2011年 8月号back

台風以来暑くはない日々を過ごせた関東地方ですが、
再び夏本番がやってきそうです。
しっかり暑くなりそう。
節電の夏、映画館で一緒に涼みましょう。

 

今月の映画

 6/26~7/25の30日間に出会えた映画は28本、再公開された古い映画も含め外国映画が圧勝となりました。
 子供が主人公の映画が多くなっているのは、夏休み狙いの公開のためでしょうか?


<日本映画>

さや侍 
アンダルシア 女神の報復 
東京公園 
遥かなる故郷 旅順・大連
あぜ道のダンディ 
コクリコ坂から 
Peace

 

<外国映画>

スーパー8 
ハングオーバー2 史上最悪の二日酔い国境を超える 
マイティ・ソー
蜂蜜 
陰謀の代償 NYコンフィデンシャル 
アイ・アム・ナンバー4
海洋天堂 
水曜日のエミリー 
ハリー・ポッターと死の秘宝 Part2
メタルヘッド 
いのちのこども 
フレドリック・バックの世界(アニメ4本)
メカニック(試写会) 
黄色い星の子供たち 
人生,ここにあり!
(古)赤い靴 
アントニオ・ダス・モルテス 
ミクロの決死圏 
山の王者
十月
モスクワ・エレジー

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

①コクリコ坂から
 スタジオジブリの新作は、1963年横浜が舞台の青春映画。テンポの良いカットつなぎ、耳に心地よい会話のリズム、団

塊以上の世代にこそ見てほしい懐かしい映画です。


②蜂蜜
 久しぶりに映画で見る森の緑の深さに感動した。森に暮らす6歳の少年ユスフの、返らない父を待つ心を優しく包む自然。美しい森の中で少年は少しずつ先に進む。懐かしく、深い感動を与えてくれるトルコ映画です。


③スーパー8
 8ミリフィルム、スーパー8が示すように、子供たちが自分たちで映画を作るその楽しさが、見る方にも伝わりました。久しぶりに良い宇宙人に出会いました。

 


 次の作品もお勧めです。

 

海洋天堂:カンフースター、ジェット・リーが自閉症の息子と二人で暮らす父親を演じて、静かな感動を呼ぶ作品。

 

水曜日のエミリア:愛していてもなかなか上手くはいかない息子付き男性との結婚生活は、つい口にしてしまうエミ

リアのきつい一言が原因か?結構リアルな現代劇。

 

ハリー・ポッターと死の秘宝Part2:ハリー・ポッターは突っ込みどころ一杯で好きとはいえませんが、最終作に至って敵味方がはっきり、これから見なくてもいいという意もこめて。

 

Peace:「選挙」「精神」に続く想田監督のドキュメンタリー、珍しくもほのぼの、ゆったり感あふれる作品になって

いるのは対象となる被写体(監督の義父母)の性格ゆえか。

 

いのちのこども:難病の手術のためイスラエルの病院にやってきたパレスチナ人の子供とその家族、イスラエル人の

医師を追ったドキュメンタリーは、真実の重さを教えてくれる。

 

黄色い星の子供たち:1942年パリに住むユダヤ人たちがいかにして集められその後の最終収容所まで如何に送られていったかを描くドラマ、感動的です。

 

人生、ここにあり!:いや~、イタリアって不思議な国。

 

 

 

 

Ⅱ 今月の懐かしい人

 

パイパー・ローリー
 「メタルヘッド」で少年の祖母を演じているのはパイパー・ローリー。
 パイパー・ローリーと言えば「ハスラー」ということで、実は「ハスラー」を見ていない私には懐かしいという権利はないのですが、その後「キャリー」であの母親を演じていたので書いてしまいました。流石に祖母役が演じられる年齢(79歳)になっていますが、全てを許し飲み込んでしまうようなおばあちゃんでした。

 

 

 

 

Ⅲ 今月のつぶやき

 

◎「さや侍」の笑わせる芸大会は、言ってみれば松本監督の本職分野であるはずなのに、面白くないのがほとんどだったなぁ。

 

◎「アンダルシア 女神の報復」という題名は映画本編では「アンダルシア」のみ、何故、女神の報復なのか?

 

◎「ハング・オーバー2 史上最悪の二日酔い国境を超える」はあまりの下劣さにゲンなり、第1作以上にひどい、脚本もへたくそ過ぎ。一部映画館で下劣ぶりがクリアに見える18歳未満禁止版を上映したとか。

 

◎井川遥が二役を演じた「東京公園」は、その二役のためにいろいろ誤解をさせてくれる。この役って、別の人が演じても良かったのでは。

 

◎午前十時の映画祭で見た「ミクロの決死圏」、CGなどない45年前の作品は、作り手たちの工夫が満載、脚本的にも映像的にも見所満載でした。

 

◎「メタルヘッド」の原題は「Hesher」と登場する性悪浮浪者の名前、この浮浪者はナタリー・ポートマン演じる女性に“何かのメタファーなの?”との言葉に過剰反応。作品の秘密だからか?

 

◎「人生、ここにあり」は、イタリアには精神病院がないらしいことを教えてくれる。ネットで調べてみると、1978年に法律ができ、3年前には公立の精神病院は全廃されたという。イタリア、凄い。

 

 


今月のトピックス:
日本の映画マーケットはガラパゴス?

