2015年 2月号back

お正月から早1か月近く、
時の過ぎゆく速さを実感する年末年始という季節、
時には違う速度で流れる世界を体験してみましょう、
それは、そう、映画館で。

 

今月の映画

 12/26~1/25、元旦を挟んだ31日間に出会えた映画は35本、外国映画が大きくリードしました 。
 例年のことながら、新春第2弾にはなかなか良い作品も含まれています。
 さらに、昨年に引き続きシネマヴェーラの「映画史上の名作」上映(今月の旧作参照)もあり、差が開いてしまいました。



<日本映画>

真夜中の5分前 
海月姫 
百円の恋 
The New Generationパトレイバー 第7章 
(古)水戸黄門

 

 

<外国映画>

エレナの惑い
  (Elena)
マップ・トゥ・ザ・スターズ
  (Map to The Stars)
幸せのありか
  (Life Feels Good)
サンバ
  (Samba)
王の涙 イ・サンの決断
  (The Final Encounter)
ヴェラの祈り
  (The Banishment)
ガガーリン 世界を変えた108分
  (Gagarin First in Space)
メビウス
  (Moebius)
ベイマックス
  (Big Hero 6) 
みんなのアムステルダム国立美術館へ
  (The New Rijksmuseum)
シン・シティ 復讐の女神
  (Sin City:A Dame to Kill for)
トラッシュ!‐この街が輝く日まで‐
  (Trash)
96時間 レクイエム
  (Taken 3)
薄氷の殺人
  (Black Coal, Thin Ice)
ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して
  (Jimmy P. Psychotherapy of a PlainsIndian)
余命90分の男
  (The Angriest Man in Brooklyn)
ナショナル・ギャラリー 英国の至宝
  (National Gallery)
スパイ・レジェンド
  (The November Man)
ビッグ・アイズ
  (Big Eyes)
ジミー,野を駆ける伝説
  (Jimmy’s Hall)
(古)深夜の告白
  (Double Indemnity) 
凱旋門
  (Arch of Triumph)
オール・ザ・キングス・メン
  (All the King’s Men)
愛の花
  (The Love Flowers) 
ニノチカ
  (Ninotchka)
脱出
  (To Have and HaveNot) 
アイアン・ホース
  (The Iron Horse)
オーケストラの少女
  (One Hundred Men and a Girl) 
疑惑の影
  (Shadow of aDoubt) 
マダム・サタン
  (Madame Satan)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー



①トラッシュ!‐この街が輝く日まで‐
 リオ・デ・ジャネイロのゴミ山で日々の糧を得る子供たち、生きることに精いっぱいのエネルギーを感じます。警察などの権力には徹底的に背を向けることにも、独立して生きていくことの厳しさがみられます。


②-2 百円の恋
 百円という自己評価が素直にうなずけてしまう主人公を演じる安藤サクラが凄い。前作「0.5ミリ

」でも彼女ならではの個性で演じていたが、同時代性を感じさせるという点では一時期の桃井か

おりのようだ。それにしても映画が始まった時の不美人ぶりには感動さえ覚えた。

  

③-1 ナショナル・ギャラリー 英国の至宝
 3時間1分と長い上映時間だったが退屈せず、面白かった。ドキュメンタリー映画のアメリカの巨匠フレデリック・ワイズマンの新作は、こだわりなく美術館の全てを見せてくれる。

 

③-2 ジミー、野を駆ける伝説
 ケン・ローチはぶれないです。ずっと労働者側です。アイルランドが舞台で、踊りが大事という部分が面白いというか、年齢を超えて。さらに、権力は国であれ、キリスト教であれ恐れを抱くと狂暴です。


 面白い作品はほかにもたくさん。

 

 

 

●マップ・トゥ・ザ・スターズ:デヴィット・クローネンバーグの新作はハリウッドが舞台。スターズは星ではなくスターさんだったわけで、スターの家の地図ですよ。

 

●幸せのありか:ポーランド映画、実在の身体障碍者が主人公の映画。意思の疎通ができず、誤解されて精神病院に入れられていたり…。ラスト近く、やっと自分の意思を知らせることができた時は感動しました。


●サンバ:パリで悲しい事件がありましたが、元々多くのイスラム諸国を植民地にしていた国。そうした国における現実をかなり詳しく、明るく描いたこの映画は楽しめます。

 

●王の涙 イ・サンの決断:韓国映画は時に行きすぎ描写がありますね。これもその一つですが、韓国における権力の交代というのは陰謀渦巻くということがよく分かりました。他の国でも同じか。


●ベイマックス:日本語があふれて、しかも町の名前がサンフランソーキョーというのは悪い冗談?と思いましたが、話は最近のディズニー作品並に口当たりの良いものになってました。

 

●薄氷の殺人:中国でファム・ファタル(運命の女)的な雰囲気を持った作品が作られるとは!もう少し話が分かりやすければ最高だったでしょう。主演二人は良かった。

 

●余命90分の男:人は怒っていると他人の言うことを聞かない。ブルックリンで一番怒っている男という原題のこの映画、昨年亡くなったロビン・ウィリアムスが主演。面白いです。

