2017年 3月号back

今年の冬は寒暖の繰り返しが激しい。
2月に20℃なんてのはいかにも異常、暖かいのはうれしいとはいえ、
こんなに上がったり下がったりでは、
感情の起伏の激しい人と付き合うのと同じようにちょっと休まらない。
そんな時安定した状態でゆっくり楽しめるのは、
そう、映画館!

 

 

 

今月の映画

 

1/26~2/25のトランプ大統領の1か月をウォッチした31日間に出会った映画は26本、例によって洋高邦低となっていますが、新作では4:21と極端です。
今回はキネマ旬報第1位鑑賞会で邦洋ともに1位を再見しました。
下のリストにはカッコの中に記入していますが本数には入れていません。

 



<日本映画>

恋妻家宮本 
ANTIPORNO 
相棒 劇場版Ⅳ 
サバイバル・ファミリー
(この世界の片隅に)

 

 

<外国映画>

レオナルド・ダ・ヴィンチ 美と知の迷宮
  (Leonardo Da Vinci - Il Genio a Milano
   Leonardo Da Vinci - The Genius in Milan)
スノーデン
  (Snowden) 
皆さま,ごきげんよう
  (Chant d’Hiver / Winter Song)
ドクター・ストレンジ
  (Doctor Strange) 
ショコラ~君がいて,僕がいる~
  (Chocolat) 
未来を花束にして
  (Suffragette) 
ミス・ペレグリンと奇妙な子どもたち
  (Miss Peregrine’s Home for Peculiar Children) 
マグニフィセント・セブン
  (The Magnificent Seven) 
ホームレス ニューヨークと寝た男
  (Homme Less)
たかが世界の終わり
  (Juste La Fin du Monde

  It’s Only The End of TheWorld)
王様のためのホログラム
  (A Hologram for The King) 
エリザのために
  (Baccalaureat / Graduation)
ミス・サイゴン 25周年記念公演inロンドン
  (Miss Saigon:25th Anniversary)(試写)
マリアンヌ

  (Allied)
エゴン・シーレ 死と乙女
  (Egon Schille - Tod und Machen
  Egon Schille - Deathand The Maiden)
海は燃えている イタリア最南端の小さな島
  (Fuocoammare) 
ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男
  (Free State of Jones) 
雨の日は会えない,晴れた日は君を想う
  (Demolition)
ナイスガイズ!
  (The Nice Guys) 
ラ・ラ・ランド
  (La La Land) 
トリプルX:再起動
  (xXx:Return of Xander Cage)
(ハドソン川の奇跡)
(古)揺れる大地
  (La Terra Trema / The Earth Trembles)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 


① スノーデン
オリバー・ストーン監督と言えばジャーナリスティックな作品群で有名だがこれもその1本。彼らしいメリハリの利いた語り口がいい方向にはたらいて、スノーデン事件の詳細を見せてくれる。情報があふれる世界の中で、権力はすべての情報に手を出そうとし、個人の領域にまで踏み込んでくるという怖さを知らせてくれる。他人ごとではない。ロシアで暮らすスノーデン本人もラストで登場。

 

② エリザのために
18歳の娘がロンドンへの留学ができるように様々な手を使い努力する父親、簡単にはいかないルーマニアからの留学のため、踏み込んでの方法は?人とのつながりから様々な関係が発生し…。日常生活を縛ってくる見えない力の怖さを感じさせる。

 

③ 王様のためのホログラム
自転車会社からリストラされた50代男性の主人公、再就職でサウジアラビアの王様にホログラム会議ができる装置の売り込みへ。この年齢で受ける文化的ショックは彼に何をもたらしたか。監督はドイツ人トム・ティクヴァ。

 

 

 

面白い作品は他にも、お楽しみください。

 

●恋妻家宮本:TVはあまり見ないので脚本家遊川和彦は知らなかったのだが、さすがに脚本家、話をうまくまとめて初監督作ながら楽しませてくれる。

 

●ドクター・ストレンジ:アメコミ原作がハリウッドの中央に居座るようになって久しいが、アメコミ映画もそれなりに発展しているなあと感じさせる作品だ。画面も凄い。

 

●ショコラ~君がいて、僕がいた~:フランスでも黒人が差別されていたことが分かるが、ショコラはフランス初の黒人芸人として白人の相棒フティットとのコンビで人気を得た実話に基づく物語。フティット役はジェームズ・ティエレ、チャップリンの孫だという。

 

●未来を花束にして:20世紀初頭、女性の権利獲得のために戦ったロンドンの洗濯工場で働いている女性を描く実話に基づく物語。権利は意識していないと消え去るものか?

