梅雨がほとんどなかった東京、
早い梅雨明けで夏の水不足が心配の一方、
明けたと思ったら熱中症対策で水を飲めとうるさいほど。
ところが今週は梅雨のように雨が降る。
う~む、こんな時は映画館!!
6/26~7/25の30日間に出会った映画は34本、大幅な洋高邦低、つまり外国映画が多くなりました。
更に旧作ももっと大幅な洋高東低、それについては、今月のトピックスをご参照ください。
さよなら渓谷
俺はまだ本気出してないだけ
真夏の方程式
選挙2
風立ちぬ
(古)結婚のすべて
とんかつ大将
アンコール
ハングオーバー 最後の反省会
嘆きのピエタ
欲望のヴァージニア
コン・ティキ
25年目の弦楽四重奏
モンスター・ユニバーシテ、
ワイルド・スピード ユーロミッション
スタンリーの弁当箱
スプリング・ブレイカーズ
しわ
バーニー みんなが愛した殺人者
熱波
ベルリンファイル
偽りの人生
最後のマイウェイ
(古)第三の男、
リッスン・ダーリン、
砂漠の鬼将軍
天使
私は告白する
サンダーボルト
マルクス兄弟のデパート騒動
花嫁凱旋
パームビーチストーリー
キートンの大列車追跡
恋愛準決勝戦
①-1 さよなら渓谷
東京の郊外、近くに渓谷があるような地に住む夫婦は、隣の母親が息子殺しの容疑で騒がれても妙に醒めていた。吉田修一原作の映画化で、被害者、加害者の関係を変転しつつ描く。2013年上期の日本映画私的ベスト1です。
①-2 風立ちぬ
宮崎駿監督の集大成的な作品は題名からして風を含み、画面には常に風とそれに乗って飛行する航空機の姿がある。大正から昭和にかけての時代、ゼロ戦の開発者として名をはせた堀越二郎を主人公に、現実と夢の交錯を描き、監督が特に若い人に伝えたかったことを詰め込んでいる。昭和の貧しかった頃を知っている団塊世代の我々には、うなずいてしまう点が多く、これほど共感できる宮崎作品も珍しい。この内容が若者にはどんな風に受け止められるだろうか?
ラスト、菜穂子は伝説になったナウシカのイメージを見せる。
② コン・ティキ
有名な「コンティキ号探検記」を完全映画化、さすがにノルウェー自らが映画化しただけのことはある。それにしても、ヘイエルダールは泳げないということで、それでも大冒険を敢行するところが凄い。情熱の人なのにクールに見えるのは北欧人故か?
③-1 アンコール
5月号の「カルテット 人生のオペラハウス」に比べると、歌うのはロックとぐっと庶民的(?)なアンコール。訴える力も負けず劣らず、楽しく見られる映画です。
③-2 25年目の弦楽四重奏
こちらも高齢者の音楽もの?と思いきや、高齢者はクリストファー・ウォーケンの一人だけ、あとは40代のお話。主演4人の俳優がそれぞれ渋く光る。第一バイオリンのマーク・イヴァニールはちょっと注目。
③-3 バーニー みんなが愛した殺人者
「スクール・オブ・ロック」のジャック・ブラック(主演)とリチャード・リンクレーター(監督)のコンビが8年ぶりに復活。ジャックは表面的な受け狙いをせず、リチャードも抑えた演出。しかし、この題材には驚きました。今月のトピックス参照ください。
他にも面白い映画はたくさんありました。
◎俺はまだ本気出してないだけ: いくつになっても夢を実現すべく…と言いたいところだが、簡単そうだからと漫画を書き始める40男という設定がおかしい。
