2016年 1月号back

やっと冬らしい寒さの日々がやってきました。
コートを早くから着ると、地下鉄の中などで変な汗をかくことになり、
気分の悪いことになる。この変な汗が一番嫌ですね。
地下鉄の中が寒かろうが暑かろうがに関係なく、
いつも快適なのは、そう、映画館!

 

 

 

今月の映画

 

 11/26~12/25、クリスマスまでの30日間に出会えた作品は30本、日本映 画では旧作ばかりが増えました。
 もうすぐお正月、今年のお正月映画は案外遅い封切りです。しかも1/1は 映画の日で1100円です。

 お正月休みに映画1本、お楽しみください。

 



<日本映画>

杉原千畝 SUGIHARA CHIUNE 
海難1890 
母と暮らせば 
(古)生きとし生けるもの(橋) 
鰯雲(橋) 
神阪史郎の犯罪(森) 
暖簾(森)
珍品堂主人(森) 
七つの弾丸(橋)
白と黒(橋) 
青べか物語(森)

 

 

<外国映画>

ムーン・ウォーカーズ

  (Moonwalkers) 
黄金のアデーレ 名画の帰還

  (Woman in Gold)
ハッピーエンドの選び方

  (The Farewell Party) 
007スペクター

  (Spectre) 
リトル・プリンス 星の王子さまと私

  (Le Petit Prince / The Little Prince)
ドキュメンタリー映画ミヒャエル・ハネケ

  (MICHAEL H. profession:director)
1001グラム はかり知れない愛のこと

  (1001 Gram / 1001Grams)
I Love スヌーピー The Peanuts Movie

  (The Peanuts Movie) 
サンローラン

  (SaintLaurent)
メニルモンタン 2つの秋と3つの冬

  (2 Automnes 3 Hivers / 2 Autumns, 3Winters)
美術館を手玉にとった男

  (Art and Craft) 
独裁者と小さな孫

  (The President)
アンジェリカの微笑み

  (O Estranho Casa de Angelica / The StrangeCase ofAngelica)
マイ・ファニー・レディ

  (She’s Funny That Way) 
ディーン,君のいた瞬間

  (Life)
ベテラン

  (Veteran) 
クリード チャンプを継ぐ男

  (Creed)
(古)厳窟の野獣

  (Jamaica Inn) 
獣人

  (La Bete Humaine)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー




① 黄金のアデーレ 名画の帰還
 ナチスに占領されたオーストリアから脱出、夫とともにアメリカにたどり着いた主人公はそれ以来60年間、一度もウィーンに帰ることはなかった。
ナチスによって略奪された美術品を取り戻すため、久しぶりに出かけたウィーン・・・。実話に基づいた映画、様々な要素を含み、大いに感動しました。

 

② 独裁者と小さな孫
 東欧のどこかの国かと思われる独裁者の国、しかし国民には不満が高まり、クーデターが勃発、独裁者は5歳くらいの孫と逃げ惑うことに、勿論変装をして。ありがちな話かと思いきや、かなりリアルに厳しく描かれる逃避行と国民の姿。イラン出身で今は亡命先のヨーロッパに拠点を置くモフセン・マフマルバフの力作です。

 

③ 007スペクター
 半世紀前に第1作(「007は殺しの番号」または「ドクター・ノウ」)が作られた007シリーズの最新作(24作目)。ダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドもこれが最後。前作「スカイフォール」と同じサム・メンディスが監督、沈んだ色調の中にボンドの人間性まで描かれるような暗さが今までの作品になかった。

 

 


 面白い作品は他にも。

 

●ハッピーエンドの選び方:イスラエルの高齢者対策映画は面白くはあるがあまり笑えない。ユダヤ人の考え方はあくまで実用的、しかもこだわらない。

 

●1001グラム はかり知れない愛のこと:ノルウェーでゆっくり目の面白い映画を作ってきたベント・ハーメル監督の新作は、パリで恋をするところがいかにもだが、なかなか実質的。

 

●杉原千畝SUGIHARA CHIUNE:日本のシンドラーとして有名な杉原千畝の活躍を描く。リトアニアの前に満州で情報活動に従事したり、リトアニアの後はドイツ、ルーマニアなどに、さらに貿易関係の仕事をしたなどのことが興味深かった。

 

