正に三寒四温が繰り返し、
春が近づきつつあるかと感じるこの頃。
季節の変わり目は何かが起こる。
1/26~2/25のウクライナ侵攻から1年経過となった31日間に出会った作品は42本、邦/洋画は19/23、新/旧は35/7となりました。
日本映画の新作がかなり幅広くなってきた。
19本(新15本+旧4本)
【新作】
レジェンド&バタフライ
ミスタームーンライト~1966 ザ・ビートルズ武道館公演 みんなで見た夢~
まくをおろすな!
遊撃 映画監督 中島貞夫
仕掛人・藤枝梅安
夜明けまでバス停で
#マンホール
二十歳の息子
エゴイスト
こちらあみこ
シャイロックの子供たち
スクロール
茶飲友達
銀平町シネマブルース
『生きる』 大川小学校 津波裁判を闘った人たち
【旧作】
<俳優 渥美清 「とらさん」だけじゃない映画人生>
あ々声なき友
<生誕100年記念 映画作家 井上梅次>
猿飛佐助
裏階段
<日本の女性映画人(1)―無声映画期から1960年代まで>
人間の壁
23本(新20本+旧3本)
【新作】
少年たちの時代革命
(少年 / May You Stay Forever Young)
理大囲城
(理大圍城 / Inside The Red Brick Wall)
イニシェリン島の精霊
(The Bamshees of Inisherin)
野獣の血
( Hot Blooded)、
ピンク・クラウド
(A Nuvem Rosa / The Pink Cloud)
新生ロシア1991
( The Event)
バイオレント・ナイト
(Violent Night)
すべてうまくいきますように
(Tout S’est Bien Passe / Everything Went Fine)
バビロン
(Babylon)
対峙
(Mass)
コンパートメントNo.6
(Hytti Nro 6 / Compartment No.6)
小さき麦の花
(隠入塵淵 / Return to Dust)
崖上のスパイ
(懸崖之上 / Cliff Walkers)
別れる決心
( Decision to Leave)
ICE ふたりのプログラム
(Ice)
ボーンズ・アンド・オール
(Bones and All)
アントマン&ワスプ:クワントマニア
(Ant-Man and The Wasp: Quantumania)
ベネデッタ
(Benedetta)
ワース 命の値段
(Worth)
【試写】
息子
(The Son)
【旧作】
<ジェラール・フィリップ 生誕100年映画祭>
美しき小さな浜辺
危険な関係
<アカデミー・フィルム・アーカイブ 映画コレクション>
きゅうり畑のかかし
(新作だけを対象にしています)
① イニシェリン島の精霊
舞台はアイルランドの小さな島イニシェリン島、島民の誰もが互いに知っているような島だ。長らく毎日2時にパブに行くのを習慣にしている主人公が、いつものように親友を誘いに行くと拒否にあってしまう。理由も分からず、やがて対立は大きくなっていく。何気ない日常に潜む不条理、そんな物語が美しい風景の中で展開される。いつまでも心に残る。
② 夜明けまでバス停で
2022年のキネマ旬報賞(今月のトピックス参照)で、監督賞、脚本賞を受賞した作品。昨年10月8日に公開されたが、結構早くロードショーが終了してしまい見逃がしていた。コロナ禍の下、不安定な労働環境下で職と住みかを無くした女性の物語。声高ではなく、日本とコロナ禍の状況をきっちり描いている。
③ 銀平町シネマブルース
川越のスカラ座を借りて作られた映画好きが集まる映画館を描く映画。やたら映画、映画と書いてしまったが、この映画がそうさせるのである。監督は現在47歳にして100本以上の作品(多くはピンク映画)を発表している城定秀夫、脚本は多分57歳(誕生日は1965年としか書かれていない)にして監督作品44本、脚本作品21本、合わせて65本(多くはピンク映画)を発表しているいまおかしんじで、彼らの映画愛がゆっくり沁みてくる。
他にあります、映画館で楽しめる映画!(上映が終了しているものもあります。)
