2011年 12月号back

今年の気候は先が読めない。
最近まで異常に暖かく11月後半なのに20℃以上、
と思ったら翌日は最低気温が10℃以下、
この動きにはあたふたしてしまう。
落ち着けるのは、ある程度環境が同じの、
そう映画館!!

 

今月の映画

 10/26~11/25の31日間に出会えた作品は31本、
東京国際映画祭、東京フィルメックスという2つの映画祭での各1本計2本を含み、かなりバラエティに富んだ作品がそろいました。

<日本映画>

サラリーマンNEO 劇場版(笑) 
ステキな金縛り 
ハラがコレなんで
東京オアシス 
サウダーヂ 
アントキノキモチ
(古)キクとイサム
にっぽん泥棒物語 
スパルタの海 
しとやかな獣

 

<外国映画>

パレルモ・シューティング
ミッション:8ミニッツ
三銃士 王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船
フェアゲーム
ゲーテの恋~君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」~ 
ウインターズ・ボーン
マーガレットと素敵な何か 
やがて来る者へ 
密告・者 
1911
家族の庭 
ラビットホール 
マネーボール 
コンテイジョン
インモータルズ 
アンダーコントロール 
孔子の教え 
ラブ&ドラッグ
50/50(試写会)
アウトサイド・サタン(東京国際映画祭)
オールド・ドッグ(東京フィルメックス)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

①パレルモ・シューティング
 デュッセルドルフで活躍するカメラマンが、“母なる港”パレルモで死の影と戦うヴィム・ヴェンダースの新作。美しい画面で主人公のさまようパレルモを描くヴェンダースの平易な難解さが心地よい。

 

②-1 ウインターズ・ボーン
 アメリカの中西部ミズーリー州の田舎を舞台にアメリカの貧困が描かれる。ほとんど希望のない中17歳の少女が家族のために、一族の闇と戦う。

 

②-2 サウダーヂ
 甲府を舞台に現代日本の地方都市の姿が、まるでドキュメンタリーのように描かれるドラマは、土方、ラッパー、ブラジル人と入り乱れ、希望もなく重いテーマなのに、不思議な力も与えてくれる。

 

③ハラがコレなんで
 いや~、妊婦のヒーローがケッサク、しかも粋じゃない“粋”が人生の指針だったりして。スカーレット・オハラのご気楽版日本人みたいな主人公。

笑える。

 

 

 

 今月はお勧めもたっぷり、ご覧ください。

 

三銃士 王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船:ベネチアの美しい空撮から始まるこの映画、飛行船で一層派手に。マシュー・マクファディンはいい声をしてる。

 

フェア・ゲーム:CIA職員であることをリークされてしまったことで起こるサスペンス、これが実話の映画化ということで、全ブッシュ政権のひどさが明らかに。

 

ゲーテの恋~君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」~:「若きウェルテル…」がベストセラーになる、その現象の在り方も面白いし、本になるまでの経緯もそうだったのかと勉強になりました。

 

サラリーマンNEO劇場版(笑):最近のNHKはかなり変わってきたと思いますが、そうした作品の一つが映画になりました。違和感なく、嫌みなく楽しめました。

 

ステキな金縛り:50周年の三谷幸喜は作劇は流石に上手い。如何にも舞台劇的な劇の飛び方が時々気になりましたが、笑えます。

 

密告・者:警察の犬になる者と、犬を操る刑事、両者の苦悩を描きながら、見るものをドキドキさせる香港サスペンス。

 

1911:辛亥革命の利1911年を描く100周年映画は、ジャッキー・チェン出演100作目でもある。流石のジャッキーもアクションはかなり控えめ、落ち着いた映画です。

 

家族の庭:マイク・リーは日常生活の中の人間感情の細かい動きを描く。今回特に凄いのは母の同僚の女性のみじめな様子ですが、いずれにしろ面白い顔満載。

ラビットホール:子供を失った悲しみからなかなか抜け出せない夫婦劇、舞台劇のようで、舞台の方が良かったかもとも思った。

 

マネーボール:アメリカの野球界はGM同士の簡単な電話でトレードが決まってしまうのが、主人公監督の野球道以上にちょっとショッキング、普通の職場の在り方もこんなもの?

