急に真夏がやってきました。
と思ったら、いったん寒くなったりしてますが。
今まで比較的涼しかったので、
夏はやっぱり暑いのがいいという気持ち。
映画はやっぱり映画館がいいという気持ち。
6/26~7/25、東京では梅雨とは言え雨の少なかった30日間に出会った映画は30本、邦・洋の比率は古い映画も含めて約1:2、夏映画前哨戦としてはなかなかの作品が沿いました。
グスコーブドリの伝記
死刑弁護人
苦役列車
海猿Brave Heart
ヘルター・スケルター
おおかみこどもの雨と雪
(古)にっぽんのおばあちゃん
私は2歳
母情
鰯雲
珍品堂主人
女は抵抗する
きっとここが帰る場所
アメイジング・スパイダーマン
ビッグ・ボーイズ
少年は残酷な弓を射る
クーリエ 過去を運ぶ男
崖っぷちの男
ベルフラワー
さらば復讐の狼たちよ
だれもがクジラを愛している
ぼくたちのムッシュー・ラザール
リンカーン弁護士
ローマ法王の休日
汚れた心
(ホセ・ルイス・ゲリン映画祭)
ベルタのモチーフ
影の列車
イニスフリー
工事中
(古)ハスラー
多くの作品が揃ったとはいえ、圧倒的な作品はありませんでした。
ちょっと無理やり1位にした感じ。
① 崖っぷちの男
無理やりといっておきながら、どきどきスリル満点の映画らしい映画です。変などんでん返しが無く進むお話もよくできていて、嬉しくなる結末です。
② おおかみこどもの雨と雪
細田守監督は前作「サマーウォーズ」で日本の家族のあり方を描いて、アニメ作品で実写作品より深い感動を与えてくれた。新作は狼人間の密かな存在を子育ての観点から描いている不思議な作品。
③-1 アメイジング・スパイダーマン
スパイダーマンがまた映画化されました。前回のトビー・マクガイア主演の3作は2002~7に作られておりまだ5年しか経っていない。それにしては、案外新鮮に感じたのは結構丁寧な脚本で、おばさんの描写が上手いのとスパイダーマンの飛び方も面白く楽しめました。
③-2 さらば復讐の狼たちよ
「鬼が来る」で監督・主演したチアン・ウェンが再び監督・主演する新作は、中国が混とんとしていた1920年を舞台に、だまし合いを含めアクション満載、笑い満載、の快作。それにしてもちょっとひどい、手あかの付いた日本題名です。
次の作品も面白いです。ご覧ください。
●ビッグ・ボーイズ:原題はThe Big Yearで自己申告で競う年間に何羽の鳥を見たかの競技会の名前、大きな男の子とは何の関係もありません。ジャック・ブラックだけがちょっと太ってますが。大人になりきれない男たちの意味で名付けたらしい。お勧めの喜劇です。スティーヴ・マーティン、オーウェン・ウィルソン共演、製作にはベン・スティーラーが入っています。アッツ島は初めて見ました。
●少年は残酷な弓を射る:舞台はアメリカですが、何故かイギリスと勘違いしてしまう。少年が子供の時の方が怖いような。
●ぼくたちのムッシュー・ラザール:難民としてケベックにやってきたラザールが資格も持っていないのに先生になってしまうのが凄い。そして突然の解雇、ちょっと立ちすくんでしまいました。
●リンカーン弁護士:表も裏も知り尽くした弁護士が活躍するマイケル・コナリ―原作の映画化。彼の裏をかく犯罪者との駆け引きなど、楽しめる作品です。
●死刑弁護人:凄い題名で、題名だけではアクション?などと思いがちですが、実は安田弁護士を追ったドキュメンタリー。麻原彰晃、林眞須美、光市母子殺害事件の元少年など。名前だけは知っていましたが、こういう人がいなければ困るのだと思わせてくれました。
●苦役列車:よくぞこれほどと思ったが、これは芥川賞を取った原作自体がこうなんでしょうね。それにしても、森山未来がすっかりなりきって汚い。
●ローマ法王の休日:この題名ににんまりしたのは、予告編を見た時。
新しい法王様が逃げ出してローマの街へという訳で、法王を王女に変えればヘップバーンの名作に。久しぶりに日本題名の傑作ですね。本編も面白いです。
