今週にはゴールデンウィークが始まるのに、
なかなか鎮静化しないコロナの感染と、
それにも増してプーチンによるウクライナの状況が悲惨なものになり、
なかなか晴れた気分になれない。
そんな時、力をもらえるのは映画館!
3/26~4/25の新年度が始まった31日間に出会った作品は40本、
邦/洋画は8/32,新/旧作は34/6と少し外国映画が多いとはいえほぼ通常通り。
GWを間近に控えて、作品のバラエティが増しているように思えます。
なお、今月のトピックス 長い!に関連して、
作品名の後ろの( )内に上映時間を入れています。
8本(新8本+旧0本)
【新作】
ぼけますから,よろしくお願いします。~おかえりお母さん~(101分)
親密な他人(96分)
やがて海へと届く(126分)
世の中にたえて桜がなかりせば(80分)
森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民(85分)
今はちょっとついてないだけ(127分)
とんび(139分)
ある職場(135分)
32本(新26本+旧6本)
【新作】
ナイトメア・アリー
(Nightmare Alley)(150分)
アンビュランス
(Ambulance)(136分)
オートクチュール
(Haute Couture)(100分)
ニトラムNitram
(Nitram)(112分)
ヴォイジャー
(Voyagers)(108分)
TITANE/チタン
(Titane)(108分)
キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性
(Casting by)(89分)
モービウス
(Morbius)(108分)
私はヴァレンティナ
(Valentina)(95分)
英雄の証明
(Ghahreman / Hero)(127分)
アネット
(Annette)(140分)
親愛なる同志たちへ
( Dear Comrades!)(121分)
ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード
(Hitman’s Wife’s Bodyguard)(116分)
ストレイ 犬が見た世界
(Stray)(72分)
ふたつの部屋,ふたりの暮らし
(Deux / Two of Us)(95分)
見えるもの,その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界
(jenseits Des Sichtbaren-Hilma Af Klint
/ Beyond The Visible-Hilma Af Klint)(94分)
バーニング・ダウン 爆発都市
(拆弾専家 2 / Shock Wave 2)(121分)
湖のランスロ
(Lancelot du Lac / Lancelot of The Lake)
(1974年作品、84分)
たぶん悪魔が
(Le Diable Probablement / The Devil, Probably)
(1977年作品、97分)
パリ 13区
(Les Olympiades / Paris, 13th District)(105分)
ベルイマン島にて
(Bergman Island)(113分)
カモン カモン
(C’Mon C’Mon)(108分)
【試写】
帰らない日曜日
(Mothering Sunday)(104分)(5月27日封切り)
シング・ア・ソング! ~笑顔を咲かす歌声~
(Military Wives)(112分)(5月20日封切り)
【上映会】
<ウクライナ映画人支援緊急企画:ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督作品上映会>
アトランティス
( Atlantis)(106分)
リフレクション
( Reflection)(125分)
【旧作】
<アメリカ映画史上の女性先駆者たち>
恋に踊る
(Dance,Girl,Dance)(90分)
暴行
(Outrage)(75分)
血と砂
(Blood and Sand)(106分)
二重結婚者
(The Bigamist)(79分)
ナチに愛された女