◎少年たちの時代革命、理大囲城:香港が返還されたのは1997年、中国は1国2制度を50年守るとしたのにもかかわらず、暫くするとその姿勢は放棄され、香港の中国化が進められる。それに対する香港人の抵抗運動は2014年からの雨傘運動などがあった。2019年の香港逃亡犯条例改正案に対する反対運動から光復香港・時代革命のスローガンのもと、200万人が参加したというデモが行われた。この時代を背景に「少年たちの時代革命」はフィクションとして、「理大囲城」はドキュメンタリーとして作られた。
◎ミスタームーンライト~1966 ザ・ビートルズ武道館公演 みんなで見た夢~:1962年のレコードデビューから4年経って、ビートルズが日本にやってきた。1964年の東京オリンピック柔道会場用に建てられた日本武道館での初めての音楽公演として、ビートルズが登場することに。それを巡って多くの人々が動き、厳重警戒の中で1回35分の公演が5回行われた。その頃田舎の高校生だった私は、興味はあったものの熱狂的ファンではなく、覚めた目で見ていた。それでも、あの当時の雰囲気がよく分かって面白かった。
◎息子:2年前「ファーザー」を監督したフロリアン・ゼレールの新作。フランス人の舞台人ゼレールは、前作と同じくまずパリの舞台で上演し、その後ロンドン等で公演した後映画化に臨んだらしい。祖父役でアンソニー・ホプキンスが出演しているが、前作とのつながりは全くなしで、舞台はニューヨーク。ヒュー・ジャックマン演じる父と息子の物語。17歳の息子の苦しみが中心になる映画は、3月17日から公開される。
◎新生ロシア1991:監督セルゲイ・ロズニッツァはベラルーシ生まれ、ウクライナ育ち、モスクワの全ロシア映画大学で学んだ。ロシアのウクライナ侵攻以来、昨年から多くの作品が日本で公開されている。この作品もその1本。1991年8月ソ連のモスクワで何が起きていたかをアーカイブ映像を使い描き出すドキュメンタリー。
◎仕掛人・藤枝梅安:池波正太郎原作の映画化。仕掛人シリーズは主にテレビで何度かドラマ化されている。映画では1981年の「仕掛人梅安」(萬屋錦之介主演)以来42年ぶりの作品になる。監督は河毛俊作(フジテレビディレクター)、主演は豊川悦司。今回は2部作で、その前編。まるでハリウッド製殺し屋映画のようなところが批判されてもいるようだが、仕掛人の小説・ドラマに接していなかった自分は、暗い映像をそれなりに楽しんだ。
◎バイオレント・ナイト:聖夜であるクリスマスをブラック的に描く映画は、日本に先月号で紹介した「ブラックナイトパレード」があったが、今月はアメリカからやってきた。かなりきっぱり、疲れたサンタさんを、小気味よく動かし笑わせてくれる。こちらの方が笑いは冴える。
◎#マンホール:結婚式を明日に控えた男が、夜酔っぱらって落ちたのはマンホール、そこから如何に脱出して結婚式に間に合うかというアイディはなかなか。脚本は岡田道尚、監督は熊切和嘉。主人公は唯一の通信手段スマホを徹底的に使い…。携帯・スマホ使用歴3年未満の身には、あんな風にはできないなあと感心。
◎コンパートメントNo.6:フィンランドからやってきた映画は、モスクワからムルマンスクに向かう列車のコンパートメントを舞台に、偶然居合わせた男女二人の物語。モスクワに留学中のフィンランド女性と、ロシアのちょっと粗野な労働者っぽい男性。同性の恋人と行く予定だった女性は、この男との同室にたえられず…。1979年生まれのフィンランド人監督ユホ・クオスマネンの新作は、ちょっと不思議なラブストーリー。
◎エゴイスト:鈴木亮平と宮澤飛雄がゲイの恋人を演じることで話題の映画。結構激しい描写もある。高山真の自伝的小説から映画化。いずれにしろ、好きになった人を好きという映画。雑誌の編集者である主人公のマンションは生活感なしの雑誌グラビアページのよう。
◎こちらあみこ:こんな風な子どもの映画、いつかどこかで見た気がする、思い出せないのだが。子供らしく残酷に、大人を傷付つけていくあみこは、無意識で笑いがない分ちょっと怖い。今村夏子の小説を映画にしたのは、小説に惚れ込んで自ら脚本を書き監督デビューの森井勇佑。演技未経験ながら、オーディションであみこに抜擢された大沢一菜の存在感!
