2015年 8月号back

予定通り梅雨も明け、
真夏日が続く毎日です。
流石に毎日30℃以上はきつい。
そんな時、冷房の効いた中で楽しめるのは、
勿論、映画館!!

 

 

 

今月の映画

 

 6/26~7/25の30日間に出会った映画は31本、梅雨の間に今年の夏映画が始まり、ハリウッド大作の初陣として「マッド・マックス 怒りのデス・ロード」が最初に封切られ、その後の大作も続いています。勿論日本映画の大作も。
 日本映画では旧作も充実していました。



<日本映画>

きみはいい子
バケモノの子 
ラブ&ピース 
沖縄 うりずんの雨
(古)現代人 
二人だけの砦 
女は二度生まれる 
奥様に知らすべからず
母と子
竹山ひとり旅 
聖堂の基督 
もず  

 

 

<外国映画>

悪党に粛清を

  (The Salvation) 
オン・ザ・ハイウェイ その夜86分

  (Locke)
マッド・マックス 怒りのデスロード

  (Mad Max:Fury Road)
アリスのままで

  (Still Alice)
チャイルド44 森に消えた子供たち

  (Child 44)
アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン

  (Avengers:Age of Ultron)
ターミネーター:新起動ジェニシス

  (Terminator Genisys) 
雪の轍

  (WinterSleep)
フレンチアルプスで起きたこと

  (Turist / Force Majeure) 
ボヴァリー夫人とパン屋

 (Gemma Bovery)
ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム

  (Shaun The Sheep Movie) 
踊るアイラブユー

  (Walking on Sunshine)
奇跡の2000マイル

  (Tracks)、
インサイド・ヘッド

  (Inside Out)
Mr.タスク

  (Tusk) 
サイの季節

  (Rhino Season)
チャップリンからの贈り物

  (La Rancon de La Gloire / Price of Fame)
(古)ピクニック

  (Partie de Campagne / A Day in The Country) 
逃げ去る恋

  (L’Amour en Fuite / Love on The Run)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー



① サイの季節
 人の運命は一瞬にして変わる。一人の女性を挟んで、向き合っていた二人の男。権力が移ることによって、それぞれの立場は逆転する。美しい、ほとんど詩のような画面、ストーリーを語る言葉はなく、情念だけが鋭く我々を撃ちに来る。
 

② 沖縄 うりずんの雨
 アメリカ人監督ジャン・ユンカーマンが我々に教えてくれる。1945年4月1日米軍が沖縄本島に上陸して始まった沖縄戦から、その後70年間に様々な形で沖縄に多くの負担を強いてきた日本という国まで。必見の映画です。

 

③-1 バケモノの子
 細田守監督のアニメーションは少年を描く。両親の離婚で、一緒に暮らしてきた母が亡くなって、一人になった少年が渋谷で出会ったのはバケモノ。ここから始まる二人の関係は、少年が大人に近づく大事な時期だけに親子関係そのもの。

 

③-2 ターミネーター:新起動ジェニシス
 オリジナルの「ターミネーター」の日本公開から30年、新しくやってきた殺し屋は、まるでこの30年が無駄ではなかったかのような、余裕綽々の出来が心地よい。

 

 

 

他にもお楽しみいただける作品が続々、お勧めします。

 


●悪党に粛清を:19世紀後半、デンマークからやってきた元軍人の兄弟が、町の実力者と対決するヨーロッパ製西部劇は、空の色が違う。

 

●きみはいい子:親から殴られて育った子は、自分が親になった時、無意識に同じことを自分の子にしてしまうことが多いとは聞いていた。主人公がそのことを自覚するラスト近くには感動する。

 

●アリスのままで:主人公は言語学者、若年性アルツハイマーで徐々に知識を失う。50代で自分を失っていく怖さを実感できる。

 

●チャイルド44 森に消えた子供たち:スターリンの支配体制化、天国には犯罪はないという考えのもと、子供連続殺人事件は社会の表からは消されてしまう。

 

