少しばかり暑さが優しくなり、
涼しげな風が吹き始めたここ最近ではありますが、
まだまだ残暑が待っている(はず)。
もし、“残暑厳しき折”などとなったならば、
すぐ避難しましょう、そう、映画館に!!
7/26~8/25の猛暑日が何日もあった31日間に出会ったのは31本*、今年の夏の大作、話題作もほぼ出そろい、戦後70年に合わせての戦争を考えさせる作品も加わって、夏の映画シーズン対決が終わりつつあるこの頃です。
今年はハリウッド作品ががんばって成績的には洋画の勝ちになりそうです。
*「人生スイッチ」は実際には先月、試写会で見せていただきました。先月入れ忘れましたので、今月分に入れています。
愛を積むひと
ルンタ
日本のいちばん長い日
この国の空
お盆の弟
野火
進撃の巨人
(古)永すぎた春
そよかぜ
歌へ!太陽
人間の條件1・2部
人間の條件3・4部
人間の條件5・6部
グランドショー
国定忠治
大曾根家の朝
夜の女たち
人生スイッチ
(Relatos Salvajes / Wild Tales)
バトルヒート
(Skin Trade)
ルック・オブ・サイレンス
(The Look of Silence)
ジュラシック・ワールド
(Jurassic World)
ラブ&マーシー 終わらないメロディー
(Love & Mercy)
ベルファスト71
(’71)
ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション
(Mission: Impossible RogueNation)
あの日のように抱きしめて
(Phoenix)
ふたつの名前を持つ少年
(Lauf Jungle Lauf/ Ron Boy Run)
さよなら,人類
(A Pigeon Sat on a Branch Reflecting on Existence)
ミニオンズ
(Minions)
ナイトクローラ
(Nightcrawler)
ブラックシー
(Black Sea)、
彼は秘密の女ともだち
(Une Nouvelle Ami / The New Girl Friend)
① お盆の弟
主人公は弟、5年前に作った映画により、映画監督と呼ばれる39歳だ。しかし、第2作目がなかなか撮れない。しっかり者の妻に養ってもらい、主夫をしているような状態だ。大腸がんになった兄の面倒を見るため故郷の群馬県に帰ってきた時のお話。白黒のモノクロ画面で語られる、ゆったりで優しく、厳しい映画でお勧めです。
② ベルファスト71
北アイルランドのベルファスト、IRAの行動が激しさを増していた1971年を舞台に、イギリス軍の新兵がこの街で遭遇する危機を緊張感たっぷりに描く。2つの勢力から狙われる(殺されるかも)状況に、50年近く前TVで見た「邪魔者は殺せ」で仲間の勢力と警察の両方から追われたJメイソンを思い出す。同じくベルファストでの話だった。
③ 野火
大岡昇平の原作を映画化した塚本晋也監督は、脚本、製作、脚本、撮影など何役もこなしながら、フィリピンのジャングルで繰り広げられる戦争の極限状態を描く。原色の世界で人間は生きるために必死の戦いを行う。それはいかに食料を手に入れるかだ。戦争よりも飢餓という状況に追い込む戦争状態がいかに異常であることかを描く。
他にも多くのおススメがあります。
●人生スイッチ:スペインの巨匠アルモドバルの製作というのでスペイン映画と思いきや、珍しアルゼンチン映画、スペイン語圏ですね。6話からなるエピソードはどれも極辛口。情報なしで見たのでエピソード集とも知らず、1話の“おかえし”には唖然。
●愛を積むひと:見る前は、その題名からちょっと引くのですが、アメリカの原作小説は、「石を積むひと」らしい。北海道に上手く移植、素直に良い映画になっていました。
●ルンタ:チベット語で「風の馬」が題名の日本製作(池谷薫監督)のドキュメンタリー。焼身自殺が増え続けているチベットの状況にかかわり続ける日本人中原一博(62歳)氏を追いながら、中国に対して非暴力の抵抗を続けるチベットの姿を教えてくれます。
