三寒四温を繰り返すこの頃、徐々に春が近づいてくるようです。
今年の冬は、案外雨(雪)が多く、思ったより寒かった印象。
これからは暖かい春が来るのを待つばかり。
さらに気持ちを高めてくれるのは、そう映画館!
1/26~2/25の31日間に出会えた作品は26本、新春第2弾群もほぼ終わりに近づき作品的に寂しいのではと心配したのだが、後半になるに従い充実した作品が多くなってきた。
結果は楽しめた1か月だった。
さよなら歌舞伎町
ジョーカー・ゲーム
アゲイン 28年目の甲子園
深夜食堂
悼む人
娚の一生
(古)飢餓海峡
アニー
(Annie)
ワイルド・カード
(Wild Card)
エクソダス 神と王
(Exodus:Gods and Kings)
さよなら愛の言葉よ
(Adieu au Langage 3D / Goodbye to Language 3D)
KANO-カノ-1931海の向こうの甲子園
(Kano)
おみおくりの作法
(Still Life)
ミルカ
(Bhaag Milkha Bhaag)
チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密
(Mortdekai)
フェイス・オブ・ラブ
(Face of Love)
フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ
(Fifty Shades of Grey)
二重生活
(Mystery)
フォックス・キャッチャー
(Foxcatcher)
トレヴィの泉で2度目の恋を
(Elsa & Fred)
はじまりのうた
(Begin Again)
ドラフト・ディ
(Draft Day)
アメリカン・スナイパー
(American Sniper)
君の生きた証
(Rudderless)
(古)ローラ殺人事件
(Laura)
天安門,恋人たち
(Summer Palace)
今月はベストスリーのインフレ状態で、10本にもなってしまいました。
①-1 アゲイン 28年目の甲子園
なんだか上手く作られていて、気持ちよく見てしまった。脚本家大森寿美夫が重松清の小説を脚本にし、監督もした作品。まるで良い脚本はこう書けと言われているように、ツボにはまったドラマ作り、感心しました。
①-2 深夜食堂
安倍夜郎のマンガはかなり以前に読んだことがあるが、深夜に放映されていたというTV版は見ていない。
同じ松岡錠司監督が作っているので同じテイストだったのだろう。手慣れた感じで語られる3つのエピソード、「とろろご飯」が好きです。
②-1 KANO-カノ-1931海の向こうの甲子園
甲子園、一人で投げぬく呉投手に魅せられました。日本統治時代の台湾、嘉義農林高校(略して嘉農、KANO)が甲子園を目指しても不思議はない。決してうまい作り方の映画ではありませんが、スポーツものの王道をきっちり守り、見る者の心をとらえます。1944に兵隊としてやってきた札商の投手から始まるのは上手い。
②-2 エクソダス 神と王
リドリー・スコットの美感覚にはやられますね。凄い画面が続きます。チャールトン・ヘストンがモーゼを演じた「十戒」は海が割れましたが、今回は割れません。しかし、くすんだ色調の凄さも見せてくれます。「エイリアン」「アバター」のシガニー・ウィーバーも出ていたのですが、分かりましたか?
