2015年 11月号back

10月も25日になりました。

暑かった日、雨に降られた季節も過ぎて、今や冬の1歩手前、
すぐに師走が追いかけてきそうです。
そんな時ホッとできる場所は、そう、映画館!
ワクワクもできるのです。

 

 

 

今月の映画

 

9/26~10/25、秋本番を迎えた30日間に出会った映画は32本、
流石の秋、充実した作品群が揃いました。
 芸術の秋の真っただ中、多くの作品に恵まれて、至福の時を多く過ごしました。



<日本映画>

進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンドオブザワールド
GONINサーガ
バクマン
岸辺の旅 
合葬
先生と迷い猫 
図書館戦争 THE LAST MISSION 
ボクは坊さん。
(古)挽歌、 
香華
背景天皇陛下様  

 

 

<外国映画>

天使が消えた街
  (The Face of An Angel) 
黒衣の刺客
  (The Assassin) 
サム・ペキンパー 情熱と美学
  (Passion & Poetry:The Ballad of Sam Peckinpah)
パパが遺した物語
  (Fathers & Daughters) 
顔のないヒトラーたち
  (Im Labyrinthdes Schweigens / Labyrinth of Lies) 
アントマン
  (Ant-Man) 
ロバート・アルトマン/ハリウッドに最も嫌われ,そして愛された男
  (Altman) 
アメリカン・ドリーマー 理想の代償
  (A Most Violent Year)
マイ・インターン
  (The Intern)
名もなき塀の中の王
  (Starred Up)
ファンタスティック・フォー
  (FantasticFour)
ヴェルサイユの宮廷庭師
  (A Little Chaos)
ピッチ・パーフェクト2
  (PitchPerfect 2)
ヒトラー暗殺,13分の誤算
  (Elsar / 13 Minutes)
ヴィヴィアン・マイヤーを探して
  (Finding Vivian Maier)
白い沈黙
  (The Captive) 
真珠のボタン
  (Ei Boton Nacar / The Pearl Button)
光のノスタルジア
  (Nostalgia de La Luz / Nostalgia for The Light)
(古)さらば友よ
  (Adieu L’Ami) 
この庭に死す
  (La Mort en Ce Jardin) 
父、帰る
  (Vozrashchenie)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー



①-1 顔のないヒトラーたち
 アウシュビッツ裁判を知りませんでした。1958年、若い検察官が手を付けたアウシュビッツにいたドイツ人兵士の現況の調査が、初めてドイツ人にアウシュビッツのことを知らせることになるとは。ドイツ人がきちんと反省することになる契機の実話の映画化。

 

①-2 光のノスタルジア、 真珠のボタン
 2本はチリのドキュメンタリー作家パトリシオ・グスマン監督の2部作だ。
チリにあるアタカマ砂漠、南北に長く太平洋に多く面しているチリという国の多くに、ピノチェト政権(1973~90年)下で政治犯としてとらえられた人々の遺体が眠る。時代を超え、天空を超え、チリの悲劇が描かれる。

 

② バクマン。
 少年漫画誌「ジャンプ」はどうも好きになれない。友情、努力、勝利というキーワードも、アンケート主義による取捨選択も、昔の映画界の5社協定にも似た専属制度も。「バクマン。」はジャンプ編集部と高校生デビューした漫画家(二人組)の物語。映画はほぼ活劇で、青春物語で面白い、意気がいい。

 

③-1 白い沈黙

 アトム・エゴヤン監督は今までも喪失を描いてきた、しかも子供たちの。
8年前9才の娘がいなくなった両親は必死に探すのだが…。喪失感、いなくなったことに対する罪悪感、など様々な感情が入り混じる。この事件の良し悪しはあるが、緊張感、喪失感の哀切が胸に迫る。

 

③-2 ヴィヴィアン・マイヤーを探して
 アメリカにはこちらの想像を超える人が時々現れる。ヴィヴィアン・マイヤーは膨大な数の写真(15万枚以上)を残したが、本業は乳母。写真を人に見せることなく死んでしまった。その人生はは正に変人だが、残した写真は、写された人の人となりをくっきり切り取って素晴らしい。ドラマ以上の面白いドキュメンタリーだった。

 

 

 

 他にも面白い作品がどっさり。

 

●サム・ペキンパー 情熱と美学:「ワイルドバンチ」でスローモーションの力を再認識させたり、西部劇の挽歌を歌い上げたり、ペキンパーは独自の道を進んだ。

 

●GONINサーガ:残念ながら前作「GONIN」は見ていないが、今回は2代目たちの物語。それゆえか、どうも緊迫度が足りないと感じたのは私だけか?

