2022年 3月号 アカデミー賞 ノミネーションback

 

オミクロン株の行方は如何に?
世界を見ていると開放方向に動いているようだが、
どうなんだろうか。
不安な気持ちを抱えながらも暫くゆっくり観察しよう。
まずは心を落ち着けて、そう、映画館で!

 

 

 

今月の映画

 

1/26~2/25の祝祭日が2回あった31日間に出会った作品は41本、
今月は邦洋共に旧作が0本となり、新作のみとなった。
邦/洋画は14/27だった。



<日本映画>

   14本(新14本+旧0本)

【新作】
真夜中乙女戦争、 
三度目の,正直、 
名付けようのない踊り、 
ノイズ、 
前科者、 
テレビで会えない芸人、 
鹿の王 ユナと約束の旅、 
夢みる小学校、 
大怪獣のあとしまつ、 
ちょと思い出しただけ、 
さがす、 
ミラクルシティコザ、 
リング・ワンダリング、 
ホテル・アイリス(日=台)

 

 

<外国映画>

   27本(新27本+旧0本)

【新作】
パーフェクト・ノーマル・ファミリー
  (A Perfect Normal Family)
ライダーズ・オブ・ジャスティス
  (Retfærdighedens Ryttere
  / Riders of Justice) 
フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンサス・イヴニング・サン別冊
  (The French Dispatch of The Liberty,
  Kansas Evening Sun) 
ダムネーション/天罰
  (Karhozat / Damnation) 
ファミリー・ネスト
  (Csaladi Tuzfeszek / Family Nest) 
アウトサイダー
  (Szabadgyalog / The Outsider) 
クレッシェンド 音楽の架け橋
  (Crescendo) 
バイオハザード ウェルカム・トゥ・ラクーン・シティ
  (Resident Evil: Welcome to Raccoon City) 
ゴーストバスターズ アフターライフ
  (Ghostbusters: Afterlife) 
再会の奈良(中=日)
  (股見奈良 / Tracing Her Shadow) 
安魂(中=日)
   (安魂 / Comforting Soul) 
355
  (The 355) 
ロック・フィールド 伝説の音楽スタジオ
  (Rockfield: The Studio on The Farm) 
ウエスト・サイド・ストーリー
  (West Side Story) 
オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険
  (Austria2Australia) 
国境の夜想曲
  (Notturno) 
ブルー・バイユー
  (Blue Bayou) 
ザ・ユナイテッド・ステイツVSビリー・ホリデイ
  (The United States VS. Billie Holiday) 
白い牛のバラッド
  ( Ballad of A White Cow) 
アンチャーテッド
  (Uncharted) 
ひかり探して

  ( The Day I Died: Unclosed Case) 
白いトリュフの宿る森
  (The Truffle Hunters) 
The Rescue 奇跡を起こした者たち
  (The Rescue) 
マヤの秘密
  (The Secrets We Keep) 
ドリームプラン
  (King Richard)

 

【試写】
ナイル殺人事件
  (Death on The Nile)(2/25封切り) 
ベルファスト

  (Belfast)(3/25封切り)

 

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

  (新作だけを対象にしています)

 

①-1 国境の夜想曲
ジャンフランコ・ロージは「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」「海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~」と、イタリアのドキュメンタリーを発表してきたが、今回は、イラク、シリア、レバノン、そしてクルド人居住地域の国境地帯でカメラを回す。ノーナレの画面で紛争地帯の人々の生活を描く。子供たちの恐怖は計り知れない。

①-2 ライダーズ・オブ・ジャスティス
これは超おススメ、デンマーク出身の世界的大スター、マッツ・ミケルセン主演のアクション・エンターテイメント。いつも渋く、直球勝負は珍しい彼らしく、一筋縄ではいかない家族劇であり、変人集合喜劇であり、悪漢集団と変人集団の戦いであり、何よりも変化球なのにスカッとする映画になっている。題名は犯罪集団の名前というのがひねくれているが、デンマークで最も有名な脚本家・監督というアナス・トマス・イェンセンの勝ち!

