動きの激しかった今年の天候、
師走を迎えて例年通りの冬模様、
冷たい北風の吹く季節、
快適な映画館で心を暖めましょう。
10/26~11/25の31日間、長い夏のあと冬を急に迎えた間に出逢えた映画は31本、相変わらず洋高邦低が続く中、間もなく1年の終りを迎えようとしています。
この時期、いつもは多くの作品が売れ残り一掃セールのように公開され、
拾いものが結構あるのですが、今年はちょっと不作かなあ。
人類資金
清須会議
ばしゃ馬さんとビッグマウス
標的の村
ペコロスの母に会いに行く
かぐや姫の物語
(古)森崎書店の日々
ニンゲン合格
日本春歌考
淑女は何を忘れたか
戸田家の兄妹
ダイアナ
眠れる美女
コールド・ウォー 香港警察二つの正義
グランド・イリュージョン
女っ気なし(+遭難者)
42~世界を変えた男~
恋するリベラ―チェ
ブロークン・シティ
ある愛へと続く旅
悪の法則
ハンア・アーレント
マラヴィータ
父の秘密
愛しきエブリディ
(古)奇妙な女
キャットピープル
遊星Xから来た男
脅迫者
スリの聖ベニー
ビッグコンボ
① かぐや姫の物語
78歳の高畑勲監督が作ったアニメーションの新作は、誰もが知っている竹取物語。柔らかい描線で自由に変転していく画面、主人公の感情のままに緩急をつけた描写など高畑監督の感性は瑞々しい。ラストの迎えの音楽も意表を突くリズム。楽しみました。
②-1 42~世界を変えた男~
メジャーリーグに疎い私は予告編に妙に感心、4/15はメジャーリーグの全選手が42を付けてプレーするということを初めて知った。凄いことですよね。そうなった理由を教えてくれる本編は、“やり返さない勇気”の大切さを教えてくれる。落ち着いた画面作り誰をも感動させてくれるいかにもアメリカの映画。
②-2 標的の村
ドキュメンタリーの持つ事実を伝えることの大切さを改めて教えてくれる。
米軍の戦闘訓練地の中にある高江村の住民たちの戦い、日本国が彼らの座り込みに対し交通妨害として裁判を起こしたことなど知らなかった。8/10の公開から今だに上映を続けるほど人々の関心を集める作品です。
③-1 女っ気なし(+遭難者)
58分の女っ気なし25分の遭難者を合わせて1本の映画と見ることができる。
36歳のフランスの新鋭ギヨーム・ブラック監督が中編・短編として作った作品は、主人公のダメ男ぶりが、なんともというか、イノセントな感じが実にうまく出ていて、母娘との駆け引きもなかなかの味、面白かったです。
③-2 ハンナ・アーレント
雑誌ニューヨーカーに依頼され、アイヒマン裁判を傍聴するためイスラエルに出かけるユダヤ人哲学者ハンナ・アーレントの行動とその後の反響を描く。
命令に従うだけの小役人アイヒマンに悪の凡庸さを見るだけではなく、ユダヤ人の中に協力者もいたとの物言いが、大きな反発を招く。人間の行動を冷静に見つめ、行動の結果からどこにその原因があったかを鋭く分析する様は、今の日本にないもののように思われた。
他にも面白い作品がありますが、いつもと比べると少なめ。正月作品待ちかなあ。
◎コールド・ウォー 香港警察二つの正義:香港の警察映画といえば「インファナル・アフェア」だが、その子供のようなこの映画も小粒とはいえなかなかがっちり作られております。
◎悪の法則:さすがにリドリー・スコット、画面作りのシャープさは一味違いますが、物語的にはちょっと分かりにくいほど省略がされていて残念ではあります。キャメロン・ディアスはどうやって儲けたんでしょうか?