●汚れた心:日本の敗戦直後のブラジルの日系移民の村を舞台に、日本帝国を守ろうとする多数派と、敗戦を認めようとする少数派の戦いというより、多数派の横暴を描いて慄然とさせる。 情報が伝えられない中、日本帝国が負けるなどあり得ないとする多数派の怖さを鋭く描く映画を作ったのはブラジル人監督ヴィセンテ・アモリン、伊原剛志、常盤貴子、奥田瑛二が主演するブラジル映画。
★サリー・フィールド
「アメイジング・スパイダーマン」でピーター・パーカーのおばさんを演じていたのは、アカデミー主演女優賞を2度受賞しているサリー・フィールド。
最初に受賞した「ノーマ・レイ」の印象からでもないが、子供っぽい顔の元気印の女の子だったが、さすがに年齢相応の落ち着きを見せ、今回のスパイダーマンの一つの見どころにもなっている。
★ブライアン・デネヒー
「ビッグ・ボーイズ」でジャック・ブラックの鳥追いにあまり賛成的でない父親を演じていたのは、「コクーン」で老人たちを宇宙に送り出していたブライアン・デネヒー。100kg超えの巨体で目立つこと必至の俳優。ビッグ・ボーイとは彼のことかと思うほど。タフな刑事役も多いですね。悪役も上手い。
余程の映画ファンでなければ、ホセ・ルイス・ゲリンという名前は知らないと思いますが、スペインの監督、1960年バルセロナ生まれの52歳です。2年前日本でも公開された「シルビアのいる街で」の監督です。ホセ・ルイス・ゲリン映画祭が、東京の映画館イメージフォーラムで開かれました。
6/30、7/01、7/02の3日間に上映された全8本の各作品の後には監督のトークがありました。
初日、映画館を勘違いして違うところに行ってしまいましたが、必死でイメージフォーラムに向かい、開始35分前の10:25に着いた時は長蛇の列。それでもぎりぎり椅子確保ができたのでした。
今回トーク付きで見たのは「ベルタのモチーフ」「影の列車」「イニスフリー」の3本。このトークが面白かった。質問されると、ぼそぼそと話し始めるのだが、何だか質問事項に関係なさそうなところから始まり、最低5~6回は通訳さんと入れ替わりながら話し、最後はきっちり回答をしている辺りが頭が良さそう。スペイン人にしてはあまり大きな声ではないが、よくしゃべる。デビュー作「ベルタのモチーフ」を作った22歳までは、一人で実験映画的な作品を作っていたとか。22歳で初めて集団芸術たる映画の集団製作する時の不安とか、
しかし集団での製作は楽しかったとか・・・。
30年間で8本と寡作な作家です。
「シルビアのいる街で」を見た時、ほとんど街歩きのような映画と見せよう会通信でも書きましたが、彼にとっては街も含めた風景が一番重要なテーマということだった。その風景の中で聞こえてくる音も大事にしているという。
今回見た作品の中では、「ベルタのモチーフ」が一番気に入りました。
なお、今回の映画祭の作品は上のベストスリーに入れていません。
(すみません、今月は古い作品についてが多いです。)
●ショーン・ペンは上手い役者だと思いますが、女装の意味がよく分からない「きっとここが帰る場所」は、20年も歌手の活動をしないで資金管理に明け暮れるというのも何?という感じです。結局父親との愛情のすれ違い物語ですよね。
●「鰯雲」を見ていると淡島千影がいかに上手いかよく分かる。しかし、こういう昔の親戚関係というか、人間関係、社会のあり方、それがいやで10代の頃から日本映画をほとんど見なくなったことを思い出させる。成瀬の作品がそうした人間関係、親戚関係、社会関係を一番描いていたような気がする。
●「ハスラー」は流石の勝負師映画、白黒画面の中、ジャッキー・グリースン、ジョージョ・C・スコットの曲者役者の間では、ポール・ニューマンは若い。パイパー・ローリーの悲しい女の風情も忘れられず。
●森繁久弥は今の役者にはなかなかいない、怪しい危なさを見せてくれる俳優だが、「珍品堂主人」の主人公のあやしさというか、何をしている人?という在り方がいいのか、悪いのか?
