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■大江健三郎略年譜

  
身がわり山羊の反撃
岩波現代選書  
解説:なし
定価:1200円(税別) 現在品切れ
頁数:103頁(文庫)
ISBN9784000047159
初出:1983年6月号 雑誌『新潮』
中・短篇小説集「現代伝奇集」2番目の作品       
  
 四国の山中にある小さな村をでて、メキシコで暮らす偽医者のモノローグ。プロフェソールというメキシコ・シティの大学で教えに来ている日本人に対し一方的な語りをする。「わし」という一人称で話をする関西のなまりのある男の語りだけで物語るという大江にはめずらしい構成。新たな文体での挑戦的作品。

 10歳のとき(終戦の前年)に大水があり、不安定な岩盤の上に築かれた五軒の家がすべて流された。その五軒の家は実はよそ者として地元で差別を受けていたのである。大水のなか助かったのは「わし」ひとりであった。助かった自分は村長によって厚遇されながら育てられることになった。その理由は大水に流されるなか親たちが乗っていた藁屋根からただひとり馬小屋の屋根に乗り移ったという勇気、さらに村の神社の前を流されているにも関わらず神社に向かってオジギをしたという村への忠誠心、ということで英雄と考えられたからである。が実は村人たちが五軒の家を差別扱いしていたということに対する贖罪のあらわれでもあった。
 13歳の頃にあるできごとがあった。中学3年生が修学旅行から戻ってみたら、集団で赤痢にかかり隔離されるという事件である。赤痢で苦しむ子ども達は飲み水を求めて川に飛び込むということをしたのだ。自分はその様子を何もしないでじっとみていた。しかし後日そのことでとがめられることはなかった。だがそのことがあってからは、自分の置かれている立場は陽の寵児から陰の寵児に変わっていった。
 高校二年生のとき自殺未遂をした。それまではやったこともなかった風呂を沸かすということをして、湯に浸かりながら小刀で腕頸を切りつけるということを。
 高校を出たあと、村人たちの寄付などで大学の医学部にまで進学することができた。しかし五回も医師国家試験に落ちてしまった。村人は自分が村に帰るのをいやがって、わざと試験に落ちているのではないかと疑った。
 その後、村は全体が没落をすることとなり、多くのひとがコロンビアに移住することになり、自分も付き添いの医者として船に乗ることとなった。
 主人公「わし」はいつの時代もずっと集団からの疎外を感じながら生きてきた。
 大江作品としてはちょっと異色ではあるが、面白さは保証付き。入手が難しいがぜひ読んで欲しい作品。

   
<冒頭>
   
  わしの息は椰子油の匂いがするが、プロフェソール、いつまでも息をとめておくわけにもゆかんのや。わしは、フロフェソール、あんたがスーパーで買い物するところは、もう以前に見ておった。あんたはわしに気がつかんやったろう。わしはイグアナのようにどこでも隅に這いつくんやから。そしてこのゴマ塩の丸頭を持ちあげて見張っておるのやから。

 
<出版社のコピー>

  待望の中・短篇小説集

ハワイにある精神病者のための民間施設、メキシコ・シティの裏街、北米ロングアイランドの別荘。それぞれの場所に、それぞれの文体で展開される、三つの奇怪な物語。そのグロテスクで克明な描出が、現代世界の核心を浮かびあがらせる。著者久々の中・短篇小説集。

<おすすめ度>
☆☆☆☆☆ 
                oe 6
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