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核時代の森の隠遁者
新潮社文庫  
解説:渡辺広士
定価:552円(税別)
頁数:52頁(文庫版)
ISBN4-10-112609-7
カバー画:山下菊二 初出:1968年8月号 雑誌『中央公論』掲載
核時代を生き延びようとする者は・・・・・森に隠遁せよ!
 単行本として出版された「われらの狂気を生き延びる道を教えよ」では第二部「ぼく自身の詩のごときものを核とする三つの短篇」の二番目の作品。
 『万延元年のフットボール』に出てくる村の住職が主人公。かつて妻に逃げられた住職「ぼく」が蜜三郎と思われる「きみ」に語りかける書き方。小学校の体操教師であった妻は姦通をおかし、出奔した。そしてまた姦通相手の子を連れて住職のところに戻ってきた。この設定からしてすでに突飛であり、話はさらに常識的ではないものになってゆく。この作品も複雑で難解。やはり想像力を豊かに、柔軟に読みこなさないと理解できない。しかし面白い。
 大江ファンの中でもプロ向き。大江初心者は後回しでいいのでは。
<冒頭>

 きみは「自由」をもてめて森を抜けだし、地方都市から大都市へとなおも「自由」をさがしもとめて跳びだしてゆき、そしてついにはアフリカへまで出かけたのだが、「自由」は見つかったかね?ぼくはアフリカどころか森の奥の谷間にじっと住みついているばかりだが、しかもなお、ぼくもまたなにをさがしもとめて生きてきたかといえば、それは「自由」なのだ。

<出版社のコピー>

外部からおそいかかる時代の狂気、あるいは、自分の内部から暗い過去との血のつながりにおいて、自分ひとりの存在に根ざしてあらわれてくる狂気にとらわれながら、核時代を生き延びる人間の絶望感とそこからの解放の道を、豊かな詩的感覚と想像力で構築する。「万延元年のフットボール」から「洪水はわが魂に及び」への橋わたしをする、ひとつながりの充実した作品群である。
 
 
<おすすめ度>
☆☆☆☆    

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