②-3 アメリカン・スナイパー
今クリント・イーストウッド監督が送り出してくる映画は自然体の普通さが凄い。多くの映画はどこかに盛り上げを作ろうとして作り物めいた部分を持ってしまう。作為を感じさせないうまさでは今や別格の人となっている。前作の「ジャージー・ボーイズ」がミュージカル、今回は戦争ものとジャンルの壁などない。
何を作っても自然体で作ることができる力を持っている。84才にしてこうした作品をコンスタントに送り出してくるエネルギーにも驚く。
アメリカン・スナイパーは実在のクリス・カイルの自伝を基に作られている。これを見て驚くのは、西部劇が盛んに作られていたころ(1950~60年)多くの作品で、インディアンが悪としての攻撃対象として殺されていくのと同じようにイラク戦争が描かれ、それに対する違和感を感じさせないことだ。映画でも描かれる父親の育て方、しかし弟とは違う性格を見ると、育て方だけの問題ではなく人の持つ性格と言えるが、こういう好戦的な人がいるんだ。
どんな戦争も同じような状況だと監督は語っている。確かに。子供も含め殺されていく悪人たち。殺す兵士たち。これが現実だ。ベトナム戦争でも多くの精神的障害が映画で描かれていたが、今なおこんなことを繰り返しているアメリカという国…。
②-4 フォックス・キャッチャー
デュポンといえばアメリカの化学メーカーくらいしか記憶にないが、その子孫の一人ジョン・デュポンが殺人を犯していたなど知らなかった。
彼を演じる本来はコメディアンのスティーヴ・カレルが凄い。半分しか開けていない目で、“正しい”が実際とは違うことを述べるのはまるで安倍首相。
③-1 はじまりのうた
ジョン・カーニーといえば、「ONCEダブリンの街角で」の脚本・監督が思い出される。アコースティックな歌がダブリンの街と同化していたのだが、今回の舞台はニューヨークで、これまた上手く街の風景が歌と溶け込んでいい気分。キーラ・ナイトレイが意外なくらいに作品世界にあっていてうれしい驚き。
③-2 ドラフト・デイ
面白さでは今月一番かも。もっと宣伝してほしい。東京ではTOHOシネマズ日本橋のみ。多分、日本ではアメフトが一般的ではないというところから、こんなふうな公開方になったのでしょうが誠に残念。少しでもアメフトに興味のある方は絶対に見るべき、私なんかよりずっと楽しめるはず。監督は「ゴースト・バスターズ」のアイヴァン・ライトマン、最近は息子のジェイソン・ライトマン監督の方が有名だが、父親も頑張っています。
③-3 君の生きた証
18歳の息子を大学の銃乱射事件で失った父が、息子の作った歌を歌うことで、若者の仲間ができ、回復していくストーリー。監督はウィリアム・メイシー、映画では名脇役として活躍してきた彼の初監督作。「ファーゴ」等に出ている珍クシャ系の小柄な男優です。この作品ではバーのマスター役。音楽が素晴らしく楽しい作品。
③-4 娚の一生
漫画の原作を映画化したのは廣木隆一監督。これが実にいい映画です。女性を主人公にした作品の多い廣木監督ですが、最近では一番好きです。オトコの一生ということで、豊川悦司の男性像もくっきりです。下の「さよなら歌舞伎町」よりいいですね。
面白い作品はほかにもありますよ。
●さよなら歌舞伎町:グランドホテル形式・廉価版のような脚本を書いたのは荒井晴彦。監督は廣木隆一監督、今月2本見ました。
●ワイルド・カード:ラスベガスで生きる一匹狼を主人公に、街を流すアメ車のドライブ、カジノでの勝負、用心棒としての闘いなど、ちょっと懐かしめの雰囲気。主人公が飛び道具を使わず、銃の相手に素手で勝っていくのも気持ちがいい。
●おみおくりの作法:こういう職場があるんですねえ。まるで地味な映画ながら、そして優しさの感じられる映画ながら、リストラとか死とか厳しいところも隠していない。そのあまりの静かさに驚く。
●ミルカ:メルボルン、ローマと2度のオリンピックに出場したミルカ・シンは、当時400mの世界記録保持者。生きるために走らざるを得なかった彼の伝記映画。
●フェイス・オブ・ラブ:亡くなってしまった最愛の人と同じ風貌の人が現れたら、人はどんな風に反応するかという切実なテーマがストレートに描かれる。
●トレヴィの泉で2度目の恋を:アニタ・エグバーグにあこがれたというのが凄いです。シャーリー・マックレーンとクリストファー・プラマー、ふたりのベテラン俳優が元気です。
