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■大江健三郎略年譜

  
見せるだけの拷問
文藝春秋  
定価:
1300円(税別)  販売中止
頁数:25頁
ISBN4-16-308250-6
初出:1984年3月号 雑誌『群像』
  短編集『いかに木を殺すか』3番目の作品     
   
 カリフォルニア大学、バークレイ校にいたとき、ある若い男が尋ねてきた。髭が特長である。彼はアメリカで日本文学の教師となるため博士号をとろうとしていた。名前を中根という。
 中根君は博士号をとるために特別の方策を考えていた。すでに国際作家となっているMとAを中心に論文を準備しているが、そこに10年後の世代の作家「僕」を加えるというのだ。そして自分に新しい中篇小説を書いて貰い、それを草稿の段階から分析をし、定稿となったら英訳をする。タイトルは「酔って、笑いながら・昂奮して」。これは二十年も前にマーサンに話したタイトルそのものだった。マーサンは女子大の大学院英文科に籍を置きながら米軍基地に勤めていた。年齢は30前。「僕」は20代の始めの頃だった。
 そのマーサンとの関わりについて物語は進む。
 「みせるだけの拷問」(テルティシオ・レアリス)というタイトル。またしてもなんとも奇抜な題名である。「そいつを見るだけで、あんたがガタガタになるもの」という言葉から引き出されている。
 
<冒頭>
   − そいつを見るだけで、あんたがガタガタになるものを、突きつけてやりますよ。それだけの準備をして、今度はあんたの前にでますよ。その時は、おれをいいようにあしらって帰すわけにはゆかによ!それじゃ、な、さいなら!
 薄い顎を吊る恰好で、貧弱な髯が揉上げから揉上げまでつらなった、一重瞼の眼に冬場の鯉のように膜がかかっている、若い日本人の台詞だ。カリフォルニア大学、バークレイ校のオフィスのしまりぎわに訪ねて来た未知の人物、大学東側の門からまっすぐ伸びるテレグラフ大通りの酒場へ案内して、自分としては夕食兼帯ということになる、ビールとソーセージを一緒にとりながら話していた。

<出版社のコピー>
 「現代的でかつ芸術的」という批評が、若くして出発した僕の短篇への励ましだった。いましめくくりの時のはじめに、八つの短篇を書いて、そこに映る自分を見る。切実な時代の影に、個の生の苦渋のあとは見まがいがたいが、ユーモアの微光もまんべんなくある。
 思いがけないのは、女性的なものの力の色濃さだった。遠い幼年時の自分と、それほど遠くないはずに死、また「再生」を思う自分を結んでいる。知的な経験と、森のなかの谷間の神話を、懐かしく媒介しているのも女性的なものだ。(大江健三郎)



     想像力の大翼を駆って構築
     する洵爛たる小説宇宙


   四国の森のなかの谷間を舞台に、神話的伝承に支えられて
   森を防衛する勇敢な女たち。グロテスクな性、滑稽な性の
   饗宴と笑いにはじまり、優しさの極みに至る大江文学の傑作!

<おすすめ度>
☆☆☆★

  販売中止    
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