(First Come Courage)(86分)
望まれざる者
(Not Wanted)(92分)
(新作だけを対象にしています)
① ナイトメア・アリー
ギレルモ・デル・トロの新作は流石の出来、統一されたスタイルで悪夢のような世界を艶やかに作り上げた。まるでどこかの世界の話をドキドキしながら楽しんで見ているような気分にさせられる。登場人物がそれぞれに癖があって、目をそらしたくなるか、魅入られるかをフラフラ。ケイト・ブランシェットはやはりすごいですね。
② カモン カモン
主人公ジョニーはラジオのインタビュアー、相手は子供だ。デトロイトでインタビューするところから、まるでドキュメンタリーのように始まるモノクロの映画。デトロイト、ロサンゼルス、ニューヨーク、ニューオーリンズとアメリカを巡っていくが、白黒で捉えられた各都市の風景が、その地の文明を感じさせる。脚本・監督はマイク・ミルズ、「人生はビギナーズ」「20センチュリーウーマン」など寡作だが、自身の経験に基づく人生映画を作ってきた人だ。
③ パリ 13区
パリの南東部、多くの移民が住む地区がパリ13区。そこに住む台湾系フランス人女性、アフリカ系フランス人男性、30歳過ぎで大学に復学したフランス人女性の3人の主人公の生き方がモノクロ画面でヴィヴィッドに描かれる。1952年生まれのジャック・オディアール監督もいいが、監督と共同で脚本を書いた1978年生のセリーヌ・シアマと1989年生のレア・ミシウスの力があったと思われる。
他にも映画館で楽しめる映画が沢山!(上映が終了しているものもあります。)
◎ぼけますから,よろしくお願いします。~おかえりお母さん~:前作から4年、続編がやってきた。映画が終わるころお父さんは100歳になっていた。このお父さんがなんともいい人で、見ている我々まで救われてしまう。監督・撮影・語りは一人娘の信友直子。サイトを見ていたら、この人は東京大学文学部卒業、森永製菓入社、広告部でコピーライター。2年後の1986年に制作会社テレパック入社でテレビ番組制作へとある。これにも感心。
◎オートクチュール:フランスの一大産業の一つファッション、そのなかで高級仕立服がオートクチュール。それを作るお針子の徒弟制度のような職人ぶりを見せてくれる。今回はディオール縫製部が衣装監修をしていて、画面にもDiorの名前が見えている。ベテランが引退を迎え、手仕事ぶりを見て貧しい移民の子に技を引き継ごうとする継承の物語。
◎ニトラムNitram:1996年オーストラリア・タスマニア島で発生した銃乱射事件。死者35名という大事件を憶えておいでだろうか?ポートアーサー事件と呼ばれた事件の犯人を見つめる映画で、いまだその動機が解明されていない事件を、犯人の内面に目を向けその人間を描く衝撃作。NitramはMartinの逆読み。周りからこう呼ばれていたらしい。
◎帰らない日曜日:“カズオ・イシグロが絶賛した”と映画の宣伝に使われている原作はグレアム・スウィフトの小説「マザリング・サンデー」。母の日に大きく動いたメイドの運命を艶やかに描いたのはフランス人の女性監督エヴァ・ユッソン。5月27日の封切り。作品に関する紹介文をUK Walker に5月上旬にアップ予定です。https://ukwalker.jp
◎キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性:映画の重要な要素である俳優、如何に映画の内容にあった俳優を見つけるかは大きな仕事だ。その第一人者であったマリオン・ドハティを中心にキャスティング・ディレクターについて描くドキュメンタリー。
◎英雄の証明:イランの巨匠アスガー・ファルハディの新作は、借金返済ができず収監されていた男がある行為により一旦は正直者と称賛されていたものが、SNSにより反対に詐欺師と呼ばれるようになってしまう物語だ。
◎森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民:タイ北部からラオスにかけて400人程度しかいない狩猟民ムラブリ族。タイに2か所、ラオスに1か所の居住地を訪ねるのは言語学者の伊藤雄馬と監督の金子遊。文字のないムラブリ語を話す伊藤氏のしなやかさに感心。