 

Ⅰ 日本はガラパゴス?イン映画界

 

 世界の趨勢から取り残されてしまうガラパゴス化現象、
 このところ世界でヒットする映画が必ずしも日本ではヒットしない現象が見られるという。「世界でヒットするハリウッド映画が当たらない日本市場は健全か?」というタイトルでこの問題についての記事を掲載したのはキネマ旬報7月上旬号だった。世界的に公開されるハリウッド作品のヒットの仕方が日本だけ違っているというものだ。2007~2009年にかけて日本と韓国での観客数比較を行っている。

 

                韓国     日本    比率
2007 
300(スリーハンドレッド)  2,929,400  1,282,895  2.3
シュレック3          2,844,159   1,274,671  2.2
2008
カンフー・パンダ        4,673,009  1,647,446  2.8
アイアン・マン         4,316,003   774,300  5.6
ダークナイト          4,061,091  1,317,957  3.1
2009
トランスフォーマー/リベンジ  7,394,025  1,906,327  3.9
G.I.ジョー            2,666,475   862,777  3.1
トワイライト~初恋~      1,917,734   287,592  6.7

 

 日本の人口は韓国の約2.5倍ということを考えると、単純に考えれば人口に占める比率はx2.5ということになる。ちなみに、韓国でのヒットの仕方は世界での傾向と一致しているという。日本は高齢化が進み人口構成がかなり特殊、これに比べれば韓国は若い世代の比率がまだ高い。上に挙げた作品はどちらかといえば若い人向きの作品が多く、この人口構成の違いが結果に出たのではないかと記事では書いている。更に、日本の若い世代に日本映画の方を好む傾向が顕著と続いている。他のことでも目立つ内向的傾向がここでも見られるという訳だ。

 上の作品、アニメが2本、アクションが5本、青春もの1本となっている。アニメは日本映画にも多くあり、しかもコメディというのは案外国境を越えにくい。5本と多くを占めたアクションは、CG先行のアクションが飽きられ始めていた頃だろう。

 確かにハリウッド作品の多くでこの手のアクションばかりが目立つようになった頃で、アクションのための安易な脚本も目に付いた。だから、一概に日本での受け入れられ方がおかしいとは言えないが、分からないものは避けたいとか、字幕を読むのが面倒とかが聞こえてくると、ちょっとどうなんだろうとも思いますね。

 今月日本で封切られた「ハングオーバー2 史上最悪の二日酔い 国境を超える」は、その週のヒットベスト10にも入らなかったが、アメリカでは第1作以上のヒットになったと聞いている。まあ、あれだけつまらない作品を拒否するのは正しいとも言える訳で、ガラパゴスになっても仕方がないとは思うけれど、うして世界と嗜好が違うのか、もう少し考えてみたい。

 

 


Ⅱ UIP

 

 「マイティ・ソー」を見に行った丸の内ルーブルの前で、ビラ配りをしている人たちがいた。
 いただいたビラを見てみると、UIP映画閉鎖と解雇の真相と書いてある。

UIPと言えば、80年代後半から2007年の閉鎖まで、ハリウッド作品の多くを配給してきた会社、憶えている方もいるのでは。何しろ、パラマウント、ユニバーサル、MGM、ユナイトというハリウッド4社の作品を配給していたのでその作品数はかなり多かった。長い間洋画配給会社ではトップの成績をあげていた。どんな業界でも会社の盛衰はかなりの比率で起こる。一時は会社消滅の危機まであったパラマウントは最近息を吹き返し、再びパラマウント・ジャパンという会社を建ちあげた。ユニバーサルは最近は東宝東和という日本の会社に配給を任せている。

 ビラは、2007年にUIPが閉鎖になった時一方的に全員解雇になった人たちがパラマウント・ジャパンや東宝東和での雇用継続を求めたものだった。確かに数十年働いてきた人たちが一方的に解雇されたというのはひどい。明日から出社に及ばずというアメリカ型人切りをそのまましたんですねえ。ビラを配っていた方々は私と同年代の方が多かった。皆さん、長い間楽しい映画をありがとうございました。
 頑張ってください。

 

 

 

Ⅲ アナログTVの終わり

 

 昨日、ロシアの監督アレクサンドル・ソクーロフのフィルム傑作選で、「モスクワ・エレジー」を見に行ったら、始まる前に20分程トークショーがあった。フィルム・センター主幹の岡島尚志さんが“映画フィルムを捨てないで“とのお話をされた。

 今、映像はフィルムからデジタルという数値情報に変わりつつある。映画館にもフィルム上映以外にデジタル上映できる設備を持つところも出てきている。フィルムからデジタルが進歩という名のもとに進められている。しかし、これは本当に良いことなのだろうか?確かに、デジタルはフィルムの持つ様々な制約から自由になり、経済的にもメリットが多いようではある・・・等のお話があり、フィルムの持つ芸術性についていろいろ教えていただいた。

 その初めに、今日はアナログTVの最終日であること、デジタルへの移行はされてしまったが、デジタルのメリットのみが喧伝され、デジタルのデメリットや、アナログのメリットが議論されなかったのは残念だったと話された。この議論の仕方は現在の日本での物事の在り方を象徴しているようだ。議論が一方向からしかされず、はじめから結論ありの、そのメリットのみをマスコミは伝えている。確かに日本人はあまり議論は好きではないし、慣れてもいない。

しかし、原発の放射能がどこに、何に影響しているか分からない今、可能性のあるすべての方向から検討するのは大事だと思います。

と、映画とは関係ない話になりました。

 

 

 

Ⅳ 戦争映画の夏

 

 かつて、東宝は8.15シリーズと銘打って、毎年8月に戦争映画の大作を製作公開していた。1967~1972年と6年続け、もっとも有名なのは「日本のいちばん長い日」。今年の8月は2つの映画館(東京)で戦争映画特集が行われる。神保町シアター:戦争と文学 7/30~8/26 日本映画21作品を上映シネマヴェーラ渋谷:ナチスと映画 8/6~8/26 外国映画19作品を上映戦争について考えてみましょう。

 

 

 今月はここまで、

では、熱い夏をよろしく。


                         - 神谷二三夫 -


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