2019年 6月号back

5月後半、一挙に夏日になったこの頃、
熱中症という言葉がニュースに上ることが多くなった。
我々の身体はまだその熱さに慣れていない。
そんな時ホッとできる場所は、エアコンの効いた映画館!

 

 

 

今月の映画

 

4/26~5/25の平成→令和を含む30日間に出会った作品は48本、
新しい元号、時代になったのに、今月は本数的に旧作の方が多くなりました。
邦洋画合わせて新作22本、旧作26本となりました。
“今月は旧作”の所以です。



<日本映画>

バースデー・ワンダーランド 
愛がなんだ 
ピア~まちをつなぐもの~
初恋,父さんチビがいなくなりました 
轢き逃げ 最高の最悪な日 
コンフィデンスマンJP 
居眠り磐音 
誰がために憲法はある 
小さな恋のうた
二人妻 妻よ薔薇のように(旧) 
甘い汁(旧)

 

<一年遅れの生誕百年映画監督川島雄三>
風船 
箱根山 
銀座二十四帖 
あした来る人 
天使も夢を見る 
わが町

 

<深作欣二> 
現代やくざ 人斬り与太 
黒蜥蜴 
いつかギラギラする日 
軍旗はためく下に 

仁義の墓場

 

 

<外国映画>

幸福なラザロ
  (Lazzaro Felice / Happy as Lazzaro) 
マローボーン家の掟
  (Marrowbone) 
アベンジャーズ エンドゲーム
  (Avengers:Endgame) 
主戦場
  (Shusenjo:The Main Battleground of

   The Comfort Women Issue) 
ハイ・ライフ
  (High Life) 
ドント・ウォーリー
  (Don’t Worry, He Won’t Get Far on Foot) 
ザ・フォーリナー/復讐者

  ( / The Foreigner) 
シー・ラヴズ・ミー
  (She Loves Me) 
リアム16歳,はじめての学校
  (Adventures in Public School) 
RBG 最強の85歳
  (RBG) 
オーヴァーロード
  (Overlord) 
僕たちは希望という名の列車に乗った
  (Das Schweigende Klassenzimmer /

   The Silent Revolution)
ホワイト・クロウ 伝説のダンサー
  (The White Crow) 

 

<イタリア映画祭2019>
情熱とユートピア
  (La Passione e L’Utopia) 
サン★ロレンツォの夜
  (La Notte di San Lorenzo /

   The Night of San Lorenzo) 

<ハワード・ホークス監督特集Ⅱ>
遊星よりの物体X
  (The Thing From Another World) 
世界拳闘王
  (The Prizefighter and The Lady) 
今日限りの命
  (Today We Live) 
ヨーク軍曹
  (Sergeant York) 
奇傑パンチョ
  (Viva Villa!) 
人生模様
  (O.Henry’s Full House) 
大自然の凱歌
  (Come and Get It) 
バーバリー・コースト
  (Barbary Coast) 
虎鮫
  (Tiger Shark) 
空軍/エア・フォース
  (Air Force) 
永遠の戦場
  (The Road to Glory)

 

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

  (新作だけを対象にしています)

 

① 僕たちは希望という名の列車に乗った
東ドイツはソ連が支配した共産圏の中では優等生のイメージがあった。1956年ハンガリー動乱の年に、東ドイツのスターリンシュタット(実際のシュトルコーから変更)で起こった高校生たちの行動を描いている。優等生たらんとするゆえに、彼らを襲った運命はより厳しい方向へ向かっていく。時代、体制、親子、青春などいくつかのキーワードで教えられることの多い作品。原作者ディートリッヒ・ガルスカの自らの経験談を監督・脚本したのはラース・クラウメ。

 

②-1 愛がなんだ
38歳の今泉力哉監督の作品は、角田光代の小説の映画化。恋愛中の主人公(女性)を中心に、それぞれの思いをリアルに描く。当然ながら、誤解、思い込み、希望的観測等に基づいた関係が動き回る。

 

②-2 居眠り磐音
時代劇作家佐伯泰英の初めての映画化。シリーズとしては2000万部を超える売れ行きらしい。監督は本木克英、主演は松坂桃李で堂々たる時代劇映画になっている。原作は50巻以上が発行されているようで、映画もシリーズ化されるだろうか?