◎ワイルドスピード ユーロミッション:どんどんエスカレートするアクション、ついには戦車まで出てきたりする。次作はふたたび東京が登場するらしい。
◎しわ: いずこも話題は高齢者の痴呆か?スペイン製アニメは如何にも手書きの絵柄で、おじいさんを取り巻く状況をゆっくり語る。
◎熱波: 結構古典的な恋愛劇ですが、記憶の壁を通して浄化されるような印象。熱波というより、冷却の印象。
◎ベルリンファイル:ベルリンを舞台に北朝鮮、韓国、アメリカ、イスラエルの諜報機関がうごめき、スパイ合戦を繰り広げる。
◎最後のマイウェイ:クロード・フランソワはシナトラにあこがれて歌い始めたのに、ほとんどポップス、ロックのスターになってしまったんですね。
あまりにもスター的な生き方、言ってみれば古いスターのあり方を貫いたあたりがまるで歌謡曲の世界。
☆テレンス・スタンプ
「アンコール」のテレンス・スタンプを懐かしい人に取り上げるのは申し訳ない。最近でも結構出ている印象だから。1965年にウィリアム・ワイラーの「コレクター」に出て第一線に立った後、少し変わったキャラクターを中心に演じてきた。年を取って丸くなるという印象が無い人だったので、ヴァネッサ・レッドグレーヴと老夫婦を演じると知って、いやー、二人ともとんがった人たちだなあなどと心配したのだ。それが、作品的には非常に穏やかな、誰もが共感できる映画になっていて安心(?)した。この映画を見ていると、二人の俳優の来し方に思いがいって感動してしまう。それでも、流石にテレンス・スタンプ、ラスト近くまで息子にきつく対応してしまう。人間、20歳過ぎてそれほど変われるものじゃない…だよね、テレンス!
○カンヌ、ヴェネチア、ベルリンの3大映画祭を制覇と宣伝されたキム・ギドクの新作「嘆きのピエタ」は、ちょっとはったりがあり過ぎではないか?芸術ぶらなくていいから、素直にミステリーにした方がすっきりするんでは?
○禁酒法時代に生きる3兄弟のお話「欲望のヴァージニア」は、主人公たる3男の甘さがどうにもついていけない。あの世界に生きるならも少しシビアになって欲しかった。
○主人公二人の恋愛は約50年前の時代だが、まるでもっと昔のように感じさせる「熱波」。漂白したような画面が記憶の彼方と感じさせるのに、そこで流れる「Be My Baby」は何だったんだろうか?主人公たちの何かという感じもしないのだが。
●1年に1作くらいの割合で吉田修一の小説が映画化されている。基本的には男女の愛についての考察が多い、如何にも真摯な態度で。「さよなら渓谷」もそうした1本。今、映画化が期待される作家の一人、作家自身も映画好きであるらしい。
●どうにも好きになれなかった「ハングオーバー」シリーズだが、3作目が最後で、最後となるとどうも元気がないような。
●インド映画「スタンリーの弁当箱」はストーリーがあるのかないのか、不思議な映画の作り方。えげつない先生役の人が監督らしいです。
●開き直った女の子たちの言葉が聞くに堪えない「スプリングブレイカーズ」、最近の安い16歳少女殺人事件につながるようだった。
●想田和弘監督のドキュメンタリー、観察映画の第5弾「選挙2」は、だらだらとしてちょっと長い。削ってシャープにすると観察映画になれないだろうか?