◎親愛なる同志たちへ:1937年生まれのロシアの監督アンドレイ・コンチャロフスキーの2020年の新作。1962年ソ連の地方都市(ノボチェルカッスク)の工場で起こったストライキと市民の抗議行動を封じ込めようとする国家の暴力(死者26人)と事件の隠蔽工作を描いている。現在のロシアのフェイク体質もこのあたりに源流がありそうだ。
◎ふたつの部屋,ふたりの暮らし:南仏モンペリエのアパルトマン最上階の二つだけの住居、互いの玄関が向き合った部屋にはそれぞれ一人住まいの女性が住んでいた。60歳前後の二人は恋人同士だった…。イタリア出身のフィリッポ・メネゲッティ監督の長編デビュー作。
◎見えるもの,その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界:この画家は知らなかった。映画の公式サイトには「20世紀初頭、唯一無二のビジョンを確立し、カンディンスキーやモンドリアンより早く、独自の手法で抽象的絵画を描いていた画家がいた」とある。惹かれる。
◎シング・ア・ソング! ~笑顔を咲かす歌声~:イギリス陸軍最大の基地だというキャタリック駐屯地の軍人妻たちによる合唱団の話。シンディ・ローパーの「タイム・アフター・タイム」などお馴染みのポップスも多く使われ、親しみやすい。5月20日封切り。UK Walkerには紹介文を4月27頃までにアップ予定です。
◎とんび:重松清の小説の映画化。監督は瀬々敬久。幼い頃に事故で母を失った息子を男手一つで育ててきた父子の物語。1962年生まれの息子を育てる不器用で武骨な父親を描いて、昭和の時代を感じさせる丁寧な映画作り。
◎バーニング・ダウン 爆発都市:この映画は監督:ハーマン・ヤウ、主演:アンディ・ラウで作られた2017年の「ショック・ウェイブ 爆弾処理班」の同じ監督、主演による再映画化。前作を見ていないので何とも言えないが、物語をかなり改変、アクションスケールを大幅アップ、アンディ・ラウが左足を失い義足になるという驚きを加えて作られた。
◎ベルイマン島にて:イングマール・ベルイマン監督のファンにはたまらない作品、ほぼベルイマンファン向け作品ともいえる。彼が住んでいたフォーレ島に滞在する映画監督同士のカップルが描かれるミア・ハンセン=ラヴ監督作品。
<アメリカ映画史上の女性先駆者たち>渋谷シネマヴェーラで4/16~5/13に期間上映されているこの特集では、次の5人の女性監督作品が集められている。
アリス・ギイ(1873-1968)、ロイス・ウェバー(1879-1939)、ドロシー・ダヴェンポート(1895-1977)、ドロシー・アーズナー(1897-1979)、アイダ・ルピノ(1918-1995)
今回は次の6本を見た。
ドロシー・アーズナー作品:恋に踊る、 血と砂、 ナチに愛された女
アイダ・ルピノ作品:暴行、 二重結婚者、 望まれざる者 (今月のトークショー参照)
中では「血と砂」が面白かった。この作品はフレッド・ニブロのみが監督としてクレジットされているが、ドロシー・アーズナーも演出に参加している。作品はルドルフ・ヴァレンチノの主演作として有名な、1922年のサイレント作品。これが凄く良くできている。サイレント期の怪しさはみじんもない。ニタ・ナルディが演じる悪女の造形が凄い。
3月30日ウクライナ映画人支援緊急企画:ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督作品上映会「アトランティス」上映後対談 梶山 祐治(筑波大学)Ⅹ矢田部吉彦(有志の会代表)
梶山氏は露文学の専門家で、ロシアや中央アジアの映画を日本に紹介してきた人。今までのウクライナ映画の歴代ベスト10リストなどを提示しながら、ウクライナ映画について話をされた。一番驚いたのは、今回上映された2本の映画がそうであったが、ロシアとの、或いはロシア圏との戦争を描いた作品が2014年以降非常に多いという事実だった。「アトランティス」は2019年の東京国際映画祭で上映された。映画の時代は2025年となっていて、その1年前にロシアとの戦争が終わったという設定だ。ドンバス地方での紛争は2014年以来続いていた。翌日ヴァシャノヴィッチ監督の2021年の最新作「リフレクション」も見たのだが、これはドンバス地方のロシア勢力との闘いを描いたものだった。この中にロシアからやってきた移動死体焼却車が出てくるが、これは最近のウクライナ関連のニュースで写っていた車両と同じだった。その車体には「ロシアは人類平和のために」といったスローガンが書かれていた。
