昨日から再び暑くなってしまった今年の夏、
残暑がこれからしばらくは続きそうですが、
節電のピークは乗りきれたようです。
それでも、涼しい日も感じられるようになってきたこの頃、
秋らしい芸術的な映画も公開されようとしています。
これからもやはり映画館。
7/26~8/25の間に出会った映画は33本、節電に協力して映画館での涼しさを楽しみ過ぎたようで、1日1本を超えてしまいました。
節電以外の要因は、二人の偉大な監督の作品に足しげく通ってしまったから。フリッツ・ラングとアレクサンドル・ソクーロフ、このお二人にもう一人トルコの監督、セミフ・カブランオールの作品も楽しみました。
それにしても、超極端になりました、日本映画と外国映画の比率が。更に、新作映画の方が少なくなってしまいました。
新作とした「ミルク」「卵」(カブランオール監督作)も日本初公開のためで、製作年から言えば少し古い。
行け!男子高校演劇部
トランスフォーマー ダーク・サイド・ムーン
ミルク
カンフー・パンダ2
ヒマラヤ 運命の山
卵
エッセンシャル・キリング
スーパー、 未来を生きる君たちへ
ツリー・オブ・ライフ
ペーパーバード 幸せは翼に乗って
南京!南京!(上映会)
この愛のために撃て
シャンハイ
(古)
サンライズ
栄光
イタリア麦の帽子
素晴らしい哉人生
愛の嵐
我が闘争
海の沈黙
海の牙
女は女である
(アレクサンドル・ソクーロフ)
ファーザー
サン
静かなる一頁
孤独な声
モレク神
エルミタージュ幻想
牡牛座 レーニンの肖像
(フリッツ・ラング)
マンハント
恐怖省
死刑執行人もまた死す
外套と短剣
① この愛のために撃て
すっきりしたアクション映画を久しぶりに見ました。上映時間は85分、満足感は超大です。最近のアクションは見る側に如何に衝撃を与えるかに凝り過ぎて、いつまでもどんでん返しが続く。そこがすっきり、しかもストーリーも面白い。もうじきロードショー終了ですが、お勧めです。
②-1 ツリー・オブ・ライフ
日常生活のある断片を積み重ね、ある家族の姿を描きながら、大きく言えば時の流れまでを感じさせる映画。ドラマを放棄し、美しい画面でつづる。何かを求めていく人の後姿が目に残る、画面には求道者のような雰囲気が。
②-2 未来を生きる君たちへ
アフリカの難民キャンプで医師の乗ったトラックを追っかけてくる子供たちの姿を見ながら、こんな風に純粋に車を追うという幸福と、デンマークの文明化された町に住む子供の幸福は…と考えていると、増殖していく暴力の連鎖が加速していく。非暴力を貫く父親…考えさせる映画だ。
③-1 ミルク、 卵
今月のトピックをご参照ください。トルコの監督、セミフ・カブランオールのユスフ物語の2本。静かな口調はビクトル・エリセのようでもある。
③-2 ペーパーバード 幸せは翼に乗って
2次大戦前のスペイン内戦からフランコ独裁へと続く1930年代末期、ファシスト権力は様々な形で人々を縛る。ファシスト、反ファシストの立場も複雑に入り組んでいる。10歳くらいの子供だったミゲルが80歳近くになるラストには感動。
新作が少ない割に見どころのある作品が多かったです。
次の作品もお勧めです。
●カンフー・パンダ2:カンフーはもともと動きが早いが、このアニメは一段と早い。その間に常にズッコケ的展開があるのが面白い。
●ヒマラヤ 運命の山:山登りをしない私でもメスナ―という名前は知っていたが、弟がいたとは知らず、ナンガ・パルバート登頂での悲劇も知らなかった。山岳映画はいつも緊張する。
●エッセンシャル・キリング:アフガニスタン、タリバン系なのか一人の男がアメリカ軍の移送中に逃走し、逃げる者、追う者の直線的な動きが描かれる映画。83分の短さの中にすっきり描かれる。
●行け!男子高校演劇部:上演作品「最後の一葉」のアイディアが秀逸で笑えるこの作品、軽い乗りで描かれる男子高校の姿がかなりリアルか。
8/21の日曜日、私の職場がある中野で「南京!南京!」の上映会があった。
題名から分かるように南京事件を題材とした映画である。南京虐殺はなかったなどという右翼からの宣伝(?)もあるためか、会場のなかのZEROホールに向かう道には警官の姿が目に付いた。駅からの10分ほどの道、近づくにつれ数が増した。右翼の妨害があるのだろうかと心配しつつ会場に着いたが、警官の数は多くなったものの、右翼の宣伝車はいなかった。