◎崖上のスパイ:チャン・イーモウ監督と言えば、中国の巨匠、夏冬の北京オリンピックの開・閉会式の総監督さえ務めた。初めて手掛けたサスペンスは1934年冬の満州を舞台に、ソ連で訓練を受けてきた共産党スパイチームと、特務警察の闘いを描く。不思議なのは日本が、国としても人としても少しも出てこなかったこと。
◎シャイロックの子供たち:池井戸潤と言えば、元銀行員の経験を生かした金融界を舞台にした小説で人気が高く、映画やテレビなどでの映像化作品も多い。2018年に池井戸の「空飛ぶタイヤ」を手掛けた本木克之監督のこの新作もその1本、阿部サダヲを筆頭に多くの有名俳優が出演している。見慣れた感のあるストーリーながら、それ故にか楽しめる。
◎別れる決心:「オールド・ボーイ」のパク・チャヌクの新作は、山頂から転落死した男の妻と、事件を調べる刑事との間の関係を描く。チャヌクらしく、その関係は一筋縄ではいかず、微妙で粘り気のあるものに。
◎ICE ふたりのプログラム:久しぶりのロシアからのフィクション映画。ロシア語の会話自体が懐かしく(?)、キリル文字も久しぶり。しかも、アイススケートのフィギュアを題材にしていて、いかにもロシア。オレグ・トロフィムという若い監督、公開された時(2018年ロシア)は29歳、若さがいい方向に出ている。今月のトピックス参照。
◎茶飲友達:監督・脚本・製作をした外山文治によれば、高齢者向け売春クラブ摘発のニュースから着想を得たとのこと。「茶飲友達」という新聞の三行広告で集客していたというものだ。今やこの題名で映画館に引き寄せられる人が、特に高齢者に多いとなっている。
◎ボーンズ・アンド・オール:「君の名前で僕を呼んで」のルカ・グァダーニ監督が、再びティモシー・シャラメを主演にして作った人を食べる人たちの物語。マイノリティの極のような人々。匂いでかぎ分け見分けるのだった。
◎生きる 大川小学校 津波裁判を闘った人たち:大川小学校の事を知らなかった。映画とその後のトークショーで多くの事を教えてもらった。今月のトークショー参照。
◎ワース 命の値段:2001年9月11日アメリカの同時多発テロの被害者と遺族救済のための補償基金プログラムを巡る実話の映画化。主人公はワシントンD.C.の弁護士ケン・ファインバーグで、最終期限2003年12月22日までに、如何に多くの人をまとめていくかの物語。主演のマイケル・キートンが製作にも加わった作品は、オバマ元大統領夫妻の製作会社ハイヤー・グラウンド・プロダクションが配給権を獲得したという。
<日本映画>神保町シアターの<俳優 渥美清 「とらさん」だけじゃない映画人生>で見た「あ々声なき友」は、渥美清がこの映画を作るために設立した渥美清プロダクションと松竹が共同製作した1972年作品。有馬頼義の「遺書配達人」からの映画化だ。1969年に始まった映画の「男はつらいよ」シリーズで大スターになっていた渥美清がそれほどに作りたかった作品。渥美は1928年生まれで出征はしていないが、学徒動員され軍需工場で働いている。戦争を経験した人間は、一生忘れられない経験をし、そのために戦争を描く映画をどうしても作りたくなるのだろう。
2月4日 国立映画アーカイブ「きゅうり畑のかかし」上映後トークショー ハンク・アルバート(映画のプロデューサー)
1972年に製作された作品は60年代を経過した後の文化的に開かれた時代の雰囲気を伝えている。それを作ったのは製作者のハンク・アルバートと、監督のロバート・J・カプランで、ふたりは共に23歳という若さだった。製作から50年以上たった今年、アメリカ以外の国で初めて上映される今回の特集に合わせて、来日してのトークショーとなった。
この映画をプロデュースした後、映画とは関係のない道に進んだアルバートは、夏休みを利用して作った映画とあの時代を楽しそうに話した。
映画を作った当時、大スタジオは力を失い、低予算のインディペンデント映画が人気を得ていた。つてを頼ってリリー・トムリンにカメオ出演(もちろん電話のオペレーター)してもらったり、スターになる前のベッド・ミドラーに歌ってもらったりした。
物語の基本は「オズの魔法使い」で小さな町の少女がニューヨーク(エメラルドシティ)に来るが、期待は裏切られるんだ。登場人物の名前は、「イヴの総て」からもらって、マーゴ・チャニング、イヴ・ハリントンとした。
