2018年 3月号back

寒い中にも春の息吹がと言いたいところですが、
今年の寒さはまだまだ冬という感じ。
厳しい冬の後だけに春がやってくるのが嬉しくなるだろう。
期待しないで出かけたのに傑作と出会ったような、
そんな歓びが時に味わえるのは、そう、映画館!

 

 

 

 

 

今月の映画

 

1/26~2/25のまだまだ寒い31日間に出会えた作品は48本、
不調だった先月に比べると、作品充実で嬉しくなりました。
日本映画の新作を10本以上も見たのはいつ以来かと思います。

 


 



<日本映画>

祈りの幕が下りる時 
巫女っちゃけん 
ミッドナイト・バス 
羊の木 
不能犯 
神と人との間 
星くず兄弟の新たな伝説 
犬猿 
星めぐりの町 
今夜,ロマンス劇場で 
blank13
帰郷(古) 
カモとねぎ(古) 
すずかけの散歩道(古) 
わが生涯のかがやける日(古) 
三百六十五夜(古) 
映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ(古) 
地下街の弾痕(古) 
闇を裂く一発(古) 
からっ風野郎(古) 

偽大学生(古) 

 

 

<外国映画>

デトロイト
  (Detroit) 
ダークタワー
  (The Dark Tower) 
ゴーギャン タヒチ,楽園への旅
  (Gauguin-Voyage de Tahiti) 
スリー・ビルボード
  (Three Billboards Outside Ebbing, Missouri) 
ロング,ロングバケーション
  (The Leisure Seeker) 
ジュピターズ・ムーン
  (Jupiter Holdia / Jupiter’s Moon) 
サファリ
  (Safari)、
ローズの秘密の頁
  (The Secret Scripture) 
スリープレス・ナイト
  (Sleepless) 
ガーディアンズ
  (Guardians) 
目撃者 闇の中の瞳
  (目撃者 / Whi Killed Cock Robin) 
苦い銭
  (苦銭 / Bitter Money) 
マンハント
  (追捕 Manhunt / Manhunt) 
グレイテスト・ショーマン
  (The Greatest Showman) 
ウィスキーと2人の花嫁
  (Whisky Galore!) 
エターナル
  (Single Rider) 
RAW~少女のめざめ~
  (Grave / Raw) 
ロープ/戦場の生命線
  (Un Dia Perfcto / A Perfect Day) 
僕の名前はズッキーニ
  (Ma Vie de Courgette / My Life as a Courgette) 
殺人者の記憶法
  (Memoir of A Murderer) 
長江 愛の詩
  (長江図Crosscurrent) 
ナチュラル・ウーマン
  (Una Mujer Fantastica / A Fantastic Woman)  
空海 KU-KAI 美しき王妃の謎
  (妖猫伝 / Legend of The Demon Cat)
欲望の翼(古)
  (阿飛正傳/ Days of Being Wild) 
バーフバリ 伝説誕生(古)
  (Baahubali: The Beginning) 
ダンケルク(古)
  (1964年作品、Week-end a Zuydcoote /

   Weekend at Dunkirk)
バグダッド・カフェ(古)
  (Out of Rosenheim / Bagdad Café)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

 

① スリー・ビルボード
予告編を見た時からフランシス・マクドーマンドの台詞回しに魅せられていたのだが、やはりすごかった。アメリカという国の面白さ、恐ろしさをじっくり伝えてくれる。本気でやり合うアメリカ人、敵対しながら互いの考えを認め近づいていく人たち、多くのことを表に出すことでアメリカが守る公正さが見えてくる。

 

②-1 ロープ/戦場の生命線
最近ユーゴスラヴィア紛争を背景にした映画が出てくるようになっている。スペイン人監督フェルナンド・レオン・デ・アラノアが描くのは、ある井戸に死体が投げ込まれ水が汚染され生活用水に困る状況だ。引き上げのためのロープを求め、地雷が埋められた山間の道を行き来する国際援助隊。

 

②-2 ジュピターズ・ムーン
ブダペストの町を犬たちが走る戦慄的な「ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲」のコーネル・ムンドルッツォ監督の新作は、ハンガリーにやってきた難民の少年と、負傷した彼の面倒を見ることで自分の上昇をはかろうとする医師、彼を追う国境警備隊がおりなす、俗と聖をめぐるファンタジーが鮮やかな画面で語られる。

 