●雪の轍:カッパドキアのアナトリア地方の資産家の息子である主人公は、親の亡き後、舞台俳優として活躍していたイスタンブールから、カッパドキアに帰ってくる。厳しい風土の中、そこで出会う人々との関係は多分彼のこれからの人生にもかかわる。すごくいい映画なのに、だからかもしれないが、感情移入できる人物がいない。

 

●フレンチアルプスで起きたこと:フレンチアルプスにスキーに出かけたデンマーク人一家、雪崩に巻き込まれることで起こる家族の間のギクシャク。それにしても日本人家族のように、忙しすぎるお父さんがちょっとかわいそう。

 

●映画 ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム:こののんびり感が受けたのでしょうね、案外ヒットしている、何せマッドマックスを上回る成績だったのだから。 

 

●ボヴァリー夫人とパン屋:パン屋に扮するファブリス・ルキーニの表情がまるでドキドキワクワクの少年風で、笑わせる。サイトを見ていたら、フロ―ベールの「ボヴァリー夫人」をテーマにしたフランスの人気コミックを映画化とある。フランスでも漫画を原作とする映画があるようになっているのか!

 

●奇跡の2000マイル:オーストラリアの荒野、砂漠を3000㎞近く歩いて横断した女性を描く。長い砂漠を歩く際の荷物の運搬に使用するのはラクダだ。

 

 

 

 

Ⅱ 今月の懐かしい人

 

●ケヴィン・スミス
 「Mr.タスク」の監督はケヴィン・スミス、日本では1998年に公開された
「チェイシング・エイミー」を作った人だ。オタク的なテイストながら開放的な明るさがあり、気になる映画だった。彼が監督だったので「Mr.タスク」を見たのだが、ほとんど変わっていない味だった。

 

 改めて調べてみると、1970年生まれの44歳、「チェイシング…」の時は20代と若い。その後もかなりの作品を作っていて、日本で公開されたものもあったが、基本的にマイナー。気が付かなかったのも仕方がないと言い訳。
1994年に「クラークス」で監督デビュー、2006年に「クラークス2」を作っていて、「クラークス3」で監督引退と表明している模様、若いのに。いつできるかは知りませんが。

 

 

 

 

Ⅲ 今月の旧作

 

 今や名画座都市と呼べるかもしれない東京は、昔の映画を様々な観点から特集上映をしている。今月、なんだかたっぷり見た感があるのは日本映画の旧作が充実していたから。「女は二度生まれる」は“若尾文子映画祭 青春”の1本、「竹山ひとり旅」はフィルムセンターの“逝ける映画人をしのんで2013-2014”の1本で、それ以外は“渋谷実のおかしな世界”の作品群、いずれも良くできた作品でした。

 


●女は二度生まれる:芸者→ホステス→二号さんと成長(?)する女性を描く川島雄三作品。川島監督の上手さが冴えわたり、すっきり(省略が上手い)した語り口、勿論若尾文子の魅力も満開です。

 


●竹山ひとり旅:津軽三味線の高橋竹山の前半生を描いた新藤兼人監督作品。
明治43年青森の貧しい農家に生まれ、幼少時のはしかによって視力を失った竹山は、三味線と唄の門付け芸をしながら各地を回る、盲目ゆえの悲劇を味わいながら。昨年亡くなった林隆三さんを偲んで上映されました。

 

 

●もず:おかしな世界などと名付けられてしまった渋谷実監督、確かにおかしい、または、面白い作品も多いが、「もず」は傑作と言っていい。水木洋子の脚本が素晴らしい。軽快な会話劇が凄い。母、娘、飲み屋の仕事仲間、大家さんなど女性ばかりの世界を過不足なく描き切っている。渋谷監督の監督術も上手い。もともと松竹の監督、松竹といえば女性映画の伝統がある。ドラマ作りが上手いのだ。淡島千景が演じる母のしゃきしゃきぶりが見ものだし、物語的にも動きが早い。