 

コンテイジョン:映画作りが上手くて、その滑らかな語り口に乗せられて見てしまう監督が何人かいるが、ソダ―バーグ監督もその一人。今更の感染ものですが、結構楽しめた。

 

インモータルズ:何せ、あの空中で闘う古代戦士たちのポスターが何んとも見てみたい気にさせる。ギリシャ神話がこんなにもアクティブに暴力的に描かれて、生きることの激しい形が実感できる。

 

アントキノキモチ:これ、なかなかまじめな青春劇、その中に恋愛もあるという感じ。“元気ですかっ?”が響いてきます。

 

孔子の教え:最近改めてチョウ・ユンファはなかなか凄いスターだと思う。孔子があんな風に彷徨いながら戦国の時代を生きていたとはこれも感心。

 

50/50:27歳にしてがんを宣告された主人公(脚本家の実体験らしい)が恋人、友達、家族と如何に生きていくかが…。悲劇と喜劇が上手くミックス、主人公2人の男優が上手い。

 

 

 

Ⅱ 今月の懐かしい人

 

ジョージ・シーガルとジル・クレイバーグ
 「ラブ&ドラッグ」で主人公、ジェイク・ギレンホールの両親を演じていたのは、ジョージ・シーガルとジル・クレイバーグ。ジョージ・シーガルと言えば「バージニア・ウルフなんかこわくない」のいじめられる若い学者「ウィークエンド・ラブ」のロンドンのサラリーマンを演じた普通の人が似合う俳優。
 随分久しぶりに出会いました。今年77歳で、年相応になっていました。ジル・クレイバーグは「結婚しない女」が有名、その前にはクラーク・ゲーブルとキャロル・ロンバードを描いた「面影」でロンバードを演じていた。彼女も久しぶりだったが、調べてみると2010/11/5に66歳で亡くなっていた。
ご冥福をお祈りします。

 

 


Ⅲ 今月の古い作品

 

スパルタの海
 1983年に作られたこの作品は今まで公開されることはなかった。当時話題になっていた戸塚ヨットスクールを題材にしているが、その校長戸塚宏氏が公開を前に逮捕されたためお蔵入りになってしまったのだ。28年後の今年やっと公開された。
 当時から戸塚ヨットスクールの過激な指導がマスコミで取り上げられていた。あの頃大きな社会問題は家庭内暴力だった。今のDVと違い、子供が親・兄弟にふるう暴力が問題になったのだった。そうした子供たちを立ち直させるということで評判になったスクールは、かなりの体罰を使いつつ自立できる子供に仕立て上げていた。映画はその実態をかなり細かく描いている。戸塚校長を演じる伊東四朗以下、俳優陣も熱演している。

 驚いたのは何度も出てくる海でのヨット訓練の映像、その背後に流れる音楽がもろ青春映画そのものだったこと。青春映画にそのまま使われても違和感のない明るい、心弾む音楽だった。ここだけはこの映画の調子とは違和感を感じさせるものだった。

 監督は西川克己、1960年代日活の青春映画を多く作り、吉永小百合の「伊豆の踊り子」などを手掛けた。一旦TV界で活躍の後、ホリプロと組み山口百恵の「伊豆の踊子」などを作っている。この映画を見ていると青春映画的躍動とTV的暴露趣味が見られ、確かにこれは西川監督作品だと感じさせる。いずれにしても、映画が公開されたことは賞賛されるべきだろう。

 


■にっぽん泥棒物語
 ラピュタ阿佐ヶ谷という映画館で「世紀の大怪優FANTASTIC伊藤雄之助」と銘打って伊藤雄之助出演作30本が上映されている。12/3まで約2ヵ月間の特集上映だ。
 伊藤雄之助といえば馬面が有名で、一度見たら忘れられない印象を残す。その存在感をもって、癖のある脇役を数多く演じた。ウィキペディアを見ると60歳没とある。

 にっぽん泥棒物語は東北を舞台に戦後から60年代前半までの、かつて泥棒しか職業がなかった頃の泥棒を主人公に、社会的視点も織り込んだ山本薩夫監督の喜劇作品。

 伊藤雄之助は例によって癖のある刑事を演じて、ずるい感じが画面に登場するだけで分かる。泥棒の三國連太郎も相当に怪しいが、この刑事の権力に寄り添うような悪ぶりが記憶に残る。

 

 

 

Ⅳ 今月はコレなんで

 

