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  憂い顔の童子
講談社文庫
解説:リービ英雄
定価:819円(税別)
頁数:599頁(新書版)
ISBN4-06-275256-5
装丁:司 修 初出:2002年9月書下ろし   文庫:2005年11月15日 
ノーベル賞受賞後の作品群の新たな展開
 

 『取り替え子』の続編になる本作品でも主人公は長江古義人である。この名前からして笑い出さずにはいられないのだが、いきなり「長江」という嘘っぽいみえみえの名前を持ってくる。「大江」の分身であるとしっかりと宣言している。古義人の名前にしても作品の中に、デカルトの有名なCogito,erugo sumu(我思う、ゆえにわれあり) が出てくる。全く、さあ、大江本人の物語ですよとあけっぴろげに読者を誘いながら、実に見事に全体をフィクションを作り上げてしまう。実話すれすれのところでフィクションに持ち込むことにより作品に力がみなぎっている。全くいつも感じるが大江氏の手中にまんまとはめられてしまう快感がある。勿論これについて来れない読者も多くいるのかもしれないが、ここが大江を読む面白さである。

 さて、物語だが『取り替え子』の最後で重要な役割をしていた妻の千樫が、実兄の塙吾良の友だちであった浦の出産の手伝いにベルリンに行ってしまい、古義人が知的障害のある息子アカリを連れて故郷の四国の森の中に戻ることから始まる。ここに古義人の小説を研究しているというローズさんというアメリカ人女性が加わってくる。三人は十畳敷というお伝説の地に家を作り住み始めることになった。この地で起こるさまざまな騒動がローズさんの愛読書である「ドン・キホーテ」と重ねあって喜劇的な冒険譚を作っている。この作品でもあやしげな人が沢山あらわれてくる。村の神主をしている真木彦、思想上の宿敵黒野。また、明らかに文芸評論家である江藤淳や伊丹十三も名前を換えてでてくる。

 『取り替え子』でも重要な意味を持っていた「アレ」についてこの作品でも書かれている。前作でなんとなくあいまいだったアレがはっきりとしてくる。このあたりもじっくりと読みこみたいところである。

 『取り替え子』で行われた新たな試みがこの作品ではさらに深耕されており、興味がつきない。『取り替え子』を読んでいないと面白さが半減するかと思われるので、まずは『取り替え子』を先に読まれることを進めたい。

<冒頭>
 序章 見よ、塵のなかに私は眠ろう

 古義人は、幼・少年時に白楊(どろのき)の巨木の聳えていた記憶のある地所を母親から贈られた。初めに
その話があったのは、母親が九十歳を越えながらまだ頭の衰えていなかった時期のことだ。数年
に一度が、毎年、四国の森の谷間に帰るようになっていたから、正確にいつだったかは明らかで
ないが、季節としては五月半ばのことだった。
<出版社のコピー>
 小説家、「ドン・キホーテ」と森へ帰る。
滑稽かつ悲惨な老年の冒険をつうじて、
死んだ母親と去った友人の「真実」にたどりつくまで。
<おすすめ度>
  ☆☆☆☆
新書版 文庫帯
ISBN4-06-211465-8 
定価:2000円(税別)
頁数:528頁(新書版)
解説:なし

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