●「女は抵抗する」はナベプロの渡辺美佐をモデルに作られた映画、日劇(映画では中央劇場)でのウエスタンカーニバルが山下敬二郎、平尾昌晃、坂本九らの出演で描かれる。学生時代からプロモーターとして活躍というのも凄いが、それにしてもなぜこの題名になったのだろうか?あの頃女性がそうした仕事をしていない、男社会だったことに対する抵抗ということでしょうかね。
●「ヘルタースケルター」を見に来た観客は若い女性が多かった。
そうした観客に合ったような、派手な画面。ほとんどグラビア雑誌を見ている感覚。でも、描かれている世界は格別新しいものではなくむしろ古い。見なれた、見あきた新しさみたいなといっては失礼か。
“飯田蝶子とにっぽんのおばあちゃん”というプログラムが神保町シアターで組まれた。作品の一つ、「にっぽんのおばあちゃん」は今井正監督の1962年の作品。この作品に出た高齢者俳優は次の通り。
ミヤコ蝶々、北林谷栄、飯田蝶子、浦辺粂子、原泉、村瀬幸子、東山千栄子、岸輝子、斎藤達雄、渡辺篤、左卜全、中村是好、山本礼三郎、殿山泰司、伴淳三郎、菅井一郎、上田吉二郎とそうそうたるもの。
この老優たちの活躍を見ていて、他にも浪花千栄子、高橋とよ、三好栄子、長岡輝子等を思い出した。昔は随分高齢の俳優が活躍していたものだ。
彼女たちの多くは、主演というより脇役で活躍していることが多い。もちろん「にっぽんのおばあちゃん」のような主演作品もあるが、むしろ脇で作品を支えていることが多い。映画は、主演者だけではできない。むしろ脇がいかにしっかりしているかによって作品の質が決まってくる。いわゆる作品の厚みが違ってくる。
古い映画には高齢者の脇役が活躍できる作品がたくさんあった。ほとんどすべての作品で高齢者が役を持っていた。つまり、おばあさん、おじいさんがほとんどの作品に出てきたのだ。それに引き換え、現代の作品でおばあさん、おじいさんが出てくる映画は随分少ない今月見た日本映画ではゼロである。
今年見た映画でも「わが母の記」「HOME愛しの座敷わらし」くらいしか思いつかない。これは、今の家族のあり方を示しているということだろう。核家族ですね。映画は社会の状況を反映している。映画が若い人を狙って作られてきたこともその要因の一つだろう。しかし、若い人があまり映画を見なくなってきた現在、観客の主要層は熟年になっているのだから、映画業界ももっとそうした作品を作ったらと思うのだが、まだまだそうした作品は増えていない。
これではお婆ちゃん俳優の活躍しようが無い。
現代のおばあちゃん俳優で誰を思い出すことができますか?
(「海猿」「ローマ法王の休日」の結末を書いています。知りたくない方はご注意)
「海猿Brave Heart」はかなりヒットしているようだ。フジTV-東宝にとっては「踊る大捜査線」に次ぐメガヒットの作品になっている。今回もジャンボジェットの海上着水という大きな事件で盛り上がっている。映画は始まりからハイテンション、登場人物がまるで怒鳴り合っているような気さえする。ちょっと気恥ずかしいはしゃぎぶりというところ。どんな時も全員救助を口を大にして唱える主人公先崎。
しかし、この作品では相棒たるべき吉岡がジャンボの機内に閉じ込められたまま、東京湾の海底にまで沈んでしまう。私など、これでやっと佐藤隆太を追放できたと喜びを覚えたのだが、私の期待通りにはいかず、普通の人の期待通りに助かってしまうのだ。
うーむ残念!
見ている人は誰も死ぬとは思っていないですよね。なにせフジTVの作品ですから。
「ローマ法王の休日」は、次の法王を決めるコンクラーベが描かれる。
世界中から集まってきた枢機卿たちによる次のトップ選びが、コミカルに描かれる。何せ、選ばれた新しい法王が不安に耐えきれず逃げだしてしまうのだから。その、ありえないことがおこる場を見たいと思った人が多いためか、かなりの人が詰めかけヒットをしているようだ。
精神科医役として出演もしているナンニ・モレッティ監督は、自分は、離婚した、同じく精神科医の元妻より優秀と主張するなど、奇妙なおかしみを見せている。題材のおかしさに、細かいおかしみを加え、見ている我々をほのぼのした気持ちで最後まで飽きさせない。だからこそ、ラストはちょっとというより大いに驚く。その唖然の結末に、モレッティは口当たりがいいだけではないぞと感心。期待通りと期待を裏切る、どちらが良かったんだろうか?
今号はここまで。
東京は今日、真夏日で暑くなりました。
次号の時もまだ暑いでしょうが、それまでお元気で。