②-3 ナチュラル・ウーマン
今年の米アカデミー賞外国語映画賞のチリ代表はセバスティアン・レリオ監督の新作。愛する人を亡くしたトランスジェンダー女性が様々な差別と闘いながら自分の生き方を貫いていく様を繊細に描いている。最初に描写されるイグアスの滝の迫力も凄い。「ネルーダ 大いなる愛の逃亡者」のルイス・ニェッコも出演。最近のチリ映画は凄い。

 

③-1 デトロイト
1967年のデトロイト暴動を描いたキャスリン・ビグロー監督の新作。20世紀初頭から自動車産業の隆盛と共に発展した町には多くの労働者が流入、そこで行われた白人警察官による黒人の取り締まりが、暴動の引き金になり米史上最大級の暴動事件になった問題を描く。

 

③-2 今夜、ロマンス劇場で
映画から人物が飛び出てくるのは時にある。ウディ・アレン「カイロの紫のバラ」とか。今回の飛び出し主人公には厳しい縛りがありそれを超えての純愛が描かれる。

 

 

 

他にもあります、おもしろい作品!お楽しみください。


祈りの幕が下りる時:東野圭吾原作、加賀恭一郎シリーズの映画化は「麒麟の翼」に続く2作目。今回も日本橋を中心にロケが行われ、最初の職場が近く懐かしく楽しんだ。

 

サファリ:「パラダイス3部作 愛/神/希望」では人間の欲望を静かに熱く描いたウルリッヒ・ザイドル監督の新作は、アフリカにサファリをしにやってくる富裕層のドキュメンタリーをまるでパンフレットのように画一的パターンで描く。現地人たちとの対比も静か。

 

スリープレス・ナイト:「Ray/レイ」でアカデミー主演男優賞のジェイミー・フォックスは、悪から善まで役幅は広い。今回は悪徳(?)刑事役でアクションも半端ない。

 

星くず兄弟の新たな伝説:33年ぶりに作られた続編は、そのまま33年後の主人公たちが若返って月に出かけ、ロックの魂を探す旅。今回も近田春夫と組んでいる。手塚治虫の息子でヴィジュアリストと呼ばれる手塚真は、個人映画ベースで作り続けてきた。

 

ガーディアンズ:ロシアから送られてきたSFは、言われなければアメコミ原作のハリウッド大作と思うかもしれない。いわば新X-MEN。影を持った主人公たち。面白い。

 

苦い銭:中国のワン・ビン監督はあるがままの現実を時間を無視して切り取るドキュメンタリー作家。今回は浙江省の個人経営者による縫製工場(こうば)。この地にはこうした工場が1万以上あるとか。中国の混沌と強さを垣間見る。

 

マンハント:香港発ハリウッド・中国の大監督になったジョン・ウーの新作は、「君よ憤怒の河を渉れ」の再映画化。高倉健主演、佐藤純也監督の作品は文化革命後初の外国映画として中国で公開され大ヒット、8億人を動員したと言われる。ウーの新作の中国題名は同じ「追捕」。ウーらしいアクションの切れを見せてくれる。始まりは日本人のハイテンションが気になるが、それもすぐになじんでしまう。大阪舞台の痛快アクション。

 

星めぐりの町:“小林稔二初主演”と言うのが一つの売り、つまり映画初主演。その惹句よりずっと落ち着いた、ゆっくりペースが心地よい映画になっていた。

 

RAW~少女のめざめ~:これはまたZ(ゾンビ)物の1本かと思ったのだが…。RAWは生で生食と言えば刺身だが、これはラストあっけらかんと生食族。

 

ウィスキーと2人の花嫁:第2次世界大戦中スコットランドのトディ島に“乾きが訪れた”、ウィスキーの配給が止まってしまったのだ。そんな時NY行きの貨物船が近くで座礁、積み荷は何とウィスキー、島民こぞっての積み荷救出隠し作戦が、官憲へのだまし合いで繰り出されたという実話に基づく傑作喜劇。ウィスキーがないと結婚もできない!

