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■大江健三郎略年譜

  
無垢の歌、経験の歌
講談社文庫  
解説:鶴見俊輔
定価:533円(税別)
頁数:32頁(文庫)
ISBN4-06-183754-0
初出:1982年7月号 雑誌『群像』
短編集「新しい人よ眼ざめよ」冒頭作品       
 
 ヨーロッパ旅行から戻った「僕」とその長男イーヨーとの新たな関係が始まる。頭部に障がいを持ったイーヨーは、旅行から戻ってみると今までとは違った成長をとげていた。「息子と自分の間に、つまりは僕の家族全体に、危機的な転換期がやってきつつある」
 息子との関わりの中で「定義」ということが重要な要素となってくる。

 後半は定義との関連でインドに旅行したときに同行した作家Hさんとの話になってくる。前半とは無関係に話は展開してゆく。ユーモラスな場面も出てきて、前半の重ぐるしさとは異なっている。
 
前半と後半の話は最後にHさんの眼が一瞬示した定義「悲嘆」で結びつく。  

 小説の中でも書かれているが、この後作者の興味はマルカム・ラウリーからウイリアム・ブレイクに変わっていく。

 

<冒頭>
   
  
外国へ向けて、職を得た滞在をふくむ、ある長さの旅に出るたび、見知らぬ風土で根無し草となる自分が、ありうべき危機になんとか対処しうるように − すくなくとも心の平衡をたもちうるようにと、ひとつの準備をすることにしている。それはただ、出発までの時期読みつづけた一連の書物を、旅に携行することにすぎないが。
 
<出版社のコピー>
 
障害を持つ長男イーヨーとの「共生」を、イギリスの神秘主義詩人ブレイクの誌詩を媒介にして描いた連作短編集。作品の背後に死の定義を沈め、家族とのなにげない日常を瑞々しい筆致で表出しながら、過去と未来を展望して危機の時代の人間の<再生>を希求する、誠実で柔らかな魂の小説。
大佛次郎賞受賞作。
 
<おすすめ度>
  ☆☆☆☆☆ 自選短篇作品
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