2018年 6月号back

夏日がどんどん増えつつあるこの頃、
真夏の前には梅雨という季節があるんだなあと思い、
あのじとじと、ぐっしょり感はなんとかできないかと考える。
季節という自然の営みには付き合うしかないのだが。
付き合いきれないときは、そう、映画館へ!

 

 

 

 

 

今月の映画

 

4/26~5/25のGWを含む30日間に出会った作品は50本、
映画の季節GWがあったので仕方がないとはいえ大きな本数になりました。
しかし、その半数以上27本が旧作、大映男優祭と映画史上の名作特集です。
新作もそれなりに頑張っています。

 


 



<日本映画>

いぬやしき 
ラプラスの魔女 
MIFUNE The Last Samurai 
モリのいる場所 
のみとり侍 
サムライと愚か者 -オリンパス事件の全貌- 
オー・ルーシー 
近松物語 
白い巨塔(古) 
薄桜記(古) 
眠狂四郎 勝負(古) 
眠狂四郎 女妖剣(古) 
地獄門(古) 
ある殺し屋(古) 
眠狂四郎 無頼剣(古) 
陸軍中野学校(古) 
忍びの者(古) 

ひとり狼(古) 

 

 

<外国映画>

アベンジャーズ インフィニティ・ウォー
  (Avengers:Infinity War) 
ザ・スクエア 思いやりの聖域
  (The Square) 
君の名前で僕を呼んで
  (Call Me by Your Name) 
アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル
  (I, Tonya) 
サバービコン 仮面を被った街
  (Suburbicon) 
ホース・ソルジャー
  (12 Strong) 
ジェイン・ジェイコブス―ニューヨーク都市計画革命―
  (Citizen Jane Battle for The City)
ボストン・ストロング~ダメな僕だから英雄になれた~
  (Stronger) 
モリーズ・ゲーム
  (Molly’s Game) 
私はあなたの二グロではない
  (I Am Not Your Negro) 
マルクス・エンゲルス
  (Le Jeune Karl Marx / The Young Karl Marx) 
ピーターラビット
  (Peter Rabbit) 
ランペイジ 巨獣大乱闘
  (Rampage) 
フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法
  (The Florida Project) 
29歳問題
  (29+1)
マダムサタン
  (Madame Satan) 
雨(古)
  (Rain) 
M(古)
  (Einestadt Sucht Einen Morder) 
都会の叫び(古)
(Cry of The City) 
ジョンソンにはうんざり(古)
  (Too Much Johnson) 
女たち(古)
  (The Women) 
快楽(古)
  (Le Plaisir) 
五本の指(古)
  (5 Fingers) 
黒蘭の女(古)
  (Jezebel) 
格子なき牢獄(古)
  (Prison sans Barreaux) 
我が家の楽園(古)
  (You Can’t Take It With You) 
いちごブロンド(古)
  (Strawberry Blonde) 
片目のジャック(古)
  (One-Eyed Jacks) 
化石の森(古)
  (The Petrified Forest) 
アフリカ珍道中(古)
  (Road to Zanzibar) 
征服されざる人々(古)
  (Unconquered) 
(映画祭)いつだってやめられる 名誉学位
  (Smetto quando voglio - Ad honorem)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

 

①-1 モリのいる場所
熊谷守一の最晩年を描いた沖田修一監督作品。少し広いとはいえ家の庭から出ずに30年以上を過ごした仙人のような画家。違う時間の流れる小宇宙をそのままに映画化。山崎努、樹木希林のそのまま演技も素晴らしく、ゆったり絵を見たくなりました。

 

①-2 サムライと愚か者 -オリンパス事件の全貌-
2011年に起きたオリンパス事件は英国人社長が解雇され…その後2012年には会長、副社長などが逮捕され…くらいしか知らなかったが、そうだったのかと詳しく教えてくれる作品だった。しかも、その内容(損失の先送り、決算での“飛ばし”など)を見ると、現在の日本政府の証言があった、なかったとの隠蔽体質にも通じるものがあり、株式会社“日本”に伝統(?)が引き継がれていると思われる。

