コギト工房 Cogito-Kobo
若い読者のための大江健三郎ワールド 作品紹介 

■大江健三郎トップページへ



■大江健三郎 まずはこれから


■大江健三郎作品一覧へ


■大江健三郎略年譜

          
河馬に噛まれる
講談社文庫 
定価:619円(税別)
頁数:26頁
ISBN4-06-275392-8
カバーデザイン:司修 初出:1983年11月号 雑誌『文学界』
「赤軍派リンチ事件」をテーマに       
  
  第11回川端康成文学賞を受賞


 なによりも題名がいいですね。このとっぴょうしもない題名にひかれてすぐに読みたくなります。
1972年の連合赤軍の浅間山荘での事件が背景になっていて、その時代がある程度わかっていないと理解が難しいかもしれません。1950年代までに生まれた人にとっては衝撃的な出来事でした。
その後の日本は確かに大きく変わって行きました。


 北海道の畜産高校生だった「河馬の勇士」はふとしたことから上京、そして浅間山荘事件と思われる出来事と関わってしまった。積極的な意思のないままに。彼は山中のアジトに入ったが活動としてはなにも役にたたなかった。だが、アジトの便所での糞尿処理には関心を持ち、沢から渓流に向けて糞尿を流してゆく方法を考え出した。川を汚染することなく、豊かにしてゆくという考えがあった。
 その「河馬の勇士」はアフリカのウガンダに行き、国立公園の船着場で雄のカバに噛まれ深い傷を負う。
「勇士」の母親はマダム「河馬の勇士」とよばれ、大学生だったころ僕との接触があった。このマダム「河馬の勇士」という名前もおかしい、さらにカバの糞が水中で食物連鎖の役割をしているなど、ユーモラス。
 笑える話が続くが、なぜか不思議に深く心に突き刺さってくるものがある。

 
<冒頭>
   
 ダケカンバの林にさえぎられて浅間は見えないが、噴火があると屋根に灰が降りつもる位置の、山小屋に来た。
 ソバにウドン、豚肉のショーガ焼き定食という種のものを出す、昔からの街道筋にある食堂で、近辺の狭い範囲にかぎられた地域に購読者を持つのらしい新聞を読み、僕はある記事に引きつけられ、それに発する想像をした。想像は、およそ蓋然性の薄い、奇態な思いつきともいうたぐいである。
 
<出版社のコピー>
 
「浅間山荘」の銃撃戦と、雪深い森の若い死者たち。革命党派の課題をこえて、そこには戦後日本の精神史にきざまれた、もっとも悲劇的な惨たらしさがある。しかもユーモアの地下水もにじみ出るほどの人間的な深みで受けとめたい。文学の仕事なのだから・・・・
永く考えた後、手法のことなる架空の短篇をくみあわせて、出来事の全体に対置することにした。主題としては長篇にひとしく、同時代、あるいは同じ不幸を生きる自分の個人史も透けて見える。
 
<おすすめ度>
☆☆☆☆ 自選短篇作品
  ISBN4-16-308780-X 文藝春秋
Copyright Since 2004 Cogito-Kobo  All rights reserved