●ジュラシック・ワールド:この新作を見て「ジュラシック・パーク」がいかに凄かったかを感じた人は多い。確かに。歴史的な出来事の一つだったものだから。そんなことは忘れて案外素直に楽しみました。
●ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション:「スパイ大作戦」の楽しみは、そのチームワークにありましたが、トムさん主演になってから一人主演が続きました。今回は少しだけチーム意識ができたかなというところ。
●この国の空:戦争中の東京、主人公の19歳の少女は、妻子を疎開させ一人で暮らす隣家の夫に時々家を開けて風通しをするように頼まれる。それを機に、彼女の想いが膨らむ。戦時下という非日常の中の静かな日常の中で、静かに進んでいく少女の性を、脚本・監督の荒井晴彦はゆっくり、静かに描いている。エロチックな赤いトマト。
●ふたつの名前を持つ少年:2次大戦中ポーランドのユダヤ少年がゲットーから逃げ出し、終戦までの3年、どんなふうに厳しい状況を抜けてきたかをこれでもかと描いている。原作「走れ、走って逃げろ」の作者ウーリー・オルレブは現
在エルサレム在住。
●さよなら、人類:スウェーデンの監督ロイ・アンダーソンが描くのは、5つの奇妙なエピソード。ほとんど動きのないカメラでゆっくり描かれるのは、その中で熟す情念とおかしみ。
●ミニオンズ:UNIVERSALの文字が地球の向こうから回ってくるユニバーサル映画のマークにかぶる音楽がミニオンズによるコーラスになっていて、これに乗ったらあとはイッキ。
●ナイトクローラー:下流階級で上昇志向の強い主人公が、多くのものを手に入れるために、軽々とやらせ報道に手を出していく。殆ど何のこだわりもなく、ただ話題になることだけを目指して。公開規模は大きくないが、かなり混んでいた。やはり話題に引き付けられてか?
●ブラックシー:潜水艦映画に失敗はないとはよく言われる。狭い空間で繰り広げられる男たちの生きるための戦い。外は深海の死の世界。緊張感が続く世界だ。黒海を舞台に、ロシアのおんぼろ潜水艦で狙うのは、ナチスの金塊。ゾクゾクです。
日本映画の旧作が多くなりましたが、戦後70周年に合わせ特集上映があったためです。神保町シアターでの“1945-1946年の映画”と松竹による“人間の條件・1週間上映”です。やっと「人間の條件・全6部」、約9時間半を見ることができました。
“1945-1946年の映画”「そよかぜ」「歌へ!太陽」「グランドショー」はいずれも歌謡劇場を舞台にしている。戦争中は、特に末期はレビューなどは見られなかったでしょうから、終戦後すぐの映画は、人々の求め(るだろうと作る側が想像した)に応じて、歌や踊りがあふれたものになったのだろう。
「そよかぜ」からは“リンゴの唄”が大ヒット、知らなければ歌の大ヒットに合わせて作られたと思うだろう。いかにも真面目な戦後感の残る作品。(1945年10月11日公開)
「歌へ!太陽」は轟夕起子、榎本健一、灰田勝彦、川田義雄が歌いまくる作品。それぞれ違う持ち味のエンターテイナーの集まりで、大げさに言えばバンドワゴンのような味わいを感じさせる。お話は他愛ないが、その他愛なさがうれしい。(1945年11月22日公開)
「グランドショー」は舞台装置の中でコックとウェイトレスの恋物語が語られ、さらに少女歌劇団がレビューを繰り広げる。高峰三枝子と森川信(初代おっちゃんですね)の恋愛、男装のターキー(水ノ江滝子)が踊り、ディック・ミネが歌う。(1945年12月31日公開)
レビュー映画以外では、「大曾根家の朝」に感心した。
“人間の條件・1週間上映”
今までにも何回か上映が行われてきた「人間の條件」をやっと見ることができた。五味川純平の長編原作を映画化したのは、小林正樹監督。主演は仲代達也。満州での鉱山という職場での日本人と捕虜となった中国人の人事管理という1・2部から、主人公、梶が軍隊の中で様々な理不尽を経験しながら終戦に至る3・4部、ソ連の参戦で中国から帰ることさえできなくなりという5・6部までが描かれる。戦争に行かないように努めた1・2部、軍隊に入らざるを得なくなる3・4部、生きるために様々な経験をし、雪原を歩き続ける5・6部となろうか?こんな風に人をどこかに連れ去っていく戦争に、安倍政権は手をかけようとしている。