 

② 君の名前で僕を呼んで
人は誰も恋をする。その時の心の不安定なことは楽しみながらも苦しい、いや逆、苦しみながらも心躍る。北イタリア、ミラノから南西に45㎞程にあるクレーマの郊外・避暑地の家にアメリカの大学院生がやってくる。夏休みの6週間、考古学者の手伝いをするために。学者の息子と恋におちる様が繊細に描かれる。

 

③-1 アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル
フィギュアスケート界の大事件、トーニャ・ハーディングによるナンシー・ケリガン襲撃事件を憶えておいでだろうか?1994年のことだ。スポーツ精神に則らず、最近の日大アメフト部の愚行のように相手を肉体的に壊す。トーニャがどうしてそうした行動に及んだか、原因まで覗かせながらアメリカ社会を見せている。アカデミー助演賞を取った母親役のアリソン・ジャネイの演技は正に受賞に値する。

 

③-2 ホース・ソルジャー
9.11の後、アメリカがタリバン勢力を倒すために、アフガニスタンに12名からなる特殊部隊を送っていた史実に基づいて作られた映画。「パイレーツ・オブ・カリビアン」「ブラックホーク・ダウン」など派手なアクション映画を製作してきたジェリー・ブラッカイマーの良い部分がうまく発揮され、見やすく、しかしリアルな戦争映画になった。

 

 

 

楽しめる作品は他にも沢山、ご覧ください。


アベンジャーズ インフィニティ・ウォー:マーベルのヒーローが複数登場するアベンジャーズシリーズの最新作。正にオールスターキャスト、各自出場時間は短い。さらに超強力な敵サノスの登場と話題に事欠かない。2時間半はちと長いが仕方ないか。

 

ザ・スクエア 思いやりの聖域:昨年のカンヌ映画祭パルムドールの受賞作、スウェーデン人監督リューベン・オストルンドの「フレンチアルプスで起きたこと」に続く長編5作目。多くの疑問が投げられ、未回答のまま放置されるのは監督の意図だろう。

 

サバービコン 仮面を被った街:アメリカ社会が一番輝いていた50年代、サバービコン市には黒人はいなかった。白人だけでいろいろなことも覆い隠していた。そこにやってきた黒人一家が人々の憎しみを炙り出し、更に隠されていたことも表に。コーエン兄弟の脚本をジョージ・クルーニーが監督として映画化、夢見ていたアメリカの時代を描いている。

 

ボストン・ストロング~ダメな僕だから英雄になれた~:今年は川内選手が優勝したボストンマラソン、5年前2013年の大会では爆破事件があった。その時爆破犯の近くにいて大きく負傷した男性を主人公に描く感動作…とはちょっと違う作品にしているところが凄い。

 

私はあなたの二グロではない:黒人作家ジェームズ・ボールドウィンの原作に沿って、黒人運動で命を落とした3人について、更に作家自身についても語ったドキュメンタリー。サミュエル・ジャクソンのナレーションが何とも言えず良い。教えられることも多い。

 

MIFUNE The Last Samurai:日本資本で作られたスティーヴン・オカザキ監督のドキュメンタリーは三船敏郎について多くの人にインタビュー。スピルバーグから中島春雄、佐藤忠男まで登場する。獣のような俊敏な動き、輝きを失わない目、スーパースターの証だ。

 

マルクス・エンゲルス:最近人気がないというか、共産主義国家の崩壊により日本ではほとんど顧みられることがないマルクスとエンゲルス。彼らの若い頃、『共産党宣言』の執筆に至るまでを描く。日本でも貧民層が目立つ今こそ、必要な思想だとも思うのだが。

 

ランペイジ 巨獣大乱闘:B級テイスト満載のドウェイン・ジョンソン主演作。“巨大化が、止まらない”の惹句のままに暴れまくり、見る者に変な負担をかけない快作。

 