 

僕の名前はズッキーニ:フランス発のストップアニメは、母を亡くして孤児院に入れられた“ズッキーニ”に、人生そんなにひどい事ばかりじゃないよと呼びかける。

 

長江 愛の詩:死んだ父の残した貨物船の船長となった主人公が、機関室にあった詩集に沿って上海から長江をさかのぼる。様々な表情を見せる長江の姿を撮影監督リー・ピンビンのカメラが切り取る。その幻想的な美しさに酔うべき映画。

 

空海 KU-KAI 美しき王妃の謎:夢枕獏の原作だと聞けば理解できるし、「妖猫伝」という中国題名を見ればよりよく理解できる。チェン・カイコーの作品とか、空海についての映画という観点からは多いに違和感あり。画面だけはきれいな「妖猫伝」。

 

blank13:斎藤工の初監督作品は1時間10分と短いが、題名が出るのは真ん中あたり。兄弟二人が子供の頃と、成人した現在とに別れる。人生を大きく分ければ確かに2つか。

 

 


Ⅱ 今月の惹句(じゃっく)

 

1/26~2/25の間に封切られた作品から、キャッチつまり惹句のベスト3を選び出す。先月と違い、力作、傑作、凶作などが揃った。例によって見ていない作品もあり、あくまで惹句の評価という事で、宜しく。

 

権力には屈しない 相手が大統領であっても―ザ・シークレットマン(2/24公開、未見)
作品はウォーターゲート事件のニクソン大統領だが、あえて現大統領を想起したい。
働けど、働けど苦い銭(2/01公開)
啄木の詩そのままの言葉は現中国の労働者にも当てはまる?しかし、図太さが違う。
愛憎が、溢れ出す。犬猿(2/10公開)
単に仲良いだけの兄妹/姉妹は信じられない。

 

 

 

 

 

Ⅲ 今月のサービス音楽

 

ウィスキーと2人の花嫁」を見たのは封切り日2/17の3回目14:40からの回だった。映画館(ヒューマントラストシネマ有楽町)の前は狭いこともあり大混雑。当然ながら満席だった。この映画こんなにヒットしたんだとちょっと驚いた。勿論大型作品ではないし、公開映画館数も少ない(東京では2館のみ)から興行収入はそれ程ではないが。
こちらの予想より多くの集客をする作品のその原因は何なのか、いつも気になる。ネット上なにか話題になったのか?あるいはTVでの紹介があったのか?この作品に限っては、ウィスキー屋さんががんばって話題を広げたのか?こうした原因が解明されれば面白いのだが。

 

この日、上映開始前にトークショーならぬバグパイプの演奏会があった。お話は無し。日本人女性の演奏による4曲のバグパイプ演奏が披露された。彼女は熱演、汗びっしょり。
今までにも映像等でバグパイプの演奏は見たことがあるが、ただ漫然と見ていただけで、どんな風に演奏されるのかに気づいていなかった。何本かのパイプが袋につながっていて吹くためのパイプをくわえて演奏すると思っていたのだが…。
演奏する彼女を見ていると吹いている口と音が合っていない。パイプを口から離しても音はしているという事を発見。そうか、あの袋は空気をためるためのもので、吹いて空気を入れる行為と袋から空気を出して音を出すのは同調していないという事が分かった。皆さんにとっては常識だったかもしれませんが。

 

 

 

Ⅳ  今月の旧作

 

◇日本映画


わが生涯のかがやける日:新藤兼人脚本の力強さ、悪の強さに呼応して出演者たちの人物造形、メイクアップも凄い。1948年という時代と、演劇界からの出演者の多さからこうなったのだろうが、驚き。特に滝沢修のメークは超凄い。
からっ風野郎:三島由紀夫が俳優として主演した作品。う~む。

 


◇外国映画


欲望の翼:ウォン・カーウェイの2作目(1990年)をやっと見た。クリストファー・ドイルのカメラによる湿った色彩、若者たちの生き方などその後の作品の要素がすべて見られる。ラスト、突如現れるト二―・レオンのギャンブラーは何?と思うのだが、その後の作品の予告編のようでもあった。


バーフバリ 伝説誕生:昨年見逃していたもの。続編の「王の凱旋」より良いし、これ1作のみでもよいかと思うが、初めから続編ありきで“続く”と出るので見ざるを得ないか。


ダンケルク:1964年のフランス映画、アンリ・ヴェルヌイユ監督、ジャン=ポール・ベルモンド主演の作品、4Kレストア版での公開。アンリ・ドカエの撮影が素晴らしく、昨年のクリストファー・ノーランの「ダンケルク」とは違う作品としてみる価値あり。

 

