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           おご
死者の奢り
新潮社文庫  
定価:438円(税別)
頁数:47頁(文庫)
ISBN4-10-112601-1
カバー画:山下菊二 初出:1957年(昭和32年) 雑誌文学界8月号掲載
  
いまもみずみずしい感動!
事実上のデビュー作
まずはこれを読め!!
大江健三郎の入門書といっていい作品
昭和32年下半期芥川賞候補柵(この回の芥川賞は開高健が受賞)
大江は翌年「飼育」で芥川賞を受賞する。

物語は五月祭賞を受賞した「奇妙な仕事」と似たところがある。アルバイトで始めた仕事が、結局はアルバイト代はもらえなくなること、どちらのアルバイトも珍しい仕事、めったにない仕事であることなど。おそらくは前作の続きのようなところがあるが、この数ヶ月で作品の質は大きく上がった。いや、一気に頂点に達したといってもいい。
こんなにも密度の高い作品を22歳の若者が書いてしまったことに驚くほかない。全く、どうやってあらわれたのであろう、この若い才能は。
確かにいまも若い作家がデビューする。2004年1月に芥川賞を受賞した綿矢りささんは受賞時点ではまだ20歳にもなっていない早稲田大学の学生であった。
しかし、大江健三郎はいまから40年近い昔の話である。もちろん大江健三郎の前にも学生作家として芥川賞を受賞しているひとがいる。昭和30年に「太陽の季節」で受賞した石原慎太郎である。大江さんの受賞は石原さんのようにはセンセーショナルではなかった。大江さんは「死者の奢り」で事実上のデビューをしてから翌年「飼育」で受賞するまでにすでに熟していたのである。

<冒頭>

死者たちは、濃褐色の液に浸って、腕を絡み合い、頭を押しつけあって、ぎっしり浮かび、
また半ば沈みかかっている。彼らは淡い褐色の柔軟な皮膚に包まれて、堅固な、馴じみにく
い独立感を持ち、おのおの自分の内部に向って凝縮しながら、しかし執拗に体をすりつけあ
っている。

<出版社のコピー>

死体処理室の水槽に浮沈する死骸群に託した屈折ある叙情

<お勧め度>
 ☆☆☆☆☆ 自選短篇作品
<蛇足ながら>
 新潮文庫で大江作品は沢山発表されています。
 カバー装画は山下菊二さんが描かれております。社会の不合理を告発する作品を発表し続けた山下菊二の作品と大江作品はみごとに一致していて、どの文庫も表紙を眺めているだけでも気に入っております。
 しかしカバーの著者写真はどうなんでしょうか。写真はとてもよく撮れているのですが、すこしよすぎないのではないでしょうか。たとえばこの「死者の奢り」は作者の22歳の頃の作品です。今の若い人が読んだときこのカバー写真のような品のある笑みをたたえた年輩の人と執筆当時の作者のイメージがかけ離れすぎていると感じないでしょうか。

 昭和30年頃の大江さんの写真を見たことがありますが、その方がいいのではないでしょうか。少なくともこんなにも若い人が書いた作品だった、ということがよく伝わります。
 大江さんが若い頃の写真を嫌がられるのであれば別ですが、せめて書いた当時の写真と、ここに使っている写真と2種類出していただきたいものです。
 あるいは版を重ねるごとに写真だけは入れ替えてみるとか。マニアはきっと買いたがるのではないでしょうか(?)
若い人はこんなおじさんが書いたの?、と思い、ちょっとがっかりしているかもしれませんよ
22歳でこんなにもすごい作品を書いたひとがいた、綿矢りさにはちょっと年齢では負けるが、やはりすごい人がいたのだ、と思うのではないでしょうか。

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