2011年 11月号back

11月と言えば、
かつて映画界では多くの作品が短い期間で公開されていた。
海外の作品で、いろいろな事情で買い付けたものの、
なかなか公開できなかったものが、まるで処理されるように公開された。
多くの作品はなかなかに芸術的な、少し変わったテイストのものが多かった。
拾いものが多かったのである。
今や余分なものを買い入れる余裕がない配給会社、
今年はそんな風にはならないだろうか?
お正月を迎える前にちょっと目を凝らしていたい時期、
映画館で楽しみましょう。

 

今月の映画

 9/26~10/25の間に出会った映画は25本、芸術の秋本番の結果は如何に。
久しぶりに日本映画がかなり多くなりました。
 平均点が高いのも今月の特徴。飛び抜けたものはないかもしれませんが、どの作品もお勧めです。

<日本映画>

とある飛行士への追憶 
極道めし 
監督失格 
エンディングノート
ツレがうつになりまして 
はやぶさ 
僕たちは世界を変えることができない
一命
スマグラー おまえの未来を運べ
(古)天晴れ一番手柄 青春銭形平次 
がめつい奴

 

<外国映画>

親愛なるきみへ 
幸せパズル 
さすらいの女神(ディーバ)たち 
女と銃と荒野の麺屋
4デイズ 
猿の惑星 創世記ジェネシス 
ワイルドスピード メガマックス
アクシデント 
明かりを灯す人、
キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー
オペラ座の怪人 25周年記念公演inロンドン 
カウボーイ&エイリアン
(古)アンダーグラウンド
戦場にかける橋

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

 今月は順位を付けるのが難しい。それで、ジャンル別に分けてみました。
順位ではありません。それぞれ、違う面白さで楽しませてくれます。

 


ドキュメンタリー -1 監督失格
 前半というか、3/4くらいまでは個人の勝手な記録のような、個人的ドキュメンタリーにありがちなもので、退屈する部分もあったのだが、後半でぐっと持ち直したドキュメンタリー映画。


ドキュメンタリー -2 エンディングノート

 まるで脚本家が書いたかのような、上手い家族劇を見ているようなあまりに滑らかなできとはいえ、父親を知り抜いた監督が作ったからこそ、様々なことを感じさせてくれるドキュメンタリー映画。

 

 

ハリウッド式エンタテイメント -1 猿の惑星 創世記ジェネシス

 猿の惑星の初作は、俳優がメークして猿を演じ、感情表現などが高く評価された。今回の猿は全てCGだという。初作への謎解きが上手く描かれた作品。


ハリウッド式エンタテイメント -2 ワイルドスピード メガマックス
 2001年に始まったワイルドスピードシリーズが10年目を迎えスケールアップ、フラジルへ出向いてor流れついて、リオの貧民街を舞台にアクション、カーチェイスが爆発、B級味のまま一回り大きくなりました。


ハリウッド式エンタテイメント -3 カウボーイ&エイリアン
 誰が考えたんでしょうか、西部劇とSFの結合ですよ。昔、カナディアンロッキーとスイスアルプスというツアーを作りましたが、そのツアー(全く売れませんでした)よりは成功しています。何せ、ゴールドラッシュも盛り込まれていますから。

 

これぞ日本のお楽しみ -1 一命
 狂言切腹が流行ったという江戸時代初期、取りつぶしにあった大名配下の侍は生活困窮していた。そこで繰り広げられる家族会い、武士としての矜持、力強い画面で描かれる。


これぞ日本のお楽しみ -2 スマグラー おまえの未来を運べ
 漫画が原作らしい、いかにもそれらしい割り切り、テンポが素晴らしい。作り込んだ画面で、役者の芝居もバッチリ。良い意味で韓流映画のパワーのような、しかももっと品があるのだった。役者、みんないいよ、高嶋政宏でさえ。石井克人監督はもちろん!


これぞ日本のお楽しみ -3 極道めし
収監者たちが一番の楽しみとする飯の時間。生きることの根源部分がより認識されやすい監獄の中で、食べるという行為に命(?)をかける面白さ。それにしてもあのラーメン美味しそうだった。


これぞ日本のお楽しみ -4 はやぶさ
 堤幸彦監督は器用すぎるところがあって、どんな素材でもこなしてしまうようですが、これは実話自体が力を持つことをわきまえ、変な子手先を使わなかったところが成功しました。

 

やっぱりフランス! さすらいの女神(ディーバ)たち

 アメリカで火がついたというニューバーレスクというジャンル、その一座をTV界から追放された男がフランスの各地を引き連れ歩くドラマ。何んといってもショーの面白さと、それに見合った男の悲哀がぐっと胸に来る楽しい作品。