 

②-1 フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンサス・イヴニング・サン別冊
これまた良くできた、というより、うまく作られたウェス・アンダーソン監督の新作。「グランド・ブダペスト・ホテル」「犬が島」同様か、それ以上に作りこまれた映画、画面一つ一つにセンスが輝く。美術館のようにじっくり見るとぐったり疲れるほど。う~む、ここまで作られると…「ライダーズ・オブ・ジャスティス」の方が好きかもと言いたくなる。

 

②-2 ベルファスト
ケネス・ブラナーが生まれ9歳まで過ごしたイギリス北アイルランドのベルファストの思い出を描く。ブラナーが製作・脚本・監督をした白黒映画。時代は1969年、北アイルランドにおけるプロテスタントとカトリックの戦いが繰り広げられる。3/25封切で、3/10までにはUK Walker https://ukwalker.jp に紹介文を掲載予定です

 

③-1 ウエスト・サイド・ストーリー
スピルバーグのWSS。詳しくは今月のトピックスをご参照ください。

 

③-2 ザ・ユナイテッド・ステイツVSビリー・ホリデイ
昨年ビリー・ホリデイのドキュメンタリー「Billieビリー」が公開されたのに続き、ドラマとしての彼女の物語が作られた。公民権運動をあおるとして「奇妙な果実」を歌うことを官憲が禁止、彼女を麻薬使用の罪で逮捕しようと罠を仕掛ける。ビリーを演じる歌手アンドラ・デイが圧倒的だ。その歌唱に加え演技でも。ビリーの通称“レディ・デイ”からデイをもらっただけのことはある。

 

 

 

 

映画館で楽しめる作品は他にも!(上映が終了しているものもあります。)
今月は新作映画の本数が多いので長くなりました。

 

パーフェクト・ノーマル・ファミリー:12月24日に封切られ結構長く上映されていたので、何の予備知識もなく見に行ったら、LGBTQの映画でちょっと驚いた。パパが急に女性になってしまう話で、題名の「ノーマル」あたりにそのヒントがあったのだろう。

 

名付けようのない踊り:田中泯が「たそがれ清兵衛」で初めて映画に出たのが2002年、それ以来、存在感のある役者として有名になってしまったが、元は踊る人である。このドキュメンタリー映画で舞踏家(ぶとうか)として活躍していた若い頃の動画・写真を見たが、あの時代を思い出した。映画では「場踊り」を色々なところで見せてくれる。

 

ノイズ:筒井哲也の同名漫画からの映画化。監督は廣木隆一。原作者は愛知県出身で映画でも愛知県警の刑事が出てくる。映画では架空の猪狩島となっているが、漫画では実名だったらしい。愛知県出身としてはちょっと気になる。過疎化の島を如何にするかなどの問題点はいいが、結構突っ込みどころも多いお話。

 

前科者:原作:香川まさひと、作画:月島冬二による漫画からWOWOWで全6回のテレビドラマ化。テレビドラマの数年後の完全オリジナル物語を同じ監督:岸善幸、主演:有村架純で製作した映画。ドラマで慣れているためか、良く練られた脚本、落ち着いた映画作り。

 

テレビで会えない芸人:松元ヒロは永六輔がよく書いていたので知っていたが、このドキュメンタリーで初めて動画を見た。彼はかつてテレビに出たくてコント集団「ザ・ニュースペーパー」のメンバーとして数々の番組に出演、人気も得ていたらしい。90年代末テレビを捨てることになる、思い通りの事が言えなくなったため。今や言えないことをいうために、舞台で戦っている。製作は鹿児島テレビ。

 

ダムネーション/天罰、ファミリー・ネスト、アウトサイダー:この3作品は「タル・ベーラ 伝説前夜」と題して「サタンタンゴ」(1994年)以前の作品特集で日本初公開されている。タル・ベーラは1955年生まれのハンガリーの映画監督。7時間18分の「サタンタンゴ」が日本で公開されたのは2019年9月13日、その衝撃度は大きなものだった。そこに行きつくまでの全3作品の公開だ。1977年の「ファミリー・ネスト」は22歳のデビュー作。1981年の「アウトサイダー」は唯一のカラー作品。何事も上手くいかない人生にため息をつきたくなる感じが凄い。1988年の「ダムネーション/天罰」は映像的に素晴らしい。

 

クレッシェンド 音楽の架け橋:平和を祈って、パレスチナとイスラエルの音楽家でオーケストラを結成して演奏会を開催しよう。そのためにイスラエルで行われるオーディションで始まる映画は、楽団員間の2つの民族の対立と和解が描かれる。脚本・監督はイスラエル・テルアビブ生まれで現在はドイツ在住のドロール・ザハヴィ。

 

