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若い読者のための大江健三郎ワールド 作品紹介 |
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「涙を流す人」の楡 | |||
講談社文芸文庫 | ||||
解説:井口時男 | ||||
定価:1200円(税別) | ||||
頁数:21頁(文庫版) | ||||
ISBN4-06-196382-1 | ||||
初出:1991年11月号 『Literary Switch』掲載 | ||||
後期短編の傑作 | ||||
"「涙を流す人」の楡"とは、orme:ニレの木、pleureur:なく人、から来ている。ブリュッセルで見た木が生まれ育った四国の森でみた木と結びつく。作中ではエウロパリア文学賞を受賞して出かけたことが書かれている。従って1989年10月のときの経験であろう。作者54歳。ニレの木から連想された少年期の隠された記憶が呼び覚まされる。いままで結婚前の妻にしかその話をしたことがなかったがN大使であれば話すことができると思い語ることになる。7・8歳頃の記憶。それは映像としては背景になった樹木が鮮明なのだが、そこに出てくるすべての人物があいまいなまのものである。そこでの出来事に対してはっきりとしないなかで罪悪感だけが残っている。 作者過去の記憶が次第にひもとかれてゆき、大江文学の基礎となっている四国での思い出が深く、静かに語られて行く。大江作品を理解してゆくためには必須の作品となっている。 |
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<冒頭> | ||||
N大使の公邸の離れで、ベルギー滞在の第一夜を過した後、妻ともども大使夫人からこまかな配慮をあたえられて、僕らは穏やかな朝食のときを過ごしていた。 Nさんはいくらか皮膚の底が暗い感じだったが、きびきびしかつは荘重なテーブル・マナーは、あいかわらず気持ちが良かった。それでいて夫人に弟のようなわがままさをあらわす仕方で、ペシミスティックなことを口にしたりもした。 |
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<出版社のコピー> | ||||
障害を持つわが子と妻との日常、そして夥しい量の読書。 少年の日の記憶、生の途上における人との出会い。 「文章を書き、書きなおしつつ、かつて見たものを なぞる過程でしだいに独特なものをつくってゆく」という 方法意識の作家「僕」が綴る、表題作九篇の短篇小説。 切迫した震える如き感動、時にユーモアと諧謔をたたえて 還暦近づき深まる、大江健三郎の精神の多面的風景。 |
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<お勧め度> | ||||
☆☆☆☆☆ 自選短篇作品 | ||||
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