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■大江健三郎略年譜

  
    
燃えあがる緑の木
  第一部 「救い主」が殴られるまで
新潮社文庫  
解説:なし  
定価:590円(税別)
頁数:363頁(文庫版)
ISBN4-10-112618-6
カバー装幀:司 修 初出:1993年9月号 雑誌『新潮』連載
Rejoice!   大江文学 最高傑作のひとつ

   

   第一章 蘇(よみがえ)りとしての呼び名
   第二章 「童子の蛍」
   第三章 最初の説教
   第四章 「転 換」
   第五章 森の力は恢復しているか?
   第六章 Kajiという記号
   第七章 「燃えあがる緑の木」

 

 間違いなく大江作品の最高傑作のひとつです。これを読まずに大江作品を語ることはできません。しかし初心者にとってはあまりにも分厚い本。恐れをなすことでしょう。

この第一部ではとても美しい描写があります。それは文庫本では168ページ、全小説では96ページからの部分。

 14歳の少年カジ。かれは小児癌を患っています。この小説の主人公であるギー兄さんへ、まもなく自分が死んでいくことについて「痛いやろうとか、息が詰って苦しいとか、そういうことは、恐しゅうない。」と語ります。そして続けて、「ただ僕が恐いのは、自分が死んだ後でも、この世界で時間が続いていくことです。しかも自分はおらんのやと思うと、本当に死ぬことが厭です。・・」

 ギー兄さんはカジの言葉に理解を示し、こんなことを言います。
 「・・・この世界で、なお時間が永遠に続いてゆく、たとえば百年続く。ところがそこに自分はいない。いつまでも、この世界に戻っては来ない。そのことを考え始めると、確かに底の測れないような寂しさだからねえ。・・」

 この恐怖をどうやって克服してくのでしょうか。ギー兄さんは「一瞬よりはいくらか長く続く間」ということを提案します。
 「私は時間の永遠ということを想像したんだ。時間の永遠の、そのかぎりということもまたあるはずだとさ。」
 だからあらゆる医学の進歩をすべて利用して永遠に生きることができたひとでも、いつか永遠のいくらか手前で死を迎えることになる。そしてそのひとはやはり、自分が死んだ後のに続く時間について、やはり寂しく、恐ろしく思うはずだと。
 「永遠に近いほど永い時間が問題じゃない、・・反対に、一瞬こそが問題となるのじゃないかとさ。・・」

 最期にギー兄さんはカジにこんなことを話してあげる。
 「もし十四年間といくらしか生きられないとすれば、カジね、私としてはきみにこういうことをすすめたいんだよ。これからはできるだけしばしばね、一瞬よりはいくらか長く続く間の眺めに集中するようにつとめてはどうらどうか?自分が死んでしまった後の、この世界の永遠に近いほどの永さの時、というようなことを思い煩うのはやめにしてさ。」



<冒頭>
 第一章 蘇りとしての呼び名

 「屋敷」のお祖母ちゃんが、あの人をギー兄さんという懐かしい名前で呼び始められた。森
に囲まれたこの土地で、新しい伝説となっている人物が再来したように。お祖母ちゃんがい
ったんそう呼ぶと、「在」でも谷間でも自然にあの人をギー兄さんと呼んでこだわりがなか
った。地下に伏流していた名前が、湧き水となって地表へ出たのだ。

<出版社のコピー>
百年近く生きたお祖母ちゃんの死とともに、その魂を受け継ぎ、「救い主」とみなされた新しいギー兄さんは、森に残る伝承の世界を次々と蘇らせた。だが彼の癒しの業は村人達から偽者と糾弾される。女性へと「転換」した両性具有の私は彼を支え、その一部始終を書き綴っていく・・・。常に現代文学の最前線を拓く作者が、故郷四国の村を舞台に魂救済の根本問題を描き尽くした長篇三部作。
<おすすめ度>
   

  ☆☆☆☆☆

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