作品は2009年に製作、中国で公開されているが日本には来ていない。いままでにも、上映会での公開、商業ベースでの公開がトライされたが成功せず、今回が初の上映会となった。この日2回の、1日だけの上映だった。
作品は1937年の南京攻略が史実に基づいて描かれている。日本軍の行った虐殺は、建物に閉じ込めての放火、前進させた上で後ろからの大量銃殺、生き埋めなどが描写、女性に対する暴行、慰安婦問題も描写される。ナチス党員ジョン・ラーベが委員長を務めた南京安全区国際委員会の動きなど、いずれも史実に基づいたものだ。
この日のために来日した中国人の陸監督は、ここに描かれたものは全て様々な資料にあたって書いたもので、間違いはないと話していた。監督は戦争時にける狂気を主題に描いているため、日本兵の描き方に中国でも賛否両論だったという。あまりの騒ぎに3週間で上映禁止になってしまったとか。ラストには登場した実在の人物たちの生年/没年が表示された。あれだけの人々がかかわった事件、犠牲者の中に生き延びていた人がいても当然だ。日本兵の中にも生きていた、或いは生きている人がいることだろう。その人たちからの声はなかったのだろうか?
40歳と若い陸監督、日本の人にも是非見ていただきたいと言っていました。
どんなに嫌なことであれ、直視し、それについて考えることから始めたい。震災後の原発放射能についても、真実を知らなければその後の対策が立てられないのと同じだ。今も、日本では商業ベースによる公開は決まっていない。東京でオーディションされた日本の俳優も多数参加している、日本人が見てもほぼ違和感のない映画、一刻も早く公開され、多くの人に見てほしい。
◎1927年製作のサイレント映画「サンライズ」は、妻、夫、都会の女など一般名詞の登場人物が、表情豊かに伝えてくれる優しいドラマ。カメラが想像以上に動き、美しい画面で感動させてくれる。
◎アポロ11号の月面着陸が取り入れられていた「トランスフォーマー ダークサイドムーン」、キューバ危機が取り入れられていた「X-MEN ファースト・ジェネレーション」、CGによる荒唐無稽なお話の背景に、歴史的事件を取り入れるのが流行っているのか?確かに真実味が少し増したような気がするが…。でも、元々真実味はない話だよね。
◎普通の人が不幸に陥った時、何気なく見たヒーローに自分もなりたいと、手作りの衣装でクリムゾンボルトに変身する素人ヒーローもののコメディが「スーパー」。なかなか面白いが、レンチで殴って怪我させたり、銃で殺したりとなると、ちょっと飛躍しずぎ?
◎ちょっとべたすぎる、あまりにありふれた感のある「この愛のために撃て」という題名、もう少し何とかならなかったのでしょうか?
◎渡辺謙が存在感を示した「シャンハイ」、今やハリウッド女優でもあるコン・リーも頑張っていて、カジノで登場のシーンでは深いスリットからのぞく脚線美を見せるが、その後バックを正面から捉えた画では、デビュー作「赤いコーリャン」頃の力強さが垣間見える。
先月お伝えした通り、8月は戦争映画の特集上映がいくつかの映画館で行われた。その中で、シネマヴェーラ渋谷の“ナチスと映画”の特集に通った。ダブりますが特集で見た作品は次の通り。
・愛の嵐
・マンハント
・我が闘争
・海の沈黙
・恐怖省
・死刑執行人もまた死す
・海の牙
・外套と短剣
20世紀に記録された事柄で最も大きなものの一つがナチスだっただろう。色々な意味で人間である我々に影響を与え、今も我々を縛り、反省させ、社会のあり方を規定してきた。映画にも多くの題材を提供してきた。
元々、ナチスは映像の力を最大限に利用し、人々を先導してきた初めての権力と言われている。彼ら自身が自らの記録を撮り、見せることで人々を扇動してきた。中学生の頃(1960年代前半)、TVで多くのナチスの映像を見た記憶があるが、多くはそうした形で撮られたものだったのだろう、妙に力強く、一種魅惑的だったことを覚えている。