梶山氏からは今回のロシアとウクライナの戦いについても説明があった。更に他のウクライナの映画監督についての紹介もあった。
4月16日ポレポレ東中野「ある職場」上映後舞台挨拶 平井早紀(女優)、舩橋淳(監督)
映画の最後に出てくる配役リストを見ていると、総ての出演者のところに「脚本」という文字が付いていた。この映画は実際の事件に基づいて作られているが、脚本がなく製作されたという。設定だけが俳優に伝えられ、そこでの台詞は総て出演者たちが自分の言葉で話したという。その意味で全員が脚本を担当したことになったのだろう。出演者自身が状況について与えられた役としてどういう発言をするかを考えながら演じていたようだ。そのことが一面とっつきにくい印象を与えるかもしれないが、見る人にも考えていただきたいという監督の言葉があった。
4月17日 渋谷シネマヴェーラ「暴行」上映後のトークショー
梅本健司(Nobody編集部)Ⅹ月永理絵(編集者/ライター)
「暴行」の監督アイダ・ルピノについての対談。アイダ・ルピノ(1918~1995)はロンドン出身の女優、34年にイギリス映画でデビューの後、翌年にはアメリカ映画でもデビューし、それ以来アメリカで活躍してきた。くっきりした目が目立ち、第2のベティ・デイヴィスと言われたが、そこまでの大スターにはなれなかった。50年からは監督業にも進出、数は多くないけれど、テーマのくっきりした突っ込んだ作品が多かった。お二人の対談は興味深いものだったが、聞いている我々は見ていない作品についての話が多く、細かいところまでは分からず残念。
●ナタリー・バイ演じるベテランのお針子が引退をする「オートクチュール」で、彼女に見込まれ技を仕込まれるのが貧しい移民の女性。演じるのは1992年アルジェリア生まれのリナ・クードリ。最近彼女の出演作品が続く。「フレンシ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」「ガガーリン」と来て「オートクチュール」だ。
●今一つのれなかった「アネット」で、その原因の一つはアダム・ドライバーの大きさで、もう一つがスパークスの音楽。あくまで私の感性にとってですが。映画の最後エンドロールに監督や俳優の~に対するサンキューが出ていたのだが、ドライバーはクリス・ロック(ウィル・スミスからビンタ)に感謝していた。スタンダップコメディアンの役でしたからね。
●84歳になっても記憶から抜けない1962年の事件を映画化した「親愛なる同志たち」のアンドレイ・コンチャロフスキー監督は、ニキータ・ミハルコフ監督の兄だと今回初めて知った。映画好きとしては知らなければ恥ずかしいくらいの常識だったような気がする。
●スウェーデンのフォーレ島にあるベルイマンの数々の遺物を見せてくれる「ベルイマン島にて」。バルト海に浮かぶゴットランド島の北にちょっと離れてある小さな島がフォーレ島。ストックホルムから直線距離で200㎞弱だろうか。ベルイマンが晩年を過ごし、彼の住んだ家やお墓、さらにベルイマンミュージアムまである静かな島。映画では映画監督カップルがベルイマンイベントに出席のため訪れ、脚本を練る作業を彼の住んだ家でしていた。
●子供のインタビューが映画を活性化しているように感じられた「カモン カモン」。あのジョーカー役の後にこの作品に出たホアキン・フェニックスは、子供たちとの対話でかなり癒されただろう。
前回のNHKの朝ドラ「カムカムエヴリバディ」は楽しく、ドキドキさせてくれるドラマだった。通常の朝ドラは1人の主人公についての物語だが、今回は3代に渡る物語で、3人の主人公が出てくるのだ。半年という同じ期間なので、単純に考えれば3倍の速度で物語を進めていかないと最後まで行きつけないとなる。これが朝ドラでは初めてとなる物語の進行速度の速さを生み出した。早く進行するためには、如何に不要な部分を削っていくかということになる。100年に渡る物語の中で何人もの亡くなる人がいたが、その人たちの告別式とかは総て省略され、次の場面ではその人がいない状況での物語になるのだ。それでも大きな問題はなく、むしろその人がいなくなった哀しみと、そのことによるその後の状況に集中できるのだ。見る側に想像するヒントを与えれば、物語の進行には支障がないことが分かる。それをいかにうまく行うかというのが問題だ。