 

③-1 主戦場
ミキ・デザキという日系2世のアメリカ人が初めて作ったドキュメンタリー映画は、従軍慰安婦についてのものだった。日米韓の様々な人にインタビュー。ケント・ギルバートとか、櫻井よしことか怪しさ満点だが、最後に出てくる加瀬英明にはビックリ。

 

③-2 誰がために憲法はある
渡辺美佐子が知り合いのベテラン女優たちと共に30年以上も続けてきた原爆についての朗読劇と松元ヒロの憲法くんをドッキング、監督が感じている平和に対する危機感が感じられるドキュメンタリー。戦争を知らない、興味がない世代が多くなり、未来は大丈夫か?

 

 

 

他にも面白い作品があります。映画館でお楽しみください。


幸福なラザロ:まるで第二次大戦直後のような雰囲気の中、映画が作られている現代からはかけ離れているような主人公ラザロが、天使の眼のような新人アドリアーノ・タルディオーロによって演じられる。

 

マローボーン家の掟:スペイン映画は時々ミステリーの秀作を送ってくる。じっくり落ち着いた描写の中に、何かが進行していく。

 

バースデー・ワンダーランド:期待される日本のアニメーターの一人原恵一監督の新作は、ちょっと不思議な、彼の作品の中では一番ファンタジーに富んだものになっている。

 

アベンジャーズ エンドゲーム:マーベル作品には珍しく、エンドロール後の次作品紹介がないのは、エンドというのだから当然か。サノスという強敵との闘いが重々しくも、或いは軽々しくも描かれる。それにしても全員出場はやめた方が良いのでは?

 

ドント・ウォーリー:ポートランドの風刺漫画家ジョン・キャラハン、2010年に59才で亡くなった彼を描く映画は、街中を猛スピードで突っ走る電動車椅子が何度も登場する。監督ガス・バン・サントはポートランドに住んでいた時実際に目にしていたそうだ。

 

ザ・フォーリナー/復讐者:ジャッキー・チェンの最新作は彼が製作にもかんでいるが、実にリアルで暗い。娘をテロで殺された男の復讐劇。65歳とは思えぬきっちりしたアクションだが派手さはない。この作品にはエンドロール時のNG集はなかった。

 

RBG 最強の85:4月号で紹介した「ビリーブ 未来への大逆転」で描かれたルース・ベイダー・ギンズバーグについてのドキュメンタリー。アメリカの最高裁判事の一人で女性、しかも最高齢の判事だ。ロックスター並みに有名なアメリカとは違い、それほど知られていない日本ではまずは「ビリーブ」を見た方が良いかも。

 

オーヴァーロード:ノルマンディ上陸作戦の裏にこんな戦いが、しかもナチスのこんな悪行がというアイディアが勝負の作品、B級テイストも加えて過激に楽しめる映画。

 

轢き逃げ 最高の最悪な日:水谷豊の監督第2作は、脚本も手掛けているが話の運びが上手い。落ち着いた映画作りは2作目とは思えないほど。

 

ホワイト・クロウ 伝説のダンサー:ルドルフ・ヌレエフが1961年パリ公演終了後ロンドンに移動するパリ空港での亡命までの人生を描く。俳優レイフ・ファインズの監督3作目。

 

 

 

 

 


Ⅱ 今月の旧作

 

新作より多く見てしまった旧作26本、邦画、洋画共に13本ずつとなりました。
邦洋共に監督特集に通いました。

 