今回見た映画では「我が闘争」がそれに当たる。ヒットラーの著書名に合わせた映画で、1960年に作られたドキュメンタリー映画だ。しかし、記憶にあるTVで見た映像ほど魅惑的なものはなかった。作ったのは戦時中スウェーデンに亡命していたユダヤ系ドイツ人という。そのためだろうか、魅惑的な部分を極力出さないようにしたのではないか?人間には闇に誘われる部分がある。そこにつけ込んだのがナチスだった。
ナチスに対するレジスタンスは、多くの国で行われた。「海の沈黙」はフランスのレジスタンス映画だ。しかし、この作品には一切のアクション場面も闘争場面もない。屋敷の2階の部屋に住まわせてもらうドイツ人将校と、その家の主人の男性と姪の3名だけの出演、会話は全くなく将校の一方的な一人語りと、主人の思いのナレーションだけ。しかし、緊張感がみなぎる静かなモノクロ画面で圧倒する。ナチスの影響は人の心の奥深いところにまで達している。「愛の嵐」は1957年のウィーンを舞台に加害者、被害者の間にある、強い関係を描いている。
ドイツで映画を作っていたフリッツ・ラングはナチス政権の成立とともに、フランス→アメリカへと亡命する。
「マンハント」(1941)、「死刑執行人もまた死す」(1943)、「恐怖省」(1944)
と、戦争中に反ナチ映画を作っている。
映画の中の人物にも、映画を作る人たちにも、そして我々にも大きな影を落としたナチスという存在、その強さ、危うさを実感させてくれる作品の数々だった。
①フリッツ・ラング(1890~1976)
戦争中に作った3本の映画は、いずれもメリハリの利いたサスペンスにあふれた映画、影の濃い画面、すきりした筋運び、コンパクトにきっちり作られた楽しめる作品だった。ナチスに対する監督の思いは強かったのだろう、容赦しない感じがする。1946年に作られた「外套と短剣」はゲイリー・クーパー主演という訳ではないが、中盤以降ゆるみがあったかなあ。彼の作品としてはドイツ時代に作った「ドクトル・マブセ」「メトロポリス」「M」などの方が有名だ。
②アレクサンドル・ソクーロフ
1951年生まれのロシアの監督ソクーロフは、一般的には昭和天皇を題材にした「太陽」が有名だろう。レーニン(牡牛座)、ヒットラー(モレク神)と歴史的人物を主人公にした映画を作っている。この3作はいずれも人物がごく普通に描かれ、柔らかい印象を残す。デビュー作「孤独な声」の突出ぶり、ロシア・ドイツ・日本合作でもある「エルミタージュ幻想」の華麗さと、1作1作のテイストがかなり違う。「ファーザー・サン」のファンタジックで繊細な描写にも驚いた。人物の微妙な感情を画面に定着させているソクーロフの作品群、今「ファウスト」を製作中という。
③セミフ・カブランオール
1963年トルコ・イズミール生まれ。
最新作「蜂蜜」の公開に合わせ、ユスフ3部作の前作「ミルク」前々作「卵」も公開された。「蜂蜜」で6歳の男の子だったユスフは、「卵」で20歳前後、「ミルク」で30歳過ぎの大人だった。つまり、大人→青年→幼年とさかのぼって作品を作っている。主人公ユスフがどんどん純化、純粋になっていくような
面白さ。こういう手もあったんですね。今回私は逆の順序で見てしまったので普通の成長劇のようにも見えてしまう。いずれにしろ、詩的で、静かな情熱を秘めた映画を作るセミフ・カブランオール監督です。
多くの映画館が、階段式の座席になってきた。
前後のスペースもかなり広くなり、長い足でも安心して座ることができる。座高の高い前の人に邪魔されず、画面を見ることができる。映画館は随分映画を見やすくなってきた!!「ヒマラヤ 運命の山」には、いかにも山登りをしているような人たちが目についた。隣に座ったのは高齢の、しかし元気そうなご夫婦、クライマーの雰囲気が感じられた。緊張感に満ちた画面の連続にご主人はかなりの時間身を乗り出していた。
分かりますよ、その気持ち。暴力が増幅していく世界を描いた「未来を生きる君たちへ」は、正に身を乗り出してみる価値のある作品だったが、隣の人はそれとは関係なく、時々身を乗り出すのだった。こういう場面に出会うと、“後ろにも見ている人がいるよーッ”と心の中で叫んでしまう。どんなにドキドキしても、感動しても、腰が痛くても、身を乗り出さないように致しましょう。
今月号はここまで。
次号は9/25、2度の3連休の最期の日です。