◎ばしゃ馬さんとビッグマウス:脚本家を目指す主人公は、何回目かの脚本教室へ。アラサァー女性の実態を正直に描いていて、大口たたきの若者とのコンビも良。
◎ペコロスの母に会いに行く:バツイチ、子持ちの50代はげ男が故郷・長崎で母の介護。認知症の母親との掛け合いがまるでほのぼの漫画。
自分を主人公に母親との生活を漫画にした岡野雄一の原作を、森崎東監督が実にうまく映画化。
◎父の秘密:何が父の秘密だったかはよく分からないが、そこに力点はなく、
娘がいじめられる怖さと、さらに衝撃のラストからは狂気の怖さが見る者を圧倒します。
●「森崎書店の日々」は神保町を舞台にした映画。神保町シアターの「“本の町”ぶらり映画日和」という特集で上映された2010年の作品。気取らず、女性主人公のありのままが繊細に描かれていていい映画だった。映画館から1ブロック離れたところに森崎書店として使われた建物があり、付近の風景も映画の中にたくさん出てきて楽しめた。
●ダイアナ元妃のパキスタン人医師との恋は全く知りませんでした。有名だったんでしょうね、イギリスの新聞ネタになっていた訳だから。彼女を嫁として迎い入れることを拒否した母親も結構すごいですね。
●映画はもともと時を超え、空間も一瞬にして移動できるかの如くに映像として表現できるメディ アだ。「グランドイリュージョン」はまるで映画のようなマジックで、やっぱりマジックを映画で見せる のは、どんなこともできてしまう故に信じられない感が残る。
●リベラーチェの演奏するのを時々見たのはどの番組だったろうか?1960年代だったか、アメリカのショー番組がいくつかTV放映されていてそこに出ていたのだろう。耳には心地よいが装飾過多の演奏は、その衣装と同じ。今回マイケル・ダグラスが頑張っているが、何故この作品をソダ―バーグ監督が?というのがどうしても消えない素朴な疑問。ただ、この監督はあまりこだわりの無い人だったとは思いますが。
●三谷幸喜監督は歴史が好きらしく、「清須会議」はその線で作られた。
史実の映画化のためか、いつものような自由な発想を生かすことができない。
しかし、面白いところも見せたいという気持ちがどっちつかずを生んでいるようだ。当人は特に面白くしようという気はなかったのでしょうね。
だったらいつものようなオールスターキャストは辞めた方が良かったのに。
●「悪の法則」を監督していた頃、弟のトニー・スコットが自殺して亡くなった。その影響が出ているかもしれないとある人が書いていた。二人のプロダクション、Scott Freeは多くの作品を見せてくれた。75歳で一人でScott Freeを支えることになったリドリー・スコット、いつまでも頑張ってほしい。
●躊躇せず殺すという「マラヴィータ」はハリウッドスターを使ったヨーロッパ映画。今やプロデューサーとしての仕事の方が多いリュック・ベッソンの新作は、社長を務めるヨーロッパ・コープの基本政策に沿い、英語の映画で世界マーケットを目指す。
日活が輝いていた1950年代後半から、日活の看板女優として、活躍してきた浅丘ルリ子の初自伝。本の帯によればデビュー60周年とある。2014年に60周年を迎えると本文に書いている。この本、彼女の性格を表して、短くきっぱりとした文で書かれている。だから、一見スカスカのタレント本のよう。彼女は言い訳をしない。くだくだと書かれた部分が無い。自分の思いをまっすぐに書いている。男性的な感性の文章だ。
小林旭とコンビを組んで、多くの作品で共演している。共演するうちに男らしい旭にどんどん惹かれていった。そして、2012年「徹子の部屋」に旭と二人で出演した時、旭が彼女の父に結婚を申し込んで、断られたことを話したことにビックリしたらしい。彼女はその時初めて知ったという。もしその場にいたら、旭と二人で父に頼んだろうと書いている。旭は美空ひばりと結婚した。
裕次郎宅のホームパーティでルリ子はひばりと出会い、二人が離婚したあと特に親しくなったという。互いの家に行き来していたという。好きな歌は「涙の紅バラ」「初夢道中」「旅の角兵衛獅子」「おさげとまきげ」「春のサンバ」と いうのですが、私は知らない曲ばかりです。
多分20年くらい前に浅丘ルリ子とすれ違ったことがある。有楽町・日比谷の現在の映画館シャンテシネの近く。隣の男性と、多分仕事の話をしながら速足で歩いていた。想像より小さい人だったが存在感はあった。さすがに、今や少なくなった“スター”と呼べるオーラがあった。
三國連太郎が今年の4月14日に90歳で亡くなって半年以上が過ぎた。この稀代の俳優、時に怪優とさえ呼ばれた男優は、自伝も書いているし、親鸞についての本も出している。彼について書かれた本も出ている。宇都宮直子という人は知らなかったが、ノンフィクションライターらしい。