 

●パパが遺した物語:芸術家はある種変人の人が多いかもしれない。自分の感情に忠実、自分の見える範囲が少し狭い。それだけ大きな印象を与えてはくれる。ラッセル・クロウが妙に作家に似合っていた。

 

●岸辺の旅:黒沢清監督の新作は、なんだかホッとしてしまう夫婦の話。3年の不在の後返ってきた夫との旅は、彼がお世話になった、気に入った地を訪ねるもの。なかなか向こうの世界に行けない人というのも登場、監督の見る目が優しい。

 

●アントマン:1.5センチの極小スーパーヒーローはいかに誕生したのか、この前半部分が手抜きなしで後半の活躍ぶりが生きてくる、楽しめる作品です。

 

●合葬:杉浦日向子の漫画を実写映画化、幕末から明治に時代が変わりつつある時代の若者たちを描いている。端正で静的な画面ながら揺れ動く若者の気持ちを表現。

 

●ロバート・アルトマン/ハリウッドに最も嫌われ、愛された男:「M★A★S★H」でのロバート・アルトマンの登場はさーっと眼前が開かれるようで、新しさに目がくらんだ。

 

●アメリカン・ドリーマー 理想の代償:1981年、舞台は危険な街ニューヨーク、オイル業界でのし上がろうとしている男とその妻の、危険ゆえの緊張感がリアル。今やあの頃の緊張感が妙に懐かしくもある安全なニューヨーク。音楽もなく渋い画面が続く。

 

●マイ・インターン:アラサー女性が1年半前に起業したネット販売会社、急成長する会社は、シニアインターンという制度を、彼女の一言から始めたのだが…。面白く薀蓄に富むお話。

 

●名もなき塀の中の王:舞台はイギリスのとある刑務所、物語はそこから出ていくことはない。19歳で少年院から成人の刑務所に移送されてきた主人公は、一人で生きていくために暴力に訴えることが多い。刑務所には長く会っていなかった実の父がいたのだが…。

 

●ファンタスティック・フォー:アメコミの大手、マーベルコミックは今やヒット連発の映画会社だが、Wikipediaによるとこの原作はアメコミ史上初のスーパーヒーローチームだという。それでなのか、ものすごく丁寧に作られたチーム誕生までの前半部分が充実。

 

●ヴェルサイユの宮廷庭師:1682年ルイ14世の時代、ヴェルサイユの庭を手掛けたのはルノートル、彼の下に女性の庭師マダム・ド・バラがいたとする脚本が良い。

 

●ヒトラー暗殺、13分の誤算:個人でヒトラーを殺そうとしたゲオルク・エルザー、上手く爆発したのに天候のために殺し損ねてしまう。史実を冷静に映画化。

 

 

Ⅱ 今月の監督たち

 

 監督についてのドキュメンタリーが2本公開されている。
サム・ペキンパーとロバート・アルトマン。二人ともハリウッドで活躍し、それぞれ独自の世界を作り出した。

 60~70年代、なくなりつつあった西部劇を中心に、暴力描写に個性を発揮していたサム・ペキンパー。暴力を描きながらも抒情的な感情を常に抱いていたのが作品に見て取れる。故郷にはペキンパー山という名の山があるほどお金持ちの子供だったらしい。暴力的というより、一面ひ弱さを感じさせるのは、両家の子供ということに由来するのだろうか?

 

 この映画で、最後に撮っていたのはジョン・レノンの息子ジュリアン・レノンのプロモーションビデオのようで、まったく彼に似合わないジャンルの仕事をしているところは、なんだか哀れである。多くの人とともに作る映画の場にいながら、孤独を感じさせる監督だった。

 

 ロバート・アルトマンは孤独とは無縁のように見える。仲間や家族とわいわいしながら映画を作っていたようだ。その明るさがすべての作品に現れている。70年代は今までとは少し違う斜め目線の面白さが作品に現れていた。90年代半ば以降の多くの集団劇はまるで彼自身の仲間との交友を楽しんでいるかのようだった。


 この映画を見ていると、子供たちも映画関係で働いているようだ。50~60年代はTVの多くを手掛け「サーフサイドシックス」「コンバット」などを作っていたようだ。その頃からみんなで作ることを楽しんでいた。遺作となった「今宵、フィッツジェラルド劇場で」の楽しさも、そんなところから来ているのだろう。

 

 二人ともハリウッドにあっては異端だったが、だからこそ作品が残った。

 

 

 

 

 

Ⅲ 今月の懐かしい人

 

☆センター・バーガー


 「サム・ペキンパー 情熱と美学」で彼について語る映画人の一人として登場したのは彼の作品「ダンディー少佐」に出演していたセンター・バーガー。60年代後半を中心に活躍したドイツ出身のセックスシンボルの一人。あくの強い、きつめの顔が印象に残る。
 今回の登場には、女優の他にプロデューサーの肩書がついていた。ドイツに帰った後、プロデューサーもしていたらしい。はきはきとペキンパーについて語るのが、いかにも彼女らしい。