2月21日 K’sシネマ「『生きる』 大川小学校 津波裁判を闘った人たち」上映後トークショー 鈴木秀洋さん(日本大学准教授、危機管理学)、寺田和弘監督、松本裕子プロデューサー
寺田監督からは、この映画の映像は裁判で戦った津波で亡くなった小学生の親たちが、記録のために撮っていたもので、新しく撮影したものはないとのこと。
鈴木准教授からは国家賠償請求の裁判で原告が勝てるのは非常に珍しいこと。こうした裁判の問題点は、原告側が証明する必要があるという点など、裁判について細かく話をされた。
●サイレント(無声)映画から、トーキー(有声)映画に替わる時代を描く「バビロン」。同じ時代を描く傑作「雨に唄えば」にオマージュをささげているが、それにしてもあまりに下品で、真似だけのように映ってしまいがっかり。
●下品と言えば、オランダのポール・ヴァーホーベン監督の「ベネデッタ」。下品というよりエグイという感じは、いかにもヴァーホーベン調。
●人間の命を金額に換算するというのが主題の「ワース 命の値段」。ここではアメリカの同時多発テロの被害者に対する補償金がテーマだが、「生きる 大川小学校 津波裁判を闘った人たち」では国に対する賠償請求裁判のために、金額を決めなければならないという問題があったようだ。基本的には、何故74名の小学生が死ななければならなかったのか?というのを訴えたい人たちだったのだが、それを裁判にするために金額を決めなければならなかったということだ。映画の中で、このことが表に出てくることはなかったが、そういうことがあったのだ。周りから、金目当てと陰口でたたかれたのだ。
日本のアニメが昨年ほどその力を発揮したことはなかった。2020年1月に始まったコロナウイルスのため、映画産業は大きな影響を受け、2020~1の2年間は大きく成績を落とした。映画館自体が休館した時期もあり、更にコロナ感染を恐れて人々が映画館に来なくなっていたためだ。しかし、昨年2022年の年間興行収入は、2131億円となり、2019年の2612億円に対しては約82%、2018年の2225億円に対しては約96%となり、ほぼコロナ前の状態に戻ってきたと言える。
この好成績を支えてきたのが日本のアニメということだ。アニメの成績を見てみると、邦洋画合わせての興収ベスト10の中で、1位が「One Peace Red」197.0億円、2位が「劇場版呪術廻船」138.0億円、4位が「すずめの戸締り」131.5億円、5位が「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」97.8億円となっている。4本の興収計は564.3億円となり、邦洋画合わせての興収2131億円の約26.5%となり、全体の1/4を稼いだことになる。
勿論、今までもアニメは強い力を発揮して来ていた。3年前からの実績を振り返ると以下のようになる。
2019年 ベスト10に入った日本のアニメは3本で全興収(2612億円)の11.1%を挙げている。この年は3本のディズニーアニメがいずれも100億を超える成績を上げていて、邦洋アニメの興収合計は、24.8%を占めている。この年のベスト10では1~5位と10位がアニメで6本がアニメとなっている。
2020年 ベスト10に入ったアニメは日本の3本だが、その1本が「鬼滅の刃 無限列車編」でこの作品だけで404.3億円という全日本映画の歴代興収1位の記録をもっている。3本の興収計は全興収(1433億円)の約32.0%となっている。
2021年 ベスト10には1~3位を占めた3本のアニメが入っていて、その興収計は全興収(1619億円)の約15.2%となっている。
コロナの影響を受けた2020~1年でもアニメ作品には100億円以上の興収を挙げる作品が出ている。アニメの客層は基本的には若い人ということだろう。若い人たちがコロナ禍の映画界を支えてきたということだろう。
95回目のアメリカのアカデミー賞より1回多い96回目の日本のキネマ旬報ベストテン。その表彰式が2月1日に行われた。3年ぶりに観客を入れて行われたその会場は、前日に55年の歴史に幕を下ろした東急百貨店本店の隣にある東急文化村の中のオーチャードホール。総席数2150席、高さがある重厚な舞台、表彰式だけではもったいないような立派な劇場だ。