映画を100%楽しんだ。

 

 

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき


●先月紹介した「約束の地」ではデンマークの軍人がパタゴニアにいたが、時は19世紀の後半、今月の「悪党に粛清を」は19世紀後半、アメリカに移民したデンマーク人の元兵士兄弟が登場する。歴史に弱い私はインターネットで調べてみると、1864年プロイセン・オーストリア連合軍とデンマークの戦争がありデンマークが負けたことが分かった。北欧系アメリカ人の元はこのあたりにあったんですね。


●画面に登場するのはロンドンに向かって車を運転する男の姿のみという映画は携帯電話があって初めて成立した。「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」は家庭(妻と子供)、会社、浮気相手と3か所との会話で終始するが、突っ込みどころは結構ある。ヨーロッパ最大の建築物の基礎工事の関係各箇所との確認などそれまでにやれよとか、一夜限りの相手とはいえもう少し話をしておくべきだろうとか…。画面付きラジオドラマといった趣ですね。


●よく考えれば近未来の話だったのにあまりその匂いがしなかった「マッドマックス」のオリジナルと違い、マッドマックス 怒りのデス・ロード」はその激しいアクションを含めSF感がつよい。女性の待遇改善(?)というテーマはいかにも今のものだが。未来はもっと男の天下?


●今年4本の映画が公開される園子音監督、現在「ラブ&ピース」「リアル鬼ごっこ」が公開中。「新宿スワン」は先月だった。9月に「みんな!エスパーだよ!」が公開。「ラブ&ピース」も上手くはなったが、熱はなく、「リアル鬼ごっこ」は見る気も失せた。

 

●「女は二度生まれる」「母と子」に共通するのは二号さんだ。妾とも言う。
今もいるのだろうが、昔の方が存在は大きく、普通のことだった。女性が自立したのか、男性の囲う力が落ちたのか?


●どこのスキー場とは出てこないが、「フレンチアルプスで起きたこと」とあるのでフランスだ。人口雪崩を起こしているのは普通のことか?リフトに乗っていると無音の雪原に響くリフトなどの金属音が生々しく思い出される。


●野生のラクダの数が世界一なのが、オーストラリアと教えてくれたのは「奇跡の2000マイル」。しかし、インターネットで調べてみると、19世紀に外から連れてこられたラクダは野生化し今や数が多すぎ、害獣として駆除されているとも出ている。これも知らなかった。

 

●「インサイドヘッド」の予告編には本編にない音楽が使われている。皆さんの方がご存知かもしれないが、ドリカムの「愛しのライリー」だ。ディズニーさん、最近この手のものが多い。驚いたことに、本編の前にこの歌用の短編が上映される。


●遺体を盗むというのは結構発生しているのだろうか?チャップリンのお墓を掘り起こして盗むのが「チャップリンからの贈り物」、実話だというから驚く。映画のラストでは、ブベイにあるチャップリン像が盗まれてます。

 



今月のトピックス:夏の映画界  


Ⅰ 夏の映画界


 一番の書き入れ時、夏のシーズンに向けて映画界は用意しています。

 

①ハリウッドの大作群


 今や世界のガラパゴスと化した日本では世界でヒットした映画が必ずしも当たるとは限らない。特にハリウッドのアクション大作は、期待の大きい割にはしぼむ場合もままある。それでも今年の夏は、久しぶりの続編的な作品も多く大決戦となっています。

 作品群は次の通り。

 

●公開済:

   「マッドマックス 怒りのデス・ロード」、

   「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」

   「ターミネーター:新起動 ジェニシス」

 

●これから公開:

   7/31~「ミニオンズ」
   8/05~「ジュラシック・ワールド」
   8/07~「ミッション・インポッシブル/ローグ・ネイション」
   8/28~「テッド2」

 

 

 

 

②戦後70年に関連する作品群

 

