恋」はドイツ映画、いかにもあの頃の雰囲気を感じさせる。

 

◎「星守る犬」は“泣いてください―明日の笑顔のために”が宣伝文句、泣けましたか?

 

◎「三本指の男」は片岡千恵蔵が金田一耕助を演じる横溝ミステリー、原節子のメガネ姿が見られるが、これがイメージが全然違う。その違いにちょっとびっくり。

 

◎大人の「赤ずきん」のあの結末はどうなんでしょうか?若い女性に対する狼ですけど。

 

◎若いころのムッソリーニが結構凛凛しい社会主義者だったと教えてくれる「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女

 

◎「127時間」はそれしかないよねの結末だが、やはり驚く。

 

◎「小川の辺」は淡々としたいい映画だが、時にタンタンの罠に陥る。いや淡々の罠に。「タンタンの冒険」は12月公開?

 

 

 


トピックス:アワ・バック・ページ & etc

 

Ⅰ アワ・バック・ページ

 

 川本三郎さんの原作を映画化した「マイ・バック・ページ」は団塊世代が大学生だった頃に重なっている。1969年1月の安田講堂陥落を振り出しに、主人公沢田と政治の季節が始まっていく。1967~71年の4年間名古屋の大学に通っていた私は、運動に打ちこんでいく人たちを見ながらもそちらへ行くことはなかった。その頃よく言われたノンポリの一人だった。60年代後半盛り上がった学生運動は多分安田講堂陥落で一つの節目を迎えていたのだろう。元々60年の反安保運動が学生だけではなく広く市民を巻き込んだ運動であったのに、60年代後半は学生運動と呼ばれるごとくほぼ学生に限られた政治活動だった。

 当時はベトナム戦争反対運動についてベ平蓮が市民を組織していたが、一般社会的にはこのベトナム反戦運動のほうが真剣に考えられていた。70年反安保運動は60年安保ほどの盛り上がりはなかった。反安保と大学解体をメインテーマにしていた学生運動は、やはり学生だけの運動だったのだろう。運動に参加もしないでこんなことを言うと怒られそうだが、外から見ているとどうも運動が本物ではないという印象を持ってしまった。この偽物感は、単に自分の知識不足によるところも大きいだろうが、こと政治に関することだけではなく、様々な事柄についても感じていたものだ。

 偽物感は周りに情報があふれ始めたことによるのかもしれない。今の情報と比べれば子供だまし程度の情報であったが、何事にも自信を持てないその頃の自分と相まって、何が本物かを見極められなかったのだろう。


 今回「マイ・バック・ページ」を見ていると、松山ケンイチの演じる梅山という男の怪しい雰囲気は、その後に出てくる劇場的犯罪の前触れのようでもあり、限りなく胡散臭いのだが、妻夫木の演じる主人公には本物に見えてしまう。映画を見ていると、あの頃自分が何を考え、感じていたかを思い出したりした。映画はあの時代の雰囲気を伝えていた 。

 その後、あさま山荘事件等を経由し、政治の季節は終わり、社会が80年代のひょうきん族的なものに続いていくのも、あの頃の偽物感が根にあったからではないか。そんなことまで考えてしまうほど、映画は団塊世代、少なくとも私の気持ちに揺さぶりをかけてきた。

 

 

 

 

Ⅱ 「スカイライン 征服」が始まった

 

 空から何筋もの光が降りて来て、ロサンゼルスの街は不思議な様相を呈していく。「スカイライン 征服」は、多分別の惑星からやってきたエイリアンが、無差別に人間を殺したり、誘拐したりする映画である。その徹底度は、何の説明もなく始まり、何の説明もなく終わるのだ。ほとんどエイリアンと一部の人間の戦いに終始する。今年アメリカ映画はこの手の映画が続きそうだ。元々アメリカ映画はSFを得意ジャンルの一つにしていて、SFと言えばエイリアンとの戦いが多く描かれてきた。そういう意味では、特に新しい事柄ではない。

 しかし、最近の映画の予告編を見ていると、この手の作品が目につくのである。まあ、予告編は大げさに、いいところだけ、アクションの多いところだけを集めているので、実際に作品を見たらそんな映画ではないという場合もなくはないだろうけど、破壊する場面があるのは間違いない。

 「スカイライン」に続くのは、「トランスフォーマー3」「世界侵略:ロサンゼルス決戦」この2作はほとんど同じように破壊しまくるのではないか?更に予告編的には「スーパー8」もかなりの破壊度。(この作品は全く違うかもしれないが)アメリカ映画の破棄衝動はどこからきているのか?どなたか教えてください。

 

 

 

Ⅲ インターネットで100円安い

 

 TOHOシネマズがインターネットでチケット予約すると、通常料金より100円割引きというキャンペーンを始める。概要は次の通り。

*7/15~9/30の上映作品をTOHOのチケットシステムvitを使って予約すると100割引

Vitのメリットは次の通り。

*24時間購入可能。(始まる15分前までらしいが)
*ピンポイントで差席指定ができる。(これは便利)
*ケータイならクレジットカードなし(ドコモ、auのみ)で決済可能

席の状況が事前に分かり、予約もできてしまい、更に100円引きとなれば、使わない手はありません。

 

 

 

Ⅳ シドニー・ルメットの死

 

 暫く前、4/9にシドニー・ルメット監督が86歳で亡くなった。舞台俳優を経て1950年代にTV界に転身、演出家として名をはせた後、1957年「12人の怒れる男」で劇場映画デビュー、幼少のころに移り住んだニューヨークをホームグラウンドとして、最後の作品「その土曜日、7時58分」(2007年)まで、50年間にわたり一級の作品を作り続けた。これほど平均値の高い作品を作り続けた人も珍しい。多くの作品はニューヨークを舞台にしていた。

 一般的に有名な作品には次の作品がある。
「12人の怒れる男」「女優志願」「橋からの眺め」「丘」「グループ」「セルピコ」「オリエント急行殺人事件」「狼たちの午後」「ネットワーク」「ウィズ」「評決」「グロリア」「その土曜日、7時58分」

これら以外に私の好きな作品は「質屋」「ガルボトーク/夢の続きは夢…」、特に「ガルボトーク」は幸福な映画だった 。

 ニューヨーク的なセンスと、職人的な映画で我々を楽しませてくれたシドニー・ルメットさん、ご冥福をお祈りします 。

 

 

 

 今月はここまで。

次は梅雨も明け、海の日も過ぎた7/25です。

 

<追伸>


 2日前にお送りしたばかりなのに、再び失礼いたします。

 実は昨日「スーパー8」を見ました。7月号の今月のトピックス Ⅱ「スカイライン 征服」が始まった の中で、見てもいないのに「スーパー8」をここに

入れてしまいました。言い訳的に付け加えれば(この作品は全く違うかもしれないが)を書いてもいましたが。申し訳ありません、「スーパー8」は全くの別物でした。

 スピルバーグがもっとも彼らしい作品群を作り続けていた1970後半~80前半にかけて、我々を常に驚かせてくれたあの楽しさ、新しさを思い出しました。「スーパー8」の監督は、J・J・エイブラムス(偶然にも今日が誕生日の45歳)で、製作者の一人がスピルバーグです。

 あの頃のスピルバーグ作品が好きな方は必見です。あの頃のスピルバーグ作品は、誰もが楽しめたと思いますが、この作品も同じ。

 見せよう会通信を読んで、見に行くのやめようかななんて思われたら困りますので、臨時増刊訂正号をお送りすることにしました。

お楽しみください。

 


                         - 神谷二三夫 -


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