いつものように笠井信輔アナウンサーの司会、今回で16回目だったかな、なにしろ他の人が思い浮かばないほど何回も司会をしている。例によって、“キネマ旬報の定期購読者です”との言葉で始まった。
ベストテンと言いながら、この日は日本映画、外国映画、文化映画などいずれもベスト1のみが発表、表彰された。各賞の受賞者は次の通り。
<日本映画>
作品ベスト1:ケイコ 目を澄ませて
監督賞:高橋伴明「夜明けまでバス停で」
脚本賞」梶原阿貴「夜明けまでバス停で」
主演女優賞:岸井ゆきの「ケイコ 目を澄ませて」「神は見返りを求める」「犬も食わねどチャーリーは笑う」「やがて海へと届く」
主演男優賞:沢田研二「土を喰らう十二カ月」
助演女優賞:広末涼子「あちらにいる鬼」「コンフィデンスマンJP 英雄編」「パスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」
助演男優賞:三浦友和「ケイコ 目を澄ませて」「線は、僕を描く」「グッバイ・クルエル・ワールド」
新人女優賞:嵐莉菜「マイスモールランド」
新人男優賞:目黒蓮「月の満ち欠け」「映画『おそ松さん』」
文化映画ベスト1:わたしの話、部落のはなし
<外国映画>
作品ベスト1:リコリス・ピザ
監督賞:ペドロ・アルモドバル「パラレル・マザーズ」
<読者のベストテン>
日本映画ベスト1:ケイコ 目を澄ませば
外国映画ベスト1:コーダ あいのうた
キネマ旬報読者賞:川本三郎「映画を見ればわかること」
受賞者はそれぞれ重いトロフィーを手に挨拶をされた。中で一番印象に残ったのが、脚本賞を受賞した梶原阿貴さん、「夜明けまでバス停で」での受賞だ。彼女は1990年度のキネマ旬報で日本映画のベスト1になった「櫻の園」で俳優デビューをしている。日活ロマンポルノで監督デビューした中原俊監督が、吉田秋生のオムニバス漫画を原作として作ったチェーホフの『櫻の園』を演じる女子高生を描いた作品。その女高生の一人を演じていたのだ。いつの間にか脚本家になり今回の受賞となった。俳優が発声しやすいように考えて書いているとの言葉があった。この作品で監督賞を受賞した高橋伴明監督も含め、作品自体が社会に物申す姿勢があるのも良かった。
第95回アカデミー賞の授賞式は3月12日にドルビーシアターにて行われる。先月号で、主要6部門のノミネート作品と受賞予想作品をお伝えした。この1か月で新たに見ることができたノミネート関連作品は「イニシェリン島の精霊」「バビロン」の2作品。さらに、他の映画祭での受賞作品などを参考にして、予想の再チェックをしてみた。
但し、まだ見ることができない作品が、作品賞だけでも「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(略称「エブ・エブ」)「フェイブルマンズ」「TAR(ター)」「西部戦線異状なし」「ウーマン・トーキング 私たちの選択」「逆転のトライアングル」とあり、その他の部門も含め未見作品の方が多いという状況。例年にも増して未見作品が多いので、予想は博打的要素が多い事となった。
予想を変更したのは、主演女優賞と、助演女優賞の2部門のみ。
作品賞: 見た作品では「イニシェリン島の精霊」が一番だが、「エブ・エブ」「フェイブルマンズ」が未見。そこで、スピルバーグがその影響力でハリウッドが蘇えったと評価する「トップガン マーベリック」をそのままにした。
◎トップガン マーヴェリック(公開済)
他のノミネート:エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス、イニシェリン島の精霊、フェイブルマンズ、TAR(ター)、エルヴィス、アバター:ウェイ・オブ・ウォーター、西部戦線異状なし、ウーマン・トーキング 私たちの選択、逆転のトライアングル
監督賞: スピルバーグへの感謝も込めて予想はそのままに。
◎スティーブン・スピルバーグ「フェイブルマンズ」