<日本映画>川島雄三と深作欣二の監督作品特集に通いました。


<一年遅れの生誕百年映画監督川島雄三>チラシからの情報では…。
1938年松竹が初めて行った助監督公募に合格して入社、44年には監督昇格、その後、日活、東宝、大映と渡り歩き、51作品を残した。今回は9本が上映され、内6本を見ました。中では1955~6年に作られた日活作品が印象深い。
あした来る人:井上靖の新聞連載小説自体がモダンだったのだろうが、現代以上に進んだ人間・恋愛関係が描かれる。特に男性の捉え方が当時としては新しかっただろう。
銀座二十四帖:外堀がまだ埋められていず、数寄屋橋があった当時、銀座の花屋や料亭周辺の人々に焦点を合わせて描いている。森繁久彌がナレーションのみ担当、殆ど風景描写なのが新鮮。15歳の浅丘ルリ子がデビュー2作目で可愛い。
風船:大佛次郎の新聞連載小説の映画化。こちらも人物設定がかなり過激。その過激部分をかなり背負っているのが北原三枝。彼女の持つモダンさはこの前後の時期かなり突出していた気がする。それに対する天使のような芦川いずみという設定。

 

 

<深作欣二>国立フィルムアーカイブでの深作監督特集のチラシからの情報では…。
日大芸術学部卒業後、1953年に東映に入社1961年に監督デビュー、アクション作品で頭角を現し、1973年「仁義なき戦い」の実録路線で映画界をリード。80年代以降は松竹での「鎌田行進曲」等の文芸作品、大作等を手掛け61本の映画を監督した。今回は46本が上映され、5本のみ鑑賞。
黒蜥蜴:初めて東映以外、松竹で撮った作品は三島由紀夫の戯曲、丸山明宏主演の舞台劇の映画化。うまく作られているが、明智に関しては舞台の天地茂の方が良かったのでは?
軍旗はためく下に:1972年、戦後27年目の作品だが、皇軍の欺瞞を描いた反戦映画。結城唱治の直木賞受賞の原作も話題だった。新藤兼人の脚本、左幸子、丹波哲郎の演技も見事。
仁義の墓場:1975年作品。石川力夫という実在の人物の半生を描く。ヤクザとはいえ、その掟をほぼ破っていく生き方は破滅的。主演した渡哲也の表情の暗さも尋常ではない。
いつかギラギラする日:1992年の作品、萩原健一の主演である。実録物からは遠く過ぎ、思い入れもなくアクションのみに帰った作品は彼にとってはどうだったのだろう?

 

 

 

<外国映画>


<ハワード・ホークス監督特集Ⅱ>
ハワード・ホークスはアメリカの映画監督(1896-1977)。1926年に監督デビュー、1930~50年代をピークに、男の友情や戦いを中心にプロ同士の仲間意識を感じさせる映画を多く作ってきた。大学在学中に第一次世界大戦が勃発、アメリカ陸軍航空部に入隊する。飛行機好きはここでの経験ゆえか?
作品の幅は広い。航空機もの、コメディ、ギャングもの、西部劇、音楽ものなどだが、文芸作品だけは作っていない。
私の世代(いわゆる団塊)にとっては少し前の監督だが、若々しい感覚はどの作品にも生きていて、今見ても古さをあまり感じさせない。初めて見たホークス作品は「ハタリ」で、世界から集まってきたプロたちが仲間で動物狩りをするコメディだった。次に見た「男性の好きなスポーツ」も喜劇。
恋愛ものは多くはない。登場する女性も恋愛対象というより仲間の一人の扱い。そこから湿り気のない女性が生まれ、ローレン・バコールのような乾いた女優が誕生した。

 

先月号で見た5本と合わせ16本を見たが、その中に第一次大戦ものが3本、第二次大戦ものが2本あった。描かれる戦闘場面の激しさも凄いが、2次大戦ものは共に1943年の作品で言ってみれば戦意高揚映画だが、カナダ海軍(先月号の「駆潜艇K-225」)やアメリカ空軍(「空軍/エア・フォース」)が戦争中なのにとことん協力、リアルさ、迫力は尋常ではない。また、「暁の偵察」(先月)や「空軍/エア・フォース」で見せる空中戦も素晴らしい。

 

 

 

 

 

Ⅲ 今月のトークショー

 