イギリスミュージカルの底力 オペラ座の怪人 25周年記念公演
 ロンドンでの初演を見ているのですが、それ以前に「レ・ミゼラブル」も見ていたせいか、今まで、今一つ乗りきれなかった「オペラ座の怪人」、今回見て改めて上手く作られた作品と実感。ドラマ的には後半が少し弱いかと思うけれど、歌曲は素晴らしい。終わった後、作曲家アンドリュー・ロイド=ウッバーの司会で、あの時代のロンドンミュージカルの多くを製作したキャメロン・マッキントッシュも舞台に、ちょっとばかり太めになったサラ・ブライトマンが歌い、さらにファントムを多分かつて演じた4人の俳優が歌うという豪華版。
その一人は、「レ・ミゼラブル」のロンドンオリジナルでジャン・バルジャンを演じたコルム・ウィルキンソン、これにも感動しました。一般的にはほとんど宣伝されずに公開されたため、私も偶然見つけて見に行きました。

 


 次の作品も面白いですよ。


親愛なるきみへ:自閉症の父親、自閉症のこども、主人公たちの周りには、人とのコミュニケーションに障害のある人たちがいて、ゆっくりじっくり接することの大切さを教えてくれる。

 

幸せパズル:珍しいアルゼンチン映画。50歳の主婦が主人公の映画は、自分の誕生日なのに、集まってくれた大勢の人たちへのサービスに追われる主人公を描くごとく、かなり古い男女の役割が浸透している国なんだろうか?ラスト、彼女は心では解放されたようだけれど…。

 

女と銃と荒野の麺屋:北京オリンピックの開会式を演出したチャン・イーモウ監督がその後に作った作品は、まるで技術点10点満点みたいな、きらびやかな作品。

 

アクシデント:まるでミスのない精密機械のような殺人集団が、あるきっかけで崩れた時、そのチームの一員である男は不条理劇に巻き込まれたような底なしの人間不信に陥っていく。

 

明かりを灯す人:キルギスの小さな村で明かりをつけること、電気を流すことを生業としている主人公と、村の人たちの姿を描くゆったりした作品ではありますが、ラストはかなり強烈です。

 

 

 

Ⅱ 今月の懐かしい人

 

★ヘンリー・トーマス
 「親愛なるきみへ」で自閉症の子を持つ父子家庭の父を演じたのは、「E.T.」で10歳でデビューし、主人公エリオットを演じたヘンリー・トーマス。
あれから30年、渋めの俳優になりました。どこかで見た顔とは思いました、ありがちな顔なので。あの少年だとは、映画のサイトを見て初めて知りました。


★ジョン・リスゴー
 「猿の惑星 創世記」で認知症の父親を演じていたのはジョン・リスゴー、「ガープの世界」で性転換した元フットボール選手を演じたのが有名。ちょっと変わった役で多くの作品に助演し、作品に深みを与える俳優ですね。「猿の惑星 創世記」でも彼なしには話は成り立ちませんよ。

 

 

 

Ⅲ 今月のつぶやき

 

◎ジグソーパズルで自分のある部分を解放した「幸せパズル」のラストは、どう解釈すべきですか?女性の意見お待ちしてます。

 

◎ショー部分だけでも見る価値のある「さすらいの女神たち」、特に巨大風船ゴムのあの芸は凄い。

 

◎「4デイズ」は実に緊迫感のある映画でしたが、ラスト近く一線を越えているところがあって、それはどうなんでしょうか? そこまでするかというのが実感。

 

◎「はやぶさ」は素直に感動したが、この映画館では上映の前に何故か渡辺謙の「はやぶさ」の予告編が流れた。はっきり言って、偽物感たっぷり髪型が。

 

◎「僕たちは世界を変えることができない」は金集めのためにイベントパーティをするのだが、こんなんだけで集めようとするんだなあと感心というか。

 

◎その「僕たち…」に出ていたリリー・フランキー、結構ヒットしている「モテキ」にも出ていたが、いや~、なんというかあまりにくさい演技、ぴったりしすぎの役柄がいけないのか?

 

◎闘いの場で初めてヒーローは生まれると教えてくれる「キャプテンアメリカ」、アメリカ人が今もヒーロー好き、戦争好きなのは、原因、結果?