バグダッド・カフェ:長い間見逃していたもの、やっと見ることができた。何も知らずに見て、ジャック・パランス、クリスティーネ・カウフマンが出ているのに驚いた。主題歌「コーリング・ユー」の圧倒的迫力にも驚いた。

 

 

 

Ⅴ 今月のつぶやき


●自ら死を体験しようとする医学生を描く「フラットライナーズ」を見ていると、アメリカだったらあり得るかもしれないなとも思う。一人目が上手く生還でき、過去に学んだことを信じられないほど思い出すという結果があった時、次々に実験台になるというのも凄い。

 

●韓国では大統領が変わるたび、前の大統領が逮捕されたりする。観ていても分かりやすい権力の交代である。悪の世界でマスターと呼ばれる大ボスをイ・ビョンホンが演じる「MASTER/マスター」は、検察側にも最後まで喰らいつく一人の若者を置き、力の対決、だまし合いをたっぷり見せてくれる。

 

●やっと見た「GODZILLA怪獣惑星」、本当にこんなゴジラを作りたかったのかと思った。2万年後の破壊の王者という売込みだが、このアニメーション作品は実写版とは何の関係もないという事だろう。

 

●インド映画で歴代最高興収を挙げたという「バーフバリ 伝説誕生」(昨年公開)は残念ながら見逃している。続編「バーフバリ 王の凱旋」は前の記録を破る大ヒットと聞く。見てみると正にインド映画、歌、踊り+派手派手アクションに、民衆に支持される王という設定の3代にわたる物語はさすがの出来。

 

●スタンリー・トゥッチは多くの作品で脇役として活躍している。例えば「プラダを着た悪魔」とか。時に監督・脚本もしているが、久しぶりの監督・脚本作が「ジャコメッティ 最後の肖像」である。ジャコメッティは絵をなかなか完成できない。1日だけの予定が18日まで伸びてしまう。その謎を教えてくれる映画だ。

 

●ジャコメッティの弟ディエゴを演じていたのはトニー・シャルーブ、TVシリーズ「モンク」という潔癖症の探偵を演じて独特の味を出していた俳優だ。今月は彼がもう1本出演していた。ウォルター・ヒル監督の久しぶりの作品「レディ・ガイ」だ。こちらでは捕まった女医を精神鑑定する精神科医の役。結構似合っている。

 

●ミッシェル・ロドリゲスがフランク・キッチンという殺し屋を演じる「レディ・ガイ」には、彼を彼女に改造した女医役でシガニー・ウィーバーも出演している。頭の冴えたクールな悪役(?)を例によって嬉しそうに演じている。

 

●見逃していた「早春」をやっと見ることができた。ポーランドでの活動ができなくなっていたイエジー・スコリモフスキ監督がロンドンで撮った1970年の作品だ。デジタル・リマスター版完成記念での公開、今までソフト化もされていなかったという。15才の少年でしか描けない絶望的な恋、あの当時の猥雑なロンドン、キャット・スティーヴンスのロック、鮮やかな色彩、若々しい感性で貫かれたスコリモフスキの傑作だった。

 

 

 

 

 

Ⅴ 今月のつぶやき


●セザンヌとかゴーギャンと言えば画家の代名詞と言っても過言でないのが現在の評価だが、更にゴッホを加えた3人については作品が評価され売れるようになるまで長い時間がかかったんだと実感させてくれたのが「ゴーギャン タヒチ、楽園への旅」である。まあ、人生は短く、権力者は金持ちの一部で古い価値感が続いたであろう時代だから当然か?

 

●主人公の怒りがいかに強かったか、彼女が火炎瓶を投げる本数が1、2本では収まらなかった「スリー・ビルボード」にはびっくり。原題に入っているEbbingは少なくともGoogle Mapでは出てこない。さらに、アイダホからミズーリまで来るには少なくとも2つの州を横切るはずで、そんなに遠くからやってくるのか?という疑問が残る。不思議だが傑作。

 

●高齢社会は避けられない現実。「ロング、ロングバケーション」はかなり悲惨な老夫婦の旅、ドナルド・サザーランドには演じてほしくなかったな。

 

●広瀬アリスは「わろてんか」で好調だし、アイディアは面白そうで見たのだが、「巫女っちゃけん」はやりすぎ感があり引いた。特に主人公のふるまいとかが月並みすぎ。

 