 

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき

 

●現在連載継続中の漫画の映画化「進撃の巨人」2作目は、仕方ないとはいえ巨人の謎は解明されない。映画はまだ作られるのだろうか?今回の作品は一つの戦いだけで終わってしまった。

 

●長らく脇役、3番手、2番手だったチャールズ・ブロンソンが初めて主演した「さらば友よ」をやっと見たが、荒い作りで時代を感じさせる。この後、日本ではマンダムで大人気に。

 

●有吉佐和子の小説を原作とする「香華」は木下恵介監督・脚本が力を見せる。今やその世界が描かれることはほとんどなくなった置屋の世界をきっちり見せてくれる。

 

●1981年のニューヨークは危険だったのに、主人公は自分の会社を拳銃なしにやり抜こうとするために、多くの危機に遭遇する「アメリカン・ドリーマー 理想の代償」。石油運搬車が盗まれる世界。

 

●72才のロバート・デ・ニーロが70才のインターンを演じるのが「マイ・インターン」、長年の会社勤めの後引退していたおじさんが会社復帰するのだが、きちんと背広でかっこいい。

 

●寅さんより5年ほど前、渥美清が主演した「拝啓天皇陛下様」は切なさと可笑しみが絶妙だが、藤山寛美、山下清などその手の味わいのある人も共演していて懐かしい。

 

●父と息子が長い不在の後再会すると、なかなか上手くいかないもんだなあと思わせてくれた2作品、「名もない塀の中の王」と「父、帰る」。父親は既に大人だから大きくは変わらないはずだが、息子はその間に成長してしまう。その間に二人の距離は広がってしまうということだろうか?親子の関係というだけでは超えられない溝ができてしまうのだろうか?どちらの息子(「父、帰る」は二人いるが弟の方)も一筋縄ではいかない。特に父の弟は、父も凄いが弟が凄い。ここまで強い子供もいるのかと感心する。それにしても突然の土砂降りが多い作品だった。

 

●「タイタニック」の頃から骨太感のあったケイト・ウィンスレット、最近はますます磨きがかかって貫禄十分だ。「ヴェルサイユの宮殿庭師」のマダム・ド・バラは、理知的に話ができ、女性からも信頼される役柄で、適役だった。


 

 

 



今月のトピックス:映画祭の季節  


Ⅰ 映画祭の季節



 東京で開催される映画祭はどれくらいあるものだろうか?
映画祭の季節などと書いてしまったが、映画祭自体には季節はない。
インターネットで“東京 映画祭”で検索してみれば、「東京ごはん映画祭」「東京ファンタスティック映画祭」「東京学生映画祭」「東京平和映画祭」「東京スクリーム・クイーン映画祭」などなどが出てくる。
 他にも「イタリア映画祭」「フランス映画祭」「ブラジル映画祭」「スウェーデン映画祭」「フィンランド映画祭」など各国の映画祭もある。さらに「UNHCR難民映画祭」「国際フットボール映画祭」なども出てくる。以前にも書いたことがあるが、私は殆ど映画祭には行っていない。会社勤めで忙しくしていると平日の終業後映画に行く時間はなかった。土日は普通に公開される映画を見るのに忙しいということで、時間的に参加できないというのが一番の理由だ。
 普通に誰でも見られる状態での映画を見たいという気持ちの方が強い。

 


 10月、11月と東京で2つの国際映画祭が開催される。「東京国際映画祭」と「東京フィルメックス」だ。

 

★第28回東京国際映画祭 10/22(木)~10/31(土)

 

◎会場:
  六本木:六本木ヒルズ、TOHOシネマズ六本木ヒルズ、
  新宿:TOHOシネマズ新宿、新宿ピカデリー、新宿バルト9
  銀座:歌舞伎座

 

◎作品:
コンペティション部門:日本映画3本を含む16作品
アジアの未来:日本映画1本を含む10作品、半分の5作品は女性監督でのコンペティション

日本映画スプラッシュ:日本のインディペンデント映画8作品

特別招待作品:「ザ・ウォーク」などこれから日本公開される大作、話題作8作品
パノラマ:様々なタイプの最新作がプレミア上映される18作品
ワールド・フォーカス:海外の映画祭受賞作、名匠・巨匠の新作などから22作品
ジャパン・ナウ:最近の日本映画から注目の11作品+原田真人監督特集の5本
日本映画クラシックス:日本映画史を彩った名作から7作品
寺山修司生誕80年:“天才”寺山の核心に迫る4作品
追悼特集「高倉健と生きた時代」:昨年11月10に逝去した“健さん”の10作品
CROSSCUT ASIA:#02 熱風!フィリピンで5作品+ブリランテ・メンドーサ監督5作品
ガンダムとその世界:「機動戦士ガンダム」特集で22作品
歌舞伎座スペシャルナイト:黒澤明1作品
生誕100年オーソン・ウェルズ 天才の発見:“神童”オーソン・ウェルズ関連の11作品
日本のいちばん怖い夜 Jホラー降臨:Jホラーの火付け役3監督の“最恐”作品をオールナイトで4作品