他のノミネート:ダニエルズ(ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」、トッド・フィールド「TAR(ター)」、マーティン・マクドナー「イニシェリン島の精霊」、リューベン・オストルンド「逆転のトライアングル」
主演男優賞: 見た上で、これも変更なしのコリン・ファレル。
◎コリン・ファレル「イニシェリン島の精霊」
他のノミネート:ブレンダン・フレイザー「ザ・ホエール」、オースティン・バトラー「エルヴィス」、ビル・ナイ「生きる Living」、ポール・メスカル「アフターサン」
主演女優賞: 「エブ・エブ」のミッシェル・ヨーも大好きですが、ある情報からケイト・ブランシェットに変更します。
◎ケイト・ブランシェット「TAR(ター)」
他のノミネート:ミッシェル・ヨー「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」、ミシェル・ウィリアムズ「フェイブルマンズ」、アナ・デ・アルマス「ブロンド」、アンドレア・ライズボロー「To Leslie」
助演男優賞: 最多ノミネートの「エブ・エブ」の中でも、キー・ホイ・クァンは、子役からの復活、アジア系(ベトナム)といった点からも可能性が高く、変更なし。
◎キー・ホイ・クァン「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」
他のノミネート:ブレンダン・グリーソン「イニシェリン島の精霊」、バリー・コーガン「イニシェリン島の精霊」、ジャド・ハーシュ「フェイブルマンズ」、ブライアン・タイリー・ヘンリー「その道の向こうに」
助演女優賞: 「エブ・エブ」の予告編に出てくるあのおばさんがジェイミー・リー・カーティスと知り、それならと変更した。
◎ジェイミー・リー・カーティス「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」
他のノミネート:アンジェラ・バセット「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」、ケリー・コンドン「イニシェリン島の精霊」、ステファニー・スー「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」、ホン・チャウ「ザ・ホエール」
久しぶりやってきたロシアの劇映画は、まるでインド映画を見ているような作りだったのだ。「ICE ふたりのプログラム」には結構驚かされた。非常に明るい映画で、ウクライナ戦争真最中のロシアから出てきたのにはびっくり。調べてみると、2018年の作品だったから当然か。フィギュアスケートが題材なのはロシアだからうなずけるし、音楽に乗って踊りのように滑るのだから登場人物たちが歌っても…、えっ、それはインド映画でしょう。しかもスケート演技の時に歌う訳ではなく、正にミュージカル調に3曲だったか歌われるのだ。
公開当時29歳だった若い監督の作品だから、そういうことがあったのだろか?
下高井戸シネマの名前は以前から知っていた。飯田橋のギンレイホールが昨年閉館となり、今や東京でも少なくなってしまった昔の2番館(ロードショーが終わった作品を3~6カ月後くらいに上映)の一つという印象だったが、今まで縁がなかった。下高井戸がどこにあるかも知らず、結構遠いだろうという印象だけを持っていたのだが。
今回キネマ旬報ベストテン表彰式を見に行って、そこで2つの賞を獲得した「夜明けまでバス停で」をまだ見ていなかったので、探してみると下高井戸シネマで1週間ほど、1日に1回だけ上映されていたのである。
確実に座れるように少し早目に出かけた。案外遠くないと分かったが、更にすでに列ができていたのには驚いた。決してよく知られた作品ではないのに、あるいは並んでいる人全員がキネマ旬報賞を知っているとは思えないのに。
席を確保して坐っていると、続々人が入ってきてほぼ満席に。その人たちが、いつもの映画館に入ってきた感じで、今回はどんな作品なんだろうねという雰囲気だったのだ。つまり、地元の映画館にいつものように来たと思われた。23区内の映画館にはなかなかない雰囲気だった。
今月はここまで。
次号は、桜の満開はいつかが話題になっているだろう3月25日にお送りします。