●「そよかぜ」の“リンゴの唄”は3回も使われている。開始すぐに流れ、終盤近く、2回流れる。覚えやすいメロディと明るさと、ヒットの要素は十分。いつの時代も同じ。
●チベットの焼身自殺が中国への抗議のために増えていて、最近7年間で120件を超えると知った。チベット人たちは非暴力を貫いているともいう。先月紹介した「しあわせはどこにある」にも、チベットは出てくるが、精神的な何かを得られるところぐらいの印象。「ルンタ」とは大いに違う。
●企業家は、人を集めるためにさらに怖い恐竜を求める。人の気を引いて多くの人を集めるには話題作りが大事という真理ではあるが、行き過ぎればそれなりの弊害、危険が一緒にやってくると「ジュラシック・ワールド」は教えてくれる。
●ブライアン・ウィルソンといえば、ビーチボーイズの多くのヒット曲を書いた中心メンバー。サーフィンサウンドで一世を風靡した彼らは、ブライアンの音作りに対する姿勢が先鋭化していく中、徐々に分裂していく。その間、精神を病んだブライアンに付いた精神科医が彼を支配していく。「ラブ&マーシー 終わらないメロディー」で精神科医をいかにも怪しく演じているのはポール・ジアマッティ。変なかつらを冠って演じています。
●「日本のいちばん長い日」は原田真人監督の新作、前作「駆け込み女…」と同じく黒を基調とした画面作りが冴えわたる。改めて、これほど美しい画面を作る人だったのかと驚いた。
●渋川清彦は多くの映画に出ているが殆どわき役だった。「お盆の弟」は昨年の「そして泥船はゆく」に続く主演2作目らしいが、いい味を出している。不安定な映画監督稼業で、ふらふらしている感じが、うまく出ていて、若い頃のベルモンドみたいな感じもした。ナイーヴ感もある41歳、今後に期待。
●ジェイク・ギレンホールがやせてとんがり、金がなくて必死の男を下品に演じ、気味悪いほど目がぎらついている「ナイトクローラー」、彼は製作者の一人でもある。それにしても、中年の女性キャスターを文字通り抱き込むことまでして駆け上がりたいのは何故だろうか?まあ、どんな世界でも上に這い上がろうとする人はいて、そういう人のエネルギーである種の活気が喚起されるのだろうが、嘘まで作るのはいかがなものか?
●フランソワ・オゾン監督の新作「彼は秘密の女ともだち」は、複雑な性(ジェンダー)関係で、よく分からん。主人公の女性は、どうして亡くなった親友の、女装した夫と再婚したのか?それにしてもロマン・デュリスの女装はどう見たってきれいじゃない。
日本が世界に誇る漫画文化、その恩恵に映画界も長く浴してきた。
アクションだけではなく、どんなジャンルにも漫画作品があるという幅広さや、基本的にはわかりやすさを基調にしていて人々に受け入れられやすいという点など、映画原作として使いやすいものだからだろう。子供用アニメーションには昔からマンガが使われてきた。
その伝統を踏まえつつ、今や大人向けの実写作品にも多くの漫画が使われている。その使われる度合い、その集客力を見るため昨年、今年の成績を見てみよう。
2014年の日本映画興行成績:
1~10位のうち、漫画原作:8本、小説原作:2本(日本1、外国1)
2015年第1~33週末の成績1位の作品:
外国映画/18本
日本映画/15本(漫画原作7本、小説原作1本、TV番組その他7本)
この状態で漫画の原作が無くなることは考えにくい。
今後もこの傾向は続くことだろう。
漫画原作から実写映画で作られた作品を、今年になってから次のように見ている。
2月号:海月姫
3月号:深夜食堂、嫐の一生
6月号:寄生虫 完結編
7月号:新宿スワン、海街diary
9月号:進撃の巨人
深夜食堂や海街diaryのような佳作、傑作があるが、気になるのが寄生獣、進撃の巨人のSF的作品である。
2作品とも漫画で読む分にはそれほどの違和感はないのではないかと想像する。全てを書く必要はなく、詳細に説明することも可能である漫画に比べると、画面にはある程度細かいところも含めて写ってしまい、言葉で長々説明することはできない映画という特性がSF作品を作る場合は支障になるのだろうか?