●確かにゆっくり描くことで調子が出る場合もあり、この作品はそれなりに展開もあるのだが、「ミッドナイト・バス」の2時間37分は長すぎだろう。長くて2時間でよい。

 

●魚深市(魚津?)を舞台に平凡な市職員と6人の元殺人犯が繰り広げる…。「羊の木」は期待の吉田大八監督にしては、冴えがない。人物造形はどれもありがちパターンだし。原作は山上たつひこの小説、それをマンガにしたのはいがらしみきおという変わり種で、更に映画にしたのが吉田監督という事で期待したのだが、残念。

 

●一人っ子より複数兄妹の方が良いのではと思ってきたのだが、2人兄妹/姉妹はどうなのと思わせる「犬猿」は微妙だ。ありがちパターンに陥っていく。3人以上の方がやはり良い?

 

●ちょっとミュージカルのアメコミ作品風と思わせるのが「グレイテスト・ショーマン」の歌曲、その弾んだ調子は聞きやすいがアップテンポが過ぎるかも。踊りもちょっと単調か?

 

●バルカン半島のどこかの国を舞台とする「ロープ/戦場の生命線」は1995年、ユーゴスラヴィア紛争のどこかの停戦直後を時代としている。各国が人を派遣し平和に向けて活動しているのだが、1本のロープを探し回る。現地の状況をリアルに描いて力みがない。

 

●韓国映画はいま絶好調なのではないか?それほど多く見ていないが、どの作品も力強い。脚本が練られている。「殺人者の記憶法」もその1本だが、殺人者の主人公が認知症の現在、本当の記憶か幻覚かが判然としない。そこがこの作品の唯一の欠点。他は素晴らしい。

 

 

 



今月のトピックス:日本映画に不足するものは?



Ⅰ 日本映画に不足するものは?


朝日新聞1/16朝刊に「デトロイト」のキャスリン・ビグロー監督のインタビュー記事が出ていた。白人警官による黒人差別は最近もニュースになっている。50年前のデトロイト暴動以後も繰り返される差別、誰もが積極的に動かなければ人種差別が勝手になくなることはないと発言している。さらに、“娯楽だけの作品に興味はない。わたしの作品はいつも、社会的なメッセージと芸術性が交差するところにある。バランスは非常に難しく興行のリスクもあるが、こうした挑戦にこそやりがいを感じてきた。”とも。

 

この後、朝日新聞の石飛徳樹編集委員は「政治的主題、踏み込まぬ邦画」という見出しと共に、政治的主題を取り上げていない現在の日本映画について苦言を呈している。さらにイエール大のアーロン・ジェロ―教授の言葉として“日本では、テレビ局の出資が映画から政治性を失わせているように思います。若い学生たちの間には政治の話などしたくないという空気を感じます。”との発言を紹介している。確かに!
今月私の見た日本映画の新作11本にも政治的な作品はなかった。今の日本映画で目立つのは、女子高生向け漫画原作からの恋愛もの、子供向けアニメ、主に漫画原作による近未来SF、TV局主導による作品(TV番組の映画化含む)などだ。
元々政治について話したり議論するのを日本人は好まないという性向がある。映画界として好まれていないものをあえて取り上げる必要は無いともいえる。山本薩夫や熊井啓監督などかつていた政治的主題を得意とする監督も、現在ではこれという名前を挙げることができない。

 

ハリウッドや他の国では今もってジャーナリスティックな作品が結構作られている。しかも、きちんと主張し色々なことを教えてくれるとともに、楽しめる作品にもなっているものが多い。日本映画は初めから人気のない政治的主題を外し、トライもしていない印象だ。映画は若い人向けに作られていて、大人も楽しめる作品が少ないという声も聞く。世界有数の高齢者大国で真にこの層を狙おうとしたら、政治的なものにも真摯に向き合う覚悟が必要だ。

 

 

 

 

Ⅱ アカデミー賞 予想最終案 


先月号でお知らせした通り、90回目となる今年の米アカデミー賞授賞式は現地時間3月4日(日)の夜行われる。(日本時間では3月5日昼間)
私の最終予想を下に記入しました。先月号の予想から変えたのは唯一助演男優賞のみ。この1ヶ月間に見た作品「スリー・ビルボード」がそれだけ印象深かったという事です。

 