 

◎さすがの「戦場にかける橋」、日・英・米それぞれの特徴をくっきり描いた脚本、アレック・ギネス、ウィリアム・ホールデン、ジャック・ホーキンス、早川雪州などの演技、ラストの虚無感、いずれも見とれてしまいました。

 

 

 


今月のトピックス:
ドキュメンタリーの力2 & ETC

(「ドキュメンタリーの力」は2009年7月号に載っています。今回同じ名前になりましたので 2 としました。


Ⅰドキュメンタリーの力 2 

 

 (すみません、ネタばれありです、ドキュメンタリーですが)

 「監督失格」はAV監督平野勝之がAV女優林由美香との東京~北海道自転車旅行を軸に2人の関係を描いたドキュメンタリー映画だ。監督の常なのか、こんなところも撮っていたんだという場面が多く出てくる。まあ、多分にプライベートフィルムで自分用に撮っていたのだろう。撮るのをやめることができないという感じか。そんな彼が撮っていなかったという場面が何回かあり、そんな時に由美香から“監督失格”と言われたのが題名になっている。

 プライベートフィルムを見せられるのは、あまり好きではない。自分のために撮っている場合が多いから。この映画でも3/4位までで終わっていたらつまらなかったろう。由美香という女優の気の強いわがままだけが目立って、なんでこんなものを見なければならないかと思うのである。

 しかし、彼女が亡くなった後、監督の心は揺れる。映画として作品に至るまで5年もかかってしまう。作品にしようとした過程で、はじめて彼女の不在を実感する。二人の関係は北海道旅行の後終わりを迎え、それから10年以上経っているというのに。そこで初めて号泣する監督、その生な感情を告白しながらフ

ィルムに定着しようとする。

 「エンディングノート」もほとんどプライベートフィルムである。次女である監督が以前より撮りためていたフィルムを含め、がんを宣告された父親が死にいたるまでを描く映画だ。総てを自分で仕切りたいという父親の性格が、彼女にこうした映画を作らせた。撮影している時そこまでは考えていなかっただろうが、すべてを撮り終えた時点で脚本がすぐ出来上がったのではないか。

 父娘という関係で性格を細かく知っているからこそ、父親の人となりを上手く活かし、まるで劇映画を見るように彼と家族の物語をかたることができた。ほほえましく、暖かく、しかも死という厳粛な時を迎える。プライベートフィルムのいい面が上手く引き出され見るものを惹きつける。

 プライベートフィルムはそれだけでは作品としてのドキュメンタリー映画にはならない。作者の伝えたいものが見る側に伝えられ、更に、予期せぬ感情の動きまで上手くドキュメントすることができれば成功である。

 


Ⅱ 飲み物はどちらか

 

 「オペラ座の怪人 25周年記念公演」はかなりぎりぎりに入ったのに、更に遅れて右隣に3人が入ってきた。そして隣に座った男性が“この飲み物を置きたいので…”と、私との間にある飲み物置きに置かれたペットボトルを指しながら言うのだった。“飲み物置きは左側ですよね?”などとも言うのだった。この人は他に置き場がないために“左側ですよね?”と言うのだったが、以前、飲み物置きの手前に書かれた席番を指しながら、“この飲み物置きは私のです”と言われたことを思い出した。指定席制の映画館が増える中、席番は左側に書かれていることが多い。

 今回、私の左側置き場は既に左に座った女性の飲み物が置かれていた。“右、左の決めはないですよ。両端の人がどちらに置くかで決まることもあります。私は他に置き場がないので右に置いたんです。“と返事をしたら、左の女性が“普通は右です”と決然と言いながらも、飲み物を空いていた左に移した。

今回はこれで終わったが、この問題は時々起る。基本的には右利きの人が多いので、右側に置いた方が取りやすいだろう。だから本当は映画館側で右側と決めてくれればいいのだが、声高に言うと、左利きの人を差別するように聞こえるとなるだろうか?

 書かれた決めがなくとも観客の常識として「右」を定着させるいい方法はないだろうか?飲み物右側キャンペーンを行いたいと思います。

 

 

 

Ⅲ 寝るな、寝るなら出て行け

 

 午前十時の映画祭で「戦場にかける橋」を見た時、左隣にぎりぎりに入ってきた人がいた。しかし、この人すぐに首が倒れはじめ寝ているようだった。

5分ほどたった時、突然“寝るな、寝るなら他のところにけ”と大きな声が響き渡った。声の主は寝ている人の左隣、私からは左に2つのところに座った人だった。これだけ堂々とした声で怒鳴った人は初めてだ。流石にその声に隣の人は起きた。“すみません”とも返事していた、小さな声で。その時、寝てもいいのにと思った。ただし、迷惑をかけなければ。寝たい映画だってあることだし。

寝る人の一番迷惑なことは、鼾だろう。しかし隣の人は鼾はかいていなかった。ということは、左に倒れて、左隣の人の肩にもたれかかったのだろう。右に来ていたら、怒鳴れなかっただろうなあ。午前十時の映画祭はこの手の問題と言うか、話題が多い。久しぶりに映画館に来るおじさん、おばさんが多いからだろうか?

 

 

 今月はここまで。

次は忘年会が話題になり始める11/25です。



                         - 神谷二三夫 -


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