5/24 誰がために憲法はある 東中野ポレポレ 井上淳一監督
監督の危機意識は非常に高かった。安倍政権がどんどん戦争できる方向に進んでいることに。様々な法律の制定から憲法変更への道を目指していることに。それに反対するために映画人として何ができるかを考え、松元ヒロさんの「憲法くん」を映画化しようと考える。アニメなどで普通に映画化するより、それなりの人に演じてもらおうという事で、渡辺美佐子さんに依頼をする。しかし、改めて考えると「憲法くん」だけでは1時間に満たない。そんな時、渡辺美佐子さんが小学生の頃の友達で、原爆で亡くなった男子生徒がいたことを知る。渡辺さんは30年以上原爆の朗読劇を10人くらいのベテラン女優と続けてきた。その朗読劇も一緒に映画にしようと決める。
今、日本の映画界は社会的な発言をしようという映画が皆無に近い。韓国映画はそうした映画が多いし、ハリウッド映画にもそうした作品がある。比べて日本映画には発言しようとする映画はほぼない。本当にこれでいいのだろうか?

 

 

 

 

 

Ⅳ 今月惹句(じゃっく)

 

4/26~5/25の間に封切りされた作品の惹句の中から、今月は「夜会工場VOL.2」劇場版公開記念で、中島みゆきの詞のような惹句を選出。

嘘はいつだって真実より魅力的:コンフィデンスマンJP
確かに!
トンデモナイ嘘から最高の恋が始まる!?:パリ、嘘つきな恋
よくあること!?

 

 

 

 

 

Ⅴ 今月のつぶやき


●松竹ブロードウェイシネマと銘打って、ブロードウェイ上演作品を映画として作られた作品(舞台をそのまま撮影)の2本目が「シー・ラヴズ・ミー」だ。この作品、元をたどればハンガリーの劇作家ミクローシュ・ラースローのミュージカルではないストレートプレイの戯曲(1937年初演)、それを映画化したのが1940年のアメリカ映画「桃色の店」(エルンスト・ルビッチ監督作)。さらに、その再映画化が「ユー・ガット・メール」(1998年ノラ・エフロン監督作)だ。これらはいずれもミュージカルではない。
「桃色の店」が1949年にミュージカル映画「グッド・オールド・サマー・タイム」として再映画化、主演はジュディ・ガーランドだ。そして1963年にブロードウェイで舞台ミュージカルとして上演されたのが「シー・ラヴス・ミー」だ。
今回の映画は2016年にブロードウェイで上演された時に撮影されたもの。
松竹ブロードウェイシネマの次作はストレートプレイの「ロミオとジュリエット」らしい。オーランド・ブルーム主演のもの。

 

●ラストに笠置シズ子の歌が流れてくるのが妙に似合っていた「初恋 父さんチビがいなくなりました」は、小林聖太郎監督の作品。小林監督は大阪・十三を舞台にした「かぞくのひけつ」(2006年)で長編映画デビューを果たしている大阪生まれの48歳。父親は上岡龍太郎で、上岡の本名は小林龍太郎と知れば関係が歴然ですね。

 

●アメリカではラッパーNotorious B.I.G.から頂戴したNotorious RBGとも呼ばれていると「RBG 最強の85」で紹介されるルース・ベイダー・ギンズバーグ。「ビリーブ 未来への大逆転」を見た時から、いつもダース・ベイダー関連で名前を思い出していた。暗黒卿とNotoriousはちょっと結びつきますね。

 

●舞台は神倉市と出てくるのが「轢き逃げ 最高の最悪な日」だが、それを見ながらそんな名前の都市はあっただろうかと暫く考えた。合併か何かで名前が変わったのだろうか?港町で、見ている限り神戸に似ているかなと思ったが、それにしては関西風アクセントは聞こえてこない。調べてみると架空の名前らしい。何故だったのだろうか?