 「ハラがコレなんで」を見た時、石井監督の短編2編が同時上映された。
「ウチの女房がコレなんで」「娘の彼氏がコレなんで」の2作、ユナイテッドシネマとCS映画専門チャンネル・ムービープラスの製作らしい。これが面白かった。
 ほとんど落語を聞いているような感じ。娘が彼氏を連れてくることをテーマに、親たちが準備をする「ウチの…」、実際に彼氏が来てからの「娘の…」、どちらもテンポがよく笑いのつぼを外さない。

 この2短編を見て、「ハラがコレなんで」の評価も上がった。

 

 

 

Ⅴ 今月のつぶやき

 

◎迫力ある描写でドキドキさせる「ミッション:8ミニッツ」は、しかし、こんな設定あり?という疑問が残った。

 

◎同じ同盟国だからとそんなことはなかったんだろうと思っていましたが、2次大戦中、ドイツはイタリアにも侵攻したことを「やがて来る者へ」で知った。

 

◎同じ味が続くと流石に人は飽きてくるなあと、「東京オアシアス」の小林聡美を見ながら思うのだった。

 

 

 

 


今月のトピックス:情報の伝わり方&ETC

Ⅰ 情報の伝わり方

 

 この1カ月の間に立ち見となった映画館に2回出会った。
  11/13(日)12:40~ サウダーヂ
  11/23(水・祝)14:15~ ラブ・アゲイン
 この2作品、皆様ご存知でしょうか?

 私もそれほど知っていたとはいえない。特に「ラブ・アゲイン」は時間の都合でこれくらいしか見る映画がないという状況で、当日ネットの映画案内で探して出かけたくらい。好きな喜劇役者スティーヴ・カレルが出ていたので出かけたのだが、立ち見と言われ、既に予告編が始まっていた「ラブ&ドラッグ」を見たのだった。

 様々な要因があって、満員という状態になったのだろう。一つには休みの日であり、一つには劇場がそれほど大きくない(92席と62席)ことであり、一つには公開されている劇場が少ないということがあり、「サウダーヂ」は甲府が舞台で偶然に山梨県人が押し寄せたかもしれないし、「ラブ・アゲイン」は「ラブ&ドラッグ」と一緒にラブ・ラブ割引をしていたからかもしれないという、こじつけの理由は考えられるのだが、どうしてこれらの作品を見たい人が多かったのかという根本の理由が分からない。

 とあるサイトで掲示されている注目作品ランキングで、両作品とも10位には入っていない。公開5日目の「ラブ・アゲイン」はまだ公開間もないからと言えるが、「サウダーヂ」は公開後23日目だったのである。こうなってくると、むしろ見た人の口コミが働いたという気もしてくる。口コミの伝わる速度は昔に比べれば段違いに速い。あっという間に伝わると言っても間違いではない。それは勿論ネット、ツイッターなどの力による。ツイッターは多くの人が見ているんですねえ、多分。

 その中で、どんな点が人を見に行こうと気にさせたのか?見ていない私には分からない。何がどうなっていれば、人は見に行こうという気になるのか、どなたか教えてください。情報の伝わり方はどんなふうだったのか、これが分かれば、映画に限らずいろんなものをヒットさせることができる。

 

 


Ⅱ 日本の力?

 

 外国映画で日本製品が出てくるとそれなりにうれしいものだ。以前にも書いたが、良く見るものは昔はNIKONが圧倒的だったが、今はVAIOやPRIUSが多い。

 オークランド・アスレチックスを舞台に、その監督の野球哲学(?)を中心に描いた「マネーボール」には、松井秀喜が出てきた訳ではない。試合終了後ロッカールームで選手がカップヌードルを食べていたのである。アメリカの野球チームのロッカールームにはカップヌードルが常備されているのか?自動販売機があるのか?まだ予告編しか見ていないが、加瀬亮が自然で美しい英語を話す「永遠の僕たち」、その中で主人公の女性が言う、“自分の葬式には、タコスやラーメン、ピザとか…”というセリフが出てくる。驚いた。舞台はアメリカのはずですよ。その中のセリフにラーメンが、ピザやタコスと同等に出てくるとは。
 最近、ラーメンが世界にいろんなところでブームのようにヒットしているとは聞くが、本当だったんだなあとうれしくなりました。

 


 今月はここまで。

 

 12/1は映画の日、この日を皮切りにお正月映画が公開されます。
年末から年明けにかけて色々な映画が楽しめる季節です。映画館にお出かけください。



                         - 神谷二三夫 -


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