 

●スパイ・レジェンド:レジェンドばやりですが、単なる老人だったらそうは呼ばれない。ピアーズ・ブロスナンはお腹が出ていますが、さすがに昔取った杵柄か。


●ビッグ・アイズ:なんか怪しい絵が主題の映画で、さすがに芸術家のティム・バートンらしい作品。際物映画かと思っていたら、とんでもない。繊細な描写もある佳作です。


 

 

 

Ⅱ 今月の旧作:映画史上の名作

 

 渋谷シネマヴェーラで年に3回くらい特集される「映画史上の名作」も今回で12回目。今月見た10本の外国映画の旧作はすべてこの特集上映で見たものだ。今回見た作品の中には、まさにレジェンド、伝説となっていた作品が多くあった。


 映画について書かれた文章の中によく出てくる作品群だ。


●ニノチカ:サイレント時代からの大スター、グレタ・ガルボは冷たい表情で笑わないことで有名だった。初めてのトーキー作品「アンナ・クリスティ」の宣伝文句は“ガルボが話す!(Garbo talks!)”だったが、「ニノチカ」に出た時は“ガルボが笑う”と評判になったというのが伝説だ。しかも監督が艶笑話で光り輝くエルンスト・ルビッチと来ている。
確かに、凄い馬鹿笑いをすることが確認できた。しかも、話が面白い。
脚本はルビッチの弟子、ビリー・ワイルダーが書いていて流石の出来栄え。
なお、Garbo talks という映画が後に作られた。シドニー・ルメット監督作品で、アン・バンクロフトがガルボを大好きな母親に扮する映画で、なかなか良かった印象が残る。


●脱出:ローレン・バコールがデビューした作品、共演したハンフリー・ボガートと出会い、結婚。ハリウッドのベストカップルと呼ばれる契機になった作品だ。彼女がこんなに歌うとは思わなかった。後にブロードウェーでミュージカル「アプローズ」に主演したのもうなずける。監督はハワード・ホークス、プロの世界を描いて自由な世界を作り出した人だ。「脱出」を見ていて、後の作品「ハタリ」の楽しさを思い出した。共に音楽が仲間をゆるく結びつけている印象だ。

 

●オーケストラの少女:ディアナ・ダービンが主演し、指揮者ストコフスキーが出演した映画。

私は、この映画が戦後公開された初の洋画と思い込んでいたが、今回調べてみると違ったようだ。実際は1937年12月に公開されてる。今回珍しくも吹き替えでの上映だったが、歌の場面はオリジナル通りダービンの歌声だった。ダービンが演じたパトリシアは思い込みの激しい少女、アメリカらしく前向きな思い込みだが、そのことで映画全体のドラマができている。

 
 
●オール・ザ・キングス・メン:1949年にアメリカで作られた映画は長らく日本では公開されなかった。公開されたのは1976年とあるから27年後になる。一般公開ではなく特集上映でだったろうと思う。強いメッセージのある映画で避けられたのだろう。2006年には再映画化(ショーン・ペン主演)されているが、オリジナルの方が迫力あり。主演はブロデリック・クロフォード、昔TVの「ハイウェイ・パトロール」でよく見ていた。

 

 

Ⅲ 今月のつぶやき

 

●日本映画ながら、上海が舞台でオール海外ロケ、出演俳優も日本、中国、台湾の混成チーという「真夜中の5分前」は行定勲が監督した。ちょっと不思議なムードの映画だが、あまりのゆっくりズムにはちょっと飽きが来る。

 

●フランスには多くの不法入国就労者がいるんだなあと改めて考えさせられた「サンバ」、地中海の向こうアフリカにはかつての植民地アルジェリアなどがあるのだから当たり前だ。それにしてもこんなにもしぶとく、明るく不法移民をしているとは知らなかった。

 

●手作り感満載にちょっと感激したのは「ガガーリン 世界を変えた108分」でのロット打ち上げ風景。アメリカとは全然違う。これで大丈夫かという心配と、これでも大丈夫という安心感が奇妙に同居している。

 

●キム・ギドクといえば韓国の誇る国際映画祭賞獲得監督だが、どんどん危ない方向に行っていないか?作品内容もそうだが、その話題狙いが。まあ、映画というもの自体がそういうところを持っているが、受け狙いというか。「メビウス」は何のために会話なしにしたのか?

 

●The New Generationパトレイバーシリーズもいよいよ最終の第7章となったが、これは笑うしかないほどひどいというか・・・・。いつもは特別一律料金1,500円だったのが1200円で、それに見合う(?)内容だった。


●リーアム・ニーソンといえば、「シンドラーのリスト」で映画界に登場し、体の大きい男という印象はあったが、アクションスターとして認知されたのは「96時間」からだ。50代後半になってからのアクションスターで、何故と思ったものだ。今回の「96時間レクイエム」を見るとかなりコマ抜きが目立つ。ちょっと息切れということだろうか?