 

●ミス・ペレグリンと奇妙な子どもたち:世界は色々な人がいてこそ面白い。同じような人間ばかりの何が楽しいかとティム・バートン監督は言っている。

 

●マグニフィセント・セブン:「七人の侍」→「荒野の七人」のリメイクは、むしろ侍に近づいたような感じ。ディンゼル・ワシントンは志村喬の雰囲気あり。

 

●たかが世界の終わり:クローズアップの連続で、登場人物たちの感情を描いていく。12年ぶりに帰郷した主人公と母、兄、兄嫁、妹の家族の間の会話劇。

 

●エゴン・シーレ 死と乙女:世紀末のオーストリアに生まれ1918年に28歳の生涯を閉じた画家の最後までの8年間を描く。妹や他の女性との関係を繊細な雰囲気の中で語る。

 

●海は燃えている イタリア最南端の小さな島:アカデミー賞外国語映画賞のイタリア代表のドキュメンタリー。厳しい現実とゆっくりした日常。下の今月のおどろきをご参照。

 

●ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男:アメリカの南北戦争当時、南軍から脱走し、自由と平等を求めて独立州の理念を掲げたニュートン・ナイトという人物を描く。ちょっと長い。

 

●ナイスガイズ!:「リーサル・ウエポン」「ダイ・ハード」などの製作者ジョエル・シルバーが送り出した新作は私立探偵と示談屋が組み、更に13歳の女の子も活躍。なかなかに面白い。

 

●ラ・ラ・ランド:この下にいろいろ悪いことを書いてしまいましたが、こだわりなく見れば楽しめるかもしれない作品。カメラの動きが派手すぎる気はしますが。舞台的手法使い過ぎの気もしますが。主役二人が今一つではないですか?あれ、また悪く書いちゃった。それだけがっかり度が大きいと理解ください。


 

 

 


Ⅱ 今月のおどろき!!

 

 

イタリアのドキュメンタリー映画「海は燃えている イタリア最南端の小さな島」が公開中。小さな島ランペドゥーサにアフリカ・中東からの難民が年5万人も到着するのだ。小さな船に100人以上の人が乗り込んで近づいてきたのを助ける場面も詳細に描かれる。
何人もが意識不明状態であったり、船底にぎゅうずめで載せられていた多くの人が死んでいたりと厳しい状況を教えてくれる。

 

映画は一方でこの島に住む住民のゆったりとした生活、特に12才の少年を中心に、難民とは一切接触のない平和な生活を描いている。漁師である父親の船に初めて乗って船酔いし、吐いてしまう少年の姿などほほえましくもある。

 

難民救助場面は衝撃的だったが、もっと驚いたのはスパゲッティの食べ方だった!!日本人のスパゲッティの食べ方と言えば、蕎麦やラーメンなどの麺類と同じようにすする人が多かった。特におじさんにおいてはすするのが当たり前で、音を出すこの食べ方がマナーに反しているとはよく言われたものだ。

 

今回少年が父親と一緒にスパゲッティを食べるのを見て驚いた。少年はものすごい勢いでスパゲッティをすすっていたのだ。フォークにまかれたスパゲッティが口の中に飛んで入って消えていく。その速さは驚異的だ。勿論音も凄い。

 

隣で食べる父親は全く音もなく、すすることもないというのに。更に父親が子供に“その食べ方は辞めろ”とは注意していない。イタリア人は成長するにつれてすする→食べるに変化するのだろうか?う~む、謎だ。

 

 

 

 

Ⅲ 今月の歌



吉田拓郎と言えば、私にとっては「今日まで、そして明日から」だった。会社に入った1971年、会社の寮での暮らしが始まった。同じ寮にいた友人がそのLPを持ってきた。「青春の詩」の中の1曲が「今日まで、そして明日から」だったのだ。気に入った。

 