ナイル殺人事件:「オリエント急行殺人事件」に続き、ケネス・ブラナー監督・主演のアガサ・クリスティ原作のミステリー。詳しくはUK Walker に書いた紹介文をご参照ください。 https://ukwalker.jp/entertainment/6103/   

 

ゴーストバスターズ アフターライフ:今年2月12日にアイヴァン・ライトマンが亡くなった。1984年のゴーストバスターズ第一作を製作・監督、なんとも不思議で楽しい映画を作り上げた。ダン・エイクロイド、ビル・マーレイ、ハロルド・ライミスはライトマン一家と呼ばれ、ゴーストバスターズ2以来32年ぶりの今作にも出演して盛り上げる。今回の監督はアイヴァンの息子、ジェイソン・ライトマンが担当。8年前に亡くなっているハロルド・ライミスはどうやって出演したのかはお楽しみ。この映画はハロルドに捧げられている。

 

再会の奈良:中国人に育てられた中国残留孤児が、1994年に日本に帰った後続いていた手紙のやり取りが数年前から途絶え、心配した年老いた母親が探しに来る。舞台は日本の奈良、監督は中国、エグゼクティブプロデューサーに河瀨直美とジャ・ジャンクーが名を連ねる日中合作映画。老母役のウー・イエンシューと探すのを手伝う元刑事役の國村隼がいい味。

 

夢みる小学校:こんな小学校があったら行ってみたい。いや、実際にある「きのくに子どもの村学園」のドキュメンタリーです、この映画は。子供と大人(先生ではなく)が平等で、総てのことをみんなで話し合って決めていく。自分で考える力が付くのは当然だ。

 

大怪獣のあとしまつ:予告編を見た時から、う~む面白そうと感じてきたこの映画、何と言ってもそのアイディアが秀逸。元の怪獣の居場所は東宝だろうが、あとしまつは松竹が担当。希望と名付けられた大怪獣、作ったのは脚本・監督の三木聡。

 

安魂:日中国交正常化50周年で作られた日中合作映画。作家の父親が息子によせる期待が高く、それに苦しむ息子が病気で亡くなってしまう。喪失感に苛まれる父親の前に息子にそっくりの若者が。原作は中国の小説、脚本、監督は日本で製作された。

 

355:女性主人公のアクション映画は最近では「トゥームレイダー」とか「ワンダーウーマン」とかあるが、この映画は5か国の女性諜報員などが活躍する。特にダイアン・クルーガーとジェシカ・チャスティンのハードアクションは結構凄い。内容的にもかなりハード。

 

ちょっと思いだしただけ:松居大悟の脚本・監督作品は、別れてしまった二人の関係を彼の誕生日限定で遡っていく作りになっている。曜日・日付だけのカレンダーが何度も表示されるが、日付は同じ7/26で、曜日だけが違っている。はじめは分かり難いが遡っている。タクシードライバーになる伊藤沙莉が魅力的。

 

オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険:仕事を辞めて、友達二人でオーストリアからオーストラリアまで自転車旅行のドキュメンタリー。自分たちで撮った映像はドローンからの画面もあり、窮屈感はない。シンプルで、若者らしい映画。

 

さがす:「岬の兄弟」という自主製作作品で注目された片山慎三の長編2作目、初の商業映画だ。脚本も担当している。母が亡くなった後少し行動がおかしいかという父を佐藤二朗、いなくなった父を探す娘に伊東蒼と最適俳優を得て物語は深くなっていく。

 

ミラクルシティコザ:コザの名前を超久しぶりに聞いた、見た。改めて調べてみると、コザ市という名前は1956年から1974年まで存在、日本唯一のカタカナ名だった。1974年に美里村と合併して沖縄市となったのでした。映画は現在と1970年を上手く混合して作り、アメリカナイズされていた1970年のコザ、ロックにあふれていたコザを見せてくれる。

 

白い牛のバラッド:予告編を見ていたら死刑執行数世界2位イランと出ていた。このイラン映画は冤罪で死刑となった夫が亡くなった1年後…という物語。死刑判決が出るとかなり早く処刑が実施されるということだろう。妻役のマリヤム・モガッダムはベタシュ・サナイハと共同で脚本・監督もしている。日本は世界8位らしいが大丈夫だろうか?