今月、旧作の本数が増えたのには訳がある。渋谷シネマヴェーラで“映画史上の名作9”が上映されている。以前にもお伝えした通り、シネマヴェーラでは2回位この特集上映を組んでいる。
今月見た外国映画の旧作11本のうち10本がこの特集の番組だ。中には「第三の男」のように超有名な作品もある。映画館で見るのは初めてだ。これから上映される作品でも、同じく映画館で初めて見る(だろう)ものに、「第十七捕虜収容所」とか「フランケンシュタインの花嫁」がある。
今回の特集の中で、特に強く印象に残ったのが「天使」だった。1937年のハリウッド映画、アドルフ・ズーカーのパラマウント作品だ。監督はドイツ出身のエルンスト・ルビッチ、“ルビッチ・タッチ”で有名な人だ。
今まで「桃色の店(The Shop Around the Corner)」を見ているが、それほど感心はしなかった。「角の店」が「桃色の店」に日本語変換されるくらい、ルビッチといえば艶笑話で有名だった。ありのままを表現できないからこそ、別の方法で見るものの想像力をかき立てる。どんな芸術も縛りが厳しいほど創造力がほとばしるのである。
50年くらい前、中学生の頃TVでの映画放映をよく見ていた。そこで影響された最大のものはアステア=ロジャースのミュージカルだったが、ケイリー・グラントを中心としたコメディも大いに楽しんだ。
その頃楽しんだ笑いは、今のスクリーンでなかなか巡り合えない。頭の中で笑いの印象が膨らんでいることもあるが、物語が面白いという作品がなかなかない。パリに亡命したロシア大公妃のサロンを舞台に始まる大人の恋愛劇、そこで巡り合った二人の絶妙の会話、本拠イギリスの貴族の館に舞台は移り、そこで巡り合う二人。男二人、女一人の大人の関係は・・・。
中学生の頃映画に目覚めた私はマレーネ・ディートリッヒを名前でしか知らなかった。当然ながら彼女の時代には間に合っていない。大阪万博に70歳の彼女が来日し、その脚線美を見せたとかいう話題は知っていた。今回、「天使」の彼女にはぶっ飛んだ。ショックでしたね、総てが美しかった。“天使”と呼ばれても不思議はない。英国貴族で外交官に扮するロバート・マーシャル、戦争中にあることを介して実は知り合いとも言える男ホルトンを演じるメルヴィン・ダグラス、共にスマートな男を演じて甲乙つけがたい。
メルヴィン・ダグラスといえば「ハッド」のおじいさん役ぐらいしか知らなかった。面白い話を洗練された語り口で映画にする。これほどワクワクしながら映画を見たのは久しぶりだった。見ている我々を幸福にしてくれる映画。
旧作は死なず、我々を楽しませてくれる。メルヴィン・ダグラスがアイリーン・ダンと共演した「花嫁凱旋」を見に行ったのも、「天使」に触発されたから。この作品は今一つでしたし、メルヴィン・ダフラスも垢抜けず。その後に見た「パームビーチストーリー」は抜群に面白い。1942年、戦争中に作られた作品だが、ユニークな人物たちと意表を突く展開で語られる夫婦の話。ちなみにパームビーチは離婚に向いた土地だとか。何故?
いずれにしても、旧作は死なずを実感した今月でした。
という映画は多い。
今月も「欲望のヴァージニア」「コン・ティキ」「バーニー みんなが愛した殺人者」「最後のマイウェイ」と公開された。“事実は小説より奇なり”という言葉の通り、フィクションより面白い場合も多い。「バーニー みんなが愛した殺人者」はちょっと変わっている。ほとんど知識無く見たので、はじまって少し経つと町の人たちのインタビューがどんどん差し込まれてくるので驚いた。いや、正確には、初めは俳優が演じていると思ったのだが、最後まで見ると町の人たちは実際の人たちということが出てくる。これには驚いた。
作りもののドラマの中に、突然ドキュメンタリーが挿入と言った感じである。殺人者の話で、しかも基本はコメディなのだから。作り手たちはやらせ的コメディにはしていない。それは、このドキュメンタリー的要素が作用したと思われる。実際の人たちの言葉を使いながら、それを笑うなどできないですからね。もっとも、町の人たちはかなり笑いながら話している場合が多い。
それにしても好意的に語っている人が多い。刑務所の中でも人気者の実際のバーニーが最後に出てくる。“実物が最後に登場”はこうした作品の常套ながら、その後にもインタビューされる町の人たちが出てくる。殺人者に対し堂々と好意的態度を表明するという、日本ではあまりお目にかかれない所信表明だ。
今月はここまで。
次号は夏休みも終わりに近づく8/25にお送りします。