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晩年様式集(イン・レイト・スタイル)
講談社
解説:尾崎真理子
定価:820円(税別)
頁数:414頁
ISBN978-4-06-293533-3 
カバーデザイン:司修
 晩年とは無縁の戦士が過去の作品のズレを楽しむ

  
 また素晴らしい傑作が生まれました。大江さんが尾崎真理子さんとのインタビューの中で”私としてはこれが小説だと主張する気持ちは半分半分です”と語っているように、本来の小説の枠からははみ出た作品かもしれません。が、何よりも次々と飛び出す過去の作品の登場人物が微妙にズレて作品の中で活動しはじめる面白さ。こんな小生つは過去にあったのでしょうか。またまた、大江健三郎は新しい挑戦をしてくれました。勿論この作品を十分に楽しむには過去の作品にある程度通じている必要があります。そういう意味では万人向けではないかもしれません。それでよいのかと思います。そういう誰でもがすぐに入るこめる作品は他にも沢山ありますから。でも、これを機会に過去の作品を読みなおそうと言う気になれば、あるいはどんな作品なのか始めて触れてみようというひとが増えればよいことかと思います。
 
 2007年6月21日の朝日新聞”音楽展望”欄で音楽評論家の吉田秀和さんがこんなことを書いております。
「戦士といえば、大江健三郎さんの書くものにそれを見る心地がする。いつごろからか、私は彼の書くその背中に黒く大きな影を感じるようになった。古代中世の人たちだったらフォルトゥーナ(運命の女神)と呼んだであろう、何か抵抗しがたい強力無双なものが、彼の背後から襲いかかり、離れない。なぜか、わからない。世の中のすべての人にそれが見えるとも限らない。
 彼は窒息しそうになり、それから逃れようと全力を挙げて戦う。そのうち、彼は襲われたのは自分だけでなく、全人類に及ぶのではないかと考え、みんなに呼びかけながら、必死の抵抗を試みているように思われる。このごろの私には、大江さんは壮大な戦いの渦中の戦士文学者のように見える」
 まさに大江さんは今も戦い続けているのではないでしょうか。彼に続く人は彼の戦いをしっかりと受けとめてゆかなければならないと強く思います。
    

 
 <冒頭>
     
 前口上として
   

 私が書き続けてゆくこの文章が本となるなら、それらのノートを一括するタイトルを使用して
もらいたい。白血病と闘いながら大きな仕事をして(書くことにとどまらなかった)、なくなっ
た友人の論文集が出たが、病床を見舞うたび私はかれの予定している本の構想、その全体のタイ
トルを聞かされていた。私は、−きみが死後の出版に備えているのなら、同年生まれの自分が
きみより生き延びている見込みも五分五分だから、きみの表題をモジッたタイトルで、最後の仕
事をしたい、といった。かれは暗くもイタズラッポクもある微笑を浮かべて、こう言い返したも
のだ。
        
 <出版社のコピー>


新しい希望に向かう「最後の小説」


おそらく最後の小説を、わたしは円熟した老作家としてでなく、
フクシマと原発事故のカタストロフィーに追い詰められる思い
で書き続けた。しかし70歳で書いた若い人に希望を語る詩を
新しく引用してしめくくったとも、死んだ友人たちに伝えたい。(著者



圧倒的な危機の中に

見出した希望

著者最新にして

「最後の小説」

私は
生き直すことが
できない、
しかし
私らは
私は生き直すことが
できる。


 <おすすめ度>

  ☆☆☆☆
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