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グルート島のレントゲン画法
文藝春秋  
定価:
1300円(税別) 販売中止
頁数:35頁
ISBN4-16-308250-6
初出:1984年1月号 雑誌『新潮』
短編集『いかに木を殺すか』2番目の作品       
 
大江作品には題名に凝ったものが多く、読後にも印象深く残る。この作品もそのひとつである。しかり”グルート島””レントゲン画法”、といわれても全くわからないのが一般的であろう。
グルート島はオーストラリア北部カーペンタリア湾にある小さな島。レントゲン画法とはレントゲンでものの中を透視したように描く手法のこと。走っているバスを外観として画いているのに、中の人物までがえがかれているような手法。
高校生の娘との話をきっかけに「僕」は20年前に一箇月ほど滞在したオーストラリアでの出来事を思い出した。オーストラリアの文化関係当局からアデレイド芸術祭に招待されたとき、分科会で詩人達の集まりに参加した。そのときは通訳をしてくれたグラノフスキー君の語学力不足と自分の聴き取り能力不足で満足な答えができなかったのだ。芸術祭のあと関心のあった現地先住民(アボリジニー)の生活・信仰・芸術にふれてみたいと思った。グラノフスキー君はそれを実現すべくグルート島へ行く計画をたててくれた。その旅に同行することになったのがナオミという娘である。ナオミは蓮実大使の末娘で問題があるといわれていた。そしてグルート島に向かった、、、。
先住民の描く絵にはレントゲン画法がよく使われるのだが、彼らの眼はわれわれの胸のうちから腹腔まで、なみもかも見てしまうことになるだろう。

オーストラリアを舞台にしたちょっと雰囲気の異なる作品である。

 
<冒頭>
     
 娘の幼児の一日にはじまる、しかしもう根拠を誰も覚えていない、「オックンチャン」という綽名(あだな)。それを家族はなお棄てられないままだ。しかし通っている私立の女子高校ではそれなりの社会生活があるのだろう、「じーや」という綽名で呼ばれはじめた娘が、英語クラブ員として学校対抗の「ディベイト」大会に出た。討論(デイベイト)には主題がある。「アジアへの経済援助」について、賛成と反対それぞれの立場にたって討論する。
 

<出版社のコピー>
 
 「現代的でかつ芸術的」という批評が、若くして出発した僕の短篇への励ましだった。いましめくくりの時のはじめに、八つの短篇を書いて、そこに映る自分を見る。切実な時代の影に、個の生の苦渋のあとは見まがいがたいが、ユーモアの微光もまんべんなくある。
 思いがけないのは、女性的なものの力の色濃さだった。遠い幼年時の自分と、それほど遠くないはずに死、また「再生」を思う自分を結んでいる。知的な経験と、森のなかの谷間の神話を、懐かしく媒介しているのも女性的なものだ。(大江健三郎)



     想像力の大翼を駆って構築
     する洵爛たる小説宇宙


   四国の森のなかの谷間を舞台に、神話的伝承に支えられて
   森を防衛する勇敢な女たち。グロテスクな性、滑稽な性の
   饗宴と笑いにはじまり、優しさの極みに至る大江文学の傑作!

<おすすめ度>
☆☆☆☆

    
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