のみとり侍:蚤とり稼業は江戸時代に実際にあったらしい。小松重男の原作を鶴橋康夫監督が映画化、阿部寛、寺島しのぶ、豊川悦司などのスターを揃え、裏稼業を描きます。

 

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法:フロリダのディズニー・ワールドの裏にある安モーテル、そこで暮らす6才の娘と母親の母子家庭を中心に、夢舞台の裏にある貧困を描く。

 

 

 

 


Ⅱ 今月の注目映画人:複数の映画で出会った映画の人

 

マーゴット・ロビー
アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」に主演した彼女の名前を「ピーターラビット」の配役表にも見つけた。しかし顔は見られず声のみ、ピーターの妹フロプシーの声を演じていたからだ。
「アイ、トーニャ」では製作も兼ねていた彼女は、スケートの特訓を4ヶ月受けたとある。それだけ打ち込んでいたのだろう。昨日映画館で6/23公開予定の新作「死の谷間」のチラシも見た。ただ、調べてみるとこの作品は2015年に製作されていたものだ。
大作りなすっきり感のある顔、オーストラリア出身の27歳だ。

 

ラウル・ペック
私はあなたの二グロではない」と「マルクス・エンゲルス」は1日置いて続けてみたのだが、監督が同じラウル・ペックと言う人だった。初めて聞く名前だった。
「マルクス…」の公式サイトにあった彼の紹介に驚いた。ハイチ生まれ、コンゴ、アメリカ、フランスで育ち、ベルリン工科大学で経済工学、西ドイツ初の映画学校ドイツ映画テレビアカデミーで学ぶとある。1996~7年ハイチの文化大臣、2010年からフランス国立映画学校FEMISの学長を務めたとある。カンヌやベルリン映画祭で審査員も務めていたという。凄い経歴です。1953年生まれの64歳。

 

 

 

 

 

Ⅲ 今月の惹句(じゃっく)番外編

 

最近題名に副題のつくものが目立つ。特に今月は次のように本数が多い。
ザ・スクエア 思いやりの聖域
アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル
サバービコン 仮面を被った街
ジェイン・ジェイコブス―ニューヨーク都市計画革命―
ボストン・ストロング~ダメな僕だから英雄になれた~
フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法
サムライと愚か者 -オリンパス事件の全貌-

 

日本の観客に少しでも分かりやすいようにと言う映画会社の工夫なんだろう。こうした題名を見ると、いつかから番組の内容が書かれるようになった新聞のテレビ番組表を思い出す。説明的過ぎる。
副題にはまるで惹句のようなものもある。思いやりの聖域とか、真夏の魔法とか。

すっきりした題名の方がインパクトが強く覚えやすいのでないだろうか?

 

 

 

 

Ⅳ  今月の旧作

 

≪日本映画≫

今月も大映男優祭の続き、メイン会場角川シネマ新宿での上映が5/11で終了。
今月は主に市川雷蔵の出演作を見た。
代表シリーズの一つである眠狂四郎を3作見た。ニヒルな主人公を演じているという風に思っていたのだが、実際には狂四郎はかなりおしゃべり、しかもごく普通に話すので印象が変わった。3本見た内では「眠狂四郎 無頼剣」が良かった。三隈研次の映画作りがすっきりしていて、肌触りが良い。
ひとり狼」が股旅ものとしてよくできていた。一宿一飯の恩義の実際とか、布団の使い方までわかって楽しめた。
雷蔵以外では「近松物語」が圧倒的。溝口建二の作品に初めて100%感心した。芸術と言って間違いない。

 

≪外国映画≫

16本すべて渋谷シネマヴェーラでの映画史上の名作16での上映作。2本立てでの上映で、番組上「マダムサタン」「黒蘭の女」は再見となった。
他の作品で面白かったのは「雨」「M」「女たち」「快楽」「征服されざる人々」あたり。
フリッツ・ラング監督のドイツ時代1931年の作品「」は、犯人役ペーター・ローレの特異なキャラクターが印象深いが、それ以上に怖いのはラストで見られる民衆の高まりがその後にやってくるナチスへの忠誠を感じさせる場面だ。
ジョージ・キューカー監督の1939年の「女たち」は女性しか出てこない映画、ネイルサロンでの噂話が物語を進めていくという脚本が上手く、殆ど違和感がない。
征服されざる人々」は1947年セシル・B・デミル監督作品。独立前1763年の時代、インディアン(ネイティヴ・アメリカン)と白人との闘いなど、デミルらしい作り。