●メニルモンタン 2つの秋と3つの冬:泣き顔男優代表ヴァンサン・マケーニュの新作は、アラサー男の恋愛劇、登場人物たちが観客の方に向き心情を露土する場面を多用。柔らかい中に案外しっかりリアルなフランス人男女の恋愛模様を描き出す。

 

●海難1890:トルコが親日的な国とは知っていた。日露戦争でロシアに勝利した日本が、長年ロシアと敵対してきたトルコにとっては印象がいいとだけ思っていたが、1890年に和歌山県沖で遭難したトルコ船乗組員を日本人が助けた事実があったのですね。

 

●美術館を手玉にとった男:多くの有名画家の贋作を作りながら、金儲けは考えず、いろいろな手法で美術館等に展示されるように寄贈をするという奇行を何十年と続けてきたマーク・ランディスを追ったドキュメンタリー。飄々とした風貌がなんとも。

 

●サンローラン:同じ人の伝記映画が競作されるのは時々ある。今回はイヴ・サンローラン。昨年の9月に「イヴ・サンローラン」が公開されたが、今回は「サンローラン」、前回がいかにも公式的とすれば今回はよりスキャンダル的、どちらも面白い。
 
●母と暮らせば:山田洋次監督と吉永小百合、長崎を舞台に原爆の話といえば、ちょっと想像がついてしまうような気もする。井上ひさしの「父と暮らせば」と対になる作品と言われても直接の関係はない。いかにも静かな映画です。

 
●アンジェリカの微笑み:2015年4月2日に106才で亡くなったポルトガルの監督マノエル・ド・オリヴェイラの遺作、102才の時の作品だ。死者の霊と結ばれる男性のファンタジー映画。

 

●マイ・ファニー・レディ:ピーター・ボクダノヴィッチといえば、「ペーパームーン」「おかしなおかしな大追跡」などの喜劇を作っている。久しぶりの新作は登場人物のいりくりをやりくりした喜劇映画、案外よくできています。
 
●ディーン、君がいた瞬間(とき):ジェームズ・ディーンといえば若者のイコンとして、今もなお人気があると思っていたが、映画館は今一つ寂しい入りだった。「エデンの東」が公開される前のディーンの様子を知ることができました。

 

●ベテラン:良くも悪くも韓国映画、くっきりしたお話、激しいアクションなど、楽しめる。大財閥が社会や権力に及ぼす力には驚くばかり。

 

●クリード チャンプを継ぐ男:まるで実在のボクサーのようになっているロッキーの第2世代(と言っても対戦相手の息子だが)ドラマ、勿論スタローンもでている。

 

 

 

Ⅱ 今月の懐かしい人

 

☆エリザベス・マクガヴァン

 「黄金のアデーレ 名画の帰還」でアメリカの裁判所での女性判事を演じていたのは、エリザベス・マクガヴァン、ミロス・フォアマンの「ラグタイム」でヒロインに抜擢されたのは34年も前のことだ。その後たまにしか見ていない。

今回の登場も時間にしたら1~2分だろうか。


 調べてみたら、彼女は1992年に「黄金のアデーレ」の監督サイモン・カーティスと結婚して活躍の場をロンドンに移していた。

 最近日本でも人気のあるTVドラマ「ダウントン・アビー」でグランサム伯爵夫人コーラを演じているようだ。(残念ながら私は見たことがない)

 いずれにしても昔の個性がいい方に変化して、優雅なヨーロッパ人のようになっている。

 

 

 

 

Ⅲ 今月の旧作

 


<日本映画>

 2つの特集“森繁久彌の文芸映画大全”(森)と“巨星・橋本忍”(橋)の戦い。

 

 *森繁久彌は幅広いジャンルに出演しているがその一つに文芸作品があり、どちらかといえばダメ男、ぐずぐず男を演じていた。今回の4作のうち「暖簾」と「珍品堂主人」は再見なので、石川達三原作による「神阪史郎の犯罪」を取り上げてみよう。

 

 映画は森繁と左幸子が睡眠薬で心中するところから始まるのだが、森繁だけは助かってしまう。

 その後、妻子のあるこの男の生き方が描かれていくのだが、変に暗く貞淑そうな妻や、反対に明るいあけっぴろげなスター(歌手)などの女性関係が主人公の裏の顔を、いやそれぞれ別の顔を明らかにしていく。
 物語は、何人かの視点で描かれ、そのたびに物語は違う様相を見せていく。
「羅生門」と同じように見る視点によって変わっていく局面を描いているのだが、森繁の常に違う面が隠れていると感じさせる演技が作品にぴったり合っている。森繁の持つ怪しい部分をうまく生かした映画だった。