三國連太郎についてのノンフィクションを書いた訳ではない。彼女は20年以上前の撮影所の隅っこでライター初心者としての仕事をしていた時、三國夫人に声を掛けられ、徐々に彼女の友達になったという。人見知りで、依怙地で、派手なところが無い宇都宮に、夫人は何のこだわりもなく入り込んで来た。この初めから、その後の付き合いも含めて夫人が非常に魅力的だ。
20年以上の夫婦との付き合い、一緒に食事に出かけたり、三國宅に泊まったりしてきた。初めてあった時に感じた“すごく本物で、徹底的に分かりにくい人”という三國に対する印象は、その後もほとんど変わらなかったという。家族の一員のような付き合いの中で、誰に対しても丁寧な言葉遣いを続けた三國の様々な顔が見えてくる。知り合った頃三國は既に60代の半ばだから、ぎらぎらしているところはなかっただろうが、充分に変わった人だったらしい。
三國は女性関係でも有名だった。特に太地喜和子とのそれは騒がれた。3度目の結婚中で佐藤浩市が生まれたばかりの41歳と19歳の新人女優。それは愛でも恋でもなく、彼女の狂気が本物だったからと言いながら、しかし3カ月であっさり別れてしまう。後に何も残さない、後悔しないと言いきる三國は本の表題にもなった“別れの何が悲しいのですか?”と言ったのだ。
1903年12月12日に生まれ、1963年の同じ12月12日に亡くなった小津安二郎。生誕110年、没後50年記念として小津安二郎の現存する全作品上映が神保町シアターで始まった。
11/23~1/13にかけて、37作品+小津についての映画2作品が上映される。
10年前にも生誕100年記念があったと記憶する。その後も小津の特集上映はいろいろな形で行われてきた。世界の小津となった今、当然ともいえる。「東京物語」は世界各地で上映される。世界の監督が小津にオマージュを捧げた映画を創る。山田洋次が「東京家族」を創ったのは記憶に新しい。世界の名作となった「東京物語」だけでも、できれば映画館で皆さんに見ておいてほしい。
上映日時は次の通り。
12/7 (土)11:00、18:30、
12/8 (日)15:30、
12/9 (月)14:15
12/10(火)16:30、
12/11(水)19:15、
12/12(木)12:00、
12/13(金)14:25
11/23に2本の作品を見た。
「淑女は何を忘れたか」(1937年)、「戸田家の兄妹」(1941年)。忘れていたが、どちらも以前に見た作品、始まってすぐに思い出した。どちらにも昭和モダンの感覚が生きているし、後の小津作品に多用された構図も何度も出てくる。小津の映画は似たような題名、同じような家族関係など、晩年に行くほど内容が似てきた印象がある。それは作りたいものが一定していたためでもあるだろう。30代に作ったこの2本はその後の小津調をのぞかせながらも、
若々しい描写で楽しませてもくれた。
先月号に書いた「蠢動」をスバル座に見に行った時、驚いたことがあった。
この劇場は今もって入れ替え制ではないということ。薄々知っていたことだけれど、窓口のお姉さんに改めて言われてハッとした。今や座席指定が一般的、自由席でも少なくとも入れ替え制が常識の映画館。そんな中にあって、日本初のロードショー館が今も入れ替え制ではないという。東京のロードショー館では唯一の存在ではないかと思う。暫く前まで丸の内TOEIがそうだったのだが、座席指定制になって1年以上が経つ。こうなったら、気に入った映画をそのまま続けて見られる映画館として、スバル座はあり続けてほしいとさえ思う。
初めてソウルに行った。新しいビルが多い、坂道も多い、集会やデモも多い車も多いソウル。2泊3日の短い旅行、残念ながら映画館に入る暇はなかった。
ホテルは明洞地区にあり、動いたのもほぼこの地区だけ。明洞はソウルの繁華街の中心、ここには少なくとも映画館はあるはず。しかし、ほとんど旅行者の目には入ってこない。映画の広告を見ることは一度もなかった。
今回8人での旅行だったのだが、他の7人は明洞にあった映画館には気づいていないのでは?まあ、日本でも最近は映画の看板はぐっと減ったし、シネコンはビルの中に入っていて昔に比べると映画館が目立たない。明洞の映画館は日本のそれよりもっと目立たなかった。これはちょっと意外だった。韓国映画は現在もかなり頑張っているし、映像文化という点ではTVドラマもまだ人気がある。それにしては街で映画関係が目立つことはなかった。それでも2つのシネコン、映画館には気が付いた。映画、映画と目を皿のようにしてやっと見つけたもの。普通では絶対に見つからないだろう。
今年の12/01は日曜日、
昔神戸で初めて映画が上映されたという本当の映画の日が12/01。
今年最後の映画の日で、どなたも1000円でご覧になることができます。
どうぞお楽しみください。
今回はここまで。
次号は例によって決算報告書をお送りする予定です。