●ジョージ・シーガル
「トレヴィの泉で2度目の恋を」でクリストファー・プラマーの友人で、医師のジョンを演じていたのはジョージ・シーガル。「バージニア・ウルフなんかこわくない」でリズにいじめられたり、グレンダ・ジャクソンと「ウィークエンド・ラブ」を楽しんでいた男優です。60年代後半から10年くらいはトップスターの活躍をしていました。しかし、ちょっと地味目で個性が強くないからか、いつの間にか見なくなりました。30年以上ぶりくらいに、まだ生きていることを確認しました。1934年生まれの81才だから元気でも不思議はないですね。Filmographyをチェックしていたら、「かぐや姫の物語」のアメリカ版声優として、日本では立川志の輔が演じた斎部秋田を演じていたことが分かりました。
●ウィリアム・ゴールドマン
「明日に向かって撃て」の前に「動く標的」があり、後には「大統領の陰謀」「マラソンマン」があった脚本家。シーガルと同じく60年代後半から80年ころにかけてはトップ脚本家と言って間違いがない人だった。1931年生まれの83才でまだ健在だと知ったのは、「ワイルド・カード」がジェイソン・ステサムの最新主演作として公開されたからだ。
驚いた、原作・脚本:ウィリアム・ゴールドマンとあったので。ラスベガスで用心棒的な稼業をして一人で生きている男、街を車で流す画面が当時の雰囲気を感じさせて懐かしい。
●日本でも何度も上演されたミュージカル「アニー」が再度映画化された。今回は主人公を黒人の女の子にして現代のニューヨークを舞台にしている。いかにも現代風の装いに合わせて、音楽のリズムも今風だ。しかし、今風のリズムにすると、なんだか似たような曲想ばかりになってしまう。
●なぜ、ゴダールは「さらば、愛の言葉よ」を3Dで作ったのだろうか?確かに、元々映像に凝るというか、無頓着風にしながら気を使っている感じはあった。それにしても、凝った角度などで見るのが大変という画像なのだ。題名通り、言葉が画面の中で踊ったりするのだが。今までの無頓着風をしないで、いかにも作りましたという画面にしたのは良かったのか?
●エンタメと割り切ればよくできた「ジョーカー・ゲーム」だが、深田恭子の女スパイ演技がいま一つ違和感。
●予告編を見ている限り「ミルカ」はインド映画には珍しく歌も踊りもない映画かと思っていたのだが、ラジオや街に流れる音楽が妙に大きな音だったり、勝利の時だったかに踊る場面も。イメージがちょっと違ったが、インドアカデミー賞14部門独占も納得か。
●ジョン・カーニーの「はじまりのうた」は「ONCEダブリンの街角で」同様楽しめたが、今年来日した舞台ミュージカル「ONCE」は今一つだったなあ。映画で分かっていたが、基本的にアコースティックな音源で、それ自体はいいとしても、ほとんど動きを持てない素材というのが致命的だったか。映画では街の風景が主役の一つのように動きを感じさせていたのだが、それがないのがつらい。いろいろ工夫はされていたのだが、十分な効果を上げていなかった。
●天童荒太の小説はその真面目ぶりが好きだが、「悼む人」の映画化は結構難しい。なぜなら、悼む人のドラマがどの程度盛り込めるかというところでは、小説の方が断然有利だから。
2/22の夜(現地時間)、ハリウッドのドルビー・シアターで第87回アカデミー賞授賞式が行われました。
結果は次の通りとなりました。
作品賞:バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
監督賞:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))
主演男優賞:エディ・レッドメイン (博士と彼女のセオリー)
主演女優賞:ジュリアン・ムーア (アリスのままで)
助演男優賞:J・K・シモンズ (セッション)
助演女優賞:パトリシア・アークエット(6才のボクが、大人になるまで。)
太字にしたのが、先月号で予想したのが当たったものです。3/6ですから50%の確率です。
最多受賞作は「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」の4部門、「グランド・ブダペスト・ホテル」の同じく4部門、「セッション」の3部門となりました。