この歌を圧倒的に使ったのが「恋妻家宮本」。
「家政婦のミタ」などの脚本家として有名な遊川和彦の初監督作品だ。
現在61歳ということは、青春時代にこの曲に引き込まれたに違いない。
東京生まれながら小学生から広島県育ちという遊川監督が、鹿児島生まれながら同じく小学生時代から広島で育った吉田拓郎に共感していたのかも。

映画の物語の中にもこの曲が上手く使われているが、圧倒的なのがラスト。
場所はファミレス、ちなみに原作が重松清の小説「ファミレス」だから、原作への目配せもしている(物語でも重要な使われ方)が、このラストは2年前のクリント・イーストウッド作品「ジャージー・ボーイズ」にも似て、大げさに言えば、正に舞台ミュージカルのフィナーレのよう。

 

どんな場面にも合いやすいシンプルなメロディー、その繰り返しが映画を盛り上げる。

やっぱりいい歌だなあ。

 

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき

 

●かつて自分の妻の名前を最後のクレジットに“Naijo no Ko(内助の功):Elizabeth Stone”と出していたオリバー・ストーン(クレジットをじっと見ていたらStoneの名前が見えたのでタイトルを見たらNaijo no Koとあったので驚いた)は、その後この2番目の奥さんとは別れ、現在は韓国人と結ばれていて、タイトルには出していない(チョン・ソンジョンと出しても分からないだろう)ようで、「スノーデン」でも気が付かなかった。

それにしてもエドワード・スノーデンが有能な人だったことには感心した。
ストーン監督は9回もロシアを訪れて取材したらしい。

 

●ニューヨークにはいろいろな人が暮らしている。自分らしく生きることに自由だ。「ホームレス ニューヨークと寝た男」で撮られたマーク・レイはファッション写真家の52歳、街の女性ファッションにカメラを向ける。しかし、彼には家がない。この5年くらいビルの屋上に野宿している。スポーツジムのロッカーに衣類やカメラなどを収め、元モデルらしい着こなしもキープ。とても宿無しとは見えない。映画の原題は「Homme Less」、Hommeはフランス語で男性、Lessは英語で以下、言ってみれば人間以下の生活と、宿無しを掛け合わせたのでしょう。

 

●営業活動をして戻ってくれば、ホテルの部屋で靴にたまった砂を捨てる主人公の「王様のためのホログラム」は文化の違いの大きさを笑いながら見つめ直す。何せその砂はサウジの砂漠の砂だ。価値観の違いが大きく、初めての社会でそのカギを知るまでの苦労は並大抵ではないだろう。しかし、そのことで自分の世界が大きく広がることも多い。←トランプ大統領に差し上げたい。

 

●1942年モロッコが舞台で始まる「マリアンヌ」はひょっとして「カサブランカ」とつながるかと思われたが、そんなことはなくスパイ活動をする二人がロンドンで結婚…となっていくお話。スパイ活動をしていたにしては今一つ甘い判断と言えないか?

 

●下のアカデミー賞にも書いたのだが、「ラ・ラ・ランド」は残念感の残る作品だった。予告編の時から踊りには危惧を抱いていたのだが当たってしまった。言ってみればプロ的な踊りはない、学芸会のようになってしまったのは残念だ。昔のミュージカルに対する目配せはいろいなところに見られるが、それを素人芸ではやって欲しくなかったというところ。

 

 

 

 

 



今月のトピックス:アカデミー賞  



Ⅰ いよいよアカデミー賞 

 


現地時間2/26(日)、ハリウッドのドルビー・シアターで行われる第89回アカデミー賞授賞式、日本でその結果が分かるのは2/27(月)の正午前後だ。
前回も書いたとおり、今年は珍しいほどに日本で公開された作品が少ない。
下に書いた主要6部門にノミネートされた全作品で今日2/25までに公開されたのは、昨日2/24に封切りされた「ラ・ラ・ランド」と、メリル・ストリープが主演女優賞にノミネートの「マダム・フローレンス」のみである。

 

作品をほとんど見ずして予想となるわけで、賭けの要素が一段と強くなる。ま、当たるも八卦、当たらぬも八卦ということで、よろしく。
さて、ノミネーション作品と、◎印をつけた私の予想作品は次の通り。
作品名の後ろのカッコ内は日本封切り日です。