◇作品賞 ◎スリー・ビルボード 
◇監督賞 ◎ギルレモ・デル・トロ (シェイプ・オブ・ウォーター)
◇主演男優賞 ◎ゲイリー・オールドマン (ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男)
◇主演女優賞 ◎フランシス・マクドーマンド (スリー・ビルボード)
◇助演男優賞 ◎サム・ロックウェル (スリー・ビルボード) ← クリストファー・プラマー (All the Money in the World 日本公開未定)
◇助演女優賞 ◎ローリー・メトカーフ (レディー・バード)

 

 

 

 

 

Ⅲ キネマ旬報ベストテン 第1位映画鑑賞会と表彰式


2/12(祝)にキネマ旬報の表彰式が、各ジャンルの下記ベスト1映画上映会と共に行われた。日本映画と表彰式のみに参加した。


文化映画:人生フルーツ    

外国映画:わたしは、ダニエル・ブレイク
日本映画:映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ

 

監督、俳優関係では次の方々が登壇された。新人男優賞の山田涼介は仕事のため欠席。


日本映画監督賞:大林宣彦(花筐)
日本映画脚本賞:石井裕也(映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ)
主演女優賞:蒼井優(彼女がその名を知らない鳥たち)
主演男優賞:菅田将暉(あゝ、荒野 ほか)
助演女優賞:田中麗奈(幼な子われらに生まれ)
助演男優賞:ヤン・イクチェン(あゝ、荒野)
新人女優賞:石橋静河(映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ)
読者選出日本映画監督賞:岸善幸(あゝ、荒野)
読者賞:立川志らく

 

肺がんで闘病中の大林監督が杖を突きながらゆっくり登場、個人映画を作り続けてきたとの話をされた。新作「花筐」は正に彼の美学を全て結集したようなきっちりした画が続く濃い映画である。
最も印象深かったのはヤン・イクチェン、8年前には「息もできない」でその年の外国映画ベスト1を監督として受賞、今回は俳優としての受賞だ。彼がいなければ昭和を思い出させるバリカン健二は映画に出現しなかっただろう。舞台上でもチャーミングだった。

 

 

 

Ⅳ 国立映画アーカイブ


東京京橋にあるフィルムセンターのホームページに、「独立行政法人国立美術館 国立映画アーカイブ設置のお知らせ」として次の文章が掲載されている。

 

『東京国立近代美術館フィルムセンターは、2018年4月、独立行政法人国立美術館の映画専門機関「国立映画アーカイブ」として新たな位置づけで設置されます。これまでも映画の収集・保存・公開・活用を行ってきましたが、今回、他の国立美術館と同格の機関として改組し、「映画を残す、映画を活かす。」をミッションとして、我が国の映画文化振興のためのナショナルセンターとして一層の機能強化を進めていきます』。

 

つまり、これまで近代美術館の一部であったものが、4月から国立映画アーカイブとして独立するという事だ。これに伴い、今まで大ホールとのみ呼ばれていた2階のホールは「長瀬記念ホール OZU」と名称が変更となる。長瀬記念はフィルムセンターの時から援助してきた長瀬映像文化財団(IMAGICAによって設立)からとられている。OZUは小津監督から。

 

 

 

 

Ⅴ 映画館の作法


イメージフォーラムと言えば、2000年に開館したアート系映画館として東京でもミニシアターを代表する映画館の一つ。それなりの意識をもって見に来ている人が多い(はず)。
「サファリ」は地下のシアター2で上映された。100席が縦に3つのセクションに分かれて配置されている。この変わったドキュメンタリーを見に来るほどの人は、ある程度の映画ファンだと思っていたのだが…。
私が座ったのは画面を前に右側2列セクションの通路側、前から6列目だった。通路を挟んで斜め前に座った人が予告編が終わろうとしているのにスマホを付けたままだ。本編が始まったのに、そのまま。こらえきれず“まぶしいので消してください”と声をかけ、やっと消えた。
暫くするとお菓子の袋を開けるかすかな音と、せんべいらしきものを食べている音が通路を挟んで隣から聞こえ始めた。ものすごく遠慮しているので小さな音だ。しかし、「サファリ」は静かな作品なので、聞こえてしまう。
さらに、スマホの人の前に座っている人が椅子の横にスマホを付けたまま立てて置いていたらしく、突然画面が点灯した。しかも画面をこちらに向けて。
この3連発には驚いた。

 

 

 

 

今月はここまで。
次号は、もう春だろう3/25にお送りします。また、日曜日の夜です。




                         - 神谷二三夫 -


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