かなり分散したという印象ですが、「バードマン…」が作品、監督、、脚本、撮影と主要部門を抑えました。
イニャリトゥ監督はメキシコ人ですが、2006年には「バベル」を監督、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされた菊地凛子や役所広司も出演していました。
今回の「バードマン…」は、かつてバットマンを演じていたマイケル・キートンが主演、予告編を見た限りでは、バードマンというヒーローを演じていたスターが落ちぶれて…といったところ。
なお、題名の中に(…)があるというのは原題でも同じ。
いかにもイニャリトゥ監督がやりそうな感じ。
「グランド・ブダペスト・ホテル」は、メイクアップ・ヘアスタイリング賞、衣装デザイン賞、美術賞、作曲賞と美的関係を独占です。当然です。
日本関係では「かぐや姫の物語」「ダム・キーパー」の長・短編アニメ賞は、残念ながら受賞できませんでした。
これから、続々と受賞作品が日本公開されます。「バードマン…」は4/10の公開予定です。
ドラマは戦争や、天変地異、大災害などを契機に語られることが多い。そうした大きな変化は人間の運命を大きく変えたりするからだ。
今年は敗戦後70周年を迎える。ということは実際に戦争を知っている人がどんどん少なくなっている。韓国は1953年に朝鮮戦争が終結した後も、北朝鮮との緊張した関係が続き、それが映画にも幾多のドラマを提供している。
橋本治の「バカになったか日本人」を読んでいたら、震災の後の被災地の風景を見ていたら戦争で破壊された街を思い出したとあった。確かに、何も残っていない街の風景は大きな衝撃を我々に感じさせた。敗戦後の風景と言っても間違いない。
この大きな出来事が多くの日本映画に影響を与えている。今月見た日本映画新作6本のうち3本で被災地が物語に取り入れられている。
「さよなら歌舞伎町」は東京で別々に生活する兄・妹が思わぬところで出会う。二人の現在の生活は震災の影響を受け、思っていた以上に厳しい状況になっている。二人の夢はその現実によってゆがめられている。
「アゲイン 28年目の甲子園」では、かつての野球部の仲間が、震災によって命を落としてしまう。ドラマのキーパーソンでもあり、彼がいないことでドラマは走り始める。
「深夜食堂」のエピソード“カレーライス”は、ボランティアで出かけた先でカレーライスを作ることで、被災者との絆ができ、それがドラマの軸になる。
震災後1年くらいから、様々な映画で取り入れられるようになった。
影響の大きさと、何らかの影響を受けた人が多かったことが要因だろう。
4周年を迎える今、より生活の中に入り込んだ形での影響を扱ったものが多い。
これからも東日本大震災の記憶を呼び起こす作品が作られていくことだろう。風化させないことが重要だ。
今月の「娚の一生」は久しぶりに大人の鑑賞に堪える作品だったが、最近の日本映画の恋愛ものでは高校生主人公のものが多い。その多くは漫画が原作だ。それだけ漫画が力を持っている。この手の恋愛映画を見る気があまりしないので、最近あまり見ていないが。
そんな中、原作小説が世界で1億冊売れたベストセラーとの売込みの「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」が公開された。見て驚いた、SM趣味の話だったから。しかも、結末は恋愛ものには似合わない(?)。これが世界の女性に受けたのかというのが正直な感想。作家も女性という小説は読んでいないが。
同じ日にアメリカでも公開されたこの作品、2週続けて全米1位の観客動員数を記録した。多分、多くの女性読者が映画館に来たということだろう。しかし、日本では1週目が5位、2週目はベスト10から外れてしまった。このあたり、女性の趣向の在り方もガラパゴス的なのだろうか?
「悼む人」を見ていた時、右側の少し離れたところから会話が聞こえてくる。高齢者男性の声がかなりの頻度で聞こえてくるのだ。まるで居間のテレビを見ながら奥さんと話しているような雰囲気だ。くぐもった声が全編に近く聞こえた。
「娚の一生」を見ていた時、通路の向こうの島の2つ目に座っていた女性が、突然携帯電話を開いた。少し離れていたが、それでも眩しい光が目に届く。
今月はここまで。
次回は桜の開花も近づいているだろう3/25です。