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■大江健三郎略年譜

    
他人の足
新潮社文庫    
解説:江藤 淳
定価:438円(税別)
頁:47頁(文庫)
ISBN4-10-112601-1
カバー画:山下菊二 初出:1957年(昭和32年) 雑誌新潮8月号掲載
閉塞された少年たちの静かな叫び!
 『死者の奢り・飼育』に収められている。

 19歳の僕は脊椎カリエス患者として海に近い高原に建てられたサナトリウムにいる。このまま40年先、60歳でも同じ状態が続く絶望の中で。しかし僕たちは将来に考えを及ぼすことをせず、日々快楽的に生活をしていた。そこでの看護婦たちも下着やシーツを汚されないために<手軽な快楽>を与えていた。
 そこにある日大学の文学部にいた両足にギブスをつけた青年が入ってくることによって起こる小さなさざ波。大学生はこのサナトリウムに政治を持ち込んだ。僕は大学生の持ち込んだ活動には参加しなかったが、大学生はある有名な左翼新聞に彼らの声明を発表するところまで持ち込んだ。新しい動きがこの監禁状態の生活に持ち込まれたのである。
 少年達も興奮した。翌朝そして大学生は診療室に運ばれてゆき、ギブスははずされ歩くことができるようになった。それを見ていたカリエスの少年たちは幸福そうに拍手をした。
 「学生は決して僕らの病棟を見返らなかった。あの男は、はにかんでいる、と僕は思った。感動が喉にこみあげた。」
しかし、柔かい空色のズボンをはいて戻ってきた大学生は曖昧な、固い表情をして戻ってきた。自分の足の上に立っている彼はよそよそしい。そして非人間的に見える。大学生の足を触らせてほしいという少年に対して大学生は身を引き邪慳な態度にでた。学生と少年たちのあいだの均衡が破れ、学生はサナトリウムを去ってゆく。
 すると再び、サナトリウムは元の時間のない静かな暮らしにもどっていった。

 この作品では大江は会話のところを「」でくくることをせず、地の文で書き綴っている。難しい表現はどこにもでてこなくわかりやすい。しかし作品全体が閉塞感に満ち満ちている。重い作品である。

 作品に演劇的な演出があるような感じがする。

<冒頭>

僕らは、粘液質の厚い壁の中に、おとなしく暮していた。僕らの生活は、外部から完全に
遮断されてい、不思議な監禁状態にいたのに、決して僕らは、脱走を企てたり、外部の情報
を聞きこむことに熱中したりしなかった。僕らには外部がなかったのだといっていい。壁の
中で、充実して、陽気に暮していた。

<出版社のコピー>

療養所の暑い壁に閉じこめられた脊椎カリエスの少年たちの哀歌

<おすすめ度>
  ☆☆☆★

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