日本で最大の国際映画祭。今年の会場は六本木に加え新宿がメイン会場。
新宿にある3つのシネコンが会場になる。日本で一番シネコンが固まってある新宿での映画祭。


 上のように書き出してみると改めて多くの作品が上映されることに感心した。上の本数計は167本、他にも協賛上映もあるが、それでも釜山映画祭300本には及ばない。

 

 

 


★第16回東京フィルメックス 11/21(土)~11/29(日)
◎会場:
  有楽町:有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇、有楽町スバル座


◎作品:
コンペティション:日本映画1本を含むアジアからの10作品
特別招待作品:日本映画2作品を含むアジアからの8作品
特集上映ツァイ・ミンリャン:2013年長編映画から引退した台湾の強力作家の6作品+短編3作品
特集上映ピエール・エテックス:「ヨーヨー」「大恋愛」の仏喜劇作家日本初公開2作品
特集上映ホウ・シャオシェン:80年代に登場した台湾ニューウェーブの巨匠の3作品

山椒は小粒でピリリと辛いのフィルメックスも16回目。世紀を超えて続いています。日本では多くの外国映画が公開されているが、それでも日本に届かない作品も多い。

 


2つの映画祭はそんな作品に出会える機会でもある。
時間がある方、お出かけください。

 

 

 

 

Ⅱ マーべル


 今月2作品(「アントマン」、「ファンタステック・フォー」)が公開されたマーベルコミック、アメコミの雄として最近はコンスタントに映画作品を送り出している。
 創業は1939年、タイムリーコミックスとして出発、その後アトラスコミックスとなり、1957年にマーベルコミックスとなっている。スーパーマン、バットマンを抱えるDCコミックスと共にアメコミの両雄と言われている。


 マーベルが持っているヒーローは映画を含めて次の通り。


キャプテン・アメリカ、X-メン、スパイダーマン、ハルク、ファンタスティック・フォー、アイアンマン、マイティ・ソー、ウルヴァリン、アベンジャーズ、アントマン、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー

 

 マーベルで有名なのは、スタン・リー(91歳)。おじさんがタイムリーコミックスを始めた時、10代だったスタン・リーは編集助手として働いた。その後スパイダーマン、X-メンなどの原作を手掛け、今はマーベルの編集委員、マーベルメディアの名誉会長を務めているという。


 このおじさん、マーベルの映画化作品にはかなりの頻度で現れる。マーベル作品にはエンドロールの後に次回作の予告が出る場合が多い。アントマンの最後には、アベンジャーズに参加?のようなのが出てきた。こうした予告はいかにもコミックスという感じがする。

 マーベルは80年代後半に失速、1997年には倒産、マーベル・エンターテイメントとして再出発するも、2009年にはディズニーに買収されたという。これは知らなかった。それで、アベンジャーズとか、アントマンがディズニーから公開されたのか。但し、X-メンやファンタスティック・フォーは20世紀フォックスが配給していた。
 これらの作品にもマーベルマークはついていたので、映画化権は売ってもマークはつけるという契約だったのだろう。


 今月の2作品を見ていると、マーベルもアメコミ人気に乗っているだけではなくいかにすれば楽しんでいただけるかと切磋琢磨しているんだなと感心した。

 

 

 

 

Ⅲ 。

 

 思い出していただきたい、「6才のボクが、大人になるまで。」を。
題名の中に、“、”と“。”があったことを。
長い文章の中から、1文だけを取り出したような印象だった。


 今月は“。”付きが2本あった。
「ボクは坊さん。」(これも、ボク!)はまだ文章ですが、「バクマン。」は文章ではない。
 ただし、これらの題名は原作の小説、漫画の題名そのままらしい。
では、原作の題名が何故“。”付きだったのか?
 ご存知の方、教えてください。

 

 

 

Ⅳ イッセー尾形

 

 今月は2本の映画でイッセー尾形に出会った。
「先生と迷い猫」「ぼくは坊さん。」である。1952年生まれというから私より少し若い。それにしても、彼が作り出す人物像はくっきりしていて分かりやすい。

 

 

 


 今月はここまで。
次号は忘年会が始まりだしている、11/25にお送りします。



                         - 神谷二三夫 -


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