 

 

 

Ⅴ 今月のつぶやき


●面白いけれど漫画原作の限界を感じさせたのが「いぬやしき」。実際の漫画がどう描かれているかをチェックしていないのだが、後半、話がどんどんアクションのみに傾倒していくのが原作通りであるとすれば、ちょっと残念。

 

●エピソードに対する回答がほとんど出されていないのが「ザ・スクエア 思いやりの聖域」だ。そういう作劇はあるとは思うのだが、見る方にとっては不満ばかりが残る。

 

●伊=仏=ブラジル=米合作の「君の名前で僕を呼んで」には、英語、イタリア語、フランス語、ドイツ語が乱れ飛ぶ。舞台は北イタリア、そこにアメリカ人がやってくる。フランス語は主に母親が話している。彼女はドイツ語も話す。学者の父親に関連してギリシャ語やラテン語も出てくるので、語学の多彩さが楽しめる。

 

●GWに開催されたイタリア映画祭で見た「いつだってやめられる 名誉学位」は、イタリアの喜劇シリーズ“いつだってやめられる”の3作目にして最終作。定職に就けない博士や教授10人が、活躍する喜劇。日本では2作目の「いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち」は5月26日から、1作目の「いつだってやめられる7人の危ない教授たち」は6月23日に公開される。

 

●東野圭吾の小説は人気が高く、今までにも多くの作品が原作として映画化されている。「ラプラスの魔女」もその1本だが、この映画を見ていると、そんなことはないだろうと感じることが多く、本当に小説に書かれているのだろうかと感じて、小説を読んで確かめるべきだろうかと思う。三池崇史監督は疑問に思わなかったのだろうか?

 

●二人の父親が見せる子供教育に感心したのが「モリーズ・ゲーム」だ。コロラドでスキー好きの父の元でスキーを仕込まれ、スキー以外でも厳しく育てられた主人公以外に、彼女の弁護を引き受ける弁護士の中学生の娘も厳しくしつけられている。二人の父親が、共に学業も含めて高い目標を与えて育てようとしている姿には大いに感心。

 

●人気があるんだなあと改めて思ったのは「ピーターラビット」の初日(金曜日)3回目(14:30~)、平日の昼間なのにかなり入っていたことだ。作品は従来のイメージからはかなり飛躍、いたずらラビットの面目躍如。封切り週末の興収では「名探偵コナン」に次いで2位。

 

●ドウェイン・ジョンソンが「ランペイジ 巨獣大乱闘」で演じる主人公の名前はデイビス・オコイエ(Davis Okoye)だ。Okoyeは日本の野球選手オコエ瑠偉Louis Okoyeと同じ。瑠偉選手の父親はナイジェリア人と言うが、デイビス・オコイエもそういう設定なんだろうか?映画のサイトも字幕でもオコイエとなっているが、オコエであればちょっと話題かも。

 

●2011年から7年も過ぎているのに、その時の教訓が生かされていないのはまるで原発事故が人々の生活に与える影響が原発政策に活かされていないのと同じだ。今の政府の情けなさはオリンパス事件が全く勉強されていないことの表れだと思った「サムライと愚か者 -オリンパス事件の全貌-」だ。あの時も様々な情報が隠されていたんだなあ。

 

 

 

 



今月のトピックス:アメリカ アメリカ


Ⅰ アメリカ アメリカ


かつて「アメリカ アメリカ」というエリア・カザン監督作品があった。監督自身の体験を小説に書き、それを映画にしたのだが、圧政の元にあったトルコにいたギリシャ人青年が、自由に憧れアメリカを目指すという物語だ。