 

 

作品賞:

  ラ・ラ・ランド (2/24)
  LION//ライオン~25年目のただいま~ (4/07)
 ◎マンチェスター・バイ・ザ・シー (5/13)
  ムーンライト (4月)
  メッセージ (5/19)
  ハクソー・リッジ(原題) (夏)
  最後の追跡 (Netflixで配信中)
  Hidden Figures (公開未定)
  Fences (公開未定)

 

 

感想)
映画館ではなくNetflixで既に配信中ということは「最後の追跡」は映画館では見られないのだろうか? 確かに時代は変わっていると改めて感じる。
「ハクソーリッジ」は一部沖縄が舞台になっているようだがロケ地はオーストラリアらしい。
監督はメル・ギブソンでもありますしね。
それにしても今年の候補作は小粒感ありという感じです。

 

 

 

監督賞:

  デイミアン・チャゼル 「ラ・ラ・ランド」
  ドゥニ・ヴィルヌーヴ 「メッセージ」
  ケネス・ロナーガン   「マンチェスターバイ・ザ・シー」
  メル・ギブソン    「ハクソー・リッジ」
 ◎バリー・ジェンキンス 「ムーンライト」

 

 

 

主演男優賞:

 ◎ケイシー・アフレック 「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
  アンドリュー・ガーフィールド 「ハクソー・リッジ」
  ライアン・ゴズリング 「ラ・ラ・ランド」
  ヴィゴ・モーテンセン 「はじまりの旅」
  デンゼル・ワシントン 「Fences」

 

 

 

主演女優賞:

 ◎イザベル・ユペール  「エル(原題)」
  ナタリー・ポートマン 「ジャッキー/ファーストレディ

              最後の使命」
  エマ・ストーン    「ラ・ラ・ランド」
  メリル・ストリープ  「マダム・フローレンス 夢見るふたり」
  ルース・ネッガ    「ラビング 愛という名前のふたり」

 

 

 

助演男優賞:

  ジェフ・ブリッジス 「最後の追跡」
 ◎マイケル・シャノン 「ノクターナル・アニマルズ(原題)」
  デヴ・パテル    「LION//ライオン~25年目のただいま~」
  ルーカス・ヘッジズ 「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
  マハーシャラ・アリ 「ムーンライト」

 

 

 

助演女優賞:

  ミッシェル・ウィリアムス 「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
  オクタヴィア・スペンサー 「Hidden Figures」
  ニコール・キッドマン   「LION//ライオン~

                25年目のただいま~」
  ナオミ・ハリス      「ムーンライト」
 ◎ヴァイオラ・デイヴィス  「Fences」

 

 

これからノミネートされた作品の多くが公開される。今日「ラ・ラ・ランド」を見たが、大きすぎた期待の反動からか、かなりがっかりした。

見るまでは作品賞、監督賞、主演女優賞はこの作品にしていたのだが変えてしまった。
14のノミネーションを受けた「ラ・ラ・ランド」は圧倒的な強さなので、予想という意味では一挙に不利になったのだが。

 

予告編でちょっと恥ずかし気なダンスがあり心配はしていたのだが…。
ということで、まったく見ていない作品ばかりを選ぶことになりました。

 

デンゼル・ワシントンが主演・監督した「Fences」はぜひ公開してほしい。
2010年ブロードウェーで上演された舞台劇で、D・ワシントンとヴァイオラ・デイヴィスは同じ役で共演していた。舞台を見ることはできなかったが、舞台終了後出てきたヴァイオラ・デイヴィスを近くで見ることはできました。

 

昨年の私の外国映画8位に入れた「幸せなひとりぼっち」が何と2部門にノミネート、外国語映画賞はよく分かりますが、もう一つがメイクアップ&ヘアスタイリング賞。
えっ、あの映画にそんなすごいメイクやヘアがありましたっけ?
まさかあの主演のおじいさん(ロルフ・ラスゴード)が本当は凄く若い俳優が、超メイクにて演じていたなんてことはないでしょうね。
公式サイトで見ると55年生まれで61歳だからそれはない。
このノミネートはちょっと謎です。

 

 

 

  

Ⅱ キネマ旬報ベスト・テン第1位

   映画鑑賞会と表彰式

 