 

●東ドイツもドイツだったのだから、ナチスの残党がいても当然なのだと改めて思う「僕たちは希望という名の列車に乗った」だった。映画はソ連とハンガリーの戦いがあり、それに反応する東ドイツの若者たちの話だ。共産主義国家の中でもスターリンニズムに異を唱える国が出てきていて、更に彼らの家族には元ナチスもいたりして、正悪の在り方は複雑に絡んでいる。

 

●佐伯泰英は1971~4年スペインに住んでいたこともあり、スペインを舞台にした小説などを書いていたがあまり売れず、20年前、57歳の時に編集者の勧めで時代小説を書き始めたという。これがヒット、それ以来時代劇を文庫初版で書き続け、今や時代小説累計発行部数が6500万部を超えるという。
その初めての映画化作品「居眠り磐音」を見に行ったら入口で文庫本を渡された。表紙には「居眠り磐音 劇場版 00」とあり、目次を見ると佐伯泰英による小説「闘牛士トオリ」と映画「居眠り磐音」として藤本有紀の脚本が収録されている。「闘牛士トオリ」は佐伯泰英が松坂桃李に捧げた短編小説だ。なかなか洒落たプレゼント。

 

 

 



今月のトピックス:今月は旧作


Ⅰ 今月は旧作


上の今月の映画欄の今月の旧作で取り上げた作品に加え、次の旧作も印象に残った。
<日本映画>
甘い汁:神保町シアターの<水木洋子と女性脚本家の世界>特集の1本として、原作(あぶら照り)、脚本ともに水木洋子の作品を、豊田四郎が監督した作品。1964年、つまり東京オリンピックが開催された年の作品だがその貧しさぶりに驚くとともに、そうだったかという気もした。主人公は下町のバーで働く年増の女給、高校生の娘がいる。2人が住んでいるのは主人公の母の家で、2間しかない家に全部で8人が住んでいる。寝る時は部屋いっぱいに布団を敷いて足の踏み場もないほどだ。
そんなところから抜け出したい主人公は、妾になろうとしてついたウソがばれたり、15年ぶりに現れた元カレに反対に騙されたりして抜け出すことができない。

この主人公を京マチ子が演じている。体を張って生きる女性の哀れさが痛いほどだ。娘は桑野みゆき、元カレが佐田啓二で絶妙なキャスティング

 

 

 

 

Ⅱ スターあれこれ


90歳代だったり、80歳以上の方々ですが…。懐かしい人という訳ではないですが…。


★京マチ子
「甘い汁」を見たのは5月13日だった。翌日の新聞に京マチ子の訃報(享年95歳)が載っていた。亡くなったのは5月12日だった。
新聞でもTVでも“グランプリ女優”として紹介されていた。「羅生門」「雨月物語」「地獄門」と日本映画が世界の映画祭で賞を獲得したのだが、そのいずれも主演女優が京マチ子だった。3本とも時代劇であり、そのエキゾチックさが外国で有利に働いたのだろうが、その魅力の中には彼女の肉体も含まれていただろう。日本の女優で彼女ほど肉体の存在感を感じさせる人はいなかった。「甘い汁」のように、その特性にはまってしまったら他の追随を許すことはなかった。
今年の2~3月には「京マチ子映画祭」と銘打って代表作が上映されたが、行くことができなかった。「甘い汁」を見ることができたのは良かった。
ご冥福をお祈りします。

 

★ドリス・デイ
映画が好きになり始めた中学生の頃、ハリウッドの稼ぎ頭はドリス・デイと言われていた。元々歌手だった彼女は、映画にも少しは出ていた。1956年のヒッチコックの「知りすぎた男」の劇中で歌った“ケ・セラ・セラ”が大ヒット、アカデミー歌曲賞を受賞している。ミュージカル「カラミティ・ジェーン」(1953年)に主演もしていた。しかしその頃は稼ぎ頭ではない。彼女の進撃が始まったのは1959年の「夜を楽しく」からだ。その後「恋人よ帰れ」「ミンクの手ざわり」「スリルのすべて」「花は贈らないで」等の作品が多くの観客を集め、マネー・メイキング・スターのトップとなったのだ。いずれもコメディだ、しかもちょっと大人の。彼女の明るいパーソナリティが危ない会話やシチュエーションも嫌味なく、明るく楽しめるようにしていたのだ。
そんな彼女の訃報が京マチ子のそれと同じ日に載っていた。5月13日カリフォルニアの自宅で亡くなったとのこと。享年97歳。天国でも笑っていますように。