 敗戦の日、8/15に向けて毎年戦争映画は作られますが、70周年でもあり作品が多くなっています。

 

●公開済:

   「沖縄 うりずんの雨」

   「戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)」

   「野火」

 

●これから公開:

   8/01~「筑波海軍航空隊」,「ソ連国境 15歳の夏」
   8/08~「日本のいちばん長い日」,「この国の空」
   8/15~「ひとりひとりの戦場」, 「最後の零戦パイロット」

 

 

 

 

③名画座での特集上映(東京)

 

 東京の名画座では、戦争あるいはその時代に関連した映画が特集されます。

 

新文芸坐(池袋)

   7/26~8/08 戦後日本の歩み、11の断面
   8/12~25 日本の戦争/今こそ、反戦平和の誓いをこめて
   4週間に渡って、53本の作品が上映されます。

 

神保町シアター

8/01~28 戦後70年特別企画1945-1946年の映画
1945年8月15日から1946年末の間に公開された16本の作品と、小津安二郎などの巨匠が作り1947~48年に公開された4作品が上映されます。

 

 

 

 

Ⅱ 一月に3本の男:トム・ハーディ

 

 今月見た映画の3本に主演していたのがトム・ハーディ、ご存知ですか?
見た順に作品を挙げると次の通り。

 

   オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分
   マッドマックス 怒りのデス・ロード
   チャイルド44 森に消えた子供たち

 

 オン・ザ・ハイウェイは2013年の作品、残り2本は今年2015年の製作です。1977年生まれの37歳ですから、これから上手くいけば活躍の場を広げていくでしょう。

 

 2001年に2本の映画に出演、そのうちの1本は「ブラックホーク・ダウン」でしたが、勿論主役ではありません。

 

 2010年の「インセプション」、2012年の「ダークナイト・ライジング」で注目されるまでも色々な作品に出ていました。

 

 175㎝と特に大柄でもなく、正統的な美男子でもありません。西洋人にありがちな芋顔の一種ともいえそうです。そこに最近ちょっとあくが増してきた。

 

これからどういう方向に行くのでしょうか?
個性と言える程の明確なポイントが今はないので、作品によるということでしょうね。イギリスの中年男ふたりがバカ話しながらイタリアを旅する「イタリアは呼んでいる」でサカナにされた一人がトム・ハーディ、“発音が内にこもって何言ってるのか分からん”と。

 

 

 

Ⅲ 最近の映画館の作法

 

①携帯を開ける人たち


 本編のストーリーが終わってエンドロールが始まるとすぐ携帯、スマホを見る人々。まだ暗い場内に光が付くので、蛍と呼ばれる。殆どの人はメールを見るためなんだろうが、そんなに急いで、親が危篤?
 エンドロールが始まるとすぐ席を立つ人と、蛍になる人とどちらがましだろうか?どちらも避けたい人々ではあるが。


 「チャイルド44」が終わるとすぐ隣の人が蛍になった。あまりのことに「まぶしいので消してください」と言ったら、出て行ってしまった。声をかけるのはずいぶん久しぶりだったので勇気が要ったが、言えば言える。先月「ピッチ・パーフェクト」の時は前の列で3席ずれている人がエンドロールの間ずっと蛍、声をかけるにはちょっと微妙な距離で悔しい思いをしたものだ。

 

 

 

②会話を続ける夫婦


 家でも会話のある夫婦なんでしょうね。 まるで居間でTVを見ながら話しているように、時々、最後まで話していた夫婦。年齢的には70歳くらいか?
 見ていたのは「チャップリンからの贈り物」で年代的にはあっているかも。私はその後ろの列の4つほど離れたところにいたのだが、隣に座っていた人は大変だったのでは?何故、“お静かに”が言えなかったのだろう?

 

 

 

 

今月はここまでです。

 

これから2か月近くは暑さが続くのでしょう。
心まで涼しくなるような映画に出会えること祈ります。


                         - 神谷二三夫 -


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