作品的にはこれらの描写がしっかりしていないと話が浮いてしまう。言葉は悪いが、漫画的描写になってしまう。作品に真実味が無くなってしまうのだ。
さらに、これらの作品が我々に訴えようとしているのは何だろうか?
そのテーマ、物語の根幹もが小さくまとまって嘘っぽく見えてしまうのだ。
映画には、映画なりの真実がないとその話を信じることができない。
勿論、漫画には漫画の、小説には小説の真実が必要なのと同じことだ。
SF作品の映画化において、画面に物語、ひいてはその思想を定着させるのに、どの程度の工夫がされたのか?
漫画を読んで感動し、映画にしようとした時、漫画と映画という違う表現をどのようにすれば映画に合ったものにできるかが重大ではないか?
未来の話であれば、細部まで考えて細かい部分までその時代に合ったものを作らない限り、画面の隅に嘘が映ってしまうことになる。
実写とアニメという関係では、「進撃の巨人」が実写版の少し前にアニメ版の映画も公開されていた。残念ながら見ていないので何も言えないが、2つの違いはどうだったんだろか?もし、両方を見た方がいたら教えてください。
ジュード・ロウといえばディオールの男性用香水「Dior Homme Sport」とダンヒルのイメージキャラクターを務めていることからも分かる通り、現役の男優の中でもイケメンであると言われている。1972年12月29日生まれの42歳と働き盛りを迎えている。仕事もコンスタントに続いているようだ。
「イタリアは呼んでいる」の中で、スティーヴ・クーガンとロブ・ブライドンのバカ話の中に、「ジュード・ロウは若はげだ」と出てくる。確かに髪の毛はかなり後退している。
「ブラック・シー」を見て驚いた。正にはげの中年をそのままに演じていたので。しかも、どちらかといえばついてない男。仕事ができて信頼されていたが、担当していた仕事が時代に合わなくなり、解雇されてしまうという役柄。
中年になれば誰にでも起こりうる状況に立たされた男だ。主人公は、ここで男の武骨な生き方を見せてほとんどヒーローになるかと思わせるが、そう簡単には成功させてくれないのが現実の世界だ。そのあたりもきちんと描写され、いかにも男臭い世界だが、ここにジュード・ロウがきっちりはまっていた。別にはげだからという訳ではない。
「ダカタ」を見た時、まるで未来の世界から来たピカピカの男の子のようだったが、いまや、薄汚れた中年が年相応に似合う男になったんだなあと感心した。
今月のベストスリーの3本は、全て8/15に見た。どの作品も少し前に封切られていたものだが、気になりつつなかなか行けず、偶然8/15にまとめて見ることになったものだ。
3本目に見たのが「野火」だったのだが、封切りから3週間もたっていたし、成績的にすごいとも聞いていなかったので、まあ大丈夫かと思い、かなりギリギリの時間に映画館に着いた。驚いたことにかなり混んでいた。考えてみれば、戦争の映画をこの日に見るのはある種正しいのだから当然だ。
見たのは3回目の回だったが、4回目の後には塚本監督等のトークも予定されていたようだ。それでも、まあ見やすい席を確保でき、落ち着いて周りを見渡してみれば、ほぼ満席の場内は基本的に若い人が多いのに驚いた。私の隣は年上の夫婦だったが、全般的には20~30代が目立った。
戦争という極限状態が、主人公をはじめ兵隊たちを追い詰め人間を破壊する。それでも逃げられないのが戦場だ。「ベルファスト71」はラストで、主人公が人間に還ろうとしている。
2本の間に見た「お盆の弟」では、現実世界の時間が流れていた。
次回まで、涼しい日が続くことを願いながら、
今月はここまで。