 

ひかり探して:韓国の新鋭監督パク・チワン監督のデビュー作、ちょっと新人とは思えない奥深さを感じさせる。脚本も監督が書いている。離婚騒動から体調を崩した後、職場に復帰した女性刑事が、遺書を残して離島の絶壁から身を投げた少女の事件を追う。底なし沼のように謎に巻き込まれていく。

 

リング・ワンダリング:1978年生まれの金子雅和監督の長編2作目で脚本も担当している。3つの時代を交差させながらの物語で、個人の物語より大きなものを作ることができたのでは。自然の力、美しさを感じさせる画が印象に残る。

 

The Rescue 奇跡を起こした者たち:2018年タイ北部の洞窟に入ったサッカーチームの少年たちが、豪雨による増水で閉じ込められた事件を憶えていられるだろうか?タイ海軍特殊部隊、米軍特殊部隊が救助に入ったが、成功したのは世界から参加した洞窟ダイバーのベテランたちの功績だった。手に汗握る一部始終を見せてくれるドキュメンタリーだ。

 

マヤの秘密:1950年代、アメリカ郊外の町に住む女性は、ある時指笛の音に記憶を呼び覚まされる。第二次大戦中、ナチスの兵士により自分は暴行され、妹は殺された。つかまえた男は本当にあの時の軍人なのか?平和な時代のアメリカの町で、怨念の強い話が語られていく。

 

 

 

 

 


Ⅱ 今月のトークショー

 

2月20日 イメージフォーラム「リング・ワンダリング」 金子正和監督、長谷川初範
封切り初日に続き2日目も挨拶があり、金子監督と猟師役の俳優、長谷川初範が登壇
監督の長編第一作「アルビノの木」とか、監督の作品は自然を中心に描かれていて、今回も絶滅しているニホンオオカミの痕跡を求めて、自然の風景を撮っているが、出身は東京ですとの挨拶があった。
「アルビノの木」に続き出演となった長谷川は、冬の滝のシーン撮影について、面白おかしく話をされた。猟師の役でかなりの高さから滝つぼを見たり、そこから空間に足を踏み出すとか、高所恐怖症の身には怖い撮影が結構あったが、監督の指示のもと楽しんで撮影ができたと、監督と楽しそうに話していた。
2日目だから挨拶などないと油断して行ったら、ほぼ満員で楽しい挨拶付きでした。

 

 

 

 

 

Ⅲ 今月のつぶやき

 

●ロジェ・カイヨワが田中泯の踊りに付けた名前が映画名になった「名付けられない踊り」。パリで踊った時、心酔していたカイヨワに会いに行き、そこで名付けられたらしい。ちょっと驚き。カイヨワ(1913~1978年)はフランス・ランス生まれの文芸批評家、社会学者、哲学者。著書「遊びと人間」が有名。

 

●「憲法くん」を頼んだと永六輔から言われたと明かした松元ヒロを描く「テレビで会えない芸人」。製作は鹿児島テレビ、監督は同局の四元良隆と牧裕樹、プロデューサーは東海テレビの阿武野勝彦。テレビに出ない人を、テレビ局の人々が追っている。

 

●トンデモなものがあると話題になる校則だが、公立学校であっても必ずしも作ることが文科省によって義務付けられている訳ではないと尾木ママが話していた「夢みる小学校」。生徒を管理する立場から校則を高速的に厳しくし、生徒を拘束する武器にしてしまったということだろう。性悪説に立った教育は大丈夫な訳がない。
現在全国に5校ある「きのくに子どもの村学園」以外に、公立学校にも通知表や時間割がない伊奈小学校や、校則、定期テストを辞めた世田谷区立桜丘中学校があることを、この映画から知った。希望はある。

 

●「ビリー・ホリデイ物語 奇妙な果実」というダイアナ・ロス主演の映画が作られたのは1973年。来年には半世紀経過となる今年、新しいホリデイ物語「ザ・ユナイテッド・ステイツVSビリー・ホリデイ」が公開された。VSで表されているように、アメリカ政府は彼女を黙らせようと画策していることが描かれている。

 

●ウィリアムズ姉妹と言えば、ビーナスとセリーナのテニス界のスーパースター。彼女たちを育てた父親リチャードを描く「ドリームプラン」はウィル・スミスが製作を担当しながらその父親を演じている。原題は「King Richard」でこれが内容をよく表している。テニス映画というより、如何に作戦を立て相手を思うように操るかの映画のように見えてくる。アメリカで最も危険な町の一つカリフォルニア・コンプトン出身のウィリアムズ一家、それ故に強くならざるを得なかった?