長い!という語が頭に浮かんだのは、大高宏雄氏がキネマ旬報で「THE BATMAN ザ・バットマン」の上映時間が2時間56分と書き、20~30分は短くできるのではとしていた文章を読んだ時だ。彼は、この作品を退屈だとは感じてはいずそれなりに楽しめたが、短くした方が作品の骨格がひきしまる気がするとしている。
最近作品の長さが気になってはいた。そこで、今月見た作品の上映時間を総て記入してみた。旧作を除いた新作だけで言えば、34本の内2時間・120分を超える作品が11本(日本映画4本、外国映画7本)あった。約1/3の作品が2時間を超えている。ちなみに旧作6本の平均時間は88分・1時間28分だった。
ついでに平均時間は次の通り。(小数点以下四捨五入)
日本映画(新作のみ):111分、外国映画新作:109分、外国映画旧作;88分
長い映画がダメ、短ければ良いなどとは思っていない。長いが故に良い映画も結構ある。「ドライブ・マイ・カー」も179分あった。
上映時間が長くなる原因の大きな部分が、家で繰り返し見ることが可能になったからではないかと以前から思っていた。最近では配信という形だが、ビデオ、DVDが普及し家で見ることが多くなった。休憩しながら見ることも可能で、疑問に思ったら止めたり、戻ったり、繰り返し見ることも可能。そうした観客に向けて、丁寧に説明しようとする製作者側の思いが長い作品に結実した。あるいは、物語を複雑にすることで何度見ても満足する作品を目指したともいえるだろう。
映画館の椅子も良くなり長い映画にも耐えられるようになったが、ダラダラと無駄に長いのは避けたい。製作サイドには「カムカムエヴリバディ」を見て勉強して欲しい。
現地時間3月27日に行われたアカデミー賞授賞式。今年はウィル・スミスのクリス・ロックに対するビンタ事件が話題になり、受賞者の話題がかすんでしまった。この問題はその後ウィル・スミスが自らアカデミー会員を辞退し、アカデミーからは今後10年間スミスの授賞式参加を禁ずるという状況になった。
ビンタ事件の時の様子を見直してみると、ロックの言葉に対して初めスミスは笑っていたが、妻が笑っていないのを見て突然舞台に行ってビンタしたように見えた。その間、ロックに対して声もかけていない。無言の暴力のように見えた。普通こんなことをすれば、主催者から場外に出されてしまうはず。その暫く後に主演男優賞の発表があり、スミスが受賞し挨拶した。その中でアカデミーに対しては謝罪したものの、ロックに対する謝罪の言葉はなかった。主演した「ドリームプラン」に関して家族愛、家族を守ることの大切さを涙ながらに訴えてはいたが。
今年の主要6部門の結果は次のようになった。受賞作には★マークを付け、予想作(◎)と共に表示した。
作品賞: ★Coda/コーダ あいのうた ◎ドライブ・マイ・カー
監督賞: ★◎ジェーン・カンピオン「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
主演男優賞: ★ウィル・スミス「ドリームプラン」 ◎ベネディクト・カンバーバッチ「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
主演女優賞: ★ジェシカ・チャスティン「タミー・フェイの瞳」 ◎クリステン・スチュワート「スペンサー ダイアナの決意」
助演男優賞: ★◎トロイ・コッツァー「Coda/コーダあいのうた」
助演女優賞: ★◎アリアナ・デボーズ「ウエスト・サイド・ストーリー」
6部門の内、3部門に★◎マークが付いたので、3部門が予想的中となり、50%の的中率となった。
濱口監督の「ドライブ・マy・カー」は予想通り国際長編映画賞を受賞した。残念ながら他の3部門(作品、監督、脚色)の受賞はならなかった。