 

 

 

 *橋本忍は「羅生門」で脚本家デビューを飾り、その後も名作を多く書いた正に巨星。ここでは「白と黒」を取り上げてみよう。


 映画には松本清張がゲスト出演している。昭和30年代、社会派ミステリーというジャンルで、圧倒的な人気を得た清張。社会の裏に潜む問題に光をあてながら、謎解きの部分もおろそかにせず、さらにどんでん返しも手ぬかりない。
正に楽しめ、さらに社会問題も知らせてくれる作家として人気を博した。
 映画は橋本忍のオリジナル脚本だが、こうした清張の特徴をすべてうまく取り入れ、メリハリのある、どんでんもしつこく最後まで繰り返し、楽しめる映画にしている。白と黒は言葉通り裁判と弁護士のお話、検察官になる小林桂樹がちょっと朴訥な感じ、弁護士になる仲代達矢は神経質な若者、他の人物も含め人間の書き分けも見事。正に最後まで白と黒のどちらか分からない、素晴らしい脚本だった。

 

 

 

<外国映画>

 渋谷シネマヴェーラで“映画史上の名作14”が12/19に始まった。

 名前の通り名作と呼ばれた作品を見せてくれるシリーズで1/22まで上映される。
 私的に今回の目玉は次の通り。

 

「男装」:キャサリン・ヘップバーン主演、ジョージ・キューカ―監督作。

「ゴールド・ディガーズ」「でっかく生きる」:今回の特集に入っているミュージカル2本。

「ノックは無用」「紳士は金髪がお好き」(ミュージカル):マリリン・モンロー主演作2本。

 

 これらはこれから上映されます。1/1だけは休館ですが、正月休みにも楽しめます。既に見たのは「岩窟の野獣」「獣人」の2本。「獣人」はジャン・ルノワール監督、ジャン・ギャバン主演。
 蒸気機関車の機関士をしながら、抑えられない自分の性向に戸惑う主人公。
「岩窟の野獣」はアルフレッド・ヒッチコック監督、イギリス時代最後の作品。まだ若い(?)チャールズ・ロートンと、輝いてほんとに若いモーリン・オハラの共演。
 2本共に、少し変わったテイストの作品ですが見どころ十分でした。

 

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき


●月面着陸の映像は偽物だったという「ムーン・ウォーカー」を見ていると、昔の「カプリコン1」という作品を思い出す。こちらは火星だったが。惑星着陸はよほど嘘だと思われるらしい。

 

●アメリカ映画の良心といえば、男優ではジェームズ・スチュワートだが、「黄金のアデーレ 名画の帰還」のライアン・レイノルズには久しぶりに後継者と
いうか、アメリカの良心を感じた。もっとも彼はカナダ人だが。今の時代、この路線を続けることは結構難しい。白い沈黙とあわせ結構期待している。

 
●思ったよりはまともに作られていた「リトル・プリンス 星の王子さまと私」であるが、ディズニーアニメを含め最近のアメリカアニメの人物造形が今一つ好きになれない。妙に膨らんだ子供顔まんまる目などが私の感情移入を拒む。


●ソ連に対する興味から外交官になりソ連を目指した「杉原千畝」は面白かったが、小雪の演じた夫人は実際の夫人像に近いのだろうか?なんだか金持ち趣味で、鼻持ちならない(行動は控えめではあるが)ように感じられて好きになれない。


●本編の始まる前というか、東映のマークが映る前に突如トルコのエルドアン大統領のアップが登場。トルコと日本がいかに互いに助け合ったことかについて述べたのである。今やスルタン(皇帝)を目指し、1000室の皇帝や巨大モスクを作っているといわれる大統領は、「海難1890」には何らかの出資をしたのだろうか?


●春日太一といえば時代劇・映画史研究家として面白い本を多く出しているが、最新作≪市川崑と「犬神家の一族」≫を読んでいたら、“監督クラッシャー・吉永小百合”という言葉が出てきてびっくり。彼女と組むほとんどの監督が駄作を連発するようになるとの意味らしい。
「母と暮らせば」の山田洋次監督、大丈夫でしょうか?