 

 

 

 

 

 

 



今月のトピックス:アカデミー賞 ノミネーション   

 

Ⅰ アカデミー賞 ノミネーション

 

現地時間3月27日ハリウッドで行われるアカデミー賞授賞式、そのためのノミネーションが発表された。


今年はこの発表前から「ドライブ・マイ・カー」が注目を集めていた、特に日本では。昨年のカンヌ映画祭での脚本賞受賞に始まり、とくにアメリカ内の各地の映画祭で作品賞などを受賞してきた。このあたりは今年の新年特別号でお伝えしたが、その後ゴールデングローブ賞の非英語映画賞、更に全米批評家賞では作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞を受賞している。ここまで受賞が続くと、アカデミー賞ではどの部門でノミネートされるかが話題になっていた。
結果は作品賞、監督賞(濱口竜介)、脚色賞(濱口竜介、大江宗充)、国際長編映画賞の4部門でノミネートされたのだ。作品賞は日本映画で初、脚色賞も日本人初となる。監督賞は1986年「乱」の黒澤明以来36年ぶり、その前の1966年「砂の女」の勅使河原宏以来3人目の日本人となる。国際長編映画賞が最も可能性が高いだろうが、それ以外の3部門ではどの程度戦えるだろうか?作品賞が取れればすごいが、脚色賞の方が可能性があるのではないかと推察する。いずれにしても楽しみなことである。


「ドライブ・マイ・カー」は日本では昨年8月20日に封切りされている。それ以来、東京では映画館を変えながらもずっとどこかで上映されるような状況が続いてきた。海外での多くの受賞、特にアカデミー賞でもノミネートされるだろうという情報が出始めた先月あたりから、上映館が徐々に増えてきた。封切り時には115館での上映で興行収入のベスト10に入ることはなかった。それが、アカデミー賞のノミネーションが発表された後の週末2/12~13では上映館が213館に増えベスト10の中に8位で初めて入ってきた。封切り後26週目にしてのベスト10入りは多分新記録ではないだろうか。次の週2/19~20も9位に入っていた。最近アカデミー賞受賞は作品の興行成績に影響する力が落ちてきたと言われる中、ノミネーションだけでここまで好成績になるのは凄いことだ。上映時間が3時間弱と長く、1日の上映回数が制限される作品だから更に驚く。
今回ノミネーションを受けた数が多い作品は次のとおりである。


12ノミネート:「パワー・オブ・ザ・ドッグ」(助演男優賞二人で、11部門12ノミネート) 
10ノミネート:「DUNE/デューン 砂の惑星」
7ノミネート:「ベルファスト」、「ウエスト・サイド・ストーリー」
6ノミネート:「ドリームプラン」
4ノミネート:「ドライブ・マイ・カー」、「ナイトメア・アリー」、「ドント・ルック・アップ」

 

 

主要6部門のノミネート作品と受賞予想()は次の通り。()内は日本での公開状況。


作品賞:ここは日本人として「ドライブ・マイ・カー」を押す。
パワー・オブ・ザ・ドッグ(公開済)
ドライブ・マイ・カー(公開済)
ベルファスト(3月25日公開)
ドリームプラン(公開済)
リコリス・ピザ(公開は決定、月日は未定)
ウエスト・サイド・ストーリー(公開済)
Coda/コーダ あいのうた(公開済)
DUNE/デューン 砂の惑星(公開済)
ドント・ルック・アップ(公開済)
ナイトメア・アリー(3月25日公開)

 

 

監督賞:カンピオンの力強い演出は変わっていなかった。
ジェーン・カンピオン「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
濱口竜介「ドライブ・マイ・カー」
ポール・トーマス・アンダーソン「リコリス・ピザ」
スティーブン・スピルバーグ「ウエスト・サイド・ストーリー」
ケネス・ブラナー「ベルファスト」

 

 

主演男優賞:この作品以外にも最近良作が多いカンバーバッチに。
ウィル・スミス「ドリームプラン」
ベネディクト・カンバーバッチ「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
アンドリュー・ガーフィールド「チック、チック…ブーン!」(公開済)
デンゼル・ワシントン「マクベス」(公開済)
ハビエル・バルデム「愛すべき夫妻の秘密」(Amazonで配信済、劇場公開無し)

 

 