 

アメリカは長い間、憧れの国として多くの移民を集めてきた。
旧作「征服されざる人々」はアメリカ独立戦争より前、1763年にイギリスで有罪を宣告された女性(白人)が、死刑か14年の奴隷としてのアメリカ行きかという刑からアメリカ行きを選ぶところから始まっている。
流刑地としてのアメリカ、宗教的新天地としてのアメリカ、貧困からの脱出地としてのアメリカなど様々な目的の元にアメリカの地に渡った人々がアメリカという国を作ってきた。多くの貧しく、或いは不自由な状況の人々の希望の地として300年以上存在してきた。初めはヨーロッパから、19~20世紀には様々な地域から多くの移民がアメリカにやってきた。希望に満ちた彼らは新しい技術を作り出し、20世紀はアメリカの世紀と呼ばれるほどに繁栄する。

 

繁栄の一つの頂点が第二次大戦後1950年代のアメリカという事が出来ようか。大きな車と電化製品で便利な生活をおくるアメリカ人の暮らしは日本でも多くの人々の憧れだった。白人の豊かな生活の裏には、しかし常に貧しい黒人の生活、差別された生活があった。
サバービコン」は郊外に開けた住宅地に初めて黒人一家が引っ越してくるところから始まる。50年代の幸せそうな主人公の白人家庭はなんだか不気味で変な点があるが、それ以上に隣に引っ越してきた黒人一家に対する他の住民のあからさまな差別には驚く。彼らの家の周りには外側から高い塀が作られ、周りには白人たちが集まり常に差別的な言葉を投げつける。最後には、銃弾が撃ち込まれ、自家用車には火が放たれる。
60年代に入ると差別に対する黒人の闘う運動は広がりと激しさを増す。「私はあなたの二グロではない」はこの時期に暗殺された3人の黒人公民権運動のリーダー(メドガー・エヴァース、マルコムX、キング牧師)に沿って、差別の実態を教えてくれる。

 

豊かな国アメリカにも、当然のことながら貧しい層は存在する。皆が豊かで良い人というのは幻想だ。その比率は時代によって変わるだろうが、それは日本でも同じだ。たとえ貧しくても、上を目指す自由があるというのがアメリカンドリームの土壌だった。常に前向き、明るいというアメリカの前で貧しさは見えにくくなっていた。
今月、その貧しさが見える作品が3本もあった。「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」「ボストン・ストロング~ダメな僕だから英雄になれた~」「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」だ。どれも副題付の日本語題名。その副題に貧しさが垣間見える。

 

「アイ、トーニャ…」はフィギュアスケートという金のかかる競技スポーツに貧乏な家の子トーニャが挑戦する。世界で2番目にトリプルアクセルを成功させ、それなりに上位選手として成績を収めるのだが、彼女の周りには自分勝手で見返りを求める母親、優しい時もあるがDVをふるいがちの夫、その友達で自立できない男とロクな人間がいない。それでもオリンピックに出なければと、当時のライバルだったナンシー・ケリガンに、暴力を加えることになってしまう。裕福な家の子ナンシーと貧乏な家の子トーニャの対比が描かれる。
「ボストン…」は両足を失う主人公の家は貧しく、くっ付いたり離れたりしている彼女の家は中流か。アル中に近い母親や叔母など下世話な人々がいて下層階級感がたっぷりだ。
「フロリダ…」はオーランドのディズニー・ワールド近くの安モーテルに住む母娘が主人公。
6才の娘と住むシングルマザーは入れ墨が体のいたるところに。観光客に怪しげな香水などを売り歩き、モーテル代などを稼ごうとするが…。

 

珍しくもアメリカにある階級を感じさせる映画が何本か揃い、そうした階級が表に出てきていることが現在のアメリカかなとも感じた。歴史が短いと言っても1776年の独立宣言からでも250年近くの歳月が経過している。今月はそんなアメリカの歴史を教えてくれる作品群に出会った。