今年の最多部門受賞作は、「DUNE/デューン砂の惑星」で6部門(撮影、美術、音響、編集、音楽・オリジナル作曲、視覚効果)を受賞、技術部門のほとんどを獲得している。次に受賞部門が多かったのは3部門(作品、助演男優、脚色)の「Coda/コーダ あいのうた」で、ノミネートされた3部門すべてでの受賞となった。3番目に多かったのは2部門(主演女優、メイクアップ&ヘアスタイリング)の「タミー・フェイの瞳」、こちらもノミネートされた2部門すべて受賞だった。
3部門とか2部門で、ノミネートすべて受賞というのもどうかとは思う。それなら1部門ですべて受賞となってしまいそうだ、冗談ですが。
それはさておき、「Coda/コーダ あいのうた」は2014年のフランス映画「エール」のリメイクとして、アメリカ、フランス、カナダの共同製作として作られた。ワールド・プレミアはアメリカのサンダンス映画祭で行われた。その後、Appleが映画祭史上最高額2500万ドルで配給権を獲得し、アメリカではAppleによる配信で公開された。配信による映画が作品賞を受賞したのは初めてだった。日本ではギャガの配給で劇場公開されている。
「タミー・フェイの瞳」はアメリカではサーチライト・ピクチャーズにより劇場公開されたが、その後サーチライト(20世紀スタジオの子会社)が親会社共々ディズニーに買収され、日本においてはディズニー+によって配信のみの公開にされてしまった。Netflixとの競争で配信にされてしまったのではと想像する。これで日本では映画館で見ることができなくなってしまった。
最多ノミネーションで本命と思われていた「パワー・オブ・ザ・ドッグ」は監督賞のみの受賞だったが、この作品はNetflixが買い取り、アメリカ、日本供に限定劇場公開で、基本は配信で行われた。これら配信作品は、今後映画館で見ることは可能なのだろうか?
コロナの感染が始まって2年4か月、この間状況は常に変化し、人々も徐々にそうした環境に慣れてきたとはいえ、完全に自由に動き回ることはできず、家に引きこもりの状態が続いた。映画館も閉館や、制限営業が続けられ、従来通りの上映を続けられなかった。その間に家に配信される形で映画を観る習慣がある程度定着し、動画配信大手のNetflixは右上がりに業績を伸ばしてきた。その一つの表れが、上のアカデミー賞での配信作品の受賞だ。今年はついに作品賞を配信作品(Netflixではないが)が受賞することになった。
拡大方向だったNetflixが過去10年で初めて有料会員数が減少したことが、今年1~3月期決算で判明した。そのため米株式市場での株価が4月20に急落、終値で前日から35%の下落になったという。時価総額で約540億ドル(約7兆円)が吹き飛んだと報道された。
動画配信業界内での競争も激化しているのだろう。Appleまでがこの業界に進出した。今後この業界がどうなっていくのか?今のように豊富な資金で作品を生み出すことが可能なのかどうか。競争の激化は利益の減少につながり、厳しい状況になっていくのだろうが、それにはしばらくの時間がかかる。
映画産業がどの方向に向かうのか。どんな未来があるのだろうか?
ジャック・ペランが4月21に亡くなった。享年80歳。
1941年7月13日パリ生まれで、本名はジャック・アンドレ・シモネ。1957年にジャック・シモネの名前でフランス映画に俳優としてデビュー。ペランは母方の姓、何時ジャック・ペランになったのかは分からないが、注目された次の作品に出た時はペランになっていた。1960年イタリアのヴァレリオ・ズルリーニ監督の「鞄を持った女」に出演して注目され、翌年同監督の「家族日誌」に出演、マルチェロ・マストロヤンニの弟役で評判になる。
端正な美貌で人気を得た彼だが、彼自身は映画を作る方に興味があったようで、初プロデュース作品のコスタ・ガブラスの「Z」を製作したのは27歳の時だった。さらに「戒厳令」「ブラック・アンド・ホワイト・イン・カラー」を製作、後年の「WATARIDORI」などドキュメンタリーの製作につながっていく。
俳優としても「ロシュフォールの恋人たち」「ニュー・シネマ・パラダイス」等、後年も続けていた。
彼をいつまでも忘れられないのは、日本の映画雑誌「映画の友」を読んでいますと言っているのをある時知ったからだ。私も「映画の友」の愛読者だったので。
今月はここまで。
次号は、それまで五月晴れが続いてほしい5月25日にお送りします。