 

★ロバート・レッドフォード
現在82歳のロバート・レッドフォードは1970年代の代表的美男俳優として脚光を浴びていた。それから50年近くが経とうとしている今年、彼の最後の映画というのが7月に公開される。7月12日に封切りされる「さらば愛しきアウトロー」の惹句は“ハリウッドの伝説ロバート・レッドフォード俳優引退作!”というものだ。
彼の最初の監督作品は1980年の「普通の人々」で一見静かで地味な作品だったが、表面上普通の家庭に潜む様々な出来事を描きアカデミー賞の作品賞、監督賞などを受賞している。1981年には若い映画人の育成を目指し、ユタ州パークシティにサンダンス・インスティテュートを設立している。1978年からは同市でユタ・US映画祭として古い映画の回顧展を始めていたが、これがメジャースタジオではなくインディペンデント映画を対象とするサンダンス映画祭に発展する。サンダンスという名前は「明日に向かって撃て」で演じたサンダンス・キッドからとられている。
サンダンス映画祭はクエンティン・タランティーノ、ジム・ジャームッシュ、ロバート・ロドリゲスなどを有名にし、低予算映画に光を当てている。新しい才能の発掘に大きく貢献している。レッドフォードのアメリカ映画界に対する貢献度は非常に高い。
70歳を超えてからも主演映画を結構撮っているが、その最終作が間もなく来る。こんなふうに、これが引退作と事前に宣伝されることはめったにない。それだけ大物と言えるだろう。

 

★アラン・ドロン
2年少し前だったか、アラン・ドロンは引退宣言をした。現在83歳の彼はその引退宣言で、映画、舞台ともそれぞれあと1本を最後の作品とすると宣言したのだ。同じ年、NHK BSに「アラン・ドロン ラストメッセージ」という番組制作を許した。自分が最も愛された国に挨拶するという思いがあったのだろうか?それ以来なにかに出演したという情報はまだないので、実際の引退はまだしていないが。
先日のカンヌ映画祭で映画界への功績をたたえて「名誉パルムドール」が送られた。新聞、TVでニュースになっていたからご覧になった方もいるだろう。挨拶の中で“今日が私のキャリアの最後”と言っているようで、最後の1本はないのかもしれない。
「アラン・ドロン ラストメッセージ」はブルーレイで録画したはず。見たい方はお知らせください。お送りします。

 

★山本富士子
今日5月25日から渋谷シネマヴェーラで<大輪の花のように 女優・山本富士子>がスタートした。初日の1回目「夜の河」の後に山本富士子+川本三郎のトークショーがあるというので、行こうと思っていたのだが残念ながら前売り時点で満席となり諦めた。
1931年生まれの彼女は、1950年の第一回ミス日本に選ばれた。映画会社間での激烈な競争の結果1953年に大映に入社した。あの永田雅一の会社である。1956年の「夜の河」ではNHK最優秀主演女優賞を受賞、美貌+演技力で当時の大映で京マチ子、若尾文子と共に女優トップの一角を担うことに。
その後10年間、毎年ほぼ10本近くの作品に出演した。1963年1月契約更改に際し、“年に大映2本、他社2本出演”の条件が受け入れられず、1月末の契約切れでフリーを主張し永田社長の怒りをかう。永田は彼女を解雇、五社協定にかけ他社の映画や舞台に出られないようにすると脅した。彼女は屈することなく“そんなことで映画に出られなくなっても仕方ありません。自分の立場は自分で守ります。その方が生きがいがあるし、人間的であると思います。”と言って、TVに活路を求め、その後は演劇に行ってしまい、1963年以降映画には出演していない。その潔さゆえ、トークショーは聞きたかったなあ。

 

 

 

 

今月はここまで。
次号は梅雨の間になるのだろうか、6月25日にお送りします。


                         - 神谷二三夫 -


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