 

 

 

 

Ⅱ マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)10周年 


現在アメリカの映画市場を席巻している映画「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」は全米公開4週目の5/20現在で5億9500万ドルの興行収入を上げている。この金額は「アバター」(7億6000万ドル)、「タイタニック」(6億5800万ドル)、「アベンジャーズ(1作目)」(6億2000万ドル)についで全米興収歴代4位になる。まだ興行中なので、「タイタニック」に近づけるか、あるいは追い抜くかというところだ。
この映画について5/03の朝日新聞が文化面で「アメコミ映画 無敵のパワー」と題して大きく取り上げている。マーベルが自主製作に乗り出し、2008年の「アイアンマン」を第一作として今回の「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」が19本目で、これらの作品をマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)シリーズと名付けているらしい。

 

これらの映画にはマーベル・メディア名誉会場のスタン・リーが必ず画面に現れる。かつてのヒッチコックと同じで色々な場面に様々な風貌で、時には台詞付きで登場する。元々多くのアメコミの原作を手掛けてきた人、1939年にマーベルコミックに入社、すぐに原作に携わったらしい。現在95歳、画面に元気な姿を見せている。

 

アメコミ映画の人気が今一つなのが日本。最新作もアメリカでの爆発的ヒットに比べて少し寂しい。封切られた4/27の2週間前から「名探偵コナン ゼロの執行人」が上映されていて、ずっと日本での興収1位を連続6週キープしているため、アベンジャーズは一度も1位を取れずにいる。と言っても実額は33億円を超え、大ヒットには間違いないのだが。

 

 

 

 

 

 

Ⅲ カンヌ映画祭


今年のカンヌ映画祭は是枝博和監督の「万引き家族」がパルムドールを受賞して終了となった。日本映画としては今村昌平監督の「うなぎ」以来21年ぶりというパルムドールの受賞。是枝監督おめでとうございます。
「万引き家族」は6月8日に封切りされる。タイミング的にはぴったりの受賞でした。

 

受賞記事は朝日新聞の5/21の朝刊の一面トップとなった。カンヌ映画祭関連の記事が一面トップとなったことがもう一度あった。5/17の夕刊である。“カンヌ 進化への宿題”と題した記事だった。昨年の映画祭で問題になったネットフリックス製作による長編映画の参加だ。動画配信だけされ、劇場公開されない作品は映画とするのか?という問題が提起された。昨年はネットフリックスから2作品が出品されたが、これが問題になったのだ。今回から“フランスで劇場公開しない作品はコンペ部門には参加できない”という新ルールが設定された。ネットフリックスは自社製作に力を入れていて、人気スター等を起用した作品も製作しているという。今後このルールが変更される可能性はあるのか?注目される。

 

さらに、映画界における男女格差(女性監督の少なさ)があるとされ、カンヌにおける男女平等のための憲章に映画祭のフレモー総代表が署名したという。作品選定の委員会やプログラム担当メンバーの透明化を図り、女性の割合を毎年報告するというものだ。

 

アメリカのアカデミー賞に次いで注目度の高いカンヌ映画祭、動向を注意していこう。

 

 

 

 

 

Ⅳ 金曜日


1月号でもお知らせしたが、東宝は封切り日を土曜→金曜日に変更すると発表していた。基本的には5/04(金)から金曜封切りとするというものだった。5/04は休日でもあったので集客が見込まれる日でもあった。その後、東宝系作品については確かに金曜日封切りが行われている。
東宝以外の作品でも金曜日封切り作品は増えてきている。
金曜日の新聞夕刊には従来土曜日に封切りされる映画の広告が多く掲載されていた。金曜日封切り作品の広告は木曜日に移ったかと言うと、必ずしもそうはならなかった。“本日公開”の言葉と共に金曜日に掲載されているものの方が多い。
今後これが変わってくるのか、興味のあるところだ。

 

 

 

 

今月はここまで。
次号は雨が降っているだろうかの6/25にお送りします。

 


                         - 神谷二三夫 -


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