●70年代、ハワイに何回も添乗で出かけたが、ホテルにあったギャラリーで、なんだか異様に眼の大きい絵を見た気がする。「ビッグ・アイズ」のポスターを見ていると、その時に感じた奇妙な不安というか、落ち着かない感じを思い出した。あの当時、マーガレット・キーンはハワイにいた可能性があることを映画で知った。




今月のトピックス:今年のアカデミー賞 


Ⅰ 今年のアカデミー賞

 

 今年のアカデミー賞は現地時間2/22(日)の夜にドルビー・シアターで行われる。日本に結果が伝えられるのは2/23(月)になる。
今年の第87回アカデミー賞のノミネーションは次の通りになりました。
( )は日本での公開時期です。

私の予想は●太字にしました。


*作品賞


アメリカン・スナイパー (2/21公開)
バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)(4月公開予定)
6才のボクが、大人になるまで。(公開中)
グランド・ブダペスト・ホテル (公開済)
イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密(3/13公開)
Selma (現在のところ公開予定なし)
博士と彼女のセオリー (3/13公開)
セッション (4/17公開)

 

 

 

*監督賞

 

アレハンドロ・ゴンザレス・イヤリトゥ(バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))

リチャード・リンクレイター(6才のボクが、大人になるまで。)
ベネット・ミラー(フォックスキャッチャー(2/14公開))
ウェス・アンダーソン(グランド・ブダペスト・ホテル)
モルテン・ティルドゥム(イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密)

 

 

 

*主演男優賞

 

スティーヴ・カレル(フォックスキャッチャー)
ブラッドリー・クーパー(アメリカン・スナイパー)
ベネディクト・カンバーバッチ(イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密)
マイケル・キートン(バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))
エディ・レッドメイン(博士と彼女のセオリー)

 

 

 

*主演女優賞


マリオン・コティヤール(サンドラの週末(5月公開予定)))
フェリシティ・ジョーンズ(博士と彼女のセオリー)
ジュリアン・ムーア(アリスのままで(6月公開予定))
ロザムンド・パイク(ゴーン・ガール(公開中))
リース・ウィザースプーン(ワイルド(夏公開予定))

 

 

 

*助演男優賞

 

ロバート・デュバル(ジャッジ 裁かれる判事(公開中))
イーサン・ホーク(6才のボクが、大人になるまで。)
エドワード・ノートン(バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))
マーク・ラファロ(フォックスキャッチャー)
J・K・シモンズ(セッション)

 

 

 

*助演女優賞

 

パトリシア・アークエット(6才のボクが、大人になるまで。)
ローラ・ダーン(ワイルド)
キーラ・ナイトレイ(イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密)
エマ・ストーン(バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))
メリル・ストリープ(イントゥ・ザ・ウッズ(3/14公開))

 

 

 最多部門のノミネーションを受けたのは、共に9部門でノミネートされた、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」と「グランド・ブダペスト・ホテル」の2作品。

 

 続くのは、8部門の「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」、6部門の「6才のボクが、大人になるまで。」と「アメリカン・スナイパー」となります。

 

 

 日本人関係では、
長編アニメーション部門に「かぐや姫の物語」(高畑勲監督)
短編アニメーション部門に「ダム・キーパー(原題)」(堤大介監督:ピクサー元スタッフの初監督作品)と2本の作品がノミネートされました。

「ベイマックス」という強敵がいますが、その天衣無縫の自由さで「かぐや姫」が勝ってくれないかなあ。「ベイマックス」は普通のディズニーだしね。

 

 来月号をお送りするときには結果が出ています。

 

 

 

 

Ⅱ 映画館の動向

 

*新宿ミラノ座
 新聞でも騒がれたが、新宿歌舞伎町にあった大スクリーンの大きな映画館ミラノ座が12/31で閉館となった。かつて、渋谷パンテオン、松竹セントラル(東銀座)と封切りチェーンを組み、いずれも1000席以上の大きな映画館で超話題作を上映していた。1956年の開館時は1500席あったものが、閉館時1064席になっていたという。今や1000席を超す映画館はなくなってしまった。

 


*有楽座
 有楽町にある有楽座は2/27に閉館する。最終作品「ビッグ・アイズ」を公開2日目の本日見たが、少し寂しい入りだった。オリジナルではないとはいえ、由緒ある有楽座という名前が消えるのは寂しい。「ビッグ・アイズ」は見る価値のある作品です。どうぞ、お出かけください。

 


*恵比寿ガーデンシネマ
 2011年に閉館し、その後はK-ポップの劇場となっていた恵比寿ガーデンシネマが復活する。もともと、日本ヘラルド映画が持っていた映画館だったが、いろいろな資本の変遷があり、閉館となってしまった。今回はユナイテッドシネマがガーデンプレイスと共同で経営に当たるらしい。発音は同じ(?)ながら映画館名は「YEBISU GARDEN CINEMA」になるという。3/28にかつてと同じ2スクリーンで開場する。

 


 今月はここまで。

 

 次号は2/25にお送りします。

 

 



                         - 神谷二三夫 -


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