2015年 5月号back

“長い雨の季節を抜け”などと書きたくなるくらい、
桜の後は雨が降る日が多かった今年の春、
ここに来てやっとこの季節らしい天候になってきました。
過ごしやすい快晴の日々。
今週から始まるGWは勿論映画館で!

 

今月の映画

 3/26~4/25、新年度の開始時期を挟んだ31日間に出会った作品は26本、アカデミー賞の受賞作品なども公開されました。
 外国映画17本のうち、4本がフランス映画でした。この数年来フランス映画がコンスタントに公開されるようになってきたことの表れです。ここで、かつてのアラン・ドロンのようなスターが出現するともっと隆盛になるのでしょうが、そううまくはいきません。フランスはもともと美形ではない男性の方がスターになってきたし、今もその状況はあまり変わっていないので、美形志向の強い日本では無理でしょう。



<日本映画>

くちびるに歌を 
ジヌよさらば かむろば村へ 
がむしゃら
ソロモンの偽証 後篇・裁判
王妃の館
(古)背徳のメス 
本日休診 
座頭市物語
浪人街

 

 

<外国映画>

ジュピター
  (Jupiter Ascending) 
ディオールと私
  (Dior et Moi / Dior and I) 
カフェ・ド・フロール
  (Cafe de Flore) 
ブルックリンの恋人たち
  (Song One) 
間奏曲はパリで
  (La Ritournelle / Paris Follies) 
パレードへようこそ
  (Pride)
ラブバトル
  (Mes Seances de Lutte / Love Battles) 
神々のたそがれ
  (Hard to be A God) 
バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
  (Birdman or (The Unexpected Virtue of Ignorance)
マジック・イン・ムーンライト
  (Magic in the Moonlight) 
ギリシャに消えた嘘
  (The Two Faces of January) 
グッド・ライ~いちばん優しい嘘~
  (The Good Lie)
セッション
  (Whiplash) 
海にかかる霧
  (Haemoo) 
フォーカス(試写会)
  (Focus)
アルプス 天空の交響曲
  (A Symphony of Summits The Alps from Above)
ワイルド・スピードSky Mission
  (Fast & Furious 7)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー



① マジック・イン・ムーンライト
 79才の大監督に失礼ながら、ウディ・アレンはますます上手くなっている。この作品など1930年代の古き佳き時代のハリウッド映画と言っても間違いではない。ユダヤ的笑いでさえ影をひそめる。

 

②-1 パレードへようこそ
 サッチャー政権下のイギリス、強権的な改革に炭鉱労働者がストライキ。
1年以上に及ぶ抗議活動に共闘しようというゲイ・レズビアンと炭鉱労働者の現実との戦いが描かれる。実話に基づいた作品で、弱者が共闘することの意味を教えてくれる。

 

②-2 グッド・ライ~いちばん優しい嘘~
 1983年に始まった内戦で多くの難民が生まれたスーダン。
難民の子供たちをアメリカに呼び寄せるという運動があったことなど知らなかった。2つの世界の違いの大きさに、笑いながらも考えることも多かった。

 

③ バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
 今年のアカデミー賞4部門(作品賞など)受賞作品。「バベル」のメキシコ人監督アレハンドロ・イニャリトゥ監督が、スーパーヒーローもので有名になったスターの20年後、舞台で再び有名になろうとする男を描く。しつこいまでにヴィヴィッドな映画。

 


 他にも面白い作品が口をあけて皆様を待っています。




●ブルックリンの恋人たち:アン・ハサウェイが製作にもかんだという作品、なんだかスッピンのようなぎこちなさも残るが、すがすがしいところが気持ちよい。

 

●くちびるに歌を:三木孝浩監督は漫画原作高校生恋愛もの専門家と思って敬遠してきたが、この作品は静かな語り口で、新垣のツッパリぶりも良く素直に見ることができた。

 

●間奏曲はパリで:フランス・ノルマンディで酪農を営む夫婦の倦怠期、医者に行くと偽って妻はパリへ…。フランス的鷹揚さに救われるなかなか面白い作品。

 