 

 



今月のトピックス:恒例の収支決算  


Ⅰ 収支決算


 今年の会計年度も例年と同じ、2014/12/26~2015/12/25の1年間です。つまり、見せよう会通信の日付に合わせています。結果は次のようになりました。

 

     期間: 2014/12/26 ~ 2015/12/25

     支出額: 339,670円

     映画本数: 368本

     1本当たり金額: 923円

 

 

 とりあえず、この記録では年間365本、つまり、毎日映画1本という目標が達成される可能性が見えてきました。1/1にお送りする新年特別号ではカレンダー通りの1/01~12/31での本数をカウントしますので、今回とは日付が少しずれるのです。
 実は明日から年内は仕事を休み、如何様なりとできるように準備はしているのですが、上手くいったかどうかは1/01までお待ちください。

 今回は収支報告、実は1本あたりの単価が上がってしまいました。
    昨年の898円 → 923円と25円の値上がり。
 これは昨年の途中で導入された消費税のアップが影響しています。2014年4月から8%になりました。
 映画の入場料の場合、大人料金は1800円で据え置きされましたが、シニア料金は1000円から1100円あるいは1200円になりました。2014年1~3月の3か月間は1000円でしたから、上がるのは当然です。そういえば、シニア料金は一定していません。ほぼ1100円と言ってもいいのですが、例えば1200円の映画館が知っている限り2館あり、1500円が1館、、1000円が1館あります。さらに、ユナイテッドシネマはシネマカードでは1000円などとなっています。シニアではありますが私自身は若者にもっと映画を見てもらいたいので、18歳まではもっと安くしてもいいのではと思っています。

 

 

 

 

Ⅱ 原節子


 ついにこの日が来てしまいました。

 11月25日にマスコミで原節子さんの死が報じられました。亡くなったのは2か月以上前の9月5日、肺炎のため95才の生涯を閉じたという。

 小津安二郎監督が1963年12月12日に亡くなり、その通夜に出席したのを最後に表舞台には姿を見せなくなったとされます。
 Wikipediaで見ると、その後、1968年9月に野田高梧(脚本家、小津との共同脚本が多い)の通夜に出席1993年3月に笠智衆の通夜前に極秘に訪れ、一部の関係者に気づかれたのが最後の目撃とされているようです。いずれにしろ、50年以上表に出ることなく暮らしていたのです。


 63年といえば、私が映画、それも洋画を見始めた頃です。残念ながら同時代に映画で彼女を見ることはできませんでした。その頃彼女は43歳、あの当時では十分におばさんの年齢でした。調べてみれば、彼女は私の母より9か月だけ遅く生まれたほぼ同年代。母の年で映画女優をすると考えると、あの当時ではかなり難しいのも事実です。


 しかし、彼女のように一切人の目に触れることを止めてしまうのは大変です。色々な人の証言を読むと、ビール好きで、明るく冗談も好きな人、堅苦しいところなどないという印象です。そんな人が長い不在を貫徹したのは、やはり小津安二郎の死に殉じたのでしょうか?これは、いつか将来分かるものでしょうか?ぜひ知りたいものです。

 好きな作品は「麦秋」(小津安二郎作品)です。

 

 

 

 

Ⅲ スター・ウォーズ騒動


 12/18 18:30に封切られた「スター・ウォーズ フォースの覚醒」は大ヒット、アメリカでは封切り時の成績が、今年の夏「ジュラシック・ワールド」が作った記録を破り新記録を達成、世界的にも大ヒットを続けている。
 実際、私も見に行こう(12/18ではなく19,20,23)と何軒かの映画館の事前予約にトライしたが、かなりの頻度で満員状態だった。約1000席のあるTOHOシネマズ日劇1が予約でほぼ満席になっているのを見たのは初めてだ。ということで、今日までに見ることはできなかった。

 ところが、日本での封切り週の成績では1位を取ることができなかったのだ。1位になったのは「映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!」だったのである。恐るべし妖怪ウォッチ、侮るなかれ幼児パワー。
 もっとも日本での成績は入場者数で順位を決めている。
興行収入では4DXや3Dなど単価の高い上映方法も多用された「スター・ウォーズ」が、幼児・子供料金の多い「妖怪ウォッチ」を上回り1位となっているという。

 この10年、クリスマスは「見せよう会通信」の発行日として忙しく過ごしてきました。もう少し前広に用意しようと思いつつ、年賀状もあり、忘年会もあり…、師走の忙しさを味わえ、新年の近づきつつあることを実感できる喜びは、何事にも代えがたいとでも言っておきましょう。


 次は元旦に新年特別号を送りします。

 


                         - 神谷二三夫 -


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