アメリカのアカデミー賞より1回多い第90回となるキネマ旬報ベスト・テン第1位映画鑑賞会と表彰式は2/05に開催された。
2016年の各賞受賞作品は次の通り。

 

 

日本映画作品賞  「この世界の片隅に」 

日本映画監督賞   片渕須直(同作)
外国映画作品賞  「ハドソン川の奇跡」 

外国映画監督賞   クリント・イーストウッド(同作)
文化映画作品賞  「ふたりの桃源郷」
主演女優賞     宮沢りえ(湯を沸かすほどの熱い愛)
主演男優賞     柳楽優弥(ディストラクション・ベイビーズ)
助演女優賞     杉咲花(湯を沸かすほどの熱い愛、ほか)
助演男優賞     竹原ピストル(永い言い訳)
新人女優賞     小松菜奈(溺れるナイフ、ディストラクション・

          ベイビーズ、ほか)
新人男優賞     村上虹郎(ディストラクション・ベイビーズ、ほか)

 

 

今年の日本映画では「この世界の片隅に」がアニメ作品としては、1988年の「となりのトトロ」以来28年ぶりの1位に輝いた。

 

作品賞には製作者(個人名失念)、監督賞には片渕監督が賞を受け取ったが、他に読者選出監督賞も取っており、この二人に加え主人公すずの声を担当したのんさんが登壇した。
所属事務所との関係でなかなか活動ができていない彼女で、「あまちゃん」の頃からどんな風に変わったのかと観察したが、あの素朴な明るさは変わっていなかった。彼女の声がなければ作品の雰囲気も変わってしまたことだろう。
こんな彼女独自の存在感、魅力を活かせない日本の芸能界はおかしな世界と思わせる。今や集客人数が166万人を突破、興収も21.5億円を達成、はじめ68スクリーンのみの公開だったものが、301スクリーンにまでなっている。
まだ見ていない方には、ぜひ見てくださいと改めてお勧めします。

 

ちなみに「シン・ゴジラ」が日本映画の2位、「君の名は。」は13位でした。


 

 

 

 

Ⅲ 春日太一著「仲代達矢が語る

   日本映画黄金時代」

 
春日太一は1977年東京生まれの映画史・時代劇研究家。
『時代劇は死なず!-京都太秦の「職人」たち』という新書で映画の書き手としてデビューしたのが2008年、それ以来多くの著作を世に送り出してきた。

 

『天才 勝新太郎』『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』『役者は一日にしてならず』など、今期待できる映画ライターの一人である。

 

彼が仲代達矢に15時間弱のインタビューをして、仲代が語る形で書き上げた本をやっと読んだ。2013年2月の出版だ。
1932年生まれの仲代は現在84歳、「七人の侍」にエキストラで数秒ほど出て以来、映画だけでも60年以上出演し続けている。

 

俳優座で舞台俳優として出発した彼は、舞台と映画の比率を半々にしてきたらしい。
そのことが、彼の演技の幅を広げてきたという。
黒澤明をはじめ、小林正樹、成瀬己喜男、木下恵介、岡本喜八、五社英雄などの監督と仕事をし三船敏郎、三国連太郎、原節子、高峰秀子などと共演した。
映画の黄金時代であった1950年代から今まで多くの作品に出演し続け、今も主演、助演含め様々な役を演じる彼を見ることができる。

 

語られているのは貴重な事柄ばかり。さらに、普遍的に通用する名言も多い。
その中で私の気に入ったものの一つは次の通り。

 

無名塾のために1000名くらいから5名を選んでいた仲代が、ニューヨークでアクターズ・スタジオの校長リー・ストラスバーグに“この5人の中から年に一人でもプロの俳優になってくれればいいかな”というと、“それは甘いぞ。役者なんかそんなに増えたら国が亡びる。10年に一人出ればいいんだ”と。
実際無名塾を35年続けて俳優だけで食べているのは3人だけだったというくだり。

 

10年位前だったろうか、美術館で偶然仲代達矢に出会った。
確か、何かの取材中のような状況で、彼と取材者、私だけしかいなかった。
スラーと背が高く、物静かな印象だった。

 

 

 

 

今月はここまで。
次回はもう春になっているだろう3/25にお送りします。




                         - 神谷二三夫 -


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