主演女優賞:3人は劇場では見えないので外し、とりあえず早く見られそうな方を。
ニコール・キッドマン「愛すべき夫妻の秘密」(Amazonで配信済、劇場公開無し)
オリビア・コールマン「ロスト・ドーター」(Netflixで配信済、劇場公開無し)
ジェシカ・チャスティン「タミー・フェイの瞳」(Disney+で配信済、劇場公開無し)
クリステン・スチュワート「スペンサー ダイアナの決意」(2022年秋公開予定)
ペネロペ・クルス「パラレル・マザーズ」(2022年11月公開予定)

 

 

助演男優賞:キアラン・ハインズと迷うところだが、ここは聾唖ということでコッツァー。
コディー・スミット・マックフィー「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
キアラン・ハインズ「ベルファスト」
トロイ・コッツァー「Coda/コーダあいのうた」
ジェシー・フレモンズ「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
J・K・シモンズ「愛すべき夫婦の秘密」

 

 

助演女優賞:ここはデイムにしようかと思ったが、アニータのアリアナ・デボーズに。
アリアナ・デボーズ「ウエスト・サイド・ストーリー」
キルステン・ダンスト「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
アーンジャニュー・エリス「ドリームプラン」
ジュディ・デンチ「ベルファスト」
ジェシー・バックリー「ロスト・ドーター」

 

 

授賞式は日本時間では3月28日なので、次号でこの予想を直す可能性があります。

 

 

Ⅱ ウエスト・サイド・ストーリー


「ウエストサイド物語」が作られたのは1961年、その年の12月23日には日本でも封切られた。丸の内ピカデリーのロードショーは1年半近く、511日間のロングラン興行になった。勿論それだけの衝撃を持つ作品だったのだ。「ロミオとジュリエット」に沿った力強い物語、ニューヨークのビル群の片隅で対立する若者たち、バーンスタインによる美しいメロディ、ソンドハイムによる心に残る詞、そして何よりもあの踊りは見た人だれにも衝撃を与えた。ブロードウェイの舞台でも振付を担当していたジェローム・ロビンスが映画でも監督(ロバート・ワイズと共同)、振付を行っている。アカデミー賞では11部門にノミネートされ、10部門で受賞している。


「ウエスト・サイド・ストーリー」としてこの作品をリメイクしたのは、あのスティーブン・スピルバーグだ。有名作品をリメイクするのは大きな危険を伴う。偉大過ぎる作品のリメイクは、どんなに巧く作っても人々を満足させるのが非常に難しい。様々なジャンルの映画を作ってきたスピルバーグは、その危険には十分気が付いていたはずだ。多くの作品で、新しい何かを見せてくれたスピルバーグはこの作品でもそうしたことができるのか?そうした観客の期待をも知っているスピルバーグは何を仕掛けてくるだろうかと、封切り日まで期待と不安が渦巻いていた。


予告編を見ている時から、なんだか前作を想起させるものが多いと気付いていた。マリアの衣装や、体育館のダンス、マリアとトニーのベランダ越しの歌などだ。


本編を見ると、前作のイメージを大切にして作ったなと感じた。作り変えている部分もあるが、基本的には踏襲している部分が多い。新しいことをトライすることの多かったスピルバーグにしてはと思った。聴きなれたメロディが膨らませてくれるイメージを壊すことなく、素直に物語に入ることができた。


物語が終わって最初に画面に出たのが for Dad だった。この作品をお父さんに捧げていたのだ。1946年生まれのスピルバーグは1961年の作品ができた時は15歳、父親は40歳前後だったろう。お父さんはあの作品が大好きだったのだろうと思った。だからか、だから大きな改変はしなかったのかと勝手に理解した。お父さんに満足してもらえる作品を作りたかったのに違いない。


作品は前作よりさらにリアルにこだわって作られている。その分甘さは無くなった。仕方がないが、そのために前作が持っていた未来への希望とか、若さゆえの純粋さといった甘さが少なくなり、ミュージカルが持つワクワク感が減じてしまった。これは残念だった。ただ、素晴らしいメロディがそれを補ってくれた。聴きなれた音楽だからこそ可能になったことだ。


はっきり言えば、「物語」の方が「ストーリー」より印象が強い。それでも、丁寧に作らえたスピルバーグ作品をもう一度見てみようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

今月はここまで。
次号は、春が来てオミクロンが去っていて欲しい3月25日にお送りします。


                         - 神谷二三夫 -


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