●ジヌよさらば~かむろば村へ~:いがらしみきおの原作漫画を松尾スズキが脚本・監督し、出演もした作品。前半は特に面白いが途中ちょっと息切れ。

 

●ソロモンの偽証 後篇・裁判;後半も見せてくれるソロモンの偽証。真相をめぐり次々に明かされる本当のこと。誰もが加害者であり、被害者であるいじめの世界、そのことを自覚していく主人公たち。

 

●神々のたそがれ:う~む、私の理解を超える世界。原作はストルガツキー兄弟(「ストーカー」の原作者)の「神様はつらい」、ソビエト時代のSF作品だ。ソビエト時代、苦しい状況から飛び出すための…という観点から、少しはわ
かるものかもしれないが、この映画の感覚は凄いというか、恐ろしい。
分からないものはすべてダメなどと思ってはいない。この作品の持つ底知れぬエネルギーはどこから来るのか。管理され、自由のなかったソビエトという社会体制が、こうした作品を作らせる土壌になったのだろう。3時間悪夢の続きを
見せられたようなある種の衝撃だ。

●ギリシャに消えた嘘:「見知らぬ乗客」「太陽がいっぱい」の原作者として有名なパトリシア・ハイスミスの、「殺意の迷宮」の映画化。主人公自らも悪であるが悪の渦に巻き込まれていく人間の姿がハイスミス風。

●セッション:フレッチャー教授は本当にどっちに転んでもおかしくないキャラクター。その節操のなさがいまの時代でしょうか?そこで生きていく若者はかわいそうな気もしますが。

 

●アルプス 天空の交響曲:ヨーロッパアを横断して横たわるアルプスを、全編空から眺めたドキュメンタリー。何も考えないでただただ風景を眺めるのにはもってこいです。

 

●ワイルド・スピードSky Mission:東京の街中でドリフト大会…なんかから始まったワイルドスピードが、前作ユーロミッションあたりからスケールアップ、今回の作品も迫力には圧倒される。

 

 

 

Ⅱ 今月のウディ・アレン

 

 今年もウディ・アレンの映画がやってきた。
アレンの映画は東京では長らく恵比寿のガーデンシネマが上映をしてきたが、3年前に閉館となってしまった。その映画館がEBISU GARDEN CINEMAとして帰ってきたので、上映されるかと思ったが、残念ながら違うところでの上映となった。

  

 それはさておき、79才になっても創作意欲が衰えないアレン、既に次回作も撮影終了していて編集作業中、さらに次の作品も準備中という。あの、いかにもひ弱で体力のなさそうな小男のどこにこのエネルギーがあるのだろうか?かたくなに自分のスタイルを守って、映画を作ることが日常となっているのだろう。

 

 アレンといえばユダヤ人的笑いが大きな比重を占める。いかにもユダヤ人的風貌と、それ以上に言動の自信なさげなのに強靭さを感じさせるところが、虐げられても生き延びてきたユダヤ人の強さを感じさせる。また、自分自身を客観視した上での自虐的な笑いも彼らしいといえる。そのあまりのしつこさにちょっと辟易となる部分もあるが。

 

 今年の「マジック・イン・ムーンライト」には彼自身は出ていない。1920年代の南フランスを舞台に、中国人に扮してマジックを行うイギリス人の男性マジシャンと、アメリカ人の霊能力者の女性のロマンチックコメディである。コートダジュールに暮らす英米の上流社会の人々の間で繰り広げられる喜劇は特にユダヤ的な部分は感じられない。あえて探せば、男性主人公がマジックなんてありえないと思っている疑り深さだろうか?子供の頃からマジックを競っていた幼馴染でマジシャンの友達との会話が面白い。

 
 この作品の中で最もアレン的な匂いのする会話のやり取りは、まるでアレンが二人出演しているようでもある。主演のコリン・ファースは会話にアレン的雰囲気を漂わせて好演。

 

 嫌味でもなく楽しめるアレンなど珍しいので見る価値は大きい。お勧めします。

 

 

 

Ⅲ 今月の懐かしい人


カート・ラッセル

 

 「ワイルド・スピード スカイミッション」でCIAの特別チームを率いる親分を演じているのは、80~90年代に活躍したアクションスター、カート・ラッセル。「バックドラフト」などの印象が残る。
 調べてみると60年代前半、子役として10本近いディズニー映画に出演、その後一時マイナーリーグの野球選手として活躍するも肩を壊して俳優業に戻ったという。1984に「スイングシフト」で共演したゴルディ・ホーンと同棲、それ以来、結婚はしていないがパートナー関係を今に至るも続けている。アスペン近郊の72エーカーの牧場で暮らしているという。
 ちょっと苦味が入った顔は、時にファナティックに狂気を見せる。今回は案外渋い良い役だった。

 

 

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき

 

●イギリスにおける炭鉱閉鎖政策に端を発する1984年の炭鉱ストライキがいかに大きなことであったかは、今年ミュ

ージカル版の「ビリー・エリオット」が公開された「リトルダンサー」の舞台がスコットランド、今回の「パレードへ

ようこそ」がウェールズの炭鉱ということで、各地の炭鉱でストが行われたことで分かる。

 

●女子プロレスラー、安川悪斗のドキュメンタリー「がむしゃら」には驚いた。一つは様々な病気を抱えてもなおレスリングを続けることに、もう一つはそれほど長い訓練期間を経ずしてもリングに上がれてしまうことに。それにしてもこの情熱はよく分からない。

 

●1962年の「背徳のメス」、1952年の「本日休診」はともに病院が舞台。入院施設のある病院だが、個人経営のもので両作ともいかにもあの時代を感じさせる。50年前の日本はそうあんなふう(木造建物、入院部屋、白衣など)だっ

たと思い出す。

 

●いくらだましの映画だからと言って、後出しじゃんけんのようにだましあいがだらだら続くのはどうかと思ったのがウィル・スミスの新作「フォーカス」。さらに集団すりとコンゲームとは別物では?とも感じた。

 

●アメリカ映画なのに、前半の内戦が始まってから子供たちが国の外へ逃げ出していく様を丁寧に描いていた「グッド・ライ~いちばん優しい嘘~」。スーダンからケニヤまで1700㎞位を歩いていくのである。アフリカで内戦状態で安全に行けるはずがない。獣がいたり、深い河があったり、もちろん敵も。この前半があったからこそ、後半カンサスシティでの描写に説得力がある。監督はカナダ人、アメリカの良さも悪さも公平に描いているし、難民に向ける視線もやさしい。

 

●かつて「バットマン」「バットマン・リターンズ」でバットマンを演じていたマイケル・キートンが、「バードマン」というスーパーヒーローの主演者だったという内容の映画「バードマン 後略」は、誰が考えてもマイケル・キートンの俳優歴に当て込んだ企画ですよね。20年以上たった今もバードマンの声が頭に響く主人公は、NYブロードウェーのど真ん中で、舞台での成功を目指してハードな日々を送っているが、時に幻想にとらわれる。空中浮遊していたり、小物体を超能力で移動させたり…。

 

●中国から韓国に密入国する人々を、金稼ぎのために船に乗せた韓国漁船の話は「海にかかる霧」。なかなか見せてくれる作品でもあるが、驚いたのは女性客が圧倒的に多かったこと。これは出演者に、パク・ユチョンという元「東方神起」、現在「JYJ」のメンバーがいるからだろうか?還流もなかなか根強いところがある。

 

●誰でも自分の職業に関係することが映画などで描かれると、つい厳しい目を向けてしまうものだ。浅田次郎原作、水谷豊主演、橋本一監督の「王妃の館」は、添乗員付き旅行でありえない設定をしている。これは原作の責任でしょうが、浅田次郎にして旅行業に対してこんな認識かというのが残念。そうした目で見ると総てが浅薄なものに見えてきて、まったく乗れなかった。

 



今月のトピックス:GWのアラカルト 


Ⅰ GWの映画

 

 映画業界が作り出した言葉、ゴールデンウィークが間もなく始まります。
5/2(土)~5/6(水)の5連休、4/30(木)、5/01(金)と休みを取れば4/29(水)からの8連休も可能。まあまあの日並びでしょうか?映画業界が発明したGWに敬意を表して1本は映画を見てやろうという方、宜しくお願いします。

 

 作品的には上の今月の映画を参考にしていただくとともに、私が見ていない作品、これから公開される作品でお勧めできそうな作品は次のようになります。満足保証は致しかねますが。

 

 

<GWお勧め作・日本映画>

 

・寄生獣 完結編:昨年11月に公開された「寄生獣」の完結編。


・白河夜船:よしもとばななの原作を、今、旬の女優安藤サクラで。写真家でもある若木慎吾が初メガホン。


・龍三と七人の子分たち:北野武監督の新作、じじいやくざの話。


・映画「ビリギャル」(5/1より):大ヒット原作の映画化。このギャルは名古屋出身だったんですね。


・THE NEXT GENERATIONパトレイバー 首都決戦(5/1より):いよいよ、あのパトレイバーの実写ドラマ版。

 

 

 

<GWお勧め作・外国映画>

 

・あの声を探して:「アーティスト」の監督の新作、チェチェン紛争が題材です。


・シンデレラ:ディズニーが贈るシンデレラの実写版、監督はケネス・ブラナーです。


・マミー:26歳でゲイのグザビエ・ドラン監督の新作、カンヌ映画祭審査員特別賞受賞。


・ラスト5イヤーズ:大ヒット舞台ミュージカルの映画化。唯一のミュージカル。


・イタリアは呼んでいる(5/1より):ゲイではないイギリス男二人のイタリア縦断旅行。


・私の少女(5/1より):韓国映画、ペ・ドゥナと共演するのは「冬の小鳥」のキム・セロン。

 

 

 東京にお住まいの方は上記以外に旧作ですがエルンスト・ルビッチの特集が行われています。
    4/25~5/15 渋谷シネマヴェーラ ルビッチ・タッチ!


 超おすすめです。


 

 

 

 

Ⅱ 新しい映画館

 

 上のウディ・アレンのところにも書いたが、恵比寿のガーデンシネマが3月末復活した。

 正確には、同じ資本でもなく、映画館名もEBISU GARDEN CINEMAとローマ字になった。運営しているのはシネコンチェーンのユナイテッドシネマグループ。スクリーン数は前と同じ2ということで、箱というか、建物は前と同じ。
 ただし、内装は新しくされ、私の入ったシアター1は椅子も豪華なものだった。以前と同じように、ここでしか見られない映画を上映してくれることを願っています。

 

 4月にオープンしたのはTOHOシネマズ新宿。言わずと知れた新宿歌舞伎町のシネコンである。歌舞伎町といえば、かつて多くの映画館があったが、ここ数年でほとんど姿を消した。東宝もここに新宿プラザ、新宿東宝を持っていたが、新宿コマ劇場も壊して高層ビルを建設、下はシネコン、上はホテルにしたのだ。シネコンのビルの上にはゴジラの頭部が…がニュースになっていた。新宿で3つ目になったシネコンは12スクリーン、他の2つと違って2フロアに12スクリーンが収まっている。
 オープン2日目に見た「海にかかる霧」の館内はやたら冷房が寒かった。まさか、あれは「霧」の4DX効果じゃないよね。
 新宿に3つもシネコンというのが、どういうことになるのか?基本的にシネコンは同じ作品を上映している場合が多い。3つの間でどのような戦いが行われるのかじっくり見ていこう。

 

 

 

 

 

 今月はここまで。
次回はどこまで暑くなっているだろうか、
初夏を迎える5/25